●契機はマルチメディア梅田の出店
今年夏に行なわれたPC系雑誌/Web 16誌主催の組立PC販売キャンペーン「あんしん かんたん はじめての組立PC応援フェア」への参加に続いて、11月29日から1月31日まで開催される「あんしん かんたん はじめての組立PC応援フェア Winter」にも参加、年末年始商戦における組立PCパーツ販売に弾みをつける考えだ。
ヨドバシカメラが組立PCパーツの販売に本格的に乗り出したのは、昨年11月の大阪・梅田への「ヨドバシカメラ マルチメディア梅田」出店がきっかけといえる。それまでは、一部店舗で売り場担当者が、独自にPCパーツの販売に取り組んでいたが、組織的な動き方をしていなかったこともあって、担当者が異動になると、そのまま店舗での取り扱いも縮小せざるを得ないという状況だった。
だが、ヨドバシカメラの本社サイドでは、PCパーツの取り扱いは、常に議論の対象となっていた。PCの普及率が6割近くに達したことで、ヨドバシカメラが得意とする「初めてPCを購入する層」の需要は、今後、頭打ちになるであろうとの懸念材料もあった。それを打開するために、初心者層から中級層に向けての新たな訴求方法はないだろうか、という点が繰り返し議論されていたのだ。その中で、PCパーツの取り扱いは、ひとつの回答だったといえる。 また、もう一点、同社の社内的な大きな動きもPCパーツ販売に乗り出すきっかけとなった。「ちょうど、昨年11月にマルチメディア梅田をオープンするという話が出ていた。大規模な店舗であることから、ここで試験的にPCパーツを扱ってみるのはどうか、という話になった。9月から具体的な準備を開始し、梅田の開店に間に合わせることにした」。 つまり、組立PCパーツ取り扱いの議論を繰り返していたものの、なかなか踏ん切りがつかない状態だった同社にとって、梅田出店という出来事が、まさに後ろから肩をポンと押された格好だったのだ。
●ヨドバシの狙う新たな需要層 梅田での組立PCパーツ売り場の設置が決まってから、伊藤氏を含む担当者は、連日のように秋葉原のパーツ専門店を訪ねて回った。展示している製品の内容、展示方法、客層、そして接客術まで、細かくパーツ専門店の様子を観察した。その結果、同社が導き出した回答は、「ヨドバシカメラが同じやり方をしても成功しない」というものだった。だが、この言葉を裏返せば、「ヨドバシカメラならではのやり方を持ち込めば、組立PCパーツにおいても、新たな需要層を開拓できる」ということになる。 事実、「秋葉原の店舗を回って、逆にやれそうだという自信が生まれた」と伊藤氏は話す。その自信は、当初予定していた梅田開店に合わせた組立PCパーツ売り場設置を前倒しにし、一足早く本拠地である新宿西口本店に設置したという点からも明らかだろう。 では、新たな需要層とは何か。それは、秋葉原のパーツ専門店に訪れるのが上級者、中級者であり、専門的な対応が中心となるのに対して、初めて組立PCに挑戦してみたいという人、あるいは、すでにPCを持っているが、そのPCの機能強化したい、というユーザーなどだ。ここにヨドバシカメラはターゲットを置いた。 それは、先に触れた、一度PCを購入したユーザーを次にどう取り込むかという、ヨドバシカメラの戦略とも合致するものだといっていいだろう。 伊藤氏はこう話す。「秋葉原のパーツ専門店の特徴は、上級者とは専門用語を使って会話するが、初級者が訪れると、あまり真剣に対応してもらえないという傾向がある。組立PCパーツを購入したいと考えている初級者ユーザーが入りにくい環境になっていると感じた」。 ヨドバシカメラは、組立PCパーツ分野においても、同社がナショナルブランド製品の展開で打ち出している「豊富な品揃え」や「高い接客技術」で勝負できる、と判断したのだ。 ヨドバシカメラでは、新宿西口本店、梅田での組立PCパーツの取扱開始に続いて、昨年中に、札幌、仙台、町田、錦糸町、八王子、川崎、上大岡、横浜、千葉というように矢継ぎ早に、各店で取り扱いを開始した。そして、今年2月には新潟にも売り場を開設、11月にオープンした博多でも組立PCパーツコーナーを設置した。
いずれも、ナショナルブランドのPC売り場とは場所を離している。新宿西口店では、PC本体売り場が1階、2階であるのに対して、PCパーツ売り場は4階。最新店舗である博多や、最大規模の売り場面積を誇る梅田でも、PC本体は1階、PCパーツは地下1階という構成だ。 「本体と組立PCパーツを購入するユーザー層の違いを考えて、売り場は遠く引き離した。PCパーツ売り場を明確にしたことで、各店舗とも予想以上の売れ行きを見せている。2月に開設した新潟では、近くにソフマップさんが出店しているという影響もあり、驚くような実績になっている」というほどだ。 「当初は、どんな製品を扱えばいいのか、何が売れ筋になるのか全く分からなかった。だが、2カ月もすれば、ある程度の傾向が見えてきた。マニア層には、不満な点もあるだろうが、当社が狙った顧客層に対しては、最近になって的確な品揃えができるようになったと自負している」。 その成功を支えているのが、同社が狙った初級者から中級者の支持を得始めたという点だ。「2台目のPCは自分で作ってみたいが相談する人がいない、あるいはどの組立パーツを買ったらいいか分からないという人。さらに、ナショナルブランドのPCを所有しているが、メモリを増設したい、HDDの容量を増やしたいという人たちも多く訪れている」。
