大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

NECのサプライチェーンに見る「決戦は火曜日」



 パソコンメーカー各社が、頻繁にSCM(サプライ・チェーン・マネジメント)という言葉を使っている。パソコンの需要予測、部品調達、生産、物流、販売までを一貫したシステムとして管理するSCMは、いわばパソコン事業の効率的な事業展開と、収益性を高めると同時に、事業を司る生命線ともいえるものだ。では、SCMとは具体的にどんなものなのか。NECの例から実態を見てみる。

 NECのSCMは、社内では「VCM(Value Chain Management)」と呼ばれる。同社が掲げる「顧客視点での価値創造」をベースとした考え方をサプライチェーンも取り込もうという意図の表れだ。

昨年秋に公開されたNECの製品力強化施策。右がSCMの改善

 仕組みはこうだ。パソコンが最も売れるのはやはり土日。土曜日、日曜日までの販売結果を含めた1週間の販売情報が月曜日に収集され、顧客の購入動向などを分析する。1週間単位で情報を収集することで、微妙な売れ筋機種の変化や、競合他社の製品投入や実売価格の変動による影響なども反映する形になる。

 同時に、販売店の倉庫や店頭にある在庫情報なども収集され、これによって、流通在庫と呼ばれる一般には見えにくい在庫の状況も確認できる。流通在庫が大量にあるのに、追加で生産していては、流通在庫がそのまま不良在庫となり、事業の収益悪化につながるため、この情報は極めて有用である。

 こうした販売店の実売、在庫情報は、PC-SISという同社が従来から運用していたシステムによって収集されるが、VCMでは、この収集した情報をいかに生きた情報として活用するか、という点に力を注いでいる。収集された情報は、需要予測、出荷立案計画という形で利用される。これらの作業が火曜日の午前中に行なわれる。

 需要予測については、i2テクノロジーズのDemand Plannerを活用。製品階層別、チャネル階層別に自動予測を行なう仕組みとなっている。予測パラメータは、23種類に分けられ、様々な要因を予測に反映できるが、最終的には、熟練した人材による調整も行なわれる。

 需要予測とともに、発注計画が立案されるが、ここでは部材調達と工場の生産能力を加味した形でデータが導き出される。もともと、部品メーカーなどに対しては、8~24週間先の先行き予測を提示しているが、これをさらに直近の1週間単位で、最終的な発注計画へと仕上げる。

 現在、NECでは、中国の生産拠点と、国内のNECカスタムテクニカ米沢事業場の2カ所でパソコンを生産している。厳密にいえば、米沢事業場には、外部施設を利用した第2工場があり、生産拠点は全部で3か所ということになる。

NEC米沢事業所と製造ライン

 発注計画では、瞬時に各生産拠点の部品の調達能力、生産能力が割り出され、生産予定量が割り振られる。仮に1000台のパソコンの需要があった場合、中国で700台、国内で300台と生産能力にあわせて自動的に分散。国内ではさらにカスタムテクニカと第2工場に分割され、同時に部品が200台分しかない場合も、それがすぐに計画に反映されるという仕組みだ。

 部品の調達に関しては、GNPSと呼ばれるグローバル調達システムが各サプライヤーと結ばれ、部品の調達計画として提示される。生産現場においては、隣接するパーツセンターに、部品メーカーが所有する在庫の形で、部品が置かれており、一日8回の割合でNECの工場へ部品が納入される。必要なときに、必要な量の部品を調達するというジャスト・イン・タイム型の手法を採用しており、生産直前まで、NECの在庫にはならないという仕組みだ。これも同社の収益力の向上に大きく寄与している。

 発注計画が立案されると、販売店に対する供給計画の立案が行なわれる。ここでは、i2テクノロジーズのSupply Chain Plannerが活用されている。販売店の販売実績、過去の販売動向、季節的な変動要因なども加味して計画が立案され、供給回答、供給提案という形で販売店に提示されることになる。この計画が提示されるのが水曜日になる。この計画を受けて、各生産拠点での生産および出荷に移行するというわけだ。

NECのPC事業体制 製品の物流体制

 生産された製品は、NECが構築している幹線ネットワーク便を活用して全国へと配送。米沢事業場で生産されたパソコンの場合、最寄りの幹線中継拠点である郡山の拠点に持ち込まれ、一日24便の幹線物流ルートによって、東京などの主要都市に配送されるのだ。

 こうした一連の仕組みは、昨年11月に完成しており、短期間に精度の高い生産/供給計画を立案し、同社の収益改善にも大きな影響を及ぼしている。

 NECのVCMでは、従来に比べて、計画段階で約1週間の期間短縮を実現している。なかでも、火曜日の午前という時間帯が極めて重要な時間となっている。情報収集から発注計画立案という一連の作業をこの時間内に終えるからだ。

 富士通の場合も、同様に水曜日の午前中がやはり重要な時間帯となっている。午前8時30分から南多摩工場で開催される約2時間の早朝会議で、最終的に生産計画が立案されるからだ。

 ところで2月11日は、NECがVCMを稼働させてから初めて火曜日の祝日を迎える。さらに、今年のカレンダーを見るとわかるのだが、火曜日の祝日が4月29日、9月23日、12月23日と2月をあわせて4回もある。昨年が1月1日だけであったことを考えると、火曜日の祝日が多い1年なのだ。火曜日午前という時間帯が極めて重要な意味をもつだけに、NECにとって火曜日の祝日対策は頭が痛い問題かもしれない。

 だが、同社の幹部は次のように話す。「販売店の方々は、土日や祝日にお店をあけて売っていただいている。しかも、年中無休という販売店も多い。これだけ努力していただいているにも関わらず、メーカー側が祝日だからといって、休むということが許されるのだろうか。祝日返上の気持ちが必要ではないか」。

 果たして、2月11日。NECの担当部門は、休日出勤なのか?

□i2テクノロジーのニュースリリース
http://www.i2j.co.jp/press/p221203.html
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(2003年2月7日)

[Text by 大河原克行]


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