●ユニバーサルな外付けハードディスクが求められる
近年、ハードディスクの容量増加は著しく、今では1台のドライブで100GBを超える容量を持つものも珍しくなくなった。必ずしも市販されているPCが、このように極端に大容量のハードディスクを標準搭載しているわけではないが、その気になれば、最初からこうした大容量ドライブを内蔵したPCを利用することも不可能ではない。
こうした時代に外付けハードディスクはどうあるべきなのか。昔と違って、内蔵ハードディスクの容量が足りなくなったから、外付けハードディスクを加えて容量不足を補う、という必要性は低くなっているハズだ。もちろん、TVのデジタル録画等をPCで行なえば、100GBクラスのハードディスクもアッという間だが、それは外付けドライブを付けても同じこと。ハードディスクをリムーバブルにする、DVD-R/-RW/+RW/-RAMのようなリムーバブルメディアに記録していく、といった方策が必要だろう。
現時点で筆者が、外付けハードディスクに望むのは、ユニバーサルであることだ。つまり、OS等に依存せず、どんなPCからも利用できること、そしてできればそれが同時に実現されていること(複数のPCでファイル共有可能なこと)である。そのためには、外付けハードディスクのファイルシステムは、クライアントPCから直接見えない方が良いし、特定のPCに接続されているよりネットワークに接続されている方が望ましい。
以上のような特徴を満たすものとして、現在市販されているのがNAS(Network Attached Storage)だ。確かにNASは、上の条件を満たすのだが、別の点で不満がある。現時点では、「外付けハードディスク」という言葉が連想させる商品に対し、価格が高すぎる。筆者がイメージする次世代の外付けハードディスクは、「NAS」として売られている商品がサポートしているような、ユーザー管理やセキュリティは必要ない代わりに、安価であって欲しい。
●圧倒的な低価格を実現した「HDA-i80G/LAN」
HDA-i80G/LAN |
こう願っていたところ、アイ・オー・データ機器から興味深い製品がリリースされた。HDA-i80G/LANと呼ばれるこの製品(希望小売価格49,800円)は、同社独自のインターフェイスであるi・CONNECTに対応した80GBの外付けハードディスク(オープンプライス)に、i・CONNECT対応のLANコンバータアダプタLAN-iCN(希望小売価格24,800円)を組み合わせたもの。ネットワークに接続可能なハードディスクだが、これまで市販されていたNASに比べ、飛躍的な低価格が実現されている。
写真1がHDA-i80G/LANを構成する全パーツ。ハードディスクとLANコンバータ、それからそれぞれに用いるACアダプタである。つまり、本製品を利用するには、ACアダプタが2つ必要になるわけで、ちょっと気になるところだ。せっかく独自インターフェイスのi・CONNECTなのだから、ここからLANコンバータに電源を供給できれば良かったと思う。
そのLANコンバータだが、CPUに日立のSH3を用いた超小型の組み込み型コンピュータで、CFに収められたLinuxで動作する。ネットワークは10Base-T/100Base-TXに対応している(ハブに接続する場合はストレートケーブル、設定時を含めPCと1対1接続する場合はクロスケーブルを用いる)。
LAN-iCNのハードウェアセットアップは、リアルタイムクロックのバックアップ用電池とCFカードをセットし、専用ケーブルでi・CONNECT対応のハードディスクを接続したら、後はACアダプタを接続するだけ。特に戸惑うようなことは何もない。それに対し、ソフトウェアのセットアップ(本機の設定)は、それほどシンプルではなかった。
写真1:同梱される全パーツ | 写真2:LAN-iCNの内部 |
●設定方法にはもうひと工夫欲しい
画面1:ネットワーク設定画面 |
写真1で示したように、本機には特にソフトウェアは添付されていない。設定は、すべてWebブラウザ(Windows上のIE 5.0以降)から行なう。その時、URLとして本機のIPアドレスを直接指定する。画面1がネットワーク設定の画面だが、本機の工場出荷時のデフォルトIPアドレスである192.168.0.200を直接指定している。画面でも分かる通り、本機はDHCPクライアントとしても動作するのだが、その場合、本機にDHCPサーバーが割り当てるIPアドレスを予定することができないため、初期設定を固定アドレスにしているようだ。
