●Media Center Editionの登場
Windows XP Media Center Edition 2004の特徴の1つは、OS単体としてパッケージ販売されるものではないこと。これは同OSがサポートするTVチューナーカードや記録型DVDドライブ、S/PDIF端子など、必ずしも一般的なPCでは標準搭載されていないデバイスのサポートに関して、PCベンダと共に作りこむ必要性があるためだという。したがってOSの提供形態としては、Windows XP Tablet PC Editionと同じく、ハードウェアに対するプリインストールのみとなる。今回の発表にあわせて、国内で8社がMedia Center EditionのプリインストールPCを発表した。 OSとしての機能的なベースとなっているのはWindows XP Professional。したがってWindows XP Home EditionではサポートされないWindowsドメインログオンやリモートデスクトップもサポートされている。その上にMedia Center Editionとしての機能、アプリケーション、ユーザーインターフェイス等が作りこまれているため、Windows XP Media Center EditionはWindows XP Professionalの機能をすべて包含する。にもかかわらずMedia Center Editionのライセンス料はWindows XP Home EditionとWindows XP Professional Editionの間に設定されているが、これは戦略的なものであるという。 その肝心なMedia Center Editionとしての機能だが、Windows XP Professional上で動作する1つのアプリケーション(シェル)として実装されたもの。通常のPCディスプレイの代わりにTVを用いた場合に備え、リモコンと大きな文字を使ったメニュー形式を組み合わせたユーザーインターフェイスとなっている。具体的なAV機能は、EPGをサポートしたTV視聴ならびにハードディスク録画、録画データからのDVD-Video作成、Windows Media 9シリーズの技術を用いた音楽の録音・再生、デジカメ画像の取り込みと画像の補正ならびにスライドショーというところ。特筆するような機能はないものの、各機能はスムーズに統合され、レスポンスも良好だ。 ただ、Media Center Editionにホームシアター的な機能やクオリティまで求めるのは少々酷なようだ。OSの標準的な機能として、CPRMをはじめとする著作権保護機能をサポートしているわけではないため(OEMがCPRMに個別に対応可能な切り口は用意してある、とのことではあるが)、たとえばVRフォーマットで録画されたメディアの再生はできない。個別にOEMが対応しない限り、Media Center Editionを用いてコピーワンス等の属性が付与された番組の録画も不可能だ。わが国ではアナログBS、デジタルBS、デジタルCSと様々な放送が実用化されており、間もなく地上波デジタルも加わるが、こうしたメディアについて特に対応した機能は用意されていない。
現時点において放送のデジタル化という点では、おそらくわが国の方が米国を上回っているのではないかと思われる(ケーブルテレビはそれなりにデジタル化されているが、コンテンツがデジタル化されているようにはあまり思えない)。それより何より、テレビ番組を録画する、という行為にかける情熱がわが国と米国では比較にならない。TV視聴や録画、DVD化といった機能へのこだわりを考えると、Media Center Editionをマニア向けに売るのは難しいように思われる。
●Media Center EditionのライフサイクルはXPを継承? もう1つWindows XP Media Center Editionで気になるのは、まだWeb等で公表されていない、このOSの製品としてのライフサイクル(製品寿命、サポート期間)だ。Microsoftはコンシューマー向けの製品について、製品寿命を発売から5年と定めている。普通に考えればWindows XP Media Center Editionの製品寿命は、2008年の10月まで(実際には四半期末で計算されるので2008年12月まで)あるハズなのだが、必ずしも話はそれほど単純ではない。 Media Center Editionと同じ形態で販売されているWindows XP Tablet PC Editionの場合、Microsoftのサポートによる製品発売日はなぜか2003年2月5日なのだが(実際の発売日は2002年11月7日)、メインストリームサポート終了日は、4年に満たない2006年12月31日に設定されている。 この2006年12月31日は、通常のWindows XP Home EditionやWindows XP Professional Editionのサポート終了日でもある。つまりサポートの観点からいうと、Windows XP Tablet PC Editionは新しいOSではなく、Windows XP Professionalの1バリエーションに過ぎないわけだ。となると、Windows XP Media Center Editionのサポート終了日も、Windows XP Professionalと同じ2006年12月31日になって不思議ではない。つまりWindows XP Media Center Edition搭載PCを今年のボーナス商戦で新品として買っても、その製品寿命は3年しかないということになる。 もちろんMicrosoft側の理屈も分かる。Windows XP Media Center Editionは実質的にはWindows XP Professionalと変わらないから、2008年の10月までMedia Center Editionのサポートを行なうということは、Windows XPのサポートを2年延ばすのと変わらなくなってしまう。しかしユーザーから見ると、2006年に近づけば近づくほど、Windows XP関連製品は買わないほうが良いという話になる。結局、製品の発売日から製品寿命を起算するという、現在の算定方式そのものがおかしいという結論になるだけのことだ。製品サポート期間はユーザー購入時、あるいは製品の販売完了時から起算されるべきだ。
