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キーパースンが語る次世代Xbox“Xenon”と開発環境




 次世代Xbox「Xenon(ゼノン)」について、GDC(Game Developers Conference)で一部の概要を発表したMicrosoft。同社の次世代ゲーム機戦略はどうなっているのか。Microsoft社内で、XboxプラットフォームとXNA(Microsoftのゲームプログラミングフレームワーク)を担当するJ Allard氏(Corporate Vice President, Chie XNA Architect)に、次世代Xboxについて伺った。

●Cellの理論上のパフォーマンスは開発の容易さを意味しない

Microsoft J Allard氏(Corporate Vice President, Chie XNA Architect)

【Q】ソニー・コンピューターエンタテインメント(SCE)が次世代PlayStationに搭載する新CPU「Cell」は、極めて高いパフォーマンスを誇っている。Cellと次世代PlayStationについてはどう見ているのか。

【Allard】基本的な違いは、彼らのプラットフォームの中心にはハードウェア、つまりCellプロセッサがあることだ。Cellは、電子エンジニアが小さなフットプリント(この場合はチップサイズのこと)の中で最大パフォーマンスを得られるように最適化したラディカルな新アーキテクチャで、理論上は高パフォーマンスを達成できる。

 しかし、デベロッパに対するケアは誰がする? (笑)。(ソフトウェアの)開発の容易さと、理論上の最大パフォーマンスは同じではない。我々がフォーカスするのは、開発の容易性で、我々はハードについても、ソフトウェアを念頭に置いて設計している。だからこそ、われわれは半導体のカンファレンスであるISSCC(IEEE International Solid-State Circuits Conference)では発表をしないで、ゲーム開発のカンファレンスのGDC(Game Developers Conference)でキーノートを行なった。

 (ゲームコンソールの)エコシステムの中でもっとも重要な要素はゲームクリエイターだ。もし、我々がゲームクリエイターにとって素晴らしいプラットフォームを提供できれば、彼らは素晴らしいゲームを作ることができる。すると、我々が成功して、もっとショップスペースを得られるようになる。すると、より多くのユニットが売れるようになり、より多くの広告を打てるようになる。すると、さらに多くのゲームクリエータが、我々の元に来るようになる。雪玉が転がるように、(エコシステムが)大きくなって行く。

 だから、私にとってはゲームデベロッパが常に最初に来る。そして、ここ数年で彼らから得たフィードバックは、ハードウェアについてではなかった、ハードウェアとソフトウェアとサービスのコンビネーションについてだった。

【Q】ハードウェアとソフトウェアとサービスのコンビネーションというのは、クリエイターにはある意味わかりやすい。しかし、ゲームのエンドユーザーにとっては新しいメッセージだ。

【Allard】ここに私のiPodがある。iPodは、ハードウェアとソフトウェアとサービスのエレガントなバランスのいい例だ。iTunes(とMusic Store)なしでiPodが成功できたか、優れたユーザーインターフェイスとソフトウェアなしでiPodが成功できたか、PCとの接続性と同期の仕組みなしで成功できたか、優れたインダストリアルデザインなしで成功できたか。iPodでは、ハードウェア、ソフトウェア、サービスのどれが欠けても、異なるビジョンになるだろう。重要なのはバランスだ。非常に注意深くバランスを取る必要がある。

●Macintoshを開発マシンに使うことができた理由

次世代ゲーム機のOSのユーザーインターフェイス

【Q】Cellの質問に戻ると、あなたはGDCのキーノートスピーチの中で、XenonのCPUについて「multi-core general purpose silicon(マルチコア汎用シリコン)」と言った。わざわざ汎用と強調しているところは、汎用ではあっても従来とはアプローチが大きく異なるヘテロジニアス(異なるCPUコアを混載する)マルチコアのCellと比較しているように聞こえた。

【Allard】私は汎用(general purpose)コンピューティングの堅固な信者だ。

 Cellは、(プログラミング時に)デベロッパにこれまでとは大きく異なる考え方を要求する。それに対して、我々は、そこまでラディカルなアプローチは取らなかった。そこは大きな違いだ。そのため、開発の容易さについては、我々にアドバンテージがある。

 我々はこれまでに、デベロッパに対して3,000の開発キットを12カ月も前に提供した。どうしてそんなことが可能だったのか? それは、我々がデュアルプロセッサのMacintosh G5システムを(開発ターゲットマシンに)使ったからだ(笑)。Macintoshに我々の(Xenon用の)OSを載せたものを提供した。

