Intelのメモリ戦略は、すったもんだの末、ようやく決着がついたはずだった。つまり、下のようになるはずだった。
WS | デュアルPC800→デュアルDDR266→デュアルDDR333→DDR II |
PC | DDR266→DDR333→デュアルDDR333→DDR II |
ところが、またここへ来て、何がどうなるのか見えにくくなっている。2週間前のCOMPUTEX前後から、情勢が変わりつつあるからだ。どう変わってきたかというと。
◎RDRAMがPC1066で復活するかもしれない
◎デュアルチャネルDDRに疑問符かもしれない
◎DDR400が(もしかすると)来るかもしれない
“かもしれない”だらけのわけのわからない状況で、しかも、誰に聞いてもどういう展開になるのか確実な答えが返ってこない。はっきりしているのは唯一、すっきりしたはずのIntelのメモリロードマップがまた揺れていることだけだ。
6月頭のCOMPUTEXでは、Intelのワークステーション用のデュアルチャネルDDRチップセット「Granite Bay(グラナイトベイ)」と「Placer(プレイサ)」が表にも展示された。マザーボードベンダー各社も、その前からGranite Bayマザーボードを開発しており、バックヤードでは展示していた。ボードベンダーは、ワークステーションOEMだけでなく、チャネル市場のハイエンドも狙うというスタンスだ。加えて、VIA TechnologiesやSiS(Silicon Integrated Systems)も、次はデュアルチャネルDDRとぶち上げており、Intelプラットフォームは一斉にデュアルチャネルDDRへ向かう、といった雰囲気があった。
そして、もし、そういう展開になるのなら、RDRAMは今度こそコンピュータ市場から消え去るはずだった。というのは、現在RDRAMが残っているのは、ワークステーションとハイエンドPCだけだからだ。そこにGranite BayとPlacerが来れば、RDRAMは居場所がほぼなくなってしまう。つまり、RDRAMは通信やコンシューマなど、特定アプリケーション向けDRAMになってしまう……、はずだった。
●COMPUTEXのあたりで風向きが変わった
ところが、COMPUTEXの背後では、どうも様子が違ってきていた。まず、気が付いたら、マザーボードベンダーの中には、RDRAMベースの製品にテコ入れするところが出てきた。RDRAMはまだ延命されるような口調に変わってきた。ある関係者によると、それは、大手OEMが、デュアルチャネルDDRではなくデュアルチャネルRDRAMの継続を臨んでいるからだという。その理由は、まだ明確にはなっていない。
ある関係者は、Intelや大手ベンダーがデュアルチャネルDDRのパフォーマンスを問題にしていると語っていた。これについては、実際のデータが手に入っていないので、今のところはわからない。ただ、アーキテクチャを考えると、実効帯域はRDRAMが上回りそうで、それが影響する可能性はもちろんある。
それに絡むもうひとつの要素は「PC1066 RDRAM」のサポートだ。RDRAMの高速規格PC1066は、もともとIntel 850Eでサポートとされると言われていた。ところが、実際にはサポートされないまま850Eがリリースされ、マザーボードベンダーは、また勝手にサポートしようかという展開になっていた。
ところが、ここへ来てIntelがPC1066を正式にサポートをすることになったと、複数の筋が伝えている。これは、かなり多くの筋が言っているので、ほぼ確かだと思われる。それによると、秋頃をメドにIntelが正式サポートする計画だという。実際、Pentium 4の533MHz FSBと、ベース533MHzのPC1066は、同期性を考えると相性がいい。FSB帯域とメモリ帯域も4.2GB/secでぴったりマッチする。
さらに、その時点で32bit RIMM「RIMM4200」に移行すれば、メモリ増設も1RIMM単位でできる(ただし2チャネルでも2RIMMが最大)。要は、顧客もRDRAMの延命を望んでいるようだし、正式に高速化もすることになる。それならチャネルも活性化するかもしれないというストーリーだ。これもわかる話だが、いくつか疑問符がつく。それは歩留まりと価格だ。
●IntelがサポートするPC1066のスペックを変更
まず大きな問題はPC1066の歩留まりだ。1枚のウエーハからは、低速なDRAMチップと高速なDRAMチップが混在して採れる。例えば、低速品がPC800に、高速品がPC1066になる。で、問題はどこにあるかというと、PC1066がまだそんなに採れない。そして、そのPC1066が採れない原因のひとつは、じつはIntelにある。
どういうことかというと、Intelが850Eで、設計をミスしたためか、PC1066のタイミングスペックを変えてしまったからだ。つまり、より厳しいタイミングのRDRAMチップを要求することになり、歩留まりが低くなってしまったのだ。
850はもともと400MHz FSBで次のデバイスをサポートしていた。
PC600-53.3
PC800-45
