大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

業界が需要を期待するIT投資促進税制
~30万円未満の損金処理制度と併せ中小企業にも恩恵



●すでに始まっているIT投資促進税制

 政府は、IT投資促進税制を創設する。

 いや、正確にいえば、まだ創設されていないのだが、すでに実施段階に入っているという、わけのわからない表現が正しい。

 平成15年度税制改正の目玉のひとつとして、通常国会での審議が予定されているIT投資促進税制は、まだ創設された段階ではない。だが、実施年度は、平成15年1月1日から平成18年3月31日までと、すでに実施期間対象のなかに入っている。年度始まりを待たずに、3か月前倒しで実施期間が設定されているのは、企業需要の最大の商戦期である3月の期末需要における買い控えを、極力避けるための措置ともいえる。

 「単純に言って、企業や個人事業主が、パソコンを1割安く購入できる制度だと思ってもらってもいい」(経済産業省)とさえいわれる、今回のIT投資促進税制とはいったいどんなものなのか?

●期待を集める業界関係者

大塚商会のパンフレット
 まず、本題に触れる前に、業界側の反応を見てみよう。

 パソコンメーカーなどが参加する業界団体の電子情報技術産業協会(JEITA)では、「IT投資促進税制は、2003年度のパソコン需要拡大の目玉のひとつ」(パソコン事業委員会 篠崎雅継委員長)と位置づける。

 「約6,000億円といわれる減税規模のうち、約2割がパソコン本体の対象になると換算して、年間50~100万台程度の上乗せが期待できる。256MBのメモリの搭載機種が対象となるため、単価の上昇にも影響するだろう。JEITAとしても税制措置をわかりやすく解説したパンフレットを作成して、減税措置の利用を促したい」(同)としている。

 一方、ソフトメーカーなどが加盟する日本パーソナルコンピュータソフトウェア協会(JPSA)でも、「今回の減税では、初めてソフトウェアが対象となった点が大きな意味がある。ソフトメーカーにも大きなビジネスチャンスが広がる」(川島正夫会長)と話す。

 個人事業者が多い、クリエイター向けの製品を投入しているアドビシステムズでも、「当社にとっても大きなインパクトを持った制度であり、個人事業者などの需要拡大に直結する」と期待を寄せる。

 もちろん、販売会社の期待も大きい。大塚商会では、「黒字決算となっている強い会社が、IT投資によって、より強くなる制度がIT投資促進税制だといえる。まだ影響力は読みづらいが、2003年の当社売り上げへの貢献は少なくない」(大塚裕司社長)と話す。すでに、ユーザー向けのパンフレットを作成し、同社が主要ターゲットとする中小企業向けにこの配布を開始したところだ。「12月時点での導入を先送りにして、1月にシフトした例も出ているほど。早期に制度化してもらいたい」と話す。また、同社の場合、今年2月19日に新社屋への本社移転を控えており、「IT機器を新たに導入する立場としても、この制度を活用したい」(大塚社長)と、別な立場からも制度に対して期待している。

 だが、税制に関しては、まだ国会審議を通過していない段階であることから、業界団体や一部企業を除くと、同制度を活用した提案などが行なわれていないのも事実。業界として、いち早く制度を活用した提案を行なうことが、低迷するパソコン需要を、早期に喚起することにつながるとの声も関係者の間からはあがっている。

 経済産業省では、IT投資促進税制の経済的効果として、名目GDP換算で年間0.15%(7,400億円)程度の短期景気浮揚効果とともに、最新技術を具体化するIT投資の蓄積によって、企業の新分野への進出、新商品の開発促進などの競争力が強化されると判断、中期的にもGDPが増加すると判断している。「IT投資は、一般の設備投資や公共投資に比べて、需要を喚起する効果が大きい。現在の日本のIT投資の現況は、'80年代~'90年代初頭の米国の状況に類似しており、米国では'90~'92年の普及からの回復過程で、IT投資が非IT投資に先駆けて増加したことで景気回復の牽引役を果たした。IT投資を後押しする税制によつて、日本でも同様の効果が見込める」(経済産業省)として、今回の税制効果が景気回復に果たす役割は大きいと見ている。

●ソフトウェアや周辺機器も対象

 さて、具体的な中身について見てみよう。

 IT投資促進税制は、簡単にいえば、「すべての企業が自社利用するITへの投資に対して、10%の税額控除と、取得資産の50%の特別償却の選択を認める制度」ということになる。また、特例として、「資本金3億円以下の企業に関しては、税額控除の対象にリース総額の60%を含めることができる」というものだ。


