笠原一輝のユビキタス情報局

PCとデジタル家電の架け橋となるデジオン「DiXiM」




 本誌の読者にとってデジオンと言えば、DigiOn SoundやDigiOn Audioなどのオーディオ系のツールや、Drag'n Drop CD+DVDなどの書き込みツールといった、マルチメディア系のソフトウェアを開発しているベンダというイメージだろう。Drag'n Drop CD+DVDは記録型光学ドライブなどにバンドルされていることも多く、実際に使っている読者も少なくないと思う。

 そのデジオンが今、内外のデジタル家電ベンダの関係者から注目を集めている。PCやデジタル家電などが相互にTCP/IPネットワークで接続され、シームレスにやりとりを行なう“デジタルホーム”では、相互運用性(Interoperability)が大変重要になるが、同社が提供する「DiXiM」というソフトウェアソリューションがそれを実現できるからだ。


●デジタルホーム実現の障害となっている相互運用

 International CESで各社が展示したように、PCとデジタル家電を連携させ、“デジタルホーム”あるいは“eホーム”などと呼ばれる、デジタル化された機器によるホームネットワークを作り上げようという流れはもはや止まりそうにない。

 すでにそうした動きは始まっていて、ネットワークメディアプレイヤーやデジタルメディアアダプター(DMA)などと呼ばれるネットワーク経由でメディアファイルを再生するデジタル家電も徐々に発売されつつある。

 昨年末の本コラムで紹介したように、ソニーのルームリンク、アイ・オー・データ機器のAVeL LinkPlayerなどはすでに販売されているし、これからバッファローのPC-MP2000やオンキョーのNC-501Vなどが続々と発売される予定となっている。

 このほか、CESではPhilipsやSamsungなど多数のベンダが同様の機器を公開しており、今後もこうした流れは止まりそうにない。また、今冬に話題を集めたソニーのPSXなど、HDDレコーダも日本の家庭に普及してきているが、これらの製品の中にもEthernetポートを内蔵し、TCP/IPネットワークに接続できるものが多数ある。

 だが、これらは相互に接続することはできない。例えば、現時点では、PSXからPCに接続することはできないし、その逆も不可能だ(ソフトウェアのアップグレードという手法があるので将来はできるようになるのかもしれない)。なぜなら、ほとんどの製品が他のデバイスを呼び出す際に独自の手法を利用しているからだ。ネットワークプロトコルとしてTCP/IPを使っていたとしても、他のデバイスを発見してファイルを転送するという手順に互換性がないため、相互に接続できないのだ。これでは、デジタルホームの実現など夢また夢だろう。

●ハードウェアベンダにUPnPのスタックを供給する必要性が浮上

 これではいけないと、昨年Intel、ソニーなどを中心にDigital Home Working Group(DHWG)が結成され、業界をあげて相互接続性の実現を目指す取り組みが始まっている。DHWGでは、デバイスの発見、管理などにUPnP(Universal Plug and Play)を利用し、相互接続性を実現するという仕様を策定しており、実際DHWGに加盟している各社はこの仕様に基づいた製品の開発を進めている。

 しかし、そこで問題になるのは、誰がUPnPに対応したソフトウェアスタックを作るのかということだ。例えば、現在のデジタル家電では、iTRONやLinuxなどの汎用OSに独自のGUIをかぶせて利用することが多い。これは、OSを含めて自社で開発した場合、膨大な開発コストがかかったり、開発期間が長くなってしまうからだ。しかし、現在のところTRONやLinuxなどのOSにはUPnPのソフトウェアレイヤーは搭載されておらず、その機能を追加する場合には自社で追加する必要がある。

 ある程度の規模を持つメーカーであれば、そこを自社で作って搭載することは可能だろう。例えば、ソニーはVAIO Mediaやルームリンクに自社で開発したUPnPのスタックを利用している。だが、そうした余裕がない中小のメーカーや、そもそもソフトウェアのエンジニアをあまり抱えていない台湾や中国のOEM/ODM専業メーカーにとっては難しい相談だ。

