■後藤弘茂のWeekly海外ニュース■Yonahが見えてきた、IntelのモバイルCPUロードマップ |
Yonahがフルラインナップで登場する、IntelのモバイルCPUロードマップが明らかになり始めた。
複雑怪奇なIntelの2005年のデスクトップCPUロードマップと比べると、モバイルCPUロードマップはじつにシンプルだ。CPUコアはDothanほぼ一色で、FSB(フロントサイドバス) 533MHzの「Sonoma(ソノマ)」プラットフォームへの移行が進むだけ。周波数のアップも、2005年中盤に一回だけが確定している。秋冬シーズンにも周波数アップが行なわれる可能性が示唆されているが、まだ明確になっていない。少なくともCPUについては、選択に悩む必要がないラインナップだ。
モバイルの次の大きな変動は、ちょうど今から1年後から始まる。次世代CPU「Yonah(ヨナ)」ファミリが登場し始めるからだ。以前レポートしたように、Yonahには2MB L2キャッシュでデュアルコアの「Yonah-2M」と、1MB L2キャッシュでシングルコアと見られる「Yonah-1M」の2種類がある。最初に登場するのはYonah-2Mの方だ。
まず、2006年第1四半期に通常電圧版のYonah-2Mが4つのSKU(Stock Keeping Unit=アイテム、製品構成)で登場する。Processor Numberは、今のところ下2桁しか判明していない。上から、x50、x40、x30、x20となる。つまり、PentiumブランドのYonahが900番台で登場するなら、Processor Numberは950、940、930、920となる。
2006年第1四半期には、LV(低電圧)版のYonah-2Mも登場する。こちらは2 SKUでProcessor Numberはx48とx38となる。Intelは、このところLV版CPUは1 SKUしか提供していなかった。しかし、Yonah-2MではLV版を2 SKUに拡張して、厚みのあるパフォーマンスレンジで提供する。
これは、Yonahでは、LV版とULV(超低電圧)版の違いが、これまでのような単なる電圧とTDPと周波数の差だけではなく、デュアルコアかシングルコアかという決定的な仕様の差があるためだと見られる。これまでは、LV版CPUに低クロックのSKUを作ると、ULV版CPUと差別化ができなかった。しかし、Yonahでは明確に差別化・併存ができる。
2006年第2四半期になると、ULV版のYonah-1Mと、バリュー版ブランドCPUのYonah-1Mが登場する。バリュー向けYonah-1Mも、通常電圧版とULV版の2種類がある。これらは、いくつのSKUが登場するのか、まだわかっていない。
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Yonahの動作周波数については、まだ明確にはなっていない。ある業界関係者によると、Intelは以前、Yonahのシングルスレッド性能はDothanと同等かそれ以上になると説明していたという。そのため、Yonahは少なくともDothanと同等の周波数、つまり2.xGHzでスタートすると推測されていた。
ただし、Processor Numberを見ると、もう少し低い可能性も考えられる。IntelのProcessor Numberは、デスクトップのPentiumブランドCPUでは下2桁が動作周波数を表している。つまり、最初の桁の数字が異なっていても、下2桁が同じならほぼ同じ周波数だ。もし、この法則がモバイルCPUにも当てはまるとすると、下2桁が50となるYonahの最高クロック品は、Dothanの750(1.86GHz)程度の動作周波数ということになる。同様に、下2桁が48のLV版Yonah-2Mは758(1.5GHz)より低い1.4GHzレンジという計算になる。
もっとも、Intelはモバイルではデスクトップと違う法則を当てはめている可能性もあり、まだわからない。まだ、シリコン検証中で、Intelとしても顧客に発表できないと見られる。Intelは、近いうちにYonahの周波数を明らかにすると示唆しているという。
ちなみに、Yonah-2Mのバッテリモード時の動作周波数は1GHzとなる予定だ。これは、従来のDothan(FSB 400)の600MHzやDothan FSB 533の800MHzよりもさらに高い。
Yonah-2Mの平均消費電力は、まだ明かされていない。Intelは、公式にはYonahの平均消費電力はDothanと同レベルになると説明している。しかし、実際にサンプルチップで検証したデータは、まだ明らかにされていないようだ。
もうひとつ不明なのは、Yonahのダイ(半導体本体)の種類数だ。通常、Intelは1つのダイから、さまざまな製品を作り分ける。例えば、L2キャッシュのうち一定の領域をディセーブルにすることで、少L2キャッシュ量のバリューCPUを作り分けたりする。Yonahの場合も、Yonah-2MとYonah-1Mが同ダイである可能性はある。Yonah-2Mでも、ダイサイズ(半導体本体の面積)は、楽に100平方mmを切っていると推定されるため、Intelは経済的にはデュアルコアのダイからバリュー製品を作り分けることもできる。
しかし、Yonahのダイについてはまだわからない。Yonahに、デュアルコアとシングルコアの2つのダイがあると信じられる理由もある。それは、もともとYonahはシングルコア版が先にリリースされる予定だったからだ。オリジナルの予定では、シングルコアで通常電圧版のYonah-1Pが2005年第2四半期に登場し、デュアルコアのYonah-2Pが2005年第3四半期に登場することになっていた。おそらく、新プロセステクノロジである65nmでは、よりシンプルなシングルコアを先に設計・製造し、複雑なデュアルコアを後追いにするスケジュールだったと推定される。そのため、現在も2つのダイを並行して開発している可能性はある。
