大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

プリンタの買い換えは3年以内が半数以上
~JEITAがリサイクルに関する調査報告書


 社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)は、「IT機器の回収・処理・リサイクルに関する調査報告書」をまとめ、6月1日、業界関係者を対象にした報告会を開催した。

 同報告書は、資源有効利用促進法によってメーカーに義務づけられたリサイクルをはじめ、リユース、リデュースを含めた3Rなどの取り組みについてまとめたものだ。

 環境への配慮がメーカーにとって必須の課題であるだけに、報告書が持つ役割も年々重要性を増しているといえよう。

●中古プリンタ市場が顕在化

 報告書では、3Rに関する取り組みについて、メーカーへのアンケート調査や、実際のヒアリング調査、視察調査などを交えて、電機メーカー各社の循環型社会への取り組みについて触れているが、その報告書のなかで、1つ興味深いデータが掲載されている。

 それは、今回から新たに開始したPC周辺機器の中古市場の実態に関する調査だ。

 同調査は、インターネットを通じて657件のユーザーから有効回答を得てまとめたものだが、ここでは、プリンタの買い換え年数が、2~3年に約50%が集中していることが明らかになっている。

 プリンタは、技術革新が速く、物理的な寿命よりも性能的寿命が早く訪れやすい製品だ。

 もちろん、高画質印字や高速印字などを求めないユーザーにとっては、1つの製品を継続的に利用しつづけることもできるが、毎年のような大幅な品質向上が実現されることから、ユーザーにとっては、買い換えの衝動に駆られやすい、というのも無理はないだろう。

 まだ物理的には使えるのに、買い換えるという実態が多いことからも、その処分方法も、「粗大ゴミや不燃ゴミとして自治体に出した」(16.7%)というよりも、「友人や知人に売った、あげた」(30.2%)というケースが多かったのが特徴的だ。また、「自宅で保管している」が15.6%と3番目に多いのも、まだ使えるという意識を背景にしたものだといえるだろう。

 また、前年の調査では、プリンタ中古市場は、ほとんど存在しないとしていたものを、今年度の調査では、「プリンタ市場が形成されつつある」というように結論づけた点も興味深い。

プリンタ中古市場の変化 買い換えまでの使用状況 処分方法

 前年の調査では、プリンタ中古市場が形成されない理由として、1)新品の価格が安いことで中古製品のメリットが少ない、2)プリンタについては稼働部分の故障が多く、保障しにくい、3)構造的にバージョンアップしにくく機能が陳腐化しにくい、などをあげていた。

 だが、今回の調査では、中古PCに比べて10分の1程度の展示台数の中古プリンタが店頭に並べられていることで、市場が形成されつつあるとし、「買い取り価格で1台あたり1,000円から5,000円、買い取り台数で月200台から1,000台規模に達している」という結果を示した。

 また、ディスプレイ、スキャナなどの他の周辺機器に関しても調査をしているが、これらを含めた中古周辺機器全体に関する調査結果を見ると、中古製品を取り扱う新規参入店舗の増加を予測する一方で、撤退する販売店が増加すると見ていること、新規販売店の増加によって価格競争が激しくなると予測されること、同様に大手メーカーの中古市場への参入によって、単価下落が懸念されることなどが、今後の動向予測としてあがっている。

 海外市場への中古品の輸出を含めると、今後も中古周辺機器市場の拡大を予測する声があがっており、中古PC同様に、市場拡大の方向に向かうのは間違いなさそうだ。

●使用済みPCの排出量は2008年度まで横ばい

 使用済みPCの動向についても触れている。この調査に関しては、2002年度の集計となっており、昨年10月からスタートした個人向けPCのリサイクル制度の影響などは加味されていないものとなっている。

 これによると、2002年度の国内の使用済みPCの排出量は約8万1,500トンで、2001年度とはほとんど変わらないという。同調査では2008年度までは、ほぼ同様の排出量で推移すると見ており、そのうち約半分が、企業向けから排出されたPCを、リース、レンタル会社が回収するというルートによって処理されるものだという。このルートでの回収は2002年度実績で約45,500トンとなっており、そこから国内中古市場に対して、38,000トンが流通されると見ている。

 また、今後は、個人向けPCのリサイクル制度の浸透により、個人PCをメーカーが回収するというルートでの取り扱い量が増加すると予測している。

使用済みPCの排出量推移 回収/処理ルート概要

●中古部品を新品に組み込むメーカーも?