 そこで、PCにおけるMicrosoftがそうであるように、デジタル家電においてUPnPの汎用ソフトウェアスタックを開発し供給してくれるソフトウェアベンダの必要性が増してきているのだ。

●UPnP準拠のミドルウェアとして動作するDiXiM

 デジオンのDiXiMは、まさにそうしたUPnPのソフトウェアスタックを提供するソフトウェア群だ。DiXiMはDiXiM Home Network Frameworkと呼ばれるミドルウェアと、DiXiM Media Server/Clientなどのメディアサーバーやクライアントとなるアプリケーションソフトウェアから構成されている。

DiXiMのデモ、テレビに接続されているデスクトップPCから、テレビの横に置かれているバイオU、さらにはLinuxベースのネットワークストレージに対してシームレスにアクセスしている様子(画面は開発中のもので、最終製品ではない、以下同) デモに利用されたネットワークストレージの試作品。DiXiMのサーバー機能を内蔵しており、コンテンツを保存しておく。将来、現在発売されているネットワークストレージなどに採用されれば、ネットワークにストレージを増設していってもシームレスにコンテンツにアクセスできるようになる

 ハードウェアベンダは、ミドルウェアだけを供給され、サーバー、クライアントのアプリケーションは自社で作ったり、アプリケーションまで含めて供給されGUIだけを自社で開発するなどハードウェアベンダの要求に応じて柔軟にカスタマイズできることがDiXiMの特徴だ。

 重要なことは、DiXiMがマルチプラットフォームに対応していることだ。DiXiMはCPUとしてx86に対応しているほか、今後はARM、MIPS、PowerPC、SHなどのプロセッサにも対応していく予定となっている。また、サポートするOSも、Windowsのほか、Linuxに対応済みで、近い将来にはiTRONにも対応していくという。

 もともとDiXiMの開発はLinuxベースで行なわれており、それを基にほかのプラットフォームのコアも作られるため、多くのCPUやプラットフォームに対応できるという柔軟性が売りになっている。つまり、ハードウェアベンダは、現在自社で利用しているCPUやOSの上にDiXiMをかぶせることで容易にUPnPに対応した機器を製造することができるようになる。

●どこにコンテンツがあるかを意識させないシームレスなホームネットワーク

 DiXiMのクライアントソフトウェアを利用すると、クライアントからサーバーに対してシームレスにアクセスできる。例えば、音楽ファイルにアクセスする時には、ネットワーク上にあるすべてのUPnPに対応したメディアサーバーを自動的に検索し、ネットワーク上にある音楽ファイルをすべて表示してくれる。この時ユーザーはどのサーバーにアクセスしているのかを意識する必要はなく、すべての音楽ファイルにアクセスできるようになる。

 これが可能になると、もはやPCか、デジタル家電かいう議論は全く意味をなさなくなるだろう。コンテンツを作る機器(それはHDDレコーダかもしれないし、PCかもしれない)でコンテンツを作成し、それをDiXiMが動作するネットワークストレージに入れておけば(あるいはそれ自体がストレージを持っているだろうからそれにアクセスすることもあり得る)、家庭内にあるすべてのコンテンツをシームレスに再生することができるようになる。

DiXiMのホーム画面、どのタイプのメディアにアクセスできるかを決定できる 動画ファイルを再生する画面。これらのファイルは複数のサーバーに分散して格納されているが、ユーザーはそのことを意識せずとも、クライアントソフトウェアが自動的にネットワーク上にあるファイルを探して表示してくれる

音楽再生画面 写真再生画面

●水平分業が始まったデジタル家電のソフトウェアサプライヤーとなるデジオン

 株式会社デジオン 代表取締役の田浦寿敏氏は「PCにはMicrosoftという巨人がおり、最終的にはMicrosoftがどうするかで決まってくる部分がある。しかし、デジタル家電ではそうした存在がおらず、各社が独自に進めていては相互接続性を実現するのが難しくなる」と指摘する。

