10月16日、Logitechグループの日本法人であるロジクールは、Click!シリーズのマウスの発表会を都内で開催した。この発表会はLogitechグループのマウス出荷5億台の記念も兼ねたもので、Logitech本社から創業メンバーの1人で同社会長のダニエル・ボレル氏も参加した。 ●マウス市場を2分するLogitechとMicrosoft
'81年に創立されたLogitechが最初のマウスを出荷したのは翌'82年のこと。解像度400dpiのマウスをOEM出荷したのが最初だという。リテール向けのマウスの出荷を始めるのは'85年のC7(Series 7)マウスからだが、'80年代の出荷の多くはOEM向けだったようだ。 表1は筆者がまとめた同社とMirosoftによるマウスの歴史だが、PC上で本格的に普及した最初のGUIであるWindows 3.0がリリースされる'90年まで、マウスというのは特定のアプリケーションでのみ利用する入力デバイスであり、現在のようなPCを使う上でなくてはならないものではなかった。 たとえばグラフィックスソフトにマウスがバンドルされる、というのは決して珍しいことではなかったし、逆にマウスにDOS上で動くシェル(もちろんマウスをサポートしたもの)がバンドルされていたり、ポピュラーなアプリケーション(たとえばLotus 1-2-3など)にマウスのサポートを加えるアドインソフトがバンドルされている、ということがごく普通に行なわれていた。
後になってもWindowsにマウスがバンドルされたパッケージや、Microsoft Officeにマウスがバンドルされたパッケージ等が提供されていたことを覚えている人もいるかもしれない。Windowsの普及以前のPCにおいて、マウスはペンタブレットと同じくらいには特別な周辺機器であり、すべてのユーザーが所有するものではなかった。このような状況だから、'80年代当時においてマウスの出荷がリテールよりOEMに偏るのは無理もないところだ。 ボレル会長によると、LogitechがマウスのOEM市場で大きく成功できたのは、同社がもともとはソフトウェアの会社だったからだという(創業当初のLogitechはリコー製ワープロ専用機のユーザーインターフェイス部を作ったこともあったらしい)。 当時は、さまざまなUnixシステムや独自OSが乱立し、それぞれ個別にマウスサポートのソフトウェアを用意しなければならなかった。Logitechはそれを用意できた数少ない会社であった、というわけだ。そして、LogitechがついにマウスのOEM供給に成功しなかったのがMicrosoft向けということなのだが、それとMicrosoftがソフトウェア会社であることは無縁ではないだろう。 それはともかく、大げさに言えばMicrosoftとLogitechはマウス市場を2分する大手であり、両社がマウスのデザインを牽引してきた部分は大きい。その一端が、筆者によるこの不完全な表からもうかがえるのではないかと思う。 ●日常使用には十分なスペック
さて、今回発表されたClick!シリーズのマウスだが、コードレスマウス2種とコード付マウス1種の計3種類で構成される。コードレスマウスは上位モデルが6ボタンのCordless Click! Plus(CLK-C70)で、下位モデルが4ボタンのCordless Click!(CLK-C50)、コード付は4ボタンのClick!(CLK-C30)となる。 いずれのマウスも左右のボタンとスクロールホイール、そして同社がアプリスイッチと呼ぶスクロールホイール下部の小さなボタンを備え、Click! Plusのみがマウスの左側面(右利きの人の親指の位置)に2つのボタン(初期設定でブラウザの進むと戻るに割り当てられる)を備える。アプリスイッチは、同社製ドライバの初期設定でアプリケーションの切り替えに割り当てられていることからこの名前がつけられたものだ。
