Intel Developer Forum Spring 2004の会場に向かう参加者は、朝の街角でAMDから思わぬ贈り物を受け取った。それが、下の写真にあるようなミネラルウォータのボトルだ。“Welcom to the World of AMD64”、“Who's next?”という文字が躍るこのボトルは、参加者が宿泊するホテルからIDFの会場途中にある交差点に設置されたテントで配布されたものだ。 これは、言うまでもなく、IntelがAMD64と互換性のある64bit命令拡張「IA-32e」の導入を明らかにしたことに対するAMD流の勝利宣言だ。 ●IA-32eはAMD64と100%互換
AMDはとりあえずこの成功に祝杯をあげているところだろう。しかし、その祝杯はAMDだけであげるのはもったいないと考えたらしく、AMDはわざわざIDFが行なわれているサンフランシスコにやってきて、IDFの会場近くにテントを張り、IDFの参加者に対して冒頭のボトルやコーヒー、Tシャツ、しまいにはマッチなど、多くの“Welcom to the World of AMD64”(AMD64の世界へようこそ)のロゴが入ったグッズを配っていた。 そこには“Who's next?”(後から来るのは誰?)という実に挑戦的な文字も躍っており、IntelがAMD64互換の64bit拡張を採用したことをAMDが喜んでいることがわかる。 AMD コンピュテーションプロダクトグループ プロダクトマーケティングエンジニア ジョン・クランク氏は「IntelがAMDの技術を受け入れることは歴史的な出来事だ」とAMDがIntelの決断を歓迎していると述べた。 AMDによれば、火曜日にIntelがクレイグ・バレットCEOの基調講演でIA-32eを発表してから、同社エンジニアがIA-32eについて様々な分析を加えたという。「我々のエンジニアが公開されたホワイトペーパーなどの資料を調べてみたところ、IA-32eはAMD64と100%の互換性があることを確認した」(クランク氏)と、明らかにした。
●デスクトップPCでの対応が不透明なIntelと鮮明なAMD
IntelがAMD64互換のIA-32eの導入を明らかにしたことで、AMDにとっては最もよいシナリオであるだけに、AMDが素直に喜ぶの無理もない。 AMDにとっての最悪のシナリオは、IntelがIA-32eではなく、AMD64と互換性のない64bit拡張を行なった場合だった。この場合、市場にはAMD64とIntelの独自64bitという2つのx86互換の64bit命令セットが並び立つことになる。市場で80%近いシェアを持つIntelの命令セットと、20%のAMDの命令セットと、どちらが生き残ることができるか、これは火を見るよりも明らかだ。それだけに、この決定は、Intelが望んだものではないことも明らかだろう。 Intelは64bitをあまり前面に出さず、“AMD64”のようなブランド名ではなく“64bit拡張”(64-Bit Extentions)という一般用語を使ったり、IA-32eという32bitの拡張というイメージを持たせる名前にしている。これは、できるだけ64bitが話題にならないようにするという狙いがあるのだろう。 AMDとしては、Intelの弱い部分はそこだと考えているようだ。「Intelは2Wayサーバー/ワークステーション向けのNoconaと、シングルサーバー/ワークステーション向けのPrescottでの対応は表明した。しかし、それらはサーバー/ワークステーションでの話であり、依然としてデスクトップPCでの対応は不透明だ」(クランク氏)と、デスクトップPCにおいて、Intelがいつ64bitに対応するかどうかを明らかにしていないことを指摘する。 ●デスクトップPCでも64bitのメリットはあると主張するAMD
実際、IntelはデスクトップPC向けのCPUでいつIA-32eに対応することは明らかにしていない。Intel デスクトッププラットフォームグループ 共同ジェネラルマネージャのウィリアム・スー副社長は「将来デスクトップPCでも64bit命令に対応することは何ら秘密ではない。ただ、現時点はまだその時期ではない。というのも、64bitを利用するにはOS、アプリケーション、BIOSなど様々な要素がそろう必要があるし、現時点ではデスクトップPC向けのアプリケーションで64bit拡張を利用してもメリットは小さい」と述べ、アプリケーションやOSを含めた準備が整うまではデスクトップPCで64bit拡張を有効にする必要はないと指摘する。 