ヤマダ電機が、組立PCのパーツの販売に力を注いでいる。現在、全国110店舗での組立PCパーツの販売を展開、今後も、取り扱い店舗を拡大していく方針を明らかにしている。
今年8月29日から9月末までの約1カ月間に渡って行なわれた、PC系雑誌/Web 16誌主催の組立PC販売キャンペーン「あんしん かんたん はじめての組立PC応援フェア」にも参加、全国で200セット以上の組立PCの販売実績を記録した。メーカーブランドパソコンでは、国内最大の販売台数を誇るヤマダ電機が、なぜ組立PCパーツ事業、組立パソコン事業に力を注ぐのか。この1カ月間のキャンペーンを通じて、その動きを追った。
●7割の店舗で組立PCパーツを展示販売
ここ数カ月間は、買収したディスカウントスーパーのダイクマのリニューアルを含めると、1週間に2店舗ペースでの新規出店およびリニューアル開店が続いている。 基本的には、それらの新規店舗に対しては、必ずといっていいほど、組立PCパーツコーナーが設置されている。 ヤマダ電機のIT事業本部中古PC・DOS/V営業部 藤野豊部長は、新規出店における同社戦略の一端を次のように明かす。 「現在、新規に出店する店舗は基本的には大型店舗となるが、それらの店舗に対しては、SOHOを中心とした法人向けコーナーの設置と法人営業部隊の常駐、組立PCパーツ製品の取り扱い、そして中古パソコンおよびホワイトボックス製品の取り扱いを前提としている。同時に、既存の800平方m以上の売り場面積をもつ店舗についても、すべての店舗で、組立PCパーツ売り場を併設する方向で考えている。その結果、最終的には全店の7割前後の店舗で組立PCパーツを取り扱うことになるだろう」 現在、全社売上高に占めるに組立PCパーツ関連の売上比率は約2%。IT関連製品のなかで捉えても、まだ4%程度に過ぎない。しかし、仙台、前橋、高崎、大泉学園、姫路、福岡デジタル館、宮崎では、10%以上を組立PCパーツ関連が占めるという例も出ている。「これらの販売店で培ったノウハウを全国規模で広げていきたい」と藤野部長は抱負を語る。 結果として、組立PCパーツコーナーを持つ店舗が、さらに急ピッチで、ヤマダ電機のなかに増えていくことになる。 ●ファーストユーザーが組立パソコンに殺到 ヤマダ電機が、組立PCパーツの取り扱いに力を注ぐ背景には、組立PCパーツの購入者層の変化が見逃せない。 それは、今回の「はじめての組立PC応援フェア」キャンペーンでも如実な結果として表れた。 「当初は、キャンペーンのターゲットは、すでにパソコンを持っているユーザー、そして、20代前半といった層を狙っていた。しかし、キャンペーンの蓋を開けてみると、実際にパソコンを組み立てた顧客の平均年齢は30代前半。会社ではパソコンを使ったことがあるが、家にはパソコンがない、というファーストユーザーが中心。ざっくりといえば、6割近くがこうしたユーザー層だった」という。 組立パソコンのユーザー層といえば、買い換え/買い増しユーザーが、「2台目のパソコンは、自分の仕様にあわせて組み立てたい」という動機が大半を占めると想定される。ヤマダ電機でも、今回のキャンペーンでは同様の顧客層を想定していたことを否定しない。だが、結果は予想外にも初心者層が多かったというのが同社の驚きにつながっている。 「全国40店舗でキャンペーンを展開したが、多くの店舗で、家電売り場とパソコン売り場の中間地点あたりでキャンペーンの告知をしていたこともあり、家電を購入しにきた来店客が興味をもって、組立パソコンに挑戦するという例も出ていた。また、山口県では、60歳を超えた夫婦が組立パソコンに参加、4時間の講習でWindows XPのインストールまで完了した例もあった」という。 このキャンペーンを通じて、同社が新たに認識したのが、趣味としての組立パソコンの存在だ。 「これまでは、パソコンマニアが最新の技術を搭載したパソコンがほしいという動機や、高機能パソコンをより安く手に入れたいなど、組み立てた後の利用環境に魅力や満足度を感じていたが、今回のキャンペーンでは、組み立てること自体に関心を寄せるパソコン初心者ユーザーが多かった」 言い換えれば、パソコンを初めて購入するという層、そして組立自体を趣味として捉える層に、組立パソコンが受け入れられ始めたともいえるだろう。 ●日曜大工と組立パソコンの共通点?