 Macintoshを使うことができたのは、シリコン(CPU)のためだ。我々は(Xenonの)コストを削減するために、カスタマイズしたシリコンを搭載する。しかし、カスタムシリコンとはいえ、そのCPUは、PowerPCコアベースで、(Macintoshと同じ)シンメトリックマルチプロセッシング構成を取っている。つまり、デュアルプロセッサのMacintosh G5と変わらない。だから、12カ月も前に、将来のハードウェアプラットフォームをシミュレートして、その上でリアルソフトウェアを走らせることができた。そのため、我々が(Xenonの)リアルハードを提供した最初の日に、彼らはごく自然に(MacintoshからXenonへと)移行することができるだろう。ミドルウェアの開発のためにも、12カ月前からのスタートは必要だ。

 それに対して、(Cellのような)ラディカルな新シリコンアーキテクチャの場合は、そうしたことはできない。デベロッパ達は、シリコンを待つか、同様には感じられないもの(ハード)しか得られない。すると、移行のために苦闘しなければならず、ゲームクリエイターは資金還元までに時間がかかってしまう。

【Q】先鋭的なアーキテクチャのハードウェアだと、プログラミングも難しいし、シミュレーションによるリードタイムを取った移行が難しいと。

【Allard】現行世代のゲームコンソールでは、9〜12カ月で良質のゲームを開発することは難しい。製造コストやリスクは上昇し、ハードルは高くなっている。そこで、Xboxでは、簡単にプログラムできるように注力し、デベロッパたちと一緒に経験を積んだ。その経験を次で生かす。

 Xenonの開発キットは、Xbox開発キットと全く同じだ。もちろん、マルチコアや新しいLiveのフィーチャといった新要素はある。しかし、基本的には、開発者はXbox1用に開発したゲームエンジンやコードを、Xenonに数日で移すことが出来る。また、これまで提供してきて成熟したツールを、次世代でも継続して使うことができる。これは大きなアドバンテージだ。

 Xboxでは、PCからの移行を容易にした。x86やPCグラフィックス、DirectXを知っていれば、Xbox開発キットで、簡単に移行ができた。今度は、Xboxを知っていれば、新しい開発キットで、次世代プラットフォームへと容易に移行できる。たとえ、CPUがPowerPCでグラフィックスがATIで、Liveサービスもアップグレードされていても、デベロッパが使うのは拡張されたXbox開発キットなので、どうすればいいかはもう知っている。

●プラットフォームはプロセッサよりも重要

【Q】次の世代のゲームコンソールは、CPUは全てPowerPCを中核に、GPUはPCグラフィックスベンダーが開発と、同じ方向へ向かっている。差別化はどうやってなされるのか。

【Allard】各ゲームプラットフォームの親和性が高まること自体は、ゲームデベロッパのコミュニティにとっていいことだ。また、コンシューマにとっても、競争原理にとってもいい。そして、明白にIBMにとっていい(笑)。

 ではどうやって差別化するのか。

 まず、ソニーのアプローチは、アーキテクチャのいくつかの点では驚くほど我々と似ている。しかし、依然として(Cellは)非常にカスタムだ。この点はすでに説明した通りだ。

 我々の差別化のポイントは、プラットフォーム、つまり、ハードウェアとソフトウェアとサービスの結合だ。プラットフォームはプロセッサよりも重要だ。プラットフォームとして最もパワフルなものをゲームクリエイターに提供する。そこで重要なことは、例えば、ピクセルをどれだけ速く多くスクリーンに描けるかではない。エンドユーザーに提供できる全てのバリューであり、コミュニティであり、あらゆるものだ。

 前回は我々は参入も遅かったし、経験もなかった。しかし、これまでに経験を積み、ゲームデベロッパとエンドユーザーから多くを学んだ。その経験を、ソフトウェアとサービスに適用する。準備はできている。例えば、現時点では、誰も我々のような(次世代コンソールのための)開発キットは提供していないし、優れたオンラインサービスは持っていない。我々以外はHD時代のユーザーインターフェイス(UI)も見せなかった。それどころか、競合はGDCでキーノートスピーチすらしなかった。

 また、これまでに得た経験をハードウェアにも適用する。(現行Xboxと比べるとXenonは)もっとずっとカスタム(チップに)になる。それによって、コスト面でもより改善されるだろう。次の世代では、もっとプライスがカーブしそうだ。