●サポートを売りにしたキットの販売 こうしたユーザーに対して、ヨドバシカメラが次に取り組んだのが、キットによる展開だ。初級者、中級者が中心であるだけに、安心して購入できるキットの存在は欠かせない。当初は、星野金属をはじめとするベアボーンキットメーカーの製品を各種品揃えしていたが、これらに加えて、今年7月中旬には、オリジナルPCとしてベアボーンキットを2モデル用意した。同製品は、今年夏に行なわれた「あんしん かんたん はじめての組立PC応援フェア」のキャンペーンでも使われたものだ。 「法人がまとめて5台も購入していったり、50~60歳代のユーザーが作ってみたいと購入していく例などが見られた。プラモデル感覚で購入していくユーザーもいた」という。 組立PCでは複雑なパーツ構成や、パーツ同士の相性の問題、そして、保証の心配などがユーザーにはある。だが、ヨドバシカメラのオリジナルキットでは、1年間の製品保証をつけたほか、万が一問題が起こった際には、サポートセンターで対応すること、メモリを増やすなどの要求に対しても相談に乗れる体制を用意した。初級者、中級者が飛びついたのも無理はない。9月中旬には生産を終了したが、全てを完売した。 この成功を受けて、先頃、同社では、オリジナル組立PCの第2期モデルとして3製品を発売した。同製品は、夏と同様に「あんしん かんたん はじめての組立PC応援フェア Winter」のキャンペーン製品としても位置づけられる。 第1期モデルに比べて、マニュアルに多くの写真を採用するなど大幅なリニューアルを行ない、初級者でも分かりやすい内容としたほか、第1期モデルで対応していなかったDDRメモリへの対応などの機能強化を図り、拡張性も高めた。 上位モデルの「ヨドバシカメラCustomKit SAP IE/MM」は、基本仕様としてPentium 4 2.4B GHzを搭載、マザーボードにはIntelの「BOXD845EBG2L」を、メモリにはPC2100 512MB DDR、HDDは120GBを搭載。さらに、ATIのRADEON 8500DVをバンドルしている。価格は161,000円。 また、ビデオカードは選択できるモデルとなっている同「SAP IE」は13万円。下位モデルの「SAP IG」は、マザーボードにIntelの「BOXD845GBVL」を搭載して131,000円となっている。
●今後はホワイトボックスの取り扱いも視野に ヨドバシカメラにおける今後の組立PCパーツへの展開として、伊藤氏は次の3点をあげる。ひとつには、CustomKit製品群の拡充である。この点では、オリジナルキット製品の品揃えの強化を進める一方で、その発展系としてホワイトボックスによるオリジナルPCの完成品の提供も検討しているという。「具体的に決まったものではないので、まだお話できる段階にはないが、ホワイトボックスは検討材料にあがっていることは間違いない」と話す。金型を新規に起こすといったことも検討の範囲には含まれているようだ。 2つ目には、組立代行サービスをさらに積極的にアピールすることだ。同社では、秋葉原のパーツ専門店に比べて、破格ともいえる8,000円で組立代行サービスを用意している。「秋葉原を訪れるユーザーに比べて、組立の知識がなく不安だというユーザーが圧倒的に多い。組立サービス料金を安く設定することで、ユーザーへの敷居を下げることができる」。1万円を大きく割り込む料金設定は、ヨドバシカメラが最も力を注いだ部分だともいえる。 そして、3つ目には、安心して購入してもらえる環境作りだ。マニュアルの整備や、安定動作保証、そして販売員の教育という形で実現する考えだ。「全国の各店舗にPCパーツ販売のキーマンと呼べる人たちが散っている。こうした人たちを核にして、ヨドバシカメラならではの組立PCパーツ販売を推進したい」と語る。 ヨドバシカメラの組立PCパーツ販売は、まだまだ加速することになりそうだ。
□ヨドバシカメラのホームページ (2002年11月29日)
[Text by 大河原克行]
【PC Watchホームページ】
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