●Longhornが背負っている約束 こうした妙なことを回避するには、製品寿命があまり短くならないうちに、製品のメジャーアップデートを行ない、乗り換えてもらうしかない。Windowsの次のメジャーアップデートはLonghornと言われているが、果たしてLonghornを期日どおりに出すことは可能なのだろうか。 筆者はPCのハードウェアを中心にカバーしているライターなので、どうしても話がハードウェア中心になってしまうが、Longhornでサポートされる、と称される新機能はハードウェア分野だけでも膨大な数に上る。筆者に言わせれば、Microsoftは「Longhornでサポート」の約束手形を乱発し過ぎている。Longhornでサポートされるハードウェアの新機能は、筆者が今思いついただけでも、下の7つがある。 1. WinFS データベース機能を持つ新しいファイルシステム。 2. AHCIサポート Serial ATAのネイティブインターフェイス標準で、Advanced Host Controller Interfaceの略。Native Command Queingや非同期I/O、マスター/スレーブ設定エミュレーションの廃止、ホットプラグ、省電力管理といった、既存のパラレルATAにはない機能をATAにもたらす。 3. Universal Audio Architecture DVD AudioやSACDクラスのオーディオ機能をWindowsにもたらす、新しいオーディオ規格。その実装のひとつ(というよりリファレンスデザインに近いもの)がIntelが発表しているAzalia。Azaliaではチップのピン配列が標準化されるほか、現在のAC'97ではCODECチップに依存したドライバが非依存のユニバーサルドライバとなる。 4. PCI Express いわずと知れた新しい外部バス標準。PCIのソフトウェアモデルと互換性を持つが、ネイティブサポートによりホットプラグやQoSといった、PCIがサポートしていない機能が利用可能になる 5. NGSCB 以前、ガーディアンと呼ばれていたセキュリティ機能。IntelはNGSCBに対応したハードウェアの実装としてLaGrandeテクノロジをPrescottに盛り込むことを表明している。 6. EFI on IA-32 IDFレポートでもお伝えした、既存のBIOSに代わる新しいFirmware標準。 7. 新しいグラフィックスアーキテクチャ グラフィックスメモリがプロセスごとに独立すると同時に、カーネルモードからユーザーモードに移行するLonghornの新しいドライバモデル。Longhornのユーザーインターフェイスは、Tier 2(LonghornドライバモデルとDirectX 9クラスのハードウェア)、Tier 1(Windows XPドライバモデルとDirectX 7クラスのハードウェア)、ベースライン(Windows 2000のドライバモデルを用いた主にビジネスクライアント向け)の3段階のレベルが設定されており、最高レベルのTier2のサポートには全く新しいドライバモデルが必要となる。
Microsoftが意欲的に新しいハードウェアをサポートしようとするのは良いことだ。しかし、やれることとやれないことをわきまえておかなければ、結局はCairoと同じ運命をたどるだろう。MicrosoftはUSB 2.0をサポートする際に、複数社からの製品レベルのハードウェアと1年近い時間がなければドライバサポートは提供できない、という趣旨のことを言っている。そしてUSB 2.0(EHCI)のドライバの提供に、実際に1年近い歳月を必要とした。 この例にならって上記7つのうち製品レベルのハードウェアが揃っていると思われるのは1と7だけで、あとはようやくサンプルチップが動き出したところだ。多くのハードウェアの製品化は2004年の半ばあたりだと思われるが、これだけ多種にわたり、しかもUSB 2.0とは比べ物にならないほどシステムへの影響力の大きなハードウェアのサポートを、USB 2.0のドライバと同じ時間で実現できるのだろうか。筆者にはとても実現可能とは思えない。 もちろん、「Longhornでのサポート」という言葉の意味は、出荷されるLonghornにサポートが含まれているということではなく、Longhornが提供されている世代のうちに、サポートを提供するということかもしれない。しかし、これだけ多くのハードウェアのサポートをService Pack等で提供することが望ましいとは筆者には思えない。実際には、ハードウェア開発者に「Longhornでのサポート」という手形を出したように、ソフトウェア開発者にも、ミドルウェアやAPIといった部分で約束手形をかなり発行していることだろう。こうした公約を満たしたLonghornが本当に2005年に可能なのだろうか。もし2006年にメジャーアップデートがずれ込みそうな場合、市場には製品寿命が1年を切ったWindowsが並ぶことになる。1年しか使えないPCにどれだけ商品力があるだろうか。
これはあくまでも筆者の予想に過ぎないが、2004年のある段階でLonghornを2005年にリリースすることは難しい、という結論をMicrosoftは下すだろう。Longhornを延期する代わりに、2004年の後半をめどにWindows XP Second Editionのリリースを行ない、そのサポート終了日を2009年末まで延長する。Windows XP Second Editionは、IntelとAMDの64bitアーキテクチャに対応したWorkstation版の64bit Windowsを同梱するのが最大の目玉。GUIもLunaを止め、もっとシンプルなものに変えると同時に、IEやOutlook Expressの見直しを行い、上述の7つのうち間に合いそうなものを盛り込む。ハッキリ言って書いている自分がペシミスティックに思えてくるが、筆者の予想を裏切ってすばらしいLonghornが出てくることをみんなが望んでいるハズだ(LonghornがLong Goneになってはシャレにもならない)。ただ、その場合でもライフサイクルの見直しだけはぜひお願いしたい。
□Microsoft、プロダクトライフサイクル一覧(Windows) (2003年10月17日)
[Text by 元麻布春男]
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