ソニーのバイオノートTRは、DVDーROM/CD-RWコンボドライブ、10.6型ワイド液晶、IEEE 802.11a/b準拠のデュアルバンド無線LANなどを内蔵しながら重量がわずか1.39kgという軽量さを実現した2スピンドルノートPCだ。 従来のC1シリーズと、SRシリーズの両方の特徴を合体させたとも言える本製品では、ソニーの2スピンドルノートPCの中で最も軽量の製品となる。本レポートでは、そうしたバイオノートTRの特徴を紹介し、その魅力に迫っていきたい。 なお、レビューには試作機を利用しており、実際の製品とは異なる可能性があることをお断りしておく。
バイオノートTRの特徴は、本体内部にDVD-ROM/CD-RWコンボドライブを内蔵している、いわゆる2スピンドル(円盤が回転するドライブが2つ内蔵されているという意味)のノートPCでありながら、1.39kgという軽量を実現しているところだろう。 例えば、ソニーの同じ2スピンドルのモバイルノートと言えば、バイオノート505やバイオノートZなどがあるが、それぞれ2kg弱、2kg強であることを考えると、とにかく“軽い”といえるだろう。内蔵されているドライブはソニーのCRX950Eで、CD-R書き込み最大8倍、CD-RW書き込み最大4倍、DVD-ROM読み出し最大8倍、CD-ROM読み出し最大24倍というスペックになっている。 今週発表された富士通の新LOOX Tシリーズや、先週発表された松下電器のLet'snote W2など、ここにきて1kg台という軽量な2スピンドルノートPCが立て続けにリリースされ、サブノートPCの市場においても2スピンドルという製品が新しいトレンドになりつつあり、バイオノートTRもそうしたトレンドを作る新ジャンルの製品だと言っていいだろう
バイオノートTRのもう1つの特徴は、ソニーが“クリアブラック液晶”と呼ぶ、輝度、コントラストを向上させた液晶が採用されていることだ。クリアブラック液晶とは、インバータやフィルタなどを改良することで、高輝度、高コントラスト、広視野角を実現した液晶のことを意味している。 NECや富士通ではスーパーファイン液晶、東芝ではクリアスーパービュー液晶などと呼んでいる、表面に低反射アンチリフレクション処理などを加えた液晶に近いもので、特にA4フルサイズやデスクトップリプレースメントのノートPCに多く採用されている。これらの液晶では、確かに高輝度、高コントラストなのだが、その分写り込みが気になるものが多い。クリアブラック液晶では、他の液晶に比べてやや写り込みが少ないというのが特徴だ。 上位機種のGRシリーズに採用されているクリアブラック液晶では、バックライトの蛍光灯を2本に増やすなどの改良が加えられているが、モバイル向けのTRのクリアブラック液晶では重量の問題などから蛍光灯を増やすことは行なわれず、フィルターなどの改良により光の透過度や視野角が改善され、高輝度、高コントラスト、広視野角が実現されている。 筆者の手元にあった簡易輝度計で計測してみたところ、バイオU1の最も明るい状態が157cd/平方m、日本IBMのThinkPad X31が128cd/平方mであったのに対して、バイオノートTRのもっとも明るい設定で207cd/平方mとなっており、確かにモバイルノートとしては高い輝度になっていることがわかる(なお、計測に利用したのは簡易輝度計のため、条件が同じ場合で相対的な違いをはかることは可能だが、絶対的な輝度を計測できるわけではないので、上記の数字はあくまで参考値である)。 こうした高輝度、高コントラストの液晶は、DVDの再生時などに威力を発揮する。従来の液晶では、DVD再生時に動画がややぼやけた印象になりがちだが、こうした高輝度、高コントラストの液晶では動画がくっきりと表示され、DVD再生時の表示品質は確実に向上しているのが確認できる。 また、バイオノートTRでは、スピーカーが液晶上部に内蔵されているため、オーディオも自然な感じで再生される。これらの液晶やオーディオなどにより、ポータブルDVDプレイヤー顔負けのDVD再生品質が実現できている点は評価していいだろう。 なお、液晶の解像度は1,280×768ドットのワイド液晶となっており、サイズは10.6型となっている。グラフィックスチップは、チップセットのIntel 855GMに内蔵されているIntel Extreme Graphics2が利用されており、メインメモリのうち8MBがビデオメモリとして起動時に確保され、動的に最大64MBまで利用することができるようになっている。
