メルコホールディングスの牧誠社長は、バッファローをはじめとするメルコグループの今後の事業戦略として、デジタルホーム市場をターゲットとする方針を明らかにした。 「メルコグループは、第2の成長期に入った。これから訪れるデジタルホーム時代において、当社が、最も力を発揮できるのが、PCと家電の橋渡し役。その大きなチャンスの波をしっかりと掴まえ、今後10年に向けた成長の土台を確立したい」と話す。 デジタルホーム市場は、2011年のアナログ地上波放送の停波に向けて、大きな転換の波が押し寄せている。昨年末から、東京・名古屋・大阪の一部地域で開始した地上デジタル放送が、2007年には全国放送へと広がり、アナログ波の停波とともにTV受像器の大規模な買い換え需要が発生することになる。一方、ブロードバンドの家庭へのさらなる普及や、デジタルホームを実現する各種周辺機器の投入も見込まれ、デジタルTVと各種デジタル家電、PC、周辺機器などを、家庭内でネットワーク化するという動きも出てくる。メルコグループの強みは、ここに発揮できるというのだ。 「デジタルホームの世界では、無線LANで接続するという形態が一般化する。現在、当社がトップシェアを維持している無線LANのノウハウは、今後のデジタルホームの世界において、圧倒的な強みを発揮することになる」 もちろん、大手家電メーカー自身が、ネットワークの分野に本格的に乗り込んでくるという可能性は捨てきれない。 だが、牧社長は、こんな風に反論する。 「短期的な視点で見れば、いま、家電メーカーがしのぎを削っているのが、高画質、大画面という点。ここへの投資を積極化しているため、ネットワークへの投資や関心はまだ先になる。一方、近い将来、家電メーカーがネットワークに本格的な投資を始めようとしても、家庭内にあるPCや、海外メーカーなどの細かな周辺機器との接続性、互換性の検証をいちいち行なえるのかというとそれは無理な話。この部分では、当社がPC周辺機器メーカーとして培ったノウハウが活かせる」 このノウハウ、技術を大手家電メーカーに供給していく、というのも戦略の1つだという。 ●メルコグループは橋渡し役に徹する 「社内では、今後のデジタルホーム市場の発展を見据えて、自らがデジタルTVやHDDレコーダをやるべきだ、という声もある」と牧社長は話す。 実際、PC用液晶ディスプレイ製品の投入や、ネットワーク接続を前提として開発したHDDのLinkStationを投入している実績もある。先頃の決算発表の席上では、「液晶ディスプレイでは、再びトップシェア奪取を目指す」(牧博道常務取締役)という発言も出ていた。それだけに、これらの事業をベースにしたデジタルTV、HDD事業への参入も突飛な路線とはいえない。 だが、牧社長はこう続ける。 「大手家電メーカーに立ち向かっていっても勝てるわけがない。むしろ、デジタルホームの実現に向けて、家電メーカーと補完関係をとれるような状況を構築しておくのが生き残りにつながる」 それが、PCと家電の橋渡し役という役割だ。そこには、デジタル家電と、PCや各種周辺機器を結ぶ、新たな「デジタルホーム周辺機器市場」の創出が見込まれるというのだ。 デジタルホーム市場は、将来的には3兆円から5兆円の市場規模になるといわれる。そのうち、こうした周辺機器市場は、少なくとも1~2割は想定できると牧社長は読んでいる。そこでどれだけのシェアをとるかによって、事業計画は左右されるが、それでも自社では数千万円の売り上げが見込めると試算しているのだ。
●無線LANによって各種機器を結ぶ では、具体的に、どんな橋渡しを担おうとしているのだろうか。
1つは、デジタルホームを構成する製品を無線LANによって結ぼうという動きだ。 デジタルTVとPCはもとより、各部屋に点在するTVやPC、オーディオ、IP電話などのほか、電子レンジやエアコン、冷蔵庫といった白物家電もその対象となる。これによって、コンテンツの共有やデータの一元管理、リモートコントロールといった使い方ができるようになる。 同社では、無線LANの設定やセキュリティ対策を自動的に行なえるAOSS(AirStation One-Touch Secure System)を同社製品に標準搭載しはじめている。煩雑な暗号化キーの設定や、接続設定をワンタッチで行なおうというものだ。 現在、インテル、マイクロソフトとともに、AOSSに関する共同プロモーションを開始。中小企業などでの無線LAN普及戦略に力を注いでいるが、今後はこれをネットワーク家電にも組み込むよう、家電メーカーなどに働きかける考えだという。 現在、PC周辺機器メーカーなど2社が採用することで契約が完了しているというが、今後も、AOSSのデファクトスタンダード化に向けて、海外メーカーを含めて、採用を呼びかけていく考えだという。 これによって、各種デジタル製品同士の無線接続が、煩雑な設定操作をすることなく、一定のセキュリティを維持しながら、簡単に実現できるというわけだ。
