ここ半年ぐらいの期間に、各社からデジカメ用のフォトプリンタの新製品発表が相次いでいる。フィルムカメラからデジカメに乗り換えた人にとって大きな問題といえるのが写真印刷。 フォトプリンタは、その問題を手軽に解決できるアイテムとしての期待が高い。そこで、2万円台のフォトプリンタ6機種を集め、その特徴や使い勝手などから比較してみたい。 ●PictBridgeの普及でフォトプリンタが増加中 フォトプリンタとは、デジカメとプリンタを直接接続してデータを転送し、L判やハガキサイズへ印刷できる製品だ。 フォトプリンタは、最近新たに登場したものではなく、デジカメ黎明期からオリンパスなどのデジカメメーカーが、デジカメのオプションという形で発売していた。だが、文書から写真までオールマイティに印刷できるA4インクジェットプリンタの存在により、フォトプリンタの市場規模は大きいとはいえない状況だった。 しかし現在、こちらの価格調査記事を見ても分かるとおり、最近はフォトプリンタを投入するメーカーが増えている。その理由はいくつか考えられるが、1つはデジカメユーザー層の広がりである。 フィルムカメラでは、印刷して写真を鑑賞するのはあたり前の行為だが、デジカメではPCへ取り込んで印刷しようと思うと少々手間がかかる。フィルムカメラからデジカメへ乗り換えたばかりの新規ユーザー層には、女性や高齢者などPCに不得手な人や、PCを所有すらしていないユーザーも多いという。 これらのユーザーにとって、印刷のためにPCの使い方を覚え→プリンタを購入し→ドライバをインストールし……といった手間が不要で、手軽に印刷できるのは、フォトプリンタの大きな訴求ポイントだろう。 もちろんデジカメも、DPE店へデータを持ち込んで、フィルムカメラと同様に印刷可能なのだが、フォトプリンタなら自宅での印刷が可能という魅力もある。
また、カメラからプリンタへダイレクトに印刷する機能についての規格がまとまったことも一因だと考えられる。 これまでは、例えばエプソンの「USB DIRECT-PRINT」や、キヤノンの「DIRECT PRINT」のように、原則としてはデジカメとプリンタの組み合わせが特定の製品に限られる状況であった。しかし、カメラ映像機器工業会(CIPA)によって昨年2月に策定された「PictBridge」対応デジカメとプリンタであれば、メーカーを問わずダイレクトプリントが実現できるのだ。 さらに、搭載パーツの価格低下などから、プリンタ本体の価格が下がり、こなれた価格帯となってきていることも注目したい。 ダイレクトプリントの手法としては、プリンタとデジカメを直接接続する以外に、メモリカードスロットをプリンタに設けて、そこからデータを読み込んで印刷する方法もある。この方法ならば、メモリカードの種類さえ合えば、デジカメの機種やメーカーを問わず利用できる。 ただその場合、画像を選択するためにプリンタ側にカラー液晶モニタなどを搭載する必要が生じ、プリンタのコストが上がってしまう欠点がある。実際、液晶モニタが1万数千円でオプションとなっている製品も存在した。 今回取り上げる製品はすべて実売価格が2万円台だが、カラー液晶を搭載する製品もある。また、ビデオ出力機能を搭載することでテレビを使って印刷するデータを選択できる製品も登場するなど、最近の新製品は利便性が向上しつつも価格は下がってきている。 ●フォトプリンタの主流は昇華型 フォトプリンタが注目されている背景をまとめたところで、実際に今回取り上げる製品をざっと紹介しておきたい。 A4もしくはA3サイズの印刷が可能な個人向けプリンタは、主に本体そのものやサプライ品のコスト面でメリットが大きいことから、インクジェット方式を採用した製品が圧倒的に多い。しかし、フォトプリンタでは昇華型方式のプリンタが主流である。 昇華型とは、インクカートリッジのインクを、熱を使って蒸発させて専用用紙に付着させる、一種の熱転写方式である。昇華型では、インクを噴射するインクジェット方式で生じる、紙に付着するときのにじみが発生しにくく、写真印刷のような細かい階調表現が求められるような場で採用例が多い。 一方で用紙と同じ面積のインクカートリッジが各色ごとに必要になるなど、コスト面でのデメリットがある。ただし、最大でもハガキ程度のサイズを印刷することを目的としたフォトプリンタならば、個人向けであってもさほど問題とはならない。 今回紹介する製品では以下の4機種が昇華型である。 ・キヤノン CP-300 もちろんインクジェット方式のフォトプリンタも存在しており、エプソンと日本ヒューレット・パッカード(日本HP)が発売している。 インクジェット機では、一般に普及しているA4対応機の多くもL判やハガキ用紙に対応するが、フォトプリント専用機は、テレビへの出力など、デジカメ写真の印刷に特化した機能が付加されているのが特徴だ。今回紹介するインクジェット方式のフォトプリンタは下記の2製品。 ・エプソン E-100 なお、フォトプリンタの印刷方式としては富士フイルムがプリンピックス方式という独自の方式を採用している。