Transmetaの秘密兵器「Efficeon」(イフィシオン)は、10月にサンノゼで発表されて以来、超低電圧版Pentium Mのオルタナティブ(別の選択肢)として、モバイルPCユーザーの注目を集めてきた。 先週シャープからMebius MURAMASA PC-MM2-5NEに搭載されることが発表され、来年の1月より出荷が開始されることが明らかとなった。その製品レビューに関しては、すでにお伝えしたとおりだが、その時点では初期サンプルであったため、ベンチマークテストができなかった。 今回、より製品に近いバージョンのサンプルを入手し、ベンチマークが可能になったので、その処理能力についてお伝えしていきたい。 ●256bitのVLIW命令エンジンと1MBのL2キャッシュで大幅な性能向上を果たす
TransmetaのEfficeonは、前世代のアーキテクチャであるCrusoeと比べると、大きなマイクロアーキテクチャの強化が行なわれている。主な強化点は以下のとおりだ。 ・32bitのatomを8つ、256bitでのVLIW命令実行が可能(Crusoeは128bit)
最も大きな強化ポイントは、Crusoeでは32bitのマイクロ命令(Transmetaではatomと呼んでいる)を4つまとめて実行できる128bitVLIWアーキテクチャであったのに対して、Efficeonではそれが8つの命令を同時実行可能な、256bitVLIWアーキテクチャに拡張されていることだ。 このため、8つの命令を効率よく実行できるように、Efficeonでは演算ユニットが11に増やされている。このほか、キャッシュ容量が増やされる、AGPコントローラが統合されGPUのAGP接続が可能になる、システムバスはHyper Transportに変更される、など、かなりの強化が行なわれている。 また、命令セットアーキテクチャの観点でも拡張されている。Crusoe/Efficeonでは、コードモーフィングソフトウェア(Code Morphing Software:CMS)を利用して、x86命令をネイティブ命令であるatomへ変換して実行する仕組みが採用されている。従来のCrusoeではバージョン4.XのCMSが採用されていたが、Efficeonではバージョン5へ進化し、256bit VLIW命令実行に最適化されたほか、新たにSSE、SSE2の拡張命令にも対応した。従来のCrusoeではMMXにしか対応していなかったため、この点は大きな進化ポイントと言えるだろう。 ●低い平均消費電力を実現
今回は、Mebius MURAMASA PC-MM2-5NE(TM8600 1GHz)、Mebius MURAMASA PC-MM1-H5W(TM5800 1GHz)、ソニーのバイオノート505エクストリーム(超低電圧版Pentium M 1GHz)の3製品を利用して、テストを行なった。 また、過去にレビューした10.4型液晶搭載ノートPCのデータも同時に掲載している。なお、Mebius MURAMASA PC-MM2-5NEに関しては限りなく製品に近いサンプルだが、依然として試作機であったので、最終的な製品とは数値が変わる可能性があることをお断りしておく。 まず最初に、気になる処理能力とバッテリ駆動時間などをチェックしていきたい。バッテリ駆動時の処理能力、駆動時間などを計測するベンチマークには、BAPCoのMobileMark2002を利用した。 MobileMark2002は、ノートPCをバッテリ駆動させている状態で、Microsoft Office XPやPhotoshopなどのアプリケーションを自動実行させ、PCの応答速度を計測することで処理能力をチェックし(Performance Ratingとして表示される、モバイルPentium III 1GHzが100)、同時にそのスクリプトをバッテリ残量が0になるまで繰り返し実行することで、バッテリによる駆動時間を計測するベンチマークテストだ。 なお、テストを行なうにあたり、各製品の液晶の輝度を簡易輝度計を利用して計測し、60~70前後の輝度になるように設定し、輝度の違いが結果に影響を与えないようにして、テストを行なっている。 ■ベンチマーク結果