PC800-45は、tRAC(Row Access Time)タイミングが45nsのスペックのPC800品の意味で、従来PC800と呼ばれていたRDRAMはこのPC800-45だった。そして、Intelは、この初春までは、850Eが533MHz FSB時にサポートするRDRAMのスペックを下のように説明していたらしい。
PC800-45
PC1066-35
ところが、850Eの発表が近づいてきた段階でこのスペックが変わったらしい。FSB 533MHz時のサポートメモリは次のようになったという。
PC800-40
PC1066-32
で、このPC800-40で、これまでのPC800が使えないということで大騒ぎになったわけだ。もう一方のPC1066-32は正式には公表されていないが、現状の850EはこのスペックのPC1066でしか基本的には動作しないことは周知の事実となっている。PC1066はもともとはPC1066-35で行くはずだったのが、このためにPC1066-32というスペックを急きょ作ったと言われている。
●厳しくなったtRCDの値
tRACのレイテンシが少なければ少ないほど、最初のデータの読み出しにかかる時間は短くなるが、その分、DRAMチップ側のスペックはきつくなる。これをもう少し詳しく見ると次のようになる。
各RDRAM規格のtRACの違いは、基本的にtRCD(RAS-to-CAS Delay)に起因している。例えば、データシートを見るとPC800-45はtRCDが9T、つまり9サイクルなのに対してPC800-40はtRCDが7Tだ。tRACは「tRCD+1T+tCAC」で、tCAC(CAS Access Delay)はどちらも8Tで同じ。つまり、PC800-40の場合は7T+1T+8T=16Tでサイクルタイムが2.5nsだからtRACが40nsになる。こうしてtRCDを比べると規則性が見えてくる。
RDRAMの種類 | tRCD |
PC600-53.3 | 7T |
PC800-45 | 9T |
PC1066-35 | 9T |
PC800-40 | 7T |
PC1066-32 | 7T |
つまり、もともとは850Eは、サイクルタイムの短いPC800やPC1066ではtRCDが9Tのスペックで行くはずだった。ところが、実際にはtRCDが7Tとなってしまった。
で、各RDRAMのサイクルタイムは次のようになっている。
PC600 | 3.33ns |
PC800 | 2.5ns |
PC1066 | 1.875ns |
そうするとtRCDの実際の遅延時間は次のようになる。
PC800-45 | 9T | 22.5ns |
PC1066-35 | 9T | 16.8ns |
PC800-40 | 7T | 17.5ns |
PC1066-32 | 7T | 13.1ns |
こうして並べると、tRCDだけ比較するなら、PC800-40はほぼPC1066-35と同等の実遅延時間が要求されていて、PC1066-32はさらに一段厳しいというのがよくわかる。それだけ、採るのは難しい。いきなりこれだけ厳しいパラメータが要求されると、DRAMベンダーも対応が難しいだろう。Intelがどうしてこんなばかなことをしたのかは謎だ。合理的な理由が見あたらないことから、メモリ業界ではこれはIntelのミスに違いないと誰もが言っている。
●歩留まりはかなり低い
ではPC1066-32はどの程度採れるのか。RDRAMを現在PC向けに供給しているのはSamsung Electronicsとエルピーダメモリ。Samsungは現在0.15μmに生産をシフトしていて、エルピーダは0.18μmから(0.15μmを飛ばして)0.13μmにシフトしようとしているという状況だ。
ある業界関係者によると、今年3月にSamsungから説明を受けた時は、PC1066の出荷をもうすぐ開始し、第3四半期の終わりまでにPC1066の歩留まりが100%になると言っていたという。PC800に対する価格プレミアも、年内にはなくなるという話だったようだ。しかし、この時点での“PC1066”はPC1066-35で、結局、その直後にPC1066-32が必要ということになり、今はロードマップが変わったという。Samsungでも、歩留まりはそれほどよくないという。
別な関係者によると、PC1066-32を潤沢に採るには、0.13μmでないと難しいという。そして、それには秋頃まで待たないと難しい。そうなって来ると、Intelとしては今はPC1066を立ち上げたくてもできない状況ということになる。
加えて価格だ。DDRメモリはSDRAM同様に再び価格を下げている。256Mbit品で今やスポット価格は6ドル以下。最初は踏みとどまっていたコントラクト価格(大口需要者向け価格)も、今はほぼ同レベルに下がっているという。RDRAMも下がっているとはいえ、価格差は歴然で、これが続くとしたら、RDRAMをそれほど長くは延命できるとは思えない。もちろん、PlacerとGranite Bayが本当にコケてしまうなら話は別だが。
そこでDDR400という、またもう1枚のカードが出てくる。じつは、Intelはこちらも考えているらしい。それについては次のコラムで説明したい。
(2002年6月20日)
[Reported by 後藤 弘茂]