初期設定が固定アドレスになっているというのは、本機の設定だけを考えれば問題はないが、接続するクライアントPCを考えると問題が多い。現在、多くのユーザーはWindowsのネットワーク設定として、セットアップデフォルトであるIPアドレスの自動取得を選択しているものと思うが、本機を設定するためには、いったんWindowsマシンのネットワークの設定を固定アドレス(192.168.0.201など)に変更する必要がある場合がある。Windowsの初期設定のまま、Plug and Playで使えないということが、本機を利用する上での敷居をやや高くしている。どんな周辺機器であろうと、その周辺機器を使うためにPCの設定を変更しなければならないのでは、ユーザーフレンドリーとは言えない。
おそらく現在、ほとんどのユーザーがネットワーク内にPCサーバーやブロードバンドルータなどのDHCPサーバーがいる環境でPCを利用しているものと思われる。そうしたネットワークに本機を追加する場合、本機をDHCPクライアントに設定することになるわけだが、そのために1回、設定用のWindowsマシンを固定IPアドレスに設定しなければならないというのでは使い勝手が悪い。もし本機にDHCP環境に対応した設定ユーティリティが添付されていれば、初期設定をDHCPクライアントにしておいて、ほぼPlug and Playでユーザーのネットワークに接続できるハズだ。
もちろん、理想を言えば、本機にもDHCPサーバー機能が欲しい(以前紹介した同社製のNAT、ET-NAS60GにはDHCPサーバー機能があった)。初期設定はDHCPクライアントで、ネットワーク内にDHCPサーバーが見つからない場合、本機がDHCPサーバーになることが可能なら、本機とWindowsマシンを1対1で接続した場合(ネットワークから切り離された状態のノートPCと直接接続したような場合)でも、Plug and Playが確保される(唯一の例外は、固定IPアドレスで運用されているネットワーク環境のユーザーだが、現時点でそうしたネットワークを利用しているユーザーは極めて少数だろう)。
●やや振るわないパフォーマンス
もう1つ、本機を利用していて気になったのは、データ転送速度が決して速いとは言えないこと。筆者は、このクラスのネットワークストレージに絶対的な性能の高さを求めていない(その代わりに、ネットワークストレージは、ファイルの共有など他のメリットを持つ)。その筆者でさえ、これはちょっと遅いな、と体感できるほど。データ転送速度はネットワーク環境等により大きく影響を受けるが、筆者の仕事場のネットワーク環境において、PC同士でファイルを転送した場合の4分の1から5分の1程度のデータ転送速度に留まった。
これは、ネットワーク経由のファイルコピーだけでなく、HDA-i80G/LAN内でのファイルコピーでも同様な結果だったので、ネットワークの問題だけではないものと思われる。確かに本機が採用している3.5インチドライブ(今回はSamsung SV8004H)は、スピンドル回転数が5,400rpmで、特に高性能というわけではないが、これほど遅いとは思えない。筆者が比較したマシンもノートPC(9.5mm厚でスピンドル回転数4,200rpmの2.5インチドライブを使用)や、同じスピンドル回転数5,400rpmの3.5インチドライブを内蔵したPCなので、ドライブが原因というわけではなだろう。SH3が非力なのか、ソフトウェアに最適化を行なう余地が残されているのか、いずれにせよもう少しパフォーマンスの向上を望みたい。
●多少の不満はあるが歓迎したい製品
というわけで、どちらかというと苦言の方が多くなってしまったが、筆者個人はHDA-i80G/LANのような製品(パーソナル向けの安価なネットワークストレージ)が出てきたことを高く評価しているし、大歓迎している。実製品としてのHDA-i80G/LANには、いくつか問題があるとはいえ、製品としての方向性は正しいと思う。
80GBの共有ストレージが、これだけ小さな、省電力のデバイスで実現されているのは、しばらく前なら考えられなかったことでもある。ファイル共有だけを考えれば、PCサーバーに比べて場所をとらないし、電気代もわずかで、何より静かだ。もちろん環境にも優しい。こうした利点を多くのユーザーが享受できるよう、まずはDHCP環境に対応した設定ユーティリティの添付が望まれる。
□HDA-i80G/LAN製品情報
http://www.iodata.jp/products/hdd-scsi/2002/hda-i80glan.htm
□関連記事
【2月12日】アイ・オー、i・CONNECT対応HDDをNAS化するコンバータ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0212/iodata2.htm
【2001年10月25日】【元麻布】外付けストレージの未来形!?
~アイ・オー・データ「ET-NAS60G」を試す
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20011025/hot170.htm
(2002年3月13日)
[Text by 元麻布春男]