●ゲームの構造化によりマルチコアが効率的に活用

【Q】XenonはマルチコアCPU(3個のCPUコアを内蔵する)を搭載するが、マルチコアはどんなユーセージモデルを考えているのか。マルチスレッドプログラミングにはハードルがある。

【Allard】Xenon向けの最初のゲームでも、フルにCPUを使えるようにしたい。まず、シングル(スレッド)アプリケーションスキルも、(マルチコアで)スケーラビリティを得ることができる。例えば、次世代のユーザーインターフェイス(UI)や、オールウエイズオンサービスなどが、ゲームパフォーマンスに影響せずにバックグラウンドで走ることができるようになる。「Project Gotham Racing」をプレイしながら、バックグラウンドでHaloの新レベルをダウンロードすることもできる。

 こうした(マルチタスキングの)スケーラビリティは素晴らしい。なぜなら、リソースの競合があまり発生しないからだ。(スレッド同士の)同期はほとんど必要とされない。同期が必要になるのは、例えば、一方でダウンロードしている時に、一方でアップロードをする場合のTCP/IPスタック程度だ。

 次に、ゲーム自体が構造化することで、マルチプロセス化することが挙げられる。システムプロセスやミドルウェアは、バックグラウンドで走ることができる。例えば、物理シミュレーションを、メインゲームループからは分離して、バックグラウンドで走らせることもできる。あるいは、プロシージャルジオメトリで、何かを生成することも可能だ。例えば、フラクタルツリーで森を作ることもできる。100本の異なる木を(事前データとして)作るのは大変だが、(木を自動生成する)ツリープログラムを走らせれば、容易に森を生成することができる。全ての人々にマルチスレッドゲーム開発が可能になるまでは時間がかかるが、こうした並列テクニックを使うことで、マルチコアを使うことができる。

【Q】次世代PlayStationは光学ディスクメディアにBlu-ray Disc(BD)を使う。メディアの大容量化は必要だと考えるか。

【Allard】光学メディアはハックだ(笑)。5年10年前のゲームコンソールなら、光学デバイスが必要かどうかが面白い論争だった。しかし、我々は、そう遠くないうちに、光学ドライブを全く搭載しない(コンテンツはネットワーク経由で供給する)ゲームコンソールが登場すると想像できる。例えば、子ども達は、iPodで聴く音楽をiTunes(Music Store)から買う。もはや、CDをリップしたりしない。我々はそういった(ネットワークコンテンツの)世界へ向かっている。だから、我々は光学メディアに固執したりしない。

 ソニーが最初の世代(PlayStation)でCDを採用したことは、対任天堂で、大きなマーケットダイナミックスの変化をもたらした。ROMカートリッジは製造コストが高い、オーダー(数量)に対する束縛も大きい。製造には資金が必要で、チャネルは非効率的だった。CDはそうした問題を吹き飛ばした。だが、今回はそうではない。

 また、果たしてデベロッパが現在、そんなに容量を必要としているのか、そこも疑問だ。90%のXboxゲームは2層レイヤーを使っていない。むしろ重要なのは、ストリーミングとシーキングのパフォーマンスだ。我々が適切な光学メディアを選ぶ時には、ゲームデベロッパとエコシステムを中心に考え、スループット、シークタイム、価格、ボリュームのバランスを重要する。

●XNAの中核となるXNA Studioを発表

【Q】昨年のGDC(Game Developers Conference)であなたは、包括的なゲームプログラミングフレームワーク「XNA」構想を発表した。XNAは、Xenonのソフトウェア側のカギとなる要素だと認識している。あれから1年の進展を教えて欲しい。

【Allard】昨年XNAについて語った時から、我々は(XNA実現へ向けての)クエストを始めた。まず、最初に、PIX(Xboxゲーム開発用のパフォーマンス解析ツール)をWindowsゲーム開発にも使えるようにと考えた。また、共通のゲームコントローラとそのためのAPI、Xbox LiveインフラのPCへの公開も始めた。こうした要素は、全て実現した。

 しかし、XNAでより重要なことは、ゲームデベロッパコミュニティとの対話を開いたことだった。我々は彼らに「何があなたがたにとって重荷なのか」と聞いた。コストを下げ、制作を容易にし、軋轢をなくすためには何ができるかと。そうしたところ、返ってきた答えで一番多かったのは、ワークフローだった。そこで、我々はそのフィードバックを直接反映させて「XNA Studio」を開発した。

