会期:10月13日~16日(現地時間)
Microprocessor Forumは2日目を迎え、高性能プロセッサや低消費電力プロセッサに関する発表が行なわれている。それらの講演に先立つ基調講演として、AMDの開発チームを率いるAMD コンピュテーションプロダクトグループ CTOのフレッド・ウェバー氏がプレゼンテーションを行なった。 その題名は「Towards Instruction Set Consolidation」(命令セットは1つにすべし)というもの。同社をはじめ、IntelやVIAなどが命令セットとして利用しているx86命令をすべてのマイクロプロセッサで利用すべきという内容だった。 ●次世代CPU“K9”に関する発表は無し 過去数年、Microprocessor ForumはAMDにとっての新技術発表の場となってきた。例えば、'98年のMicroprocessor Forumでは、当時K7のコードネームで呼ばれていたAthlonプロセッサの概要を明らかにし、'99年には64bit命令セットであるx86-64とHyper Transportの構想が明らかにされた。2001年には当時Hammerの開発コードネームで呼ばれていたOpteron/Athlon 64の詳細が明らかにされている。 そうすると、今年のMicroprocessor Forumでは、Athlon 64の次世代となるK9の発表か? と考えてしまうところだが、残念ながら今回はK9に関する発表はなかった。 9月に新しい製品をリリースしたばかりで、まだ次世代の話をするわけにはいかないという事情も考えると致し方ないところだろう。 しかし、だからといってウェバー氏の講演が退屈であったかと言えば、それはフェアな見方ではない。実のところ、ウェバー氏の講演は、示唆的で、そしてある人たちにとっては非常に刺激的な内容だったのだ。 ●マイクロアーキテクチャの優劣で勝負すべきであり命令セットを競うべきではない ウェバー氏はいきなり冒頭で、「ここ数年のマイクロプロセッサの進化は、いずれもマイクロアーキテクチャの進化によりもたらされた」と述べ、ここ最近の性能向上は、決して命令セットアーキテクチャの進化によるものではないと指摘した。 一般的に、マイクロプロセッサの違いを説明する場合、キャッシュの容量やパイプラインの構成などといった“マイクロアーキテクチャ”というハードウェア上の仕様と、アプリケーションソフトウェアが利用する命令である“命令セットアーキテクチャ”というソフトウェア上の仕様の、2つの観点から議論されることが多い。 例えば、「Pentium 4は512KBのL2キャッシュを備えていて、Athlon 64は1MBのL2キャッシュを備えている」というのは、ハードウェア上の違いであるので、マイクロアーキテクチャの違いを議論していることになる。これに対して、x86、ARM、MIPS、Powerの違いを語るのであれば、「命令セットが異なる」となるので、命令セットアーキテクチャの違いを議論することになる。 ウェバー氏は、「実際のところ、プロセッサの設計時に命令セットの違いが与える影響はわずかだ。パイプラインの段数や駆動電圧の違い、I/Oピンなどはプロセッサのダイサイズに大きな影響を与えるが、命令セットが与える影響は、これらに比べれば本当にわずかでしかない」と指摘。どの命令セットを採用してもプロセッサの製造コストやパフォーマンスに与える影響はわずかでしかないのだから、そろそろ1つの命令セットアーキテクチャに統一する時期ではないかと主張した。 ウェバー氏は、「これまで業界は命令セットアーキテクチャの違いで競ってきた。しかし、それが無駄なコストを発生してきたことは間違いない。例えば、ソフトウェア業界は異なる命令セットに対応するために多大な投資をしている。これを1つにすれば、メリットは大きいはず」と述べ、命令セットを1つに統合することで、複数のアーキテクチャに対応したOSを作ったり、アプリケーションを書いたり、バリデーションを行なったりというコストを省くことができ、大きなメリットがあるはずだと強調した。
●AMDの新しい戦略となる“x86 Everywhere” それでは、いったいどの命令セットに統一するというのだろうか。現在、マイクロプロセッサには、x86、Power、MIPS、ARMなどの命令セットアーキテクチャがあり、それぞれ様々な用途に利用されている。 ウェバー氏はこの講演の中で何度も「x86 Everywhere」(すべてのマイクロプロセッサをx86に)という表現を利用し、x86こそがその統一される命令セットアーキテクチャにふさわしいと説明した。 その理由として、「x86は最も普及している命令セットであり、デスクトップPC、ノートPC、サーバーなどでWindows OSとともにほとんどの部分を占めている。今後x86はストレージやハンドヘルドといったデバイスにも進出していくことになる。さらに、将来にはネットワークやユビキタスといった分野でも使用されるようになる可能性がある」と説明し、x86に統一することで、業界にとっても大きなメリットをもたらすはずだと指摘した。 AMDがこうした戦略を言い始めた背景には、AMDがNational SemiconductorからGeode(ジオード)事業を買収したことがあると考えられている。Geodeはx86の命令セットアーキテクチャを採用したSoC(System On a Chip、1チップで構成される)で、主に組み込み向けに利用されている。 実は、最近x86の組み込みというのも徐々に増えつつある。x86アーキテクチャを採用するメリットは、ソフトウェア業界にたくさんのx86エンジニアがいることであり、Linuxなどの組み込み向けのOSも多数あるということだ。VIAにしろ、AMDにしろ、こうした市場での可能性を高く評価しており、だからこそAMDはGeode事業を買収したのだろう。 Geode事業を買収したことにより、AMDはサーバー向けのOpteron、クライアント向けのAthlon 64、組み込み向けのGeodeと、上から下までx86で揃えたことになり、どの市場でもx86で対応する準備が整いつつある。そこで、新しい戦略として“x86 Everywhere”を打ち出してきたと考えられる。 ただ、それですべて解決かといえば、現状はそうでないのも事実だ。低消費電力が求められる携帯電話などではARMやMIPSのアーキテクチャが独占しているというのが現状で、x86はそうした市場では利用されていないし、AMDもMIPSアーキテクチャのAlchemyを買収してそうした市場におけるビジネスを始めている。 実際、ウェバー氏の基調講演の後に登場したMIPSやARMのスピーカーは「AMDもMIPSのライセンシーであるのに不思議な話だ」と指摘されるなど、当然ながらx86以外の命令セットアーキテクチャのベンダには決して好意的な受け止められ方はされていなかった。
●今後のマイクロアーキテクチャのトレンドを予測、K9で採用か?
最後に、ウェバー氏は自身が考えている今後のマイクロアーキテクチャのトレンドについて言及した。「マルチスレッドのアーキテクチャに関しては不可避といえるだろう。これは自然なトレンドだ」と述べ、ウェバー氏としても、Intel、Sun、IBMなど様々な会社が取り組んでいるマルチスレッドを視野に入れていることを明らかにした。そのほかにも、 ・CMP(Chip Multi Processing) という点を今後予測されるマイクロアーキテクチャの進化のポイントとしてあげた。 冒頭でも述べたように、ウェバー氏はAMDのマイクロプロセッサ開発のリーダーであり、彼が考えていることは、今後の同社のマイクロプロセッサ開発に大きな影響を与える可能性が高く、一部はK9でも取り入れられるだろう。実に示唆的な講演だったと言っていい。 □Microprocessor Forumのホームページ(英文) (2003年10月17日) [Reported by 笠原一輝]
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