液晶ディスプレイの上部には、“MOTION EYE”と呼ばれるビデオカメラが用意されている。C1シリーズに採用されていた“MOTION EYE”と同じように、360度回転が可能で、自分撮りだけでなく、液晶の向こう側にいる人などを撮るという用途にも利用できる。 37万画素(有効画素数31万画素)のプログレッシブ方式CMOSセンサーが採用されており、画素数からもわかるようにデジタルカメラ的用途というよりは、Webカムのような用途を前提としたカメラだと言うことができる。 カメラを利用するには、液晶パネルの右側に用意されている“CAPTURE”ボタンを押すことで、Network Smart Captureが起動し、撮影できる状態になる。このMOTION EYE自体は、内部的にはUSBで接続されており、省電力設定ツールのPowerPanelを利用することで、バッテリ駆動時にはMOTION EYEの電源をオフにすることも可能だ。その場合でも、“CAPTURE”ボタンを押すことでMOTION EYEの電源を入れて利用可能にすることができる。
バイオノートTRは、モバイルPCとしてのスペックも十分ビジネス用途に耐えうるものだ。CPUはIntelの超低電圧版Pentium M 900MHzが採用されている。 チップセットはグラフィックス統合型のIntel 855GMで、メインメモリは標準では256MBとなっている。メインメモリは、マシンの底面に用意されているメモリソケットにメモリモジュールを装着する形で実装される。 ちなみに、メモリモジュールはDDR266を搭載したMicro DIMMになっており、標準で1スロットが利用済み。オプションで用意される512MBのMicro DIMMを利用して、最大で1GBまで増設することができる(その場合には標準の256MBモジューをは取り外す必要がある)。 ハードディスクは東芝の1.8インチドライブのMK3004GAH、容量は30GBとなっている。1.8インチのドライブを採用したからこそ、光学ドライブを入れても1.39kgという軽量を実現できたという言い方もできるが、容量という意味では2.5インチドライブを採用した製品に比べるとやや不利な点が残念だ。このあたりは、どちらを優先するかという議論になるが、HDDの容量を重視するユーザーにとっては30GBという容量はやや微妙なところだろう。 なお、OSは店頭で販売されるモデルはWindows XP Home Editionとなっているが、SonyStyleで販売されるモデルでは、Windows XP Professionalプレインストール版も用意される。Windows XP Professionalが必要なユーザーは、SonyStyleから購入するといいだろう。
本体右側面にはオーディオ入出力、PCカードスロット(Type2×1)、USB 2.0ポート、Ethernet、56kbpsモデムの各ポートが用意されている。 左側面にはマジックゲートおよびPRO対応のメモリースティックスロット、バイオ周辺機器専用DC出力端子付i-Linkポート(400Mbps)、USB 2.0ポート、外部VGAの各ポートが用意されている。 無線LANは、標準でIEEE 802.11aと11bに対応したデュアルバンド対応となっている。また、Bluetooth V1.1にも標準で対応しており、無線関係に関しては現時点で最高スペックと言ってよいものだろう。 なお、電波を切るスイッチは、本体のパームレストの左側に用意されており、無線LANとBluetoothの電波をワンタッチで切ることができる。こうしたモバイルPCは、電波を出してはいけないところで使うシーンも少なくないと考えられるので、電波がワンタッチで確実に切れるハードウェアスイッチを搭載していることは評価していいだろう。 キーボードは、6列配列の約17mmピッチのキーボードとなっている。ストロークは2mmが確保されている。実際に入力してみると、2mmというストロークの割には打鍵感があり、入力しやすいキーボードだ。ただ、そのままの角度だと、本体の厚みのため、机からキーボードまでの高さが割とあるので、やや入力しにくい。本体の下に何かを入れて本体をやや斜めにして入力すると快適に入力することができた。ポインティングデバイスはパッドタイプで、意図するところできっちりとポインターが止まる、使い勝手の良いものだ。