 対象となるものは、パソコン、ワークステーション、サーバー、メインフレームなどの電子計算機(コンピュータ)やデジタル複写機、FAX、ICカード利用設備、デジタル放送受信設備、インターネット電話設備、ルーター/スイッチ、デジタル回線接続装置といったハードウェアに加えて、ソフトウェアも対象になっている。

 パソコンに関しては、同時に設置する付属の入出力装置や補助記憶装置などに関しても認められている。例えば、パソコンと一緒に購入するプリンターなども減税対象となる。

 そして、インターネット電話設備が含まれているように、今年は普及元年といわれているIP電話に関しても減税対象となっており、IP電話普及を強力に後押しする可能性がある。

 IT投資促進税制の税額控除制度では、当期に支払うべき法人税額から一定割合を控除する。100万円の機器を購入すれば、取得価額の10%となる10万円が控除されることになる。また、リースの場合は、リース総額の60%に10%を掛けた金額が控除額ということになる。

 特別償却制度は、対象となる設備などを、最初の年度において、その資産の取得価額の一定割合を普通償却に加算して償却できる制度だ。1,000万円の取得価額の場合、耐用年数4年で、定率法で0.438の場合の初年度償却額は、普通償却の場合438万円となる。これが特別償却制度を利用することで、取得価額の50%の500万円を上乗せできることになり、合計938万円が償却費になる。

 だが、中小企業の場合は、減税案で盛り込まれた中小企業・ベンチャー企業支援制度で、「少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例制度」を設けたことで、特別償却制度とどちらが効果があるのかを推し量る必要がある。同制度では、中小企業などが、平成15年4月1日から平成18年3月31日までの間に取得価額30万円未満の減価償却資産を取得した場合には、取得価額の全額を損金算入を認めることになった。つまり、30万円以下のものを次々と購入しても、IT投資促進税制を活用しないで済む。支援制度の方を利用することですべてを資産計上をせずに、損金処理することが可能というわけだ。昨年までは損金算入の上限は10万円以下だったので、今回の改定はパソコンを購入しようという個人事業主などには福音だろう。

 ところで、IT投資促進税制では、パソコンひとつを例にとっても、すべてのパソコンが減税の対象になっているわけではない。

 パソコンの場合は、処理語長32bit以上(つまり、32bitパソコン)であること、かつメモリで265MB以上であることが条件だ。「高度なIT機器への投資を前提とする」ことが今回の税制措置の根底にあるために、256MBが要件として含まれた模様だ。

 現行モデルではパソコンのメインメモリはほとんど256MBとなってきたが、一部パソコンでは依然として128MBの場合もある。例えば、eMachinesの低価格モデルの場合は、128MBメモリが標準だが、減税対象とするためには、購入時点で256MBへとアップグレードしておく必要がある。

 一方、サーバーに関しては、なぜか128MBのメモリで大丈夫。この点は、パソコン産業の分野から見れば、不思議といえば不思議な判断だといえる。

●グレーゾーンの広い制度

 だが、今回の制度では、いくつかのグレーな点があるのも事実だ。

 パソコンと複数台のプリンタを購入した際には、プリンタは複数台とも減税対象となるのか、といった問題もある。基本的な考え方は、1単位という考え方なのだが、場合によっては、複数台のプリンタを使い分けで業務を行なう場合もあるだろう。また、ネットワークという点で見れば、すべて1単位としてつながっているという判断ができなくもない。

 逆に、複数台のパソコンにプリンタが一台接続している場合は、そのプリンタは、どのタイミングで購入したパソコンと一単位と認められるのか、といった見方もグレーな部分だ。

 また、こんなケースもある。現在の創設案のなかでは、同時に取得した付属機器が対象となっているため、周辺機器メーカーが発売する後付周辺機器は減税対象とはならないという見方ができる。

 「周辺機器のアフターマーケットは、きわめて大きな市場。これを対象外にしておいては、需要創出につながらないとう議論もある」(JPSA税務小委員会・根岸邦彦委員長=根岸会計事務所所長)との声もある。このあたりまで税制対象に含まれてくると、制度の理由価値は高まってくるのは明らかだ。

 「事務用机や会議用机の場合は、机と椅子は別単位と見なされるが、応接セットでは、テーブルとソファが1単位と認められている。今回のIT投資促進税制では、ここまで明確になっていないので、あとは税務署とのやりとりで決まることになるだろう」と根岸委員長は話す。