●Yonahでは再びTDPが変わる
YonahのTDPは、プレシリコン段階での予測で、Yonah-2Mの通常電圧版が31Wで、LV(低電圧)版が15W、Yonah-1MのULV(超低電圧)が5Wとなっている。バリュー版のYonah-1MのTDPは、まだわからない。現在のPentium MのTDPと比較すると、通常電圧版が21/27Wから31Wに上昇、LV版が10Wから15Wに50%上昇、ULV版が5Wのまま据え置きとなる。通常電圧版とLV版はデュアルコアなので、TDPが上昇するのは当然と言えば当然だ。
TDPの変化を時系列で見ると、初代の「0.13μm版Pentium M(Banias:バニアス)」の時は通常電圧版が24.5Wだったのが、「90nm版Pentium M(Dothan:ドタン)」で21Wにいったん下がり、先月発表されたFSB 533MHz版のDothanで今度は27Wに上がり、Yonahで31Wへとさらに上昇する。0.18μm版Pentium III(Coppermine:カッパーマイン)で2001年に25W前後に達して以来、モバイルCPUの主流は20W台中盤のTDPを保ってきたのが、Dothan FSB 533MHzからYonahで上がり調子になる。モバイルCPUという枠で見ると、Pentium M以前のPentium 4系のモバイルCPU「Mobile Pentium 4-M」のTDPが30(1.8GHz)~35W(2.2GHz)だったので、再びTDPが30W台に戻ってきたという見方もできる。
ただし、Pentium 4-M系はフルサイズノートPCが中心ターゲットだったのに対して、Dothan-Yonahでは基本的に同じThin&Light(薄型軽量)フォームファクタを狙う。IntelのカテゴリでのT&Lは1.1インチ厚(28mm)前後のノートPCで、この厚みだと、CPUを格納するノートPC本体の厚みは17~19mm程度になる。この同じ容積に、排熱技術の進歩によってより高TDPのCPUを搭載できるように推進するという方向だ。このスタンスは、次世代CPUのMerom(メロン)世代でも変わらないと見られる。よりパフォーマンスレンジが広がる「Merom」では、TDPが最高45Wにまで上がると言われている。よりハードルが高くなると推測される。熱設計では、TDPと同様にダイのジャンクション部分の温度(Tj)も重要だが、こちらは、まだ明らかになっていない。
●ULV版YonahのTDPは従来のDothanと同じ
Yonah 3兄弟のうち、TDPのジャンプが一番大きいのはYonahのLV版だ。Coppermine LV以来の10~12Wレンジから大きく外れる。Intelは、LV版とULV版については、通常電圧版より長い期間、一定のTDPを維持すると説明して来た。その上で、プラットフォームの節目で、技術動向を見極めながらTDP枠を再考するというのがIntelの戦略だ。Yonah=Napaはその節目となるわけだ。
実際のところ、IntelのLV版CPUはやや中途半端なスペックで、最近では位置づけがあいまいだった。以前ならLV版CPUを搭載していたサイズのノートPCも、Pentium M世代では通常電圧版を採用するケースが多く、より小さなフォームファクタはULV版へと向かうため、通常電圧版とLV版への2分化が進んでいた。
だが、Intelは、LV版のTDPを15Wへと引き上げたことで、ULV版とのパフォーマンスギャップを開く。デュアルコアという特徴もあるため、より差別化が明確になると見られる。
面白いのは、Intelのバランスの取り方で、モバイルCPUのLV版は、これまで通常電圧版の50%程度のTDPだった。Yonahでは通常電圧版が31W、LV版は15Wで、同程度のギャップが継続される。通常、TDPを50%に下げるとパフォーマンスは70%程度になる。TDPから逆算すれば、YonahのLV版も、通常電圧版の70%程度のパフォーマンスということになる。
一方、ULV版はDothanで従来の7Wから5Wに引き下げられ、Yonah世代でも5Wが継続される。5WはCoppermine ULVの500MHzクラスで、2000年当時のTDPということになる。Intelは明らかにULVラインでは低TDPをキープすることに意味を見いだしているようだ。その結果、IntelのモバイルCPU製品ラインナップでのTDPのギャップは拡大している。Baniasの時は通常電圧版とULV版のTDPの差は3.5倍だった。ところが、Yonahではその差は約6倍にまで開く。より、製品のバラエティが広がる。
その理由は、もちろんYonahがデュアルコアであるためだ。高TDPのCPUはデュアルコア化によってますますTDPが高くなる。その結果、同じCPUコアアーキテクチャで、より広いパフォーマンスレンジをカバーできるようになる。Yonahの幅広いパフォーマンス&TDPラインナップは、そうしたデュアルコアの効用を証明している。
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【1月26日】【海外】見えてきた次期モバイルプラットフォーム「Napa」
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【2004年9月11日】【笠原】長時間駆動と高性能を兼ね備える2006年のノート
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0911/ubiq78.htm
(2005年2月1日)
[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]