■Watchシリーズは手ブレ補正機構フェチの巣窟
PC Watchと僚誌のWeb媒体記者は、手ブレ補正機構を搭載した高倍率光学ズーム付きデジタルカメラが大好きだ。Watchシリーズ編集部が入るこのフロアには、オリンパス「CAMEDIA E-100RS」がゴロゴロしているし、筆者はE-100RSの前にキヤノン「PowerShotPro 90 IS」という珍機をしばらく使っていた。弊誌編集長はSONY「マビカ MVC-CD1000」という国宝級珍機を、なんと今だに使っている(使用頻度はさすがに落ちたそうだ)し、AV WatchのFデスクは私物のニコン D100+AF VR Zoom Nikkor ED 80~400mm F4.5~5.6Dを陶然と撫でている(いや、ちゃんと仕事に使ってます)。ビデオカメラだが、ケータイWatch編集部にはソニー「DCR-TRV900」なんてのもある。 ことほどかように手ブレ補正機構が氾濫しているのは、たまたま手ブレ補正フェチがこのフロアに集まってしまったから、ではない。万年金欠病のWatchシリーズ編集部では、記者がカメラマンを兼ねなければならない。発表会やインタビューでは、話を聞きながら撮影もする。例えば暗い発表会場でメモをとっている最中に、いきなりステージの向こう端に初公開の製品が現れた、なんてことはよくある。 こんなときは高倍率レンズで製品を追っかけるわけだが、ただでさえ高倍率なうえに、会場が暗いからシャッタースピードが落ちて手ブレしやすい。取材をしながらちゃんと姿勢を整えたり、三脚を設置するような余裕はないので、いきおい手ブレ補正機構に頼らざるを得ない。そんなわけでWatchシリーズ編集部には手ブレ補正ユーザーが多い。 弊社内だけではない。取材現場では、同業と思しき方々が、キヤノンのIS搭載レンズを付けたEOS D30やD60、あるいはオリンパス「C-2100 Ultra Zoom」を使う姿をよく見かける。 ■史上最も“民主的な価格”の手ブレ補正機構付きデジカメ さて、E-100RSやC-2100亡き後、市場の手ブレ補正機構搭載製品は一眼レフ用交換レンズやビデオカメラにしかない、という状態がしばらく続いた。そんなところに突然出現したのが、今回取り上げる「DMC-FZ1」だ(ここでは編集部内での呼び名「FZ1」を使うことにしよう)。
FZ1の衝撃的なところは光学12倍ズームレンズに手ブレ補正機構を載せているにもかかわらず、実売価格が6万円を切るという大バーゲンプライスだ。弊誌編集部が新宿のカメラ量販店で購入した際には、20%ものポイント還元が付いたうえに、さらに2,000円値引きされた。実質48,000円強である。E-100RSの標準価格が160,000円、実売価格が128,000円、モデル末期の在庫一掃大幅値引期間という特殊な状況下でやっと49,800円。これと比較すれば、FZ1がいかにお買い得か実感できる。大げさに言えば、FZ1は「手ブレ補正機構を大衆に解放してくれた革命的デジカメ」なのだ。 FZ1のインパクトは業界内で波紋を呼び、いくつもの記事を生んだ(その中には「出荷延期」なんてのもあったが)。弊誌「プロカメラマン山田久美夫のデジタルカメラレポート」にはベータ機ではあるが実写画像が、僚誌ケータイWatchにはスタパ齋藤氏とゼロ・ハリ氏によるレビューが掲載されたので、こちらもあわせてご参照いただければ幸い。 ■オヤジが持っても恥ずかしくない外観 FZ1を手にとると、誰もがその軽さに驚く。実際バッテリ込みで350gと軽い(E-100RSはバッテリを抜いても575g)のだが、見た目が軽そうに見えないから余計に驚くのだ。ボディの素材は樹脂製だが、巧みな塗装や表面処理のおかげで樹脂にありがちな安っぽさが払拭されている。ドイツの工業製品を思わせる重厚なデザインも、質感向上に寄与しているだろう。 電源オンでレンズがせり出した状態で約114×約83.3×約70.3(幅×奥行×高さ)mmと、本体寸法はコンパクトだ。レンズ部分を除けば200万画素クラスのコンパクトデジタルカメラ並みなのだが、貧相には見えない。 小さくて軽いと、それだけで高級感が減じそうなものだ。が、FZ1を見ているとそれが間違いだということがわかる。FZ1にとって小ささと軽さは、機動性を高めるための武器にほかならない。さすがにポケットに突っ込むのは難しいが、持ち歩きの負担にならないのはうれしい。 標準で添付される花形レンズフードを取り付ければ迫力倍増だが、無くても十分に鑑賞に耐える。30代半ばのオヤジである筆者が持つには恥ずかしい、ファンシー文具と見まごうデジタルカメラが氾濫する昨今、実にカメラらしく、工業製品の呼び名に値する魅力的なデザインだ。 ただし、ボディの作りに不満が無いわけではない。花形フードやフィルタは、繰り出した望遠レンズの外側を覆うようなフードを取り付け、その先に取り付けるのだが、このフードの取り付け取り外しがわずらわしい。結局付けっぱなしで持ち歩くことにしたが、これで電源オフ時の奥行が40mmばかり増えてしまった。