これは、用紙側にCMYの3層のインクを染み込ませておき、熱と紫外線によって発色させる色を決定する仕組みだ。 インクカートリッジを使わないのでメンテナンス性が高いのが魅力だが、このプリンピックス方式を採用した「CX-500」は本体価格が4万円前後と少々高価である。今回は2万円台という区切りを設けているので、今回のレビュー対象からは割愛した。 ●PictBridgeを使った操作はデジカメに依存 ここで、各製品の比較を行う前に使用カメラの紹介をしておく。今回、撮影とカメラを接続してのダイレクトプリントのテストに使用したのは、カシオの「EXILIM ZOOM EX-Z30」(写真1)である。名刺サイズカメラでおなじみのEXILIMシリーズの3倍ズーム、300万画素モデルだ。 本体サイズが小さいこともあってか、ダイレクトプリントに必要なUSBポートはクレードル側に装備されている(写真2、3)。ちなみにEX-Z30では、PictBridgeのほかに、USB DIRECT-PRINTにも対応している。USB接続時の動作モードは、デフォルトではUSB DIRECT-PRINTに設定されているので、PictBridgeで利用する場合は設定メニューから切り替える必要がある(写真4)。
PictBridgeでダイレクトプリントを行なう場合は、デジカメ側で操作を行なうことになる。例えばEX-Z30では、USBケーブルでPictBridge対応プリンタと接続すると写真5の画面が自動的に表示される。ここから[1枚プリント]を選択すると、写真6のような画面に切り替わり、印刷したい画像を表示させて[プリント]を実行すれば印刷される。 写真を見ても分かるとおり、日付を挿入して印刷することも可能だ。なお、印刷中は処理中である旨の表示がなされるほか、何らかのエラーが発生した場合もデジカメの液晶ディスプレイ側にエラー表示がなされる(写真7、8)。 このように、操作がすべてデジカメに依存するのがPictBridgeの特徴といえる。実際、キヤノンのCP-300とオリンパスのP-10の2モデルは、プリンタに操作インタフェースが一切ないという割り切りぶりだ。 ●キヤノン CP-300 キヤノンの「CP-300」は、そのコンパクトさが特徴的なフォトプリンタである(写真9)。本体サイズは170×123×55mm(幅×奥行き×高さ)となっているが、実際に使用する際には前面のペーパーカセットを装着することになるため、奥行きはそれよりも増す(写真10)。
しかも、用紙は前面のペーパーカセットから給紙し、ペーパーカセットの上に排紙される格好にはなるのだが、印刷中はL判の場合でも背面方向に5~6cmほどはみ出す(写真11)。高さ、幅は今回紹介する製品中でもコンパクトな部類に入るが、実使用時に必要な奥行き方向の面積に関しては逆に最も多めに要する製品となってしまっている(写真12、13)。
対応する用紙は専用のハガキ、L判、カードサイズの3種類で、各用紙専用のペーパーカセットを利用する。ただし、製品パッケージにはL判とカードサイズのカセットしか付属しないため、ハガキサイズの印刷を行ないたい場合は、別途ペーパーカセットを購入(1,260円)する必要がある。専用用紙は両端にミシン目が付いたタイプで、印刷自体は2辺フチなしだが、両端を切り取ることで4辺フチなしを実現できるようになっている。 本体周りに目を向けてみると、端子類は本体左側のゴム製カバーの中に用意され、デジカメを接続するUSB A端子と、PCと接続するUSB B端子が並んでいる(写真14)。本体左側面にはインクカートリッジの挿入部が用意されている(写真15)。
本体背面には付属のACアダプタを接続する専用端子があるが、カバーを外すことでバッテリを取り付けることもでき、屋外での利用も可能となっている(写真16~18)。バッテリ動作時はL判用紙に約36枚を印刷できるとされている。
印刷解像度は300dpi。CMYの3色の印刷に加えて保護用のオーバーコートが施される。印刷サンプル(サンプル2)を見てみると、やや緑色の発色に不自然さは感じるものの、わりと素直な発色という印象を受ける。また、全体にソフトタッチであることも特徴で、電線部のジャギーなどが適度に抑えられつつも、解像感を失っていない適度なバランスだ。
個人的な印象では、今回試した製品中で1、2を争う良さであると感じている。なお、PCと接続して利用する場合は、ドライバによって色調や明度、コントラストを修正することもできる(画面1)。動作音も非常に静かで、これについても今回試した製品ではトップレベルだ。 短所としては、まず印刷スピードがやや遅いことが挙げられる。このサンプル写真を印刷するのに要した時間は、デジカメ側でプリント操作を行なってから排紙されるまで約1分38秒。単体で見ればそれほど悪い数字ではないように思えるかも知れないが、後に紹介する製品では1分前後のもののあり、もう少し頑張って欲しいところだ。また、他の2辺フチなし製品と比べ、上下のトリミング幅が大きくなっているのも少々残念だ。 もう1つ気になるのが、キヤノン製デジカメ以外を接続した場合は、日付印刷ができない点だ。先の写真6で示したとおり、EX-Z30側で日付印刷を指定することができるのだが、本製品ではその指定が無視され、日付が印刷されない。 これは仕様のようで、本製品のホームページにも注意書きがなされている。こうした仕様の製品は今回の紹介機種では本製品だけで、メーカー不問の相互互換を目指したPictBridgeの精神から反するように感じられる。
