●Baniasの最大の弱点は価格
現在、Baniasについて最大の懸念材料は価格戦略だ。「Baniasが成功するかどうか、誰もが不安に思っている。それは、Baniasは割高過ぎるからだ。価格で見るとNorthwood(モバイルPentium 4-M)の方がずっと割安感がある。最終的には市場が決めることになるだろうが、Intelが価格戦略を変えない限り難しいと考えている」と海外のある業界関係者は言う。
もっとも、Baniasの価格をどう見るかは、メーカーや地域によってかなり異なると思われる。日本のように薄型ノートPC、小型ノートPCがかなりの割合を占める地域では、消費電力当たりのパフォーマンスの高いBaniasの利点は大きい。しかし、多くの地域では、Northwoodコアを搭載できるクラスのノートPCが市場のほとんどを占めている。そうした地域では、クロックに対して割安になるNorthwoodの方が魅力に映るのも確かだろう。
だが、問題はもっと根深い。というのは、Intelが当初の予定より、Pentium 4-M/Celeronの高クロック化のペースを早めているため、Baniasがどんどん色あせているからだ。
Intelは高クロック化に拍車をかけると同時に、Pentium 4-M/Celeron価格を下へスライドさせている。例えば、Baniasが登場する来年第1四半期時点の、価格戦略を、今年5月時点の計画と今の計画で比較してみよう。Pentium 4-MとBanias、Celeronそれぞれの価格は、次のような計画になっている。
【来年第1四半期の各CPUの位置づけ】
ノートPC本体価格 | 5月までの計画 | 現在の計画 |
---|---|---|
Pentium 4-M | ||
3,000ドル以上 | 2.1GHz | 2.4GHz |
2,500ドル以上 | 2GHz | 2.2GHz | 2,000ドル以上 | 1.9GHz | 2GHz |
1,400ドル以上 | 1.7/1.8GHz | 1.8/1.9GHz |
Celeron | ||
1,400ドル以上 | 1.7/1.8GHz | 1.8/2GHz |
1,200ドル以上 | 1.5/1.6GHz | 1.7GHz |
1,000ドル以下 | 1.4GHz | 1.6GHz |
Banias | ||
3,000ドル以上 | 1.6GHz | 1.6GHz |
2,500ドル以上 | 1.5GHz | 1.5GHz |
2,000ドル以上 | 1.4GHz | 1.4GHz |
1,400ドル以上 | -- | 1.3GHz |
●ギャップが開くNorthwoodとBanias
誰の目にも問題点は明瞭だ。当初の計画と比べるとNorthwood系(Pentium 4-MとCeleron)は1~2段階づつ来年第1四半期時点のクロックが引き上げられた。ところが、Baniasはそのまま、引き上げられていない。Baniasの方がTDP(Thermal Design Power:熱設計消費電力)の枠を低く設定している(Northwoodは35W、Baniasは24.5W)ので、クロックを引き上げることができない。ターゲットとしているノートPCの筺体が違うわけだが、そのためにギャップができてしまった。
Baniasは当初は同じ価格帯なら400~500MHz上のPentium 4-Mと競争するはずだった。ところが、今は600~800MHz上のPentium 4-Mと競争しなければならなくなっている。
もちろん、Baniasはクロックに対する命令処理効率が高い設計になっているため、単純にクロックで比較はできない。しかし、ギャップが大き過ぎるために、それでも問題は残る。
例えば、Intelは、OEMに対してはBanias 1.6GHzがPentium 4-M 2GHzと同等かそれ以上の性能になると説明したという。その通りだとすると、今年5月までの計画なら、同じ価格帯のBaniasとPentium 4-Mは同等性能だった。しかし、現在の計画では同価格帯で同等性能になるとは見えない。そうすると利点は省電力だけになる。
●Baniasの価格は同クロックのNorthwoodの5~6倍これをもう少し詳しく見て行くと、Baniasの前途の不安さはもっと明確になってくる。まず、現在、IntelのモバイルPentium 4-MとモバイルCeleronの価格は以下のような階層になっている。
価格階層 | 現在 | 9月 |
---|---|---|
600ドル前後 | P4 2GHz | P4 2.2GHz |
440ドル前後 | P4 1.9GHz | -- |
330ドル前後 | P4 1.8GHz | P4 2GHz |
250ドル前後 | P4 1.7GHz | P4 1.9GHz |
190ドル前後 | P4 1.6GHz | P4 1.8GHz |
170ドル前後 | C 1.5GHz | P4 1.7GHz |
150ドル前後 | C 1.4GHz | C 1.8GHz |
135ドル前後 | C 1.33GHz | C 1.7GHz |
