東芝は12月22日、2004年1月1日付けでPC事業部門を社内カンパニーとして独立させると正式に発表した。 新カンパニー名は、PC&ネットワーク社。デジタルメディアネットワーク社の中から、PC事業、サーバー・ネットワーク事業を統合。カンパニー社長には、西田厚聰専務が就任する。
分社化は、PC事業の構造改革を加速することが大きな狙いだ PC事業を将来の柱のひとつとして位置づけている東芝にとって、収益をあげられる体質の改善は大きなポイントだ。分社化することで収益性を明確化することが可能になるだろう。 サーバー、ネットワーク機器とともに分社化した背景には、米国市場や子会社などが、すでに同様の体制をとっていたことがあげられる。サーバー、ネットワーク機器との親和性はPC事業にとっても重要な柱。そのため、今回の体制は納得できるものだといえる。 これまで同社では、デジタルメディアネットワーク社のほか、携帯電話などを担当しているモバイルコミュニケーション社、POSなどを開発、生産、販売している子会社の東芝テックの事業を包含して「デジタルプロダクツ」という表現をしていた。今回のPC事業の分社化によって、デジタルプロダクツは、PC&ネットワーク社を加えた3つの社内カンパニーと、1つの関連子会社で構成されるという体制に移行することになる。 ただ、気になるのは、PC事業の分社化で、これまでデジタルメディアネットワーク社が掲げていたデジタル家電とPCとの融合が推進しにくい体制となる可能性だ。同時に、サーバー・ネットワーク機器事業とともに分社化したことで、企業向けビジネスが先行し、コンシューマ製品の取り組みが遅れがちになる可能性を指摘する声もある。そうした点では、開発部門、マーケティング部門などが、デジタル家電とPCを連動させるように体制を、引き続き維持できるかが鍵だといえるだろう。 ●PC事業の業績悪化が背景に 今回の突然ともいえる分社化の発表だが、証券アナリストや、一部マスコミ関係者の間では、以前から話題になっていたものだ。アナリストを対象とした決算会見や、マスコミ関係者を集めた記者懇親会になると、必ずといっていいほど、東芝のPC事業の分社化、売却の可能性についての質問が飛んでいた。 その背景には、PC事業の業績悪化がある。2003年度中間期決算でも、PC事業は170億円の赤字を計上、通期見通しについても、当初予測の売上高7,470億円から7,350億円へ下方修正、損益は130億円下方修正したマイナス210億円と、さらに下期には悪化すると見込んでいるのだ。 分社化、売却の話題が出ていたのは、PC事業の赤字が膨れ上がっているのに加えて、東芝のPC事業の体制そのものを抜本的に変える必要があったためだ。そして、東芝が推進している中期経営計画では、電子デバイス、デジタルプロダクツの2つの事業を成長戦略として、社会インフラ事業を安定事業として位置づけているが、そのデジタルプロダクツ事業において、中核の一端を担うとしていたPC事業が、出足からつまづいたことで、中期経営戦略そのものの実行に黄信号が点っているという背景も見逃せない。 東芝 岡村正社長も、「3本の柱のうち、デジタルプロダクツ事業が、スタートの段階でフラついた」と、同事業が計画通りにいっていないことが中期経営戦略の実行にも影響を及ぼしていることを認める。 続けて、「中でも、PC事業やTV事業の立ち遅れをどう取り戻すのかが、今後の鍵になる。柱というからには、プラスマイナスゼロ程度の収益では困る。黒字をきちっと出せる事業に成長しなくてはならない」と、PC事業のテコ入れが必要なことを語る。 同社では、かつて、社会インフラ事業、電子デバイス事業に関しても、テコ入れを進めてきた経緯がある。岡村社長自身も「今の状況を考えれば、十分投資した甲斐があった」と振り返る。PC事業においても、同様のテコ入れがこれから行なわれることになるのは間違いない。 ●急ブレーキを余儀なくさせたたPC事業 今年始めまでは好調だった東芝のPC事業は、なぜ今年中盤以降、急ブレーキがかかったのか。 岡村社長は、「市場の価格下落が5%程度で進むと見ていたものが、今年は一気に20%も下落した。こうした市場変化に対応できる体制でなかったのが原因」と話す。 東芝のPC事業は、付加価値戦略が基本。価格に追随するのではなく、5~10%価格が高くとも、東芝ならではの付加価値を提供し、それを認めるユーザーを数多く獲得してきた。 だが、市場価格が20%下落した場合、東芝が想定した価格から5~10%と高い価格設定で投入すると、その差は結果的に25~30%増の設定というポジションとなる。東芝が投入した製品の付加価値が25~30%高い価格に相当したとしても、その価値を認めるユーザーがいるかというと、一般論として見てもそれは疑問だ。 付加価値戦略を推進している同社とはいえ、やはり低価格化の流れには追随せざるを得ないのだが、これが出来ていなかったというわけだ。 PC事業を見ると、コンシューマ市場でのシェアアップという実績をあげた国内事業に比較して、HPやDellによる価格攻勢が激しい欧米市場での落ち込みが大きい。全世界規模での価格競争に対応できる体制づくりが必要だというわけだ。 同社では、すでに、今年9月以降、生産体制の見直し、コスト削減、製品ラインアップの見直しといった取り組みを開始しているが、事業そのものの抜本的ともいえる見直しだけに、かなりの時間を要するのは明らか。今年度の見通しが赤字であるということを見ても、やはり半年以上をかけての体制再編が必要であることがわかる。 ●ユビキタス情報機器に不可欠なノウハウ こうした状況を見れば、PC事業の分社化、売却という話題が出てくるのも当然だろう。分社化によって独立性を高め、よりダイナミックなコスト削減効果を高めることもできるし、売却という手段は、東芝が松下電器のようにデジタル家電事業に完全に軸足を移す、あいるは日本IBMのように電子デバイスという観点からPC事業をサポートするという収益重視の体制をとるのであれば、選択肢の1つとしても考えられれる。 だが、東芝の岡村社長は次のように話す。「ユビキタス時代において、PCははずせない事業。今のPCのような形ではないかもしれないが、ユビキタス情報端末として見た場合、PCの機能は必ず必要となる。PC事業の成果が、いくつかの製品に搭載されることになるだろう」 つまり、PC事業のノウハウが、他のユビキタス情報端末と呼ばれる機器への応用が可能になるというわけだ。 ●分社化にメリットはあるのか?
