元麻布春男の週刊PCホットライン

USBデジタルヘッドホン「ATC-HA7USB」を試す



●日本の住宅環境とPC内部ノイズの関係

 Windows Media Center Edition 2004を引き合いに出すまでもなく、AV機器とPCの垣根は低くなり、音声のデジタル出力機能を持つPCや、PC用のサラウンドスピーカーシステムといった製品も珍しい。

 その一方でわが国、特に都市部の住宅環境は一向に改善される様子もない。夜間に大音量を楽しめる恵まれた住環境にあるユーザーは、おそらく少ないだろう。隣近所はもちろん、家族のことを気にしながら、PCでDVDを見たり、音楽を聞いているユーザーも少なくないのではないかと思う。

 そんなときに手っ取り早い解決策は、ヘッドホンを利用することだ。ヘッドホンなら他人を気にすることなく、大音量で好きなコンテンツを楽しむことができる。ところが、PCでヘッドホンを利用する場合、避けて通れない問題が存在する。いわずと知れたPC内部のノイズの問題だ。

 PC内部にはプロセッサをはじめとして、電磁気ノイズを放射するデバイスが多く存在する。これらのノイズが電源ラインあるいは空中を経由してPCのサウンド機能に悪影響を及ぼす。特に音源が近いヘッドホンの場合、スピーカー以上に微細な音が聞こえるため、スピーカーでは気にならないレベルのノイズですら問題になることが多い。

 PC内部のノイズをなくす一番よい方法は、サウンド機能、特にアナログオーディオ部とノイズ源を分離し、両者をデジタルインターフェイスで接続することだ。たとえばS/PDIF端子を備えたPCなら、S/PDIF端子のデジタルオーディオ出力をデジタル入力付のAVアンプやヘッドホンアンプ(サラウンド機能を持つものが多い)、あるいはデジタル入力付きのアンプ内蔵型スピーカーに接続することで、PCに起因するデジタルノイズとはおさらばできるのだが、S/PDIF端子はすべてのPCが標準的に備えているほどポピュラーではない。


●もっと手軽にノイズをカット

ATC-HA7USB全景。一見すると普通のヘッドホンだが、USBのAコネクタが違いを物語る
 もっと手軽な方法は、いまやすべてのPCが備えているデジタルインターフェイスの代表格であるUSBポートを利用することだ。USBポートであれば、デスクトップPCからサブノートPCまで、ありとあらゆるPCが標準的にサポートする。

 USBポートに接続するオーディオ機器として一般的なのは、USB接続をサポートしたAVアンプで、たとえばヤマハやONKYOなどから製品がリリースされている。また、USBポートに直接接続可能なアンプ内蔵式スピーカーも複数のメーカーから販売されている。ここで紹介するオーディオテクニカのATC-HA7USBは、USBポートに直接接続できるUSBデジタルヘッドホン(USB 1.1 Full Speed対応)。USBスピーカーのバリエーションと考えられる。

 オーディオテクニカというと、アナログレコードを知る世代には、VM型のカートリッジがまず思い起こされわけだが、ヘッドホンやマイクロホンも長い歴史をもっており、こうした小型トランスデューサー(変換器)が得意なメーカーといえるのかもしれない。実際にはオーディオアクセサリを中心に、幅広いアクセサリを販売しており、PC用のアクセサリも豊富だ。筆者の手元をちょっと調べてもUSB-PS/2変換アダプタや、S/PDIFの光同軸変換アダプタなどの同社製品が見つかった。

 このATC-HA7USBだが、USBデジタルヘッドホンとしては4月に発売されたATC-HA4USBに次ぐ第2弾となるもの。通常タイプのヘッドホン4種(エアーダイナミックシリーズ)と共に10月21日発売となった製品だ。ATC-HA4USBとの最大の違いは価格。ATC-HA4USBの標準価格12,000円に対し、ATC-HA7USBはオープン価格となっているものの、現時点での実売価格は25,000円と2倍以上。ヘッドホンとしてはかなり高級な部類に入る。そのせいもあって、直径53mmのドライバユニットなど、同社製高級ヘッドホンと共通の仕様を数多く備える。