 一方、回収した製品のリユースの実態に関しても調査をまとめている。資源有効利用活用法では、2001年4月の改正によって、PCが指定再利用促進製品に指定されるとともに、リユース配慮設計対象製品と位置づけられている。

 今回の調査では、コンピュータメーカー、プリンタメーカー、部品メーカーなど45社から回答を得ている。

 そのうち、製品、ユニット、部品のリユースを実施しているのは21社。2001年度の調査に比べて3社増加している。一方、リユースは考えていないと回答した企業は13社。とくにコンピュータメーカーのなかに、こう回答した企業が多い。

 リユースをしていると回答した企業については、「製品」と「ユニット・部品」にわけ、いずれも複数回答で集計している。

 製品としてリユースしている企業は7社。そのうち6社が中古製品として一般の販売店に提供していると回答。第三者に売却しているとした企業が2社。自社または系列会社で自ら使用している企業も2社となった。

 また、ユニット・部品のリユースでは、13社から回答を得たが、最も多かったのが修理用部品として使用するという回答で10社。そのほか、自社のリユース製品に組み込むが3社、第3者への販売が3社となっている。

 なお、中古部品などを自社の新製品に組み込むと回答した企業が3社あった。この3社はすべて複写機、電子写真プリンタなどのOA機器を取り扱っているメーカーであり、コンピュータメーカーは含まれていないという。

 具体的にリユースされているユニット・部品で最も回答が多かったのがプリント板。次いで、メモリ、CRTディスプレイ、液晶ディスプレイ、HDDの順。CPUも4社が、電源やキーボードも3社がリユースしていると回答した。

 今後、リユースを検討しているユニットという質問では液晶ディスプレイが最も多く、ノートPCおよびデスクトップPCへの普及に伴って、リユースに対する要求が高まってきたといえる。

 また、メーカーはリユースをもっと積極的に取り組むべきと回答した企業が52%を占めたが、その他と回答した企業が41%を占め、そのなかで、「資源の有効利用のためにやらなければならないことは理解しているが、IT機器では技術革新が早く、さらに部品の共通化が難しく、品質保証に関する課題も多いので、積極的には推進できない」、「社会的責任を果たすために、対象製品を限定して行なっているが、経済的に見ても厳しい」といった声もあがっているという。

 リユースに関しては、市場性があると判断している企業が多いものの、その実施に向けた仕組みづくりや採算性、事業としての確立などの側面を考えると、メーカーにとっては厳しい側面があることも、この調査結果から浮き彫りにされている。

PCリユースの用途 パーツ類のリユース用途 リユースされるパーツの種類

●液晶の最新リサイクル方法に関心集まる

 今後の課題となっているのが、難しいとされる液晶ディスプレイのリサイクルだが、ここでも興味深い結果があがっている。

 リサイクル・処理内容としては、ケース部分をリサイクルしていると回答した企業が14社、ガラスをリサイクルしているとした企業が9社、液晶パネルとしてリサイクルしているとした企業が3社など。

 一方、処分形態としては、「バックライト用蛍光管だけを取り外し、残りを焼却、溶融処理している」とした企業が2社、「そのままの形で埋め立てている」あるいは「バックライト用蛍光管だけを取り外し、残りを埋め立てている」とした企業がそれぞれ1社ずつとなった。

 そのほか、液晶そのものの処理については、「液晶を分離し処理している」とした企業が1社あり、報告会の会場でも、「ぜひその会社を教えてほしい」という声が出るなど、液晶の最新の処理方法に関係者からの高い関心が集まっていた。

●高まるリサイクルに対するメーカーの意識

3R推進事業参加メーカー

 今回の報告書は、リサイクル、リユース、リデュースの3Rが電機業界内で着実に浸透しはじめていることを示したものとなった。

 特に、昨年10月から開始した個人向けPCのリサイクルに関しては、郵政公社と連携した戸別回収方式が先進的だとして、欧米からも注目を集めていることが明らかにされ、この分野での取り組みで世界的にも先行していることが示された。

 現在、個人向けリサイクルは41社(4月1日時点では40社)が参加しており、市場全体の97~98%を占めているという。

 だが、一方で、リサイクルやリユースが社会的責任だとしながらも、収益性の確保を優先する企業姿勢のなかでは、本腰を入れにくいとの認識が、依然として一部に残っているのも事実だといえる。ただ、その認識の改善が徐々に進展していることを示す内容になったともいえよう。

 また、中古部品を新品に採用していくという動きも、今後は、リサイクルの認識が高まるにつれて増加していく可能性もある。その際に、ユーザーにも、それがわかるよう告知方法なども確立する必要が出てきそうだ。

□JEITAのホームページ
http://www.jeita.or.jp/
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(2004年6月7日)

[Text by 大河原克行]


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