先にも触れたように、同社では買収したダイクマを次々とリニューアルしている最中だが、そのなかで、ダイクマでDIYアドバイザーと呼ばれた人たちが、組立パソコンの売り場担当者として活躍しているという。つまり、これまで日曜大工のアドバイザーだった人が、組立パソコンのアドバイザーに転身しているのだ。 実際に、同社でPC売り場の立ち上げを担当しているヤマダ電機IT事業本部中古PC・DOS/V営業部MD 星野佑孝氏は、「40~50代のDIYアドバイザーだった人材が、組立パソコンに興味をもち、技術習得、販売ノウハウ修得のための学習を積極的にすすめている。それが、予想以上に学習効果が出ていることには驚いている。本社側でも組立PCパーツ専用のラウンダー(販売店を回って教育を行なう担当者)を置き、教育を進めている」と、同社での取り組みを明かす。 「組み立てるということに興味をもつという点では、DIYと組立PCパーツには、共通の考え方があるようだ」と、藤野部長も分析する。 また、藤野部長は、ヤマダ電機ならではの特徴についても言及する。 「当社における売れ筋を見ると、PCIのVGAカードの売れ行きがいいといった傾向が出ている。ベスト10のうち、5機種はPCI対応の製品。メーカーパソコンをすでに所有しているユーザーが増設や改造するために購入するといった傾向が強く、組立パーツに興味をもっているライトユーザーが多いことの表れともいえる」と見る。 秋葉原のパーツ専門店などとは明らかに異なる傾向だといっていいだろう。 言い換えれば、郊外型店舗には、こうしたユーザー層が数多く訪れているという証左ともいえる。 ●ヤマダ電機が取り組む3つの施策 同社では、今後の組立PCパーツの販売戦略として、3つの手法を掲げる。 ひとつは、従来通りの部品単体販売である。だが、これも、秋葉原のパーツ専門店とは異なり、PCI製品の品揃えを充実したり、今回、インテルとの共同キャンペーンで行なった組立教室の展開など、マニア層以外をねらった施策を強化する考えだ。 「横浜の店舗では、日曜日には1回あたり3~4人が参加し、それを1日に3回実施するといった人気ぶりになった。セミナールームの利用率を高めるという意味でも、今後も継続的に組立教室は続けていきたい」という。 また、パーツ購入者が、直接コールセンターへ連絡して、パーツに関するサポートを受けられるようにすることも今後の取り組みとして考えているという。 2つめは、特定部品に関しては、組立代行サービスを開始するということだ。「組立パソコンでは、つまづく部分にひとつの傾向がある。この部分に関してだけ、有料で組み立てサポートをするという制度も必要だろう。また、メーカーがサポートをしない製品に関しても、当社が代わって保証するということも検討していきたい」とも話す。 そして、3番目には、ホワイトボックスパソコンと連動した展開だ。 同社では、すでにいくつかのメーカーと組んで、ホワイトボックスの販売を開始しているが、これらのユーザーに対して、拡張用の周辺パーツとして、組立PCパーツ製品を販売していくというものだ。 米国の大手量販店でも、同様にホワイトボックスを積極的に取り扱っている例があるが、実際にはホワイトボックスよりも周辺のパーツ関連製品の売上が伸びているという結果が出ている。ヤマダ電機でも、同様の施策を打とうと考えているわけだ。 いずれにしろ、ヤマダ電機が今後、組立PCパーツに力を入れるのは間違いない。そのなかで、初心者ユーザー層を取り込むための施策が用意されており、これらの顧客層を重点ユーザーと位置づけているのは明白だ。 これまでの組立PCパーツユーザー層とは異なった顧客層を顕在化できるかが、ヤマダ電機の挑戦だといえるだろう。
□ヤマダ電機のホームページ (2002年10月4日)
[Text by 大河原克行]
【PC Watchホームページ】
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