これはバイオノートTRに限ったことではないが、バイオシリーズにバンドルされているホームサーバーソフトウェアのVAIO Mediaがバージョン2.5へとバージョンアップされ、新しい機能が追加された。 その大きな目玉は、ブロードバンドで接続されているVAIO Mediaが動作するバイオに対して、内部のネットワークで一度認証されたVAIO Mediaのクライアントが外部からアクセスすることが可能になったことだ(ただし、そのためには、VAIO Mediaサーバーが動作するバイオが別途必要になる)。 この機能を利用すると、例えば出先のホットスポットから、録画済みのTV番組などを楽しむという使い方も可能だ(なお、現バージョンではライブTVの閲覧はできない)。 外部のネットワークからアクセスする場合には、サーバー側で384/216/96kbpsのMPEG-4ビデオに変換されてから送られるので、ホットスポットのように帯域が内部ネットワークほど十分でない場所でも十分実用になる。 また、バイオノートTRには、バイオU101にバンドルされているデスクトップPC上のマイドキュメントフォルダと同期するVAIO Synchronizerがバンドルされている。VAIO Synchronizerの機能自体はバイオU101に搭載されているものと同じなので、詳しくはバイオU101のレビュー記事を参照していただきたいが、バイオノートTRをサブノートPCとして使う場合には非常に便利なソフトウェアだ。
バイオノートTRのバッテリはリチウムイオンバッテリで、電流量が4.3Ah、電圧が11.1Vとなっているので、電力量は47.73Whとなっている。気になるバッテリ駆動時間だが、筆者が試作機を利用して行なったMobileMark2002のバッテリ駆動時間テストでは、313分=5時間13分=5.21時間のバッテリ駆動が可能であることを確認した。JEITA測定法1.0のカタログ公称値が5.5時間となっているので、妥当なところだろう。 バイオノートTRの省電力設定は、付属のPowerPanelを利用して行なう。PowerPanelを利用すると、すでに述べたようにバッテリ駆動時にMOTION EYEの電源をオフに設定できるほか、内蔵コンボドライブ、メモリースティックスロット、内蔵モデムなどの電源もオフにできるなど、より細かな省電力設定が可能だ。 なお、MobileMark2002、SYSmark2002などによる処理能力の結果はグラフ1、2の通りだ。Pentium M 1.30GHzを採用しているNECのLaVie Mにはもちろん及ばないが、超低電圧版モバイルCeleron 600A MHzを採用しているバイオU101に対しては、ほとんど上回っている。 ただし、一部にバイオU101とあまり変わらないスコアしかでていない部分もある。今回のレビューに利用したマシンは試作機であるためり、実際の製品が登場したあとで、再度評価したいところだ。
■ベンチマーク結果
以上のように、バイオノートTRは、HDD容量が30GBという点はやや気になるものの、超低電圧版Pentium M 900MHz、256MBメモリ(最大1GB)、コンボドライブ内蔵、5時間長のバッテリ駆動というスペックはビジネスモバイルとして利用するのに十分なものと言える。 加えて、バイオシリーズが得意とする、AV機能の充実という点も合わせて評価する必要があるだろう。DVDの高い再生品質やVAIO Mediaによりリモートでのホームサーバーへのアクセス機能などは、バイオシリーズならではの付加価値と言える。 こうしたことから、本製品はビジネスだけでなく、それ以外のパーソナルな用途にも合わせて利用できるような製品だと言うことができるだろう。従って、ビジネスに利用したり、あわせてAVなどのパーソナル用途でもモバイルPCとして使っていきたいという欲張りなユーザーにお奨めできる。 □関連記事 (2003年5月16日)
[Reported by 笠原一輝]
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