 この指摘は、現在の日本のデジタル家電の問題点をうまく言い当てている。というのは、最近ではHDDレコーダなどにEthernetポートがついていることは珍しくなくっているが、未だにソニーのレコーダと松下のレコーダがつながるどころか、同じメーカー同士でも接続はできない。

 つまり、Ethernetはついているけど、結局はファームウェアのアップデートや外出先からの録画予約などにしか利用できないというちょっと悲しい状況だ。

 そこでデジオンは、DiXiMを家電メーカーに対して採用してもらうことでこうした問題を解決していこうと考えている。田浦氏は、「弊社はDiXiMでインフラを提供していきたいと考えている。Intelも今年から言い始めているが、家電の世界でも水平分業を、というのは、弊社は数年前から言ってきたことだ。今後は台湾や中国などのハードウェアベンダに対してもソフトウェアを供給し、ホームネットワークにおけるデファクトスタンダードとなることを目指したい」と、水平分業化が進む家電業界の中でのポジションを確立していくのが同社の戦略であると説明した。

 DiXiMはDHWGの仕様に準拠しており、もちろんDiXiM以外のソフトウェアとも相互接続性は確保されている。「弊社はDHWGに加盟しており、DiXiMを使ってデバイスを製造して頂ければ、DHWG準拠の製品を比較的容易に作ることができる」(デジオン コンシューマビジネス部門担当 取締役 長谷川聡氏)と、閉じた世界を目指しているわけではない。

●すでにNECのVALUESTARシリーズに採用されているDiXiM

 DiXiM自体はすでにいくつかの製品に採用され始めている。最初の採用例となったのが、NECのデスクトップPCであるVALUESTARシリーズとHDDレコーダのAX300だ。VALUESTARシリーズとAX300に採用されているMediaGarageと呼ばれるホームネットワークソフトウェアは、DiXiMを利用して開発されている。

 今後デジオンでは、日本の他のベンダにもDiXiMの採用を呼びかけていく予定だ。田浦氏によれば、すでにいくつかのPCベンダとは話し合いをしているという。また、この春にはDiXiMを採用したDMA(デジタルメディアアダプター、あるいはネットワークメディアプレイヤー)も登場する見通しであるという。

 将来的には、PCやDMAだけでなく、デジタルテレビやHDDレコーダなどに対してDiXiMの採用を見込んでいるという。すでに、ソニーはVAIO Mediaのクライアント機能を内蔵したプラズマテレビを発売しているが、それと同じようにDiXiMを採用してもらうことで、汎用のネットワークプレイヤーとしての機能をテレビに付加するわけだ。

●水平分業化が進むデジタル家電における新しいビジネスチャンス

 デジオンが目指しているのは、今後デジタル家電の普及で家電業界でも水平分業化が進んでいくという状況の中で、PCにおけるMicrosoftのようにソフトウェアを提供することでビジネスチャンスを広げていこうというものだ。

 ただ、それでも日本メーカーの中には、未だに水平分業を嫌い、すべて自社でというところも少なくないのが現状だ。そこにどのように食い込んでいくかが今後の課題といえるが、「こうした相互接続性の確保は、ものすごいコストがかかるのに、特徴を出すのが難しい部分といえる。だからハードウェアベンダにすればコストをかけたくない部分でもあり、そこが突破口になると考えている」(長谷川氏)と、将来的にはそこに食い込んでいくことも可能と考えているようだ。

 エンドユーザーにとって、こうしたソフトウェアにより相互接続性が解消されるのであれば、それは歓迎すべきことだと言っていいだろう。個人的には、ぜひPC向けにサーバーとクライアントソフトウェアをリリースして欲しいところだ。そうした意味で、今後の動向に注目したいソフトウェアの1つだと言っていいだろう。


バックナンバー

(2004年2月13日)

[Reported by 笠原一輝]


【PC Watchホームページ】


PC Watch編集部 pc-watch-info@impress.co.jp 個別にご回答することはいたしかねます。

Copyright (c) 2004 Impress Corporation All rights reserved.