AMDは、同社のAthlon XPシリーズとしては最高峰となるAthlon XP 3200+を発表した。Athlon XP 3200+は、システムバスが400MHzに引き上げられ、実クロックも2.2GHzに達するなど、'99年に発表されたK7世代のCPUとしては最強の製品となる。本レポートでは、Athlon XP 3200+のエンジニアリングサンプルを利用して、そのパフォーマンスをチェックしていきたい。
今回発表されたAthlon XP 3200+は、従来製品のAthlon XP 3000+と基本的には同じBartonコアを採用している。このため、L1キャッシュは命令64KB+データ64KBの128KB、L2キャッシュは512KBとなっており、ステッピングも変わっていない。クロック周波数の上昇率もわずかで、従来のAthlon XP 3000+が2.167GHzになっていたのに対して、Athlon XP 3200+は2.2GHzとなっており、クロック周波数上昇分は30MHzにすぎない。 しかし、CPUとチップセットを接続するシステムバス(ないしはFSB=Front Side Bus)のクロック周波数は引き上げられており、実クロックで200MHz、データレートで400MHzとなっており、この点で大きな性能向上が期待できる。 特に、DDR400、つまり400MHzのDDR SDRAMを搭載したメモリモジュールであるPC3200と組み合わせて利用すれば、大きな効果が得られる。この場合、システムバスとメモリは同期して動作することになるので、最も性能が発揮しやすい環境にあると言える。 また、システムバスの帯域幅は3.2GHzだが、PC3200は1チャネルで利用しても3.2GHz、nForce2のデュアルチャネルメモリ環境で利用すると6.4GHzとなり、システムバスとメモリの帯域幅はマッチするか、ないしはメモリが上回る状態になり、CPUの持つ性能を最大限発揮できる。 もともとK7のアーキテクチャでは、システムバスは200MHz~400MHzとスケーラブルに設計されており、当初より400MHzは視野に入っていた。登場当初は200MHz、2000年に266MHz、2002年に333MHz、2003年に400MHzと進化してきたことになる。 なお、今回登場したAthlon XP 3200+は、K7アーキテクチャの製品としては今後も最高性能の製品であり続ける可能性が高い。現在のAMDのロードマップでは、第3四半期の終わり、つまり9月に3200+を超える3400+という製品をリリースすることになっているが、これはAthlon 64となり、Hammerアーキテクチャの製品となるからだ。
なお、CPUのシステムバスが400MHzに引き上げられたことで、チップセット側も400MHzに引き上げる必要がある。 NVIDIAは以前より400MHzに対応していることを明らかにしていたが、Athlon XP 3200+と同時に、nForce2 Ultra 400とnForce2 400という2つの製品が追加されている。これらは、いずれも400MHzのシステムバスをサポートしているほか、JEDEC仕様のDDR400にも正式に対応した、nForce2の新しいリビジョンとなっている。 ただし、これらは、新しいチップセットというよりは、nForce2の新しいリビジョンという扱いに近く、マザーボードベンダでも、新しいマザーボードではなく従来のnForce2マザーボードのリビジョンアップ版としてリリースするようだ。 なお、デュアルチャネルをサポートするハイエンドのnForce2 Ultra 400に対して、nForce2 400はメモリがシングルチャネルのみとなっており、マザーボード単体の価格が70ドル(日本円で約8,400円)程度の市場に対応することになる。 また、従来のnForce2マザーボードでも、BIOSのアップデートを行なうことで、400MHzのシステムバスを利用することができるようになる場合もあるようだ。ただし、それが公式な環境として稼働保証されるかはマザーボードベンダ側の判断によるようなので、各マザーボードベンダのWebサイトなどをチェックしてもらいたい。 このほか、VIA Technologies、SiSの両社ともCeBITにおいて、システムバス400MHzに対応したチップセットとしてKT600とSiS748を計画していることを明らかにしており、まもなくこれらのチップセットを搭載した製品がマザーボードベンダからリリースされることになるだろう。
それでは、実際にベンチマークプログラムを利用してAthlon XP 3200+の処理能力をチェックしていこう。Athlon XP 3000+の回で説明したように、本コーナーでは定点観測の意味を込めて、CPUのレビューに利用する環境とベンチマークをある程度固定している。 今回も、Athlon XP 3000+の回で説明した、ビデオカードにATIのRADEON 9700 PRO(128MB)、HDDにIBM IC35L040AVVN07-0、メモリは512MB(メモリの種類はそれぞれのプラットフォームで最適なものを利用する)とし、OSにはWindows XP Professional(ServicePack1+DirectX 9適用済み、英語版)という環境を利用している。 今後も基本的にはこの環境を利用していくので、Athlon XP 3000+以降に関しては、それぞれの結果が比較可能になっている。 ただし、ベンチマークに関しては今回若干の入れ替えを行なった。それは、DirectX 9に対応した3DMark03がリリースされたのでそれを追加し、Quake III Arenaをベンチマークからはずした。これはQuake IIIの結果が最新のCPUでは300フレームを超えるようになってきているので、あまり比較の意味がないと判断したためだ。OpenGLのベンチマークがなくなってしまったが、DOOM3などがリリースされれば、それを追加して加えていきたい。 なお、今回の環境には、Athlon XPがA7N8X(nForce2搭載)、Pentium 4がIntel 875Pを利用し、いずれの環境でもPC3200(2.5-3-3)をデュアルチャネルで利用している。そういった意味では、違いは純粋にCPUとチップセットの差であるということができるだろう。テスト環境は表1の通りで、結果はグラフ1~11の通りだ。 【テスト環境】