では、分社化、売却に対してはどんな考え方をしているのであろうか。先頃、行なわれた年末記者懇親会の席上、岡村社長は、「分社化するには、分社化するメリットが必要」とっていた。 そのメリットとはなにか。「もし、将来的にジョイントベンチャーを目指すとか、PCに関連する子会社と一緒にするというのであれば、分社化という手法は効果があるだろう」と語る。 今回の分社化は、そうした点も視野に入れたものだと判断することもできそうだ。そして、コスト削減効果とともに、燃料電池の搭載などによる付加価値戦略はあくまでも続けていく考えでもある。実際、記者懇親会でも、燃料電池を搭載したノートPCを参考展示し、その技術が製品化に向けて大きく進展していることを訴えていた。 ●デジタルプロダクツを巡る競合と協調 もちろん、デジタルプロダクツ事業を、成長戦略の柱とするにはPC事業のテコ入れだけでは駄目だ。デジタルメディアネットワーク社の中では、DVDを始めとするデジタル家電戦略による成長戦略もひとつの柱となる。 DVDに関しては、現時点では、きわめて好調な売れ行きを見せており、「今の時点では、現場にまかせておけば大丈夫」と太鼓判を押す。 だが、NECととも発表した次世代デイスクの「HD DVD」をいかに推進していくかは来年以降の重要な課題。すでに先行しているソニー、松下などのブルーレイに対して、どう対抗するはデジタルメディアネットワーク社においても、より戦略的な検討が必要だろう。 岡村社長は、「来年の早い時期には、第1弾となる製品を投入したい」として、HD DVDレコーダの早期投入を示唆する。 「コンテンツを左右するハリウッドがどういう判断をするのか、DVDとの互換性をユーザーがどう判断するのか、PCへの応用という点でどう捉えてもらえるのか。このあたりが規格争いのポイントになる」と岡村社長は話す。 その点、HD DVDは、カートリッジを採用しないことや、DVDとの互換性を重視した規格であるという点で、コストダウン効果や、PC環境との融合が図りやすく、技術的には優位との見方もある。 だが、製品投入の先行ぶりや、参加メーカーの数の差で、ブルーレイの優位性を指摘する声も少なくない。「結果としては、マーケットが決めること」と岡村社長はいうが、マーケティング戦略を得意とするソニー、松下を相手に、その点での展開が比較的不得意される東芝、NECがどこまで対抗できるだろうか。この点は、2004年の大きな焦点だ。 そして、同社がもうひとつの戦略として取り組むのが家庭内におけるホームネットワーク戦略だ。このインフラとして、東芝はBluetoothを活用しようと考えている。 「これに音声認識の機能を加えて、リモコンからすべての家庭内のAV機器やデジタル家電を制御する環境をつくりたい」と岡村社長は話す。家庭でも、自動車の中でも、Bluetoothと音声認識技術、画像転送技術などを組み合わせることで、AV機器およびデジタル家電を結ぶネットワーク環境を実現する考えだ。 「ただ、ネットワークでは標準化が必要」とも語る。「例えば、当社のTVのシェアを見ても15%という状況。他のメーカーが85%を持っているのだから、独自の技術としてやるのではなく、他社との連携が必要」とも語る。 この分野でのパートナーシップも積極的に図っていく考えのようで、実際、三洋電機、シャープ、三菱電機とともに具体的な動きが出始めている。 東芝のデジタルプロダクツ事業は、PC事業の分社化によるテコ入れとともに、家庭内における新たなネットワーク環境の創出や、次世代デジタル機器における規格争いなども大きく影響してくる。競合とともに協調関係をとることも必要になってくる。 2004年は、このあたりの成果がどう出てくるのか楽しみだ。それが同社の中期経営戦略の行方を左右することにもなる。 【お詫びと訂正】初出時にサーバー事業とネットワーク事業が別の事業体に属するような記述がありましたが、「サーバ・ネットワーク事業部」という一つの部署で担当しています。また、PDAに関してはモバイルコミュニケーション社からPC事業部へ移管されています。ご迷惑をおかけいたしました関係者の皆様にお詫びして訂正させていただきます。
□関連記事 (2003年12月24日)
[Text by 大河原克行]
【PC Watchホームページ】
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