【Q】Visual Studioのゲーム向け版的な開発環境というのは、ある程度予想はできた。しかし、あなたがワークフローを特に強調したことは、ちょっと意外だった。

【Allard】多くの人々が、我々がXNAの次のステップで提供するのは、ゲームランタイムだと考えていた。しかし、我々がデベロッパと、彼らの問題について語った結果、彼らが望んでいるのは素晴らしいランタイムではないとわかった。問題点は、作業の土台がないことだった。そこでXNA Studioで土台を提供することにした。

 XNA Studioは、現在、XNAイニシアチブの最大の要点になっている。XNA Studioは、各種ツール類をワークフロー環境にプラグインするための土台と考えてもらってもいい。そのために、我々はワークフロー環境とアセットマネージメントシステムのスタンダードを作った。ストレージ、プロトコル、ワークフローステップ……。その結果、タスクをアーティストに割り振り、アーティストが作業を終えたら、そのタスクをプロデューサーに再アサインするといったワークフローが簡単に組めるようになる。

 この土台には、我々のツールだけでなく、サードパーティツールも、デベロッパの作ったカスタムツールもプラグインすることができる。例えば、MAXやMAYAが、彼らのパッケージを拡張すれば、XNA Studioのワークフロー環境にはめ込むことができる。MAYAに直接モデル(のデータを)を読み込み、MAYAでの作業が完了したらセーブする時に、(データを)オブジェクトストアにチェックオフする。

【Q】XNAでは、データフォーマットやAPIの標準化を行なうと昨年説明していた。

【Allard】ファイルフォーマットというか、一種の拡張スキームとして「XIF:XNA Interchange Format」と呼ぶものを作った。XIFで、データの相方向のコンバートを可能にする。

 WindowsとXboxの両プラットフォーム向けのゲームを開発する場合を考えてみよう。XIFには、Windowsビルドプロセスや、Xboxのビルドシステムが、それぞれどのようなものか記述されている。そうすると、2つのシステムに対するビルドが非常にシンプルになる。例えばテクスチャを作る場合、まず、TIFファイルフォーマットで作り、トランスフォームオブジェクトでストアする。そのオブジェクトは、XenonのビルドプロセスではXenonのネイティブフォーマットにコンバートされる。

 また、XIFでは、サードパーティの(フォーマット)にコンバートすることもできる。XIFはひとつのスタンダードだが、拡張も可能だ。サードパーティツールをプラグインするだけでなく、カスタマイズすることで自分自身のカスタムパーツをプラグインできる。XIFの拡張フォーマットを使うことで、全てを包括できる。

【Q】Windows PCとXbox1、Xenonといった違いを開発環境レベルでかなり吸収できる土台ができたと考えていいのか。

【Allard】例えば、物理シミュレーションを考えてみよう。AGEIAという会社が、Windowsで使える物理演算アクセラレーションカードを開発した。面白いのは、彼らが、同じライブラリを使う、ソフトウェアバージョンも開発していることだ。

 すると、XNA Studioを使って何ができるか、考えてみよう。彼らのエンジンを使って、WindowsとXboxの両バージョンを作る場合、Windowsではアクセラレーションカードを使うことができるが、Xboxにはもちろんアクセラレーションがない。しかし、全く同じ互換APIで、XIFにフックアップすることで、Xboxではソフトウェアモードを使うことができる。Xboxではソフトウェアモードを1に、Windowsではソフトウェアモードを0に設定してライブラリにリンクするだけでハードウェアを使うことができる。AGEIAとは非常に密接に作業を進めている。XNA Studioの一部として、ビルド、デバッグ、コンパイリング、ワークフローの各システムに彼らの技術を統合しようとしている。

 こうした仕組みにより、我々はデベロッパが次世代プラットフォームでも容易にソフトウェアを開発できるようにして行く。

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【2004年3月25日】【海外】次世代Xboxのためのゲーム開発プラットフォーム「XNA」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0325/kaigai078.htm
【2004年3月31日】【海外】見えてきたMicrosoftの次世代Xbox戦略(1)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0331/kaigai079.htm
【2004年4月1日】【海外】見えてきたMicrosoftの次世代Xbox戦略(2)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0401/kaigai080.htm

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(2005年3月29日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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