そのMobileMark2002による性能計測(Performance Rating)の結果がグラフ1だ。見てわかるように、Crusoe TM5800 1GHzを搭載したPC-MM1-H5Wに比べて性能が大きく向上し、超低電圧版Pentium M 900MHzを搭載したバイオノートTRとほぼ同等になっているのが見て取れる。 ただ、超低電圧版Pentium M 900MHzを搭載したノートPCの中では、バイオノートTRは決してスコアのよい方ではなく、同じCPUを搭載した他の製品に比べるとやや差がついている。 このテストでは超低電圧版Pentium M 900MHzにやや劣るという結果であるということができるだろう。ただし、TM5800 1GHzに比べると、1.6倍にも向上しており、これは大幅な性能向上であると言っていい。 バッテリ駆動時間については、グラフ2の通りだ。このグラフだけを見ると、TM8600 1GHzを搭載しているPC-MM2-5NEは、あまり駆動時間は長くないが、これはバッテリの容量が、他の製品に比べて少ないためだ。 【表1】
表1は、各製品のバッテリ容量(Wh)を示したものだが、PC-MM2-5NEは19.98Whと容量が小さいバッテリを搭載しており、それが原因で取り上げた製品の中で最も駆動時間が短くなっていると考えることができる。
バッテリの容量を駆動時間で割り、マシンが消費している電力の平均値“平均消費電力”を求め、それを比較することで省電力の度合いを比較することが可能になる。 そこで、表1のバッテリ容量をグラフ2の駆動時間で割った結果がグラフ3だ。これで見ると、TM8600 1GHzを搭載したPC-MM2-5NEは8.33Wで、TM5800 1GHzを搭載したPC-MM1-H5Wの8.81Wに比べて下がっており、より省電力な製品に仕上がっていることがわかる。 Efficeonの平均消費電力は、超低電圧版Pentium M 1GHzを搭載したソニーのX505、超低電圧版Pentium M 900MHzを搭載した松下電器のCF-R2よりも大きいが、他の3製品(バイオノートTR、LOOX T、InterLink XP7)よりも小さい。 一般的な超低電圧版Pentium Mを搭載した製品のMobileMark2002の平均消費電力が8~9W前後であることを考えると、Efficeon単体としては少なくとも超低電圧版Pentium Mと同等、条件によってはそれを上回る低消費電力を実現していると考えることが可能だ。 グラフ4は、グラフ3の平均消費電力でグラフ1のMobileMarkのスコアを割り、1Wあたりの処理能力を算出したものだ。つまり、そのシステムが、どれだけ少ない電力で高性能を実現できるかを表にしたグラフだと考えてよい。このグラフでも、Crusoeに比べてEfficeonが大幅に効率が向上していることがわかり、超低電圧版Pentium Mを搭載した2製品(バイオノートTR、LOOX T)とはほぼ同等、あるいは上回っている。 ●SSE/SSE2に対応した効果が大きいEfficeonの処理能力
引き続き、ACアダプタ駆動時の性能を比較しておきたい。このテストには、BAPCoのSYSmark2002のInternet Contents CreationとOffice Productivity、ペガシスのTMPGEnc Plus Version 2.51、FutureMarkの3DMark2001 Second Edition(Build330)を利用した。 結果はグラフ5~8の通りだ。なお、参考結果として、先日リリースされたばかりのPCMark04の結果を掲載しておいた(グラフ9、表2)。 現時点では論評できるほどのサンプルがないので、特に論評しないが、FutureMarkのサイトからダウンロードができ、簡単に動かすことができるテストであるため、読者が自分のマシンと簡単に比較できるように掲載した。興味がある読者は参考にして欲しい。 なお、TM5600 1GHzを搭載したPC-MM1-H5WのGPUはSMIのLynx 3DM+だが、3DMark2001、PCMark04のDirectX 7相当のGPUという条件を満たさなかっため、結果がでなかった項目があった(3DMark2001に関しては動作せず)。また、PC-MM1-H5Wに関してはSYSmark2002が動作しなかったので、結果がないことも付け加えておく。
SYSmark2002の結果で注目したいのは、グラフ6のInternet Contents Creationの結果だ。見てわかるように、TM8600 1GHzを搭載したPC-MM2-5NEは、超低電圧版Pentium Mを搭載したX505、バイオノートTR、CF-R2などを上回った。Internet Contents CreationはSSE/SSE2命令が多用されているアプリケーションベンチマークとして知られており、EfficeonがSSE/SSE2に対応した効果が出ていることがわかる。