■ベンチマーク結果
オフィスアプリケーションの性能は、SYSmark2002のOffice ProductivityとBusiness Winstone 2002 1.0.1を利用してチェックした。 Athlon XP 3200+は、SYSmark2002のOffice ProductivityではPentium 4 3GHzに若干劣ったものの、Business Winstone 2002に関してはPentium 4 3GHzを大きく上回った。こうしたことから、オフィスアプリケーションにおける性能においては、Athlon XP 3200+がPentium 4 3GHzを上回っていると考えていいだろう。
SYSmark2002 Internet Contents Creationに関してはHTテクノロジに対応したPentium 4が若干優位という結果になった。Multimedia Contents Creation Winstone 2003に関してはAthlon XP 3200+が動かなかったので直接比較はできないが、全体的にPentium 4が優勢な結果がでている。特に、マルチスレッドに対応しているアプリケーションでは、HTテクノロジの効果がでていることがわかる。 Photoshop、TMPGEncのエンコード時間ともに、HTテクノロジが有効でない場合には、Athlon XPが優勢なスコアを出しているが、HTテクノロジが有効である場合には、Pentium 4がよいスコアを出している。これらのテストはHTテクノロジの有益性が最も出やすい部分といえる。
3Dベンチマーク性能では、グラフ10とグラフ11のbotmatchに関してはAthlon XP 3200+が上回っているが、グラフ7、8、9とグラフ11のflybyに関してはPentium 4 3GHzがAthlon XP 3200+を上回っている。ただ、Final Fantasyを除き、どの結果もほぼ互角といえるような結果であり、どちらのCPUを利用しても差はあまり大きくないということができるだろう。 グラフ11の結果をbotmatch、flybyの2つと数えると、今回は全部で12個のベンチマーク結果があることになる。うち2つは結果がないものがあるので除くとすると、合計10個の結果ということになる。そのなかでAthlon XP 3200+は、システムバス533MHzのPentium 4 3.06GHzに対しては6つの結果で上回り、4つの結果で下回っている。システムバスが800MHzになるPentium 4 3GHzに対しては、逆に3つの結果でしか上回れず、7つの結果で下回っている結果となった。
以上のように、Athlon XP 3200+は、Pentium 4 3.06GHzとの比較であれば、やや優勢といういうことができるが、システムバス800MHzのPentium 4 3GHzと比較すると、上回るとは言えない、というのが性能面でのポジションだとと言うのが妥当だろう。 また、Intelは第2四半期の終わりに、Pentium 4 3.20GHzをリリースするとOEMベンダに説明しており、そちらがリリースされれば性能差はさらに広がる可能性が高い。今回の結果から言えるのは、HTテクノロジ、800MHzのシステムバス、デュアルチャネルDDR400という3つの武器で武装したPentium 4はかなり強敵ということだ。AMDが本格的に反撃をするには、9月にリリースされるAthlon 64を待たなければならないだろう。 そうした意味では、AMDが発表したAthlon XP 3200+の464ドル(1ドル=120円換算で、55,680円)という価格はかなり微妙な設定ではないだろうか。今日時点でのIntelのPentium 4 3.06GHzの価格は401ドル(同48,120円)、Pentium 4 3GHzは417ドル(同50,040円)となっており、性能面ではやや優勢なPentium 4 3GHzを上回る価格設定になっている。 これまでAMDのCPUは、価格性能比がIntelに比べて圧倒的に優れているため、ユーザーに支持されてきたという歴史がある。だが、今回のAthlon XP 3200+を見る限り、残念ながら価格性能比で、Intelの製品よりも優れているとは言い難いのではないだろうか。この連載でも繰り返しているが、IntelもAMDという競争相手がいればこそ、アグレッシブなロードマップを展開するわけだし、従来よりも早いペースでの価格の下落を行なってきたのだ。そういう意味では、エンドユーザーとしては、AMDには早期に価格を見直してもらい、価格性能比でIntelの同クラスのCPUを上回ることを期待したいところだ。 なお、従来のAthlon XPユーザーが、このAthlon XP 3200+に乗り換える意味があるかどうかも、微妙なところだろう。なぜならば、現在Athlon XPを所有しているユーザーのマザーボードのほとんどは、システムバス400MHzに対応していないと推測されるからだ。Athlon 64という次世代が数カ月先に見えている今、マザーボードを買い換えてまで乗り換える意義は大きくないと言わざるを得ないだろう。初代Athlonなどのユーザーであれば検討の余地はあるが、将来のアップグレードパスは期待できない。 ただ、nForce2などが持つ、デジタルオーディオ機能やデュアルEthernetなどの充実した機能を評価してnForce2へ乗り換えたいというユーザーであれば、Athlon XPの最高性能CPUである3200+を検討する意味は十分にあると思う。そうしたユーザーであれば、新しいnForce2 Ultra 400を搭載したマザーボードとセットで乗り換えるということを検討してみるといいだろう。 □バックナンバー(2003年5月13日)
[Reported by 笠原一輝]
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