スー氏はHTテクノロジがそうであったように、最初にサーバー/ワークステーションで有効にし、OSやアプリケーションなどの準備が整った段階で有効にすると述べた。 これに対するAMDの見解は異なるようだ。AMDのクランク氏は「デスクトップPC向けのアプリケーションでも64bitの意味はある。特にデジタルビデオの処理や3Dゲームにおけるメリットは大きく、DivX、InterVideo、CyberLink、EPIC Games、UbiSoftなどのソフトウェアベンダがAMD64に対応する予定だ」と述べ、AMDはデスクトップPCでも64bitのメリットを推し進めていくと強調した。 しかし、現状のWindows XPはAMD64やIA-32eには対応しておらず、デスクトップPCでAMD64/IA-32eを利用するにはクライアント向けの64bit対応Windowsが必要になる。Windows XPの64bit版は「Windows XP 64-Bit Edition for 64-Bit Extended Systems」となるが、Microsoftは今年の後半にリリースする予定であることを、昨年のPDCで明らかにしている(当初は今年の第1四半期にリリース予定であったが、今年後半に延期された)。 ただ、このWindows XP 64-Bit Edition for 64-Bit Extended Systemsがリリースされたからといって、デスクトップ用のOSがすべてこのOSに置き換わるというわけではない。というのも、MicrosoftはこのOSを主にワークステーション向けと位置づけているからだ。となると、価格もProfessional版を上回る設定になる可能性が高い。OSの価格はPCの価格に反映されることになるので、各PCメーカーは仮にWindows XP 64-Bit Edition for 64-Bit Extended Systemsを採用するとしても、一部のハイエンド向けだけにとどまるだろう。 しかし、これに関してもAMDとしては心配していないようだ。「Microsoftは64bitへの移行が今すぐにではなく、長期的なレンジで考えていることはその通りだと思う。こうした技術を最初に受け入れるのは、ハイエンドユーザーだ。実際、ソフトウェアベンダが64bitの導入を検討しているのも、3Dゲームやデジタルビデオなどのハイエンドアプリケーションであり、最初はこうしたユーザーが対象になるのはなんら不思議な話ではない」(クランク氏)とAMDとしても当初は64bitを受け入れるのがハイエンドユーザーにとどまるのは織り込み済みであるようだ。 ●両社とも64bitのメインストリームへの普及はLongHornになると見る
それでは、64bitがハイエンドだけでなく、メインストリームになるのはいつになるのだろうか? おそらく、それはLongHornがリリースされる頃になるだろう。 LongHornでは新しいAPIのWinFXが導入されることになり、アプリケーションベンダは現在利用しているWin32からWinFXへ徐々に移行していくと見られている。昨年10月に開催されたPDCで公開されたLongHornのPreview版には、現状のIA-32対応版のみならず、AMD64版も用意されていた。当然、このAMD64版はIA-32eにも対応することになる。 Intelのスー副社長は「LongHornのタイミングは、64bitへの移行のよいチャンスになるだろう」いう見解を明らかにしたし、AMDのクランク氏も「LongHornのタイミングまでには市場には多数の64bit対応CPUがあふれているだろう。LongHornで64bitがメインストリームに来ることは間違いない」と同じ見解のようだ。“すべてはLongHornへ”、少なくとも両社にとってもこの点では一致を見ていると言っていい。 命令セットアーキテクチャを巡る論争はひとまずこれでゲームオーバーだ。今後両メーカーは、昨年Microprocessor ForumにおいてAMDのフレッド・ウェバー副社長が指摘したように、ハードウェアの仕様であるマイクロアーキテクチャの出来を巡って競争を繰り広げることになる。 この姿はある意味健全な姿であり、PC業界にとってはひとまず歓迎していいことだろう。 □関連記事
(2004年2月21日) [Reported by 笠原一輝]
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