●ギャップを埋める周辺機器戦略
2つめは、家電とPCの技術進化の差を埋める周辺機器の投入だ。 TVをはじめとする家電製品の平均寿命は約7年。だが、デジタル家電を取り巻く環境の進化は、その製品寿命サイクルでは追いつかないほどのスピードで進化すると見られている。 例えば、無線LAN技術の進展。これまでIEEE 802.11bが主流だったものが、802.11aの登場を経て、802.11gへと移行している。同社の無線LAN製品の規格別の出荷比率を見ても、昨年までは802.11bが65%を占めていたものが現在ではそれが30%に、一方、802.11gは、昨年は30%だったものが55%へと比率が高まっている。802.11aとのコンボモデルの出荷を加えると、802.11gの出荷比率は7割にも達するのだ。さらに、来年にはさらに高速な802.11nの認定が見込まれているほか、その間にも、802.11iや802.11eといった規格も認定される予定であり、その変化のスピードはあまりにも激しい。 また、当然のことながら画像圧縮技術もどんどん進化する。デジタル家電時代には画像圧縮技術の進化は避けては通れない道であり、この技術変化への対応も求められる。 こうした動きを見ると、デジタル家電の製品寿命と、それを取り巻く技術の進化の間には、ギャップが生じる。それを埋めるところにメルコの強みが発揮できるというのだ。 「新しい無線技術や新たな画像圧縮技術、あるいはHDDの大容量化という技術変化の激しい部分は、低価格の周辺機器でカバーしていくという市場が創出されるだろう。いまあるTVに、新たな技術に対応するための周辺機器を付属して、最新の環境を整える。ここにメルコの活躍の場がある」 新たな無線規格に対応するためのAirStation、新たな画像圧縮技術に対応するためのLinkTheater、そして、大容量化へ対応するためのLinkStationというように、すでに製品ラインは準備されている。これを、今後数年でさらに発展させていくというわけだ。 ●メルコならではの経営スタイルとは?
メルコホールディングスでは、2004年度の事業計画のなかで、研究開発費として13億円を計上。デジタルホームおよびブロードバンドの高機能商品の開発にこれを当てる考えだ。 牧社長は、「メルコには、古い商品で収益を得て、それを新たな分野に積極的に投資し、将来の柱に育てるという経営スタイルがある。かつてメモリでアイ・オー・データ機器と熾烈な争いをしていたときには、収益の柱としていたのは実はプリンタバッファだった。そして、現在の収益の柱となっているのはメモリであり、無線LANは開発投資をしながら、低価格化の熾烈な争いのなかで戦っている。これが数年後の収益の柱になるだろう」と話す。 だが、こうも話す。 「無線LANは、これまでの周辺機器とは異なり、単に安ければ売れるというものではない。技術の付加価値が重要な要素となり、ノウハウそのものが売り物になる。無線LANのファームウェアを自社で開発し、独自のハードとしているのも日本では当社だけだと自負しており、ここに当社の強みがある」 メルコグループの将来戦略を見ると、無線LANがその中核にあることがわかる。そして、それを取り巻く周辺機器群も品揃えの準備がされているのがわかる。 だが、成長の鍵を握るのは、こうした製品戦略だけでらく、いかに家電メーカーと連携を図ることができるかにかかっているとはいえないだろうか。 これまでのメルコグループにはなかった、新たな協業スタイルの模索が、ここ数年続くことになりそうだ。 □関連記事 (2004年5月21日)
[Text by 大河原克行]
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