【お詫びと訂正】記事初出時、「花形フードを逆向きに固定できない」と記載しましたが、正しくは固定できます。お詫びして訂正させていただきます。 ■いろんなところが“民主的” FZ1の性能は、今どきのコンパクトクラスのデジタルカメラとしては「標準よりちょっと上」というところだ。長い望遠レンズを繰り出すにも関わらず、起動は速い。スリープ状態からの復帰はさらに速いから、電源を落とさず、スリープに入るまでの時間を短く設定しておき、撮りたいときにシャッター半押しで復帰させて使うと便利だ。ただし、スリープするとズーム倍率がワイド端にリセットされるため、場合によっては復帰したらまたズームしなおす必要がある。これを憶えていてくれるともっと便利なのだが。 ボディがコンパクトである以上、バッテリもコンパクトにならざるを得ない。薄いリチウムイオンバッテリを見て心配になるのだが、これは杞憂に終わった。上記のような使い方で、基本的に液晶ディスプレイを使い、手ブレ補正機構を動かし続け、ズームを動かしまくり、たまにフラッシュを焚いても、バッテリ1本で120枚は撮影できる。 原色フィルタを備える1/3.2インチの有効200万画素CCDと、新開発の処理エンジンがは、色がくっきりした絵作りをする。悪く言えば、筆者の基準からするとケバいのだが、誰にでもわかりやすい絵とも言える。値段だけでなく絵作りも“民主的”、というところか。
使い勝手はさらに“民主的”だ。FZ1には通常撮影用のモードのほか、マクロモード、ポートレートモード、スポーツモード、流し撮りモード、夜景ポートレートモードの5つのモードが用意され、それぞれの状況に最適な撮影パラメータが設定される。この他にFZ1での絵作りをコントロールする方法は露出補正(ブラケティングもできる)、ホワイトバランス選択、ISO感度、画質調整があるが、基本はモード選択だ。 モード選択ダイヤルに「ハートマーク」の見慣れないアイコンがある。何のためにあるのか、説明書を読むまで見当がつかなかったが、これは「かんたんモード」のアイコンで、このモードでは画面表示やメニューが簡潔なものに切り替わり、露出補正などのコントロールもできなくなる。露出とかホワイトバランスなんて面倒なことは考えたくない、カメラまかせで写真を撮りたい人のためのモードだ。 ちなみに説明書には、FZ1の操作方法だけでなく、撮影時の構え方やコツが絵入りでわかりやすく解説されている。これ1冊をちゃんと読んで実行すれば、カメラのことを何も知らない人でも、見栄えのする写真が撮れそうだ。説明書も徹底して“民主的”なのだ。 このほかFZ1では、4枚までの連写や、記録メディア(SDメモリーカードだ)の容量いっぱいまでの動画撮影が可能だ。 ■“民主的”すぎ?
モード撮影が基本のFZ1では、シャッタースピードや絞りをユーザーが設定できない。ピントを手動で合わせることもできない。「置きピン」をしたいときのために、レリーズボタン半押しではなく、フォーカスボタンを押すことでオートフォーカスを作動させるモードが用意されている。 FZ1がマニア向けの超高機能カメラでなく、カメラに詳しくないフツーの人のためのものである以上、この仕様は正しい。でもたまに、これが不満になることもある。暗いがフラッシュを焚けない状況などでは、強制的にシャッタースピードを速めたくなる。露出補正やISO感度選択でも対応できないことはないが、いちいちメニューを開いて操作しなければならないのは面倒だ。ガラスケース越しにモノを撮るときは、手動でピントを合わせたい。 ともあれ、FZ1の価格対性能比はたいへん高い。カメラまかせでも十分にきれいな写真が撮れるし、手ブレ補正と望遠を活かせば、背景をぼかした通っぽい写真だって撮れる。なんだかんだいいながら筆者だって、カメラまかせでバンバン撮りまくっているのだ。
□製品情報 (2002年12月19日) [Text by tanak-sh@impress.co.jp]
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