この傾向は、TMPGEnc Plus Version 2.51によるMPEG-1のエンコードテスト(グラフ7)でも見て取れる。実際、SSE/SSE2には対応していないTM5800 1GHzを搭載したPC-MM1-H5Wが4.41fpsであったのに対して、TM8600 1GHzを搭載したPC-MM2-5NEは8.13fpsとなっており、倍近い性能向上で、超低電圧版Pentium Mに匹敵する性能を実現していることがわかる。 3DMark2001 Second Editionは3Dベンチマークだが、3DベンチマークはCPUよりもGPUの性能に依存するため、基本的にはGPUの優劣により性能が決定する。PC-MM2-5NEには、MOBILITY RADEON(16MB)が搭載されているが、ハードウェアT&Lエンジンも搭載されていない古い世代のもので、3D描画性能ではPentium M搭載マシンが採用しているIntel 855GMの内蔵GPUに劣るものとなってしまっている。
●1.8インチHDDとしては若干高性能なドライブを搭載
最後に、Efficeonとは直接は関係ないが、PC-MM2-5NEにはHGST(日立グローバルストレージテクノロジーズ)の1.8インチHDDが採用されている。HGSTの1.8インチHDDは、2.5インチHDDを半分に切ったようなサイズのドライブで、2.5インチHDDと同じコネクタを利用できる点でメリットがある。PC-MM2-5NEに採用されているのは、DK14FA-20というモデルで、20GBの容量となっている。 このドライブの性能をチェックするため、Ziff-DavisのWinBench 2.0に含まれるDisk Inspection Testsを利用した。Disk Inspection Testsには、データをシーケンシャルに転送して、そのHDDの性能をチェックするテストDisk Transfer Rateと呼ばれるテストがあり、結果をグラフィカルに表示してくれる。 今回は、東芝の1.8インチHDDを搭載したPC-MM1-H5WとバイオX505、5,400rpmのHGST HTS548080M9AT00(80GB、ThinkPad T40に入れて利用)と4,200rpmのHGST IC25N080ATMR04-0(80GB、ThinkPad T30に入れて利用)という2つの2.5インチドライブを比較用に用意した。 結果は、以下の通りで、8MBのキャッシュを搭載している2.5インチドライブに比べるともちろん劣っているが、それでも1.8インチドライブ同士での差はほとんど差がなく、若干HGSTのDK14FA-20を搭載したPC-MM2-5NEが若干高速になっている。
●超低電圧版Pentium Mと十分互角の性能、今後搭載マシンが増えることに期待
以上のように、Efficeon TM8600 1GHzを搭載したPC-MM2-5NEは、超低電圧版Pentium M 1GHzを搭載した製品にはやや劣るものの、超低電圧版Pentium M 900MHzを搭載した製品と比較した場合、互角か、テストによっては上回っている。最初の製品としては十分合格点があげられるものだと言ってよい。 特に、従来のCrusoeを搭載していた製品を利用していたユーザーであれば、多くの人が感じていたであろう、操作時のもたつき感がかなり軽減される。 実際、Crusoe TM5800 1GHzを搭載したPC-MM1-H5Wを使った後で、Efficeon TM8600 1GHzを搭載したPC-MM2-5NEを使ってみると、体感でわかるほどの違いがあった。PC-MM2-5NEでは、ウインドウを開いても待たされる感じが無く、超低電圧版Pentium Mと体感では違いがなかった。 今回Efficeonの最高クロックグレードである1.1GHzを搭載した製品はまだ存在しないが、おそらく1.1GHzのTM8600を搭載した製品が出てくれば、超低電圧版Pentium M 1GHzと同等の性能を発揮するのではないだろうか。 それだけに、今のところ採用しているメーカーが1社しかないというのが残念だ。今後、より安価な製品への搭載を希望すると同時に、他のPCベンダーからもEfficeonを搭載したマシンが登場することを望みたい。 □関連記事
(2003年12月17日) [Reported by 笠原一輝]
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