 一方、減税措置として今回初めて対象となったソフトウェアでもグレーゾーンがある。

 ソフトに関しては、新品であれば、複写して販売する原本や開発研究用のものを除けば、自社利用の無形固定資産として計上されるものはほとんど対象となる。市販パッケージソフトなどの多くはその対象となるだろう。自社開発したソフトも原価計算して資産計上すれば対象となる(これは基本的には義務づけられているのだが)。

 グレーゾーンとなるのは、インターネットやケータイ用のウェブサイト構築費やデータベース構築費などだ。今回の税制では、プログラムとマニュアルなどのドキュメント類は、減税対象となるが、コンテンツ部分は減税対象とはならない。ただ、Web構築技術の進化に伴って、サイト自体にプログラムとしての要素をもつと判断できるものも出てきた。つまり、サイトもプログラムとして認められる要素も出てきたというわけだ。このあたりも、税務署との丁々発止の必要があるグレーゾーンといえる。

 ある関係者は、「むしろグレーゾーンが多い方が、減税対象と認められるケースが多くなるのではないか。現在、グレーゾーンとなっている部分まで細かく決められると、ほとんどのものが認められないということになりかねない」とし、IT投資促進税制のグレーゾーンの幅が広いことを、むしろ歓迎する声も出ているのだが……。

●制度を受けるためのハードル

 今回の税制の適用には、最低限の一定価額をクリアする必要がある。

 当該事業年度において、資本金3億円を超える企業の場合には、ハードウェアで600万円、ソフトで600万円。資本金3億円以下の企業では、ハードで140万円(リースの場合200万円)、ソフトで70万円(同100万円)の購入が減税の対象となっている。

 例えば、30万円のパソコンを3台購入し、100万円のファクシミリを購入した場合には、ハード合計が190万円となり、19万円の控除が受けられる。だが、ハードのリース金額が120万円だった場合には、今回の税制による控除は認められない。購入とリースは、それぞれ別々に計算されることになる。また、ソフトに関しても、ハードとは別途に計算され、事業年度内に70万円のソフトを購入すれば、ハードとは別途に7万円の控除を受けられる。

 これによって、ハード購入で19万円、ハードリースは0円、ソフト購入で7万円の合計26万円の控除となる。だが、この際に、同年度の法人税額が100万円だった場合、法人税額の20%が上限となるため、実際には20万円の控除しか受けられない。ただし、超えた6万円分の控除は次年度に繰り越すことができるというわけだ。

 税務の専門家から見れば、今回の税制では、資本金3億円で線を引いた点が大きな変更点だという。

 「通常ならば、資本金1億円で線が引かれる例が多い。だが、今回は3億円まで引き上げたことで、3億円までの企業においての税制が優遇されたと判断することもできる」という。

 そして、もうひとつは、創設を前に、今年1月1日から3月31日までも対象期間としたことだ。これも先に触れたように、3月末までの買い控えを防ぐことが狙いだ。

 だが、ここでも注意しなければならないことがある。

 3月31日決算の企業の場合、この3カ月間に購入あるいはリースしたIT機器が対象になるという点であり、その間に、資本金3億円を超える企業の場合には、ハードウェアで600万円、ソフトで600万円、資本金3億円以下の企業では、ハードで140万円(リースの場合200万円)、ソフトで70万円(同100万円)以上の機器購入が必要になるという点だ。つまり、規模の大きな企業、あるいは移転や大幅な人員増加で、大幅なIT投資が必要な企業以外は、あまり恩恵にあずかれないともいえる。

 いずれにしろ、今回のIT投資促進税制は、過去に例がない大規模のものといえるが、企業によっては、「中小企業・ベンチャー企業支援制度」を利用した方がいい場合もあるし、グレーゾーンが多いだけに、制度をしっかり理解しないと、あとで痛い目にあう可能性もある。とくに、グレーゾーンといえる部分に関しては、税理士、会計士としっかり相談しておくことが大切だということを付け加えておきたい。

□財務省の関連ページ
http://www.mof.go.jp/genan15/zei001e.htm#betu1
□関連記事
【2002年12月16日】総務省、IT投資減税を実施 ~期間は2003年1月から3年間
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/1216/soumu.htm
【1月23日】JEITA、2002年国内パソコン出荷実績を発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0123/jeita.htm

バックナンバー

(2003年2月10日)

[Text by 大河原克行]


【PC Watchホームページ】


PC Watch編集部 pc-watch-info@impress.co.jp 個別にご回答することはいたしかねます。

Copyright (c) 2003 Impress Corporation All rights reserved.