SoundBlaster Live!がインストール済みのPCにATC-HA7USBを追加したところ。録音機能は持たないため、録音デバイスはSoundBlaster Live!のままとなっている
 USBポートに直結可能とするため、ATC-HA7USBはヘッドホン内部にD/Aコンバータおよび30mW + 30mWの出力を持つヘッドホンアンプを内蔵する。本製品が密閉型となっているのは、そのせいもあるのだろう。なお、D/AコンバータやアンプはUSBのバスパワーで駆動されるため、別途乾電池などは必要としない。また、本製品には特にドライバなどは付属しておらず、Windows 98 SE以降においてビルトインのドライバで動作する。

 本機の使用感だが、音質はヘッドホン臭さを排した本格的なもの。低音から高音まで、特定の帯域への強調感を感じないナチュラルなもので、高級ヘッドホンにふさわしい。音圧レベル(出力)も十分で、一般的な使用において必要な大音量に対応しているのだが、この点に関しては若干の注意が必要だ。

 本機には本体左側面に音量調節スイッチとミュートスイッチが用意されている。この音量調節スイッチは多くの場合メインボリュームに連動しており、WAVEやソフトウェアシンセサイザなど、個別のボリュームはWindowsデスクトップ上のソフトウェアミキサーで調整しなければならない。

 また、本製品をUSBポートに接続すると、PCのオーディオデバイス設定は本製品が優先され、PCが内蔵するサウンド機能(サウンドカード、オンボードサウンド)が一時的に無効になる。たとえばTVチューナカードの音声出力をサウンドカードのライン入力に接続しているような場合、急にTVの音が聞こえなくなったり、ヘッドホンからTVの音声が聞こえなくてもそれは故障ではない。また、ソフトウェアシンセサイザの音色が変わる場合もあるが、これもサウンド機能で本製品が優先された結果、生じることだ。

 さて、ヘッドホンでは音質同様に、あるいは音質以上に重要なのが装着感だ。この点についても本機は音質同様にナチュラルで、圧迫感がきわめて少ない。これは、利用者の頭の大きさや形状にあわせてサポートが可動する3Dウィングサポートが貢献しているようだ。

左側のイヤーパッド部に設けられた3つのスイッチ。ミュートおよび音量調節はPC側の設定と連動する 3Dウィングサポートは、利用者の頭の大きさや形状に合わせて動くことで、良好なフィット感をもたらす


●妥協したくないユーザーにオススメ

 というわけでこのATC-HA7USBは、実にまっとうに作られた、オーソドックスな高級ヘッドホンだ。ドルビーヘッドホンのような特別なフィーチャーもないが、最近はソフトウェアDVDプレイヤーの方でサポートしているから、必ずしもヘッドホンで対応する必要はないだろう。USB接続というと、PC専用の安物というイメージがなくはないが、本製品はそれを払拭するものだ。

 ただ、PCのみで利用可能なヘッドホンに25,000円を投じられるユーザーとなると、ある程度限られるのも事実だ。残念ながらサードパーティ製チップセットとの相性問題も多少存在する。筆者の手持ちの機器では、nForce2チップセットベースのPCで、ノイズの発生が見られた。

 小型のノートPCで音楽やDVD鑑賞を楽しんでおり、音質には妥協したくない、というユーザーには格好の製品だろう。


□オーディオテクニカのホームページ
http://www.audio-technica.co.jp/
□製品情報
http://www.audio-technica.co.jp/products/hp/pc/atc-ha7usb.html
□関連記事
【9月16日】オーディオテクニカ、USBデジタルヘッドフォンの新モデル(AV)
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20030916/autech.htm
【10月24日】高級志向のUSBヘッドフォンの実力は?
本体でボリュームコントロールが可能になったオーディオテクニカ 「ATC-HA7USB」(AV)
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20031024/dev045.htm

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(2003年10月30日)

[Text by 元麻布春男]


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