115ドル前後 | -- | C 1.6GHz |
100ドル前後 | C 1.2GHz | C 1.4/1.5GHz |
80ドル前後 | C 1.13GHz | C 1.2GHz |
それに対して、来春のBanias価格は下のように計画されている。
価格階層 | 来年第1四半期 |
---|---|
600ドル前後 | Banias 1.6GHz |
440ドル前後 | Banias 1.5GHz |
300ドル前後 | Banias 1.4GHz |
190ドル前後 | Banias 1.3GHz |
Baniasが登場する来春にはPentium 4-Mはさらに価格が1~2段スライドしているはずだ。こうなると、純粋にクロックと価格だけを見ればBaniasの競争力は薄い。Banias 1.6GHzと同じ価格レンジに来るのは、おそらくPentium 4-M 2.4GHzになっているだろう。Banias 1.6GHzと同クロックのCPUはCeleronのローエンドになる見込みだ。Celeronのローエンドは100ドル程度かそれ以下になる。つまり、同じクロックならBaniasの価格は、Northwood系の5~6倍ということになる。これは、確かに割高に感じられるだろう。
●無線LANチップのバンドルはBaniasに付加価値をつけるためIntelは、今のところ90nmで製造するPentium 4後継CPU「Prescott(プレスコット)」のモバイルへの早期投入はひかえるつもりでいる。今年4月のカンファレンスIDF-J時のラウンドテーブルで、Intelのモバイル部門を担当するAnand Chandrasekher副社長兼ジェネラルマネージャ(Vice President/General Manager, Mobile Platform Group)は次のように語っている。「2003年は、Pentium 4-MとBaniasが並存する。Prescottはそれ以降(later on)となる」
Prescottを投入しないのは、モバイルPrescottがBanias普及の妨げになりかねないからだ。しかし、来年後半になればデスクトップ版Prescottの量産出荷は始まる。つまり、IntelはいつでもPrescottを投入できるようになるわけで、競合相手AMDとの競争が激化すれば、Prescottを前倒し投入する可能性もある。そうなると、ますますBaniasの立場は苦しくなる。
こうした状況を見ると、前回のコラム「IntelがBanias後継の第2世代モバイルCPU「Dothan」を来年後半に投入」で紹介した、IntelのIEEE 802.11 a/b無線LANチップバンドル戦略の謎が解ける。つまり、BaniasにIEEE 802.11 a/bを格安でバンドルすることで、明瞭なアドバンテージを作ろうとしているのだ。OEMメーカーは、Baniasに35ドルをプラスすればIEEE 802.11 a/bが手に入る。IEEE 802.11 a/b無線LANを搭載するなら、Baniasにした方がお得という形で、顧客を引っ張るつもりだと思われる。確かにこれはギャップをある程度埋められる。
だが、それでもNorthwoodとBaniasの性能/価格比の差はあまりに大きい。無線LANの安売りだけでこのギャップを埋められるとは、あまり思えない。確かに、TDPの違いで、Baniasの方がより薄型軽量のノートに搭載しやすい、つまり、筺体で差別化できる。とはいえ、性能ギャップが開き過ぎると、日本以外の地域では浸透しにくい。
そのため、IntelはBanias戦略をある程度仕切直しする可能性があると思われる。方法はいくつか考えられる。1つは、今のロードマップのままで価格をぐっと引き下げること。それから、Baniasに高TDPで廉価なバージョンを設けることも考えられる。つまり、25W TDPは高付加価値モデルだと明確に差別化した上で、35W TDPでより高クロックかつ低価格のBaniasを出すことだ。
もちろん、Intelがどんな手を打ってくるのか、今のところは見当がつかない。しかし、このまま何もしないということは、おそらくありえないだろう。
□関連記事
【7月29日】【海外】Intel、Banias後継の第2世代モバイルCPU「Dothan」を来年後半に投入
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0729/kaigai01.htm
【4月22日】【海外】
Baniasはプロセスシュリンク+マイクロアーキテクチャ拡張版が続けて登場
--IDF-Jラウンドテーブル(1)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0422/kaigai01.htm
【4月23日】【海外】Timnaのテクノロジを引き継ぐBanias
--IDF-Jラウンドテーブル(2)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0423/kaigai01.htm
(2002年7月30日)
[Reported by 後藤 弘茂]