また、本製品をPictBridgeに対応させるには、同社ホームページ( http://web.canon.jp/Imaging/cp300/cp300_firmware-j.html )から最新ファームウェアをダウンロードして、適用する必要がある点も注意が必要だ(画面2)。出荷時期にもよっては適用済みのものもあるかと思われるが、このためにPCに接続して作業を行なわなければならないのは、PCなしで印刷が可能な製品の性格を考えると残念である。 コスト面については、本体価格は25,000円前後。L判用紙とインクカートリッジのセットが、36枚分(KL-36IP)で1,500円前後なので、1枚あたりの印刷コストは約41.6円、72枚分(KL-36IP 2PACK)では2,300円前後で約31.9円といったところ。本体価格、ランニングコストともに昇華型としては一般的なレベルであるが、バッテリ駆動が可能なところが他製品にない差別化のポイントとなる。 ●オリンパス P-10 オリンパスの「P-10」は、立方体に近いスタイルがユニークな製品だ(写真19)。サイズは190×196×166 mm(同)でパッと見の印象は大きめに感じられる。しかし、ペーパーカセットは完全に本体内に収納されており、外部へ突起するのはケーブルのみ(写真20)。さらに本体上面に排紙されるまで、印刷中本体外に用紙が飛び足すこともない。そのため、実際の使用時に必要なスペースは他製品と比べても大きなものではなく、むしろ省スペースな部類に入る(写真21、22)。
用紙は専用のハガキとL判で、本体付属のペーパーカセットで両方の用紙に対応する。L判用紙をセットする場合に取り外し可能なガイドを装着して利用する(写真23)。このペーパーカセットはセットできる用紙枚数が50枚と、今回の試用製品中もっとも多い。 またインクジェットではあたり前になっている4辺フチなし印刷についても昇華型では貴重な存在で、コンシューマ向けでは本製品が初めて実現した(現在でも唯一)。ミシン目を切り取るタイプの4辺フチなしは、紙にミシン目の跡が残るため仕上がりが気になる人も多いと思われるので、このアドバンテージは大きいように思える。 本製品の本体周りはいたってシンプルである。用意されている端子類は、フロントにデジカメと接続するUSB A端子、背面にPCと接続するUSB B端子とACアダプタを接続するコネクタのみ(写真24~26)。このほかにはインクカートリッジの挿入口が左側面に設けられている程度だ(写真27)。 ちなみにフロントにある大きな丸い窓だが、これは印刷中に現在どの色の印刷を行っているかが確認できるというものである(写真28)。これは、本製品以外の昇華型プリンタでは、用紙が前後する様が外から見えるため印刷状況を把握しやすいのに対し、本製品は本体内のみで紙が移動するために、こうした手法が採られていると想像される。印刷していることが分かる安心感が得られ、かつ紙が移動するよりもスマートな状況把握方法として面白いアイデアではないだろうか。 印刷の品質に関しては、解像度310dpiで、CMY+オーバーコートの4層印刷となる。印刷サンプル(サンプル3)を見てみると、やや緑色がかった色合いが印象的だ。また、キヤノンのCP-300と解像度のスペックが近いこともあって、ジャギーの出方などは似通っている。ただし、本製品の方がシャープネスが強い感じで、ここは好みが分かれそうだ。 PCと接続した場合は、明度、コントラスト、ガンマ、シャープネスの4項目の調整が可能なほか、複数枚の写真を1枚の用紙に分割印刷する機能をドライバベースで持っている(画面3、4)。 印刷速度はL判で約47秒。これは今回試用した製品中トップの速度である。ハガキサイズも51秒と高速で、この速度ならストレスはまったく感じない優秀なものである。ただし動作音は非常に大きく、インクジェット製品を含めても、もっとも大きな騒音である印象を受けた。 本体価格は25,000円前後。L判の用紙40枚とインクカートリッジのセット(P-L40)が1,700円前後で1枚あたりのコストは42.5円、100枚分(P-L100)が3,200円前後で1枚あたり32円となっている。やや高めの印象ではあるが、30円台で収まる100枚セットの選択肢があるので及第点といったところだろう。
□関連記事 (2004年5月26日) [Text by 多和田新也]
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