3種類ともすべてセンサーは光学式で、専用マウスパッドを必要としないもの。ただし、上位モデルが採用するMXオプティカルエンジンではない通常タイプだが、解像度は800dpiと同じである。MXオプティカルエンジンと通常タイプの違いは、CMOSセンサーの読み取り範囲とデータ転送速度で、MXオプティカルエンジンを採用したマウスの方が精度が高いことになるが、Click!シリーズに採用されている通常タイプでも日常的な利用には十分以上の精度が実現されている。 コードレスの2機種に採用されているFast RFは、マウスとマウスのレシーバー間を結ぶ無線技術。従来の無線技術に対し2.5倍に高速化されており、余裕をもってUSBインターフェイスの上限である毎秒125回の速さ(125Hz)でマウスの位置情報を送信することができる。あまり知られていないことだが、Windows XPのPS/2マウスポートドライバはマウスデータのポーリングについて100Hzと200Hzの2つの速度をサポートしている(デフォルトは100Hz)。 ちなみにこのFast RFをサポートしたCordless Click! およびCordless Click! Plusの2種は、レシーバを直接USBポートに接続した場合も、PS/2マウスポートの読み取り速度を200Hzに設定して付属のUSB-PS/2アダプタを介してPS/2ポートに接続した場合も、マウスの読み出し速度は125Hzで維持されているようだ。一方、コード付のClick!は、USBポートに接続すると125Hzで、アダプタを介してPS/2ポートに接続すると200Hzで読み出しが行なわれる仕様らしい(ただし、どちらにしても、体感上の違いは感じられない。念のため)。 ●少数派にもやさしい? Cordless Click! Plus
さて使用感だが、4ボタンマウスであるCordless Click!とClick!の2種は左右対称のデザインになっており、左利き、右利きを問わない。ボタン配列は同じだが、Cordless Click!が裾を絞ったようなデザインであるのに対し、Click!は裾広がりのようなデザインになっている。どちらが手になじむかは個人個人で異なるだろうから、購入に際しては実際に触ってみることをお勧めしたい(筆者はわずかにClick!の方を好ましく感じた)。
レスポンスに関してはFast RF技術のおかげもあってか、Cordless Click!とClick!で特に違いは感じなかった。少なくとも、一昔前のコードレスマウスのように、コード付マウスに比べて動き出しが悪いと感じることはない(バッテリが減ってきても大丈夫だろうか、とはちょっと思うのだが)。 6ボタンになったCordless Click! Plusについても、基本的な使用感は同じ。ただ、追加ボタンの関係で右利き専用となっているせいか、マウスの形状も左右対称ではない。マウスの右側面が裾を絞ったようなデザインであるのに対し、左側面は裾広がりのようなデザインになっている。 実は筆者は、このような左右非対象タイプのマウスはあまり好きではない。こうしたマウスは、おそらくは人間工学的な考えから、特定の握り方をした場合の手に合わせてマウスの形状やボタンの配置が決められている。筆者がいつもひっかかるのは、スクロールホイールをどの指で操作するかという点で、現在市販されているほとんどのマウスが人差し指を使ってホイールを操作する(人差し指をマウスホイールに乗せる位置でマウスを握りこむ)ことを前提にマウスが作られていることだ。
筆者は、おそらく少数派らしい中指スクロール派なので、こうしたマウスだと親指で操作するボタン(マウス左側面のボタン)に指がとどかなくなってしまう。これが理由で、ずっと左右対称型のマウスを使い続けてきた。たとえば、今仕事マシンで使っているのはMicrosoftのIntelliMouse Opticalだが、この5ボタンマウスでは左右対称のボディの左右に1つづつエクストラボタンが設けられている(ロジクールではMX-310が同様なレイアウトを持つ)。 で、このCordless Click! Plusだが、左右非対称でマウスの左側面に2つのボタンがあるわけだが、これまでより若干後ろにずれているらしい。スクロールホイールに中指を乗せたポジションでも左側面のボタンに親指が届く。筆者の手は大きめなので、手の小さい人ではまた事情が違うかもしれないが、筆者個人にとっては嬉しい発見であった。筆者にとってベストのマウスは、おそらく上述したIntelliMouse OpticalかMX-310だと今も思っているが、このCordless Click! Plusも常用マウスの候補に入れてよいかもしれない。
□ロジクールのホームページ (2003年10月23日)
[Text by 元麻布春男]
【PC Watchホームページ】
|
|