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●管理の容易さがNASの魅力
ET-NAS60G |
最近、筆者が個人的に興味を持っているデバイスの1つにNAS(Network Attached Storage)がある。文字通り、ネットワークに直接接続可能なストレージデバイスのことで、Webブラウザによる簡単な設定で、ファイル共有可能なストレージスペースが提供される。
筆者の仕事場のように、実質的にユーザーが1人しかいないネットワーク環境にセキュリティもへったくれもありはしないし、ましてや立派なサーバーアプリケーションを動かすような機会もない。ファイル共有(LANにぶらさがった各種の実験マシン間でファイルを共有したい)とプリンタ共有さえサポートしてくれれば、何もご大層なサーバーなんて要らない、というのが筆者の率直な考えだ。4~5人程度の小規模のオフィスでも、似たような事情のところが多いのではないかと思う。
そう思っていたところに、NASを試用する機会があった。今回試用したのは、アイ・オー・データ機器のET-NAS60G。容量60GB(実使用可能量は54.8GB)のモデルだが、下位に20GBのモデルも用意されている。いずれにしても、位置付けとしては、SOHOクラスの(つまりあまり規模の大きくない)LAN向けのNASだと思われる。
写真1は、ET-NAS60Gの内部だが、容量61GBのIBM製IDEハードディスク(7,200rpm)が1基内蔵されているのがわかる。写真2はハードディスクを取り外して基板をクローズアップしたもので、このNASがCyrix/National SemiconductorのMediaGXをベースにしていることがわかる。要するに、NASといってもその実態はPCであり、ET-NAS60Gは、このハードウェア上でx86用のLinuxを稼動させている。
写真1:ET-NAS60Gの内部 | 写真2:MediaGXがベースになっていることがわかる |
ただ、LinuxベースのPCサーバーと違うのは、セットアップや管理が極端に簡略化されていることにある。ET-NAS60Gに内蔵されているLinuxは、NAS用に特化したものであり、ユーザーがインストール作業を行なったり、後述するWebベースの設定を除き、ユーザーが設定を変更したりすることはできない。そうすることで、ユーザーからOS(Linux)がほとんど見えなくなっている。LinuxベースのPCサーバーを運用するにはLinuxの知識が必要だが、LinuxベースのNASを使うのに、Linuxに関する知識は全く必要とされない。これが一番大きく違うところだ。
●小規模なオフィスやSOHOなどでは十分な性能
画面1:ET-NAS60Gの設定画面 |
ET-NAS60Gは、内蔵のハードディスクを共有ストレージスペースとして提供できるほか、パラレルインターフェイスとシリアルインターフェイスを備えており、プリンタやモデム/TA(Windows 95/98用のINFファイルに対応)を接続し、ネットワーク上で共有することが可能だ。ファイルの共有、プリンタの共有、インターネット接続の共有(事実上アナログ電話およびISDNに限定されるが)といえば、SOHOのサーバーに求められる主要な業務であり、わざわざPCサーバーを導入しなくても、これ1台で一通りのことができるというわけだ。
ET-NAS60Gの各種設定は、すべてWebブラウザで行なう。画面1が本機の設定画面だが、上半分が、ネットワークやモデム、プリンタの設定を行なうシステム設定、下半分がフォルダ管理やセキュリティ関連の設定を行なうメニューだ。
工場出荷時はIPアドレス固定の設定で、「192.168.0.2」のプライベートアドレスに設定されているため、とりあえずPCを1台用意して1対1接続し、加えるネットワークに適合するよう設定を変えなければならない(たとえば本機は固定アドレスのほか、DHCPクライアントにもDHCPサーバーにも設定できる)。このあたりの設定は、いわゆるブロードバンドルータなどの設定を行なった経験のあるユーザーならそれほど困惑しないだろうが、ネットワークって何? というユーザーには難しいかもしれない。
●ネットワーク初心者には少し面倒?
いずれにしても、Plug and Playでないことだけは確かだし、実際に稼動してからも各種の設定を行なうには、ユーザーが直接ブラウザに本機のIPアドレスを入力しなければならず、ちょっと面倒だ(ほかにDHCPサーバーがある場合、本機のIPアドレスは固定されない可能性がある)。このあたり、独立した専用の管理ツールが欲しいところだが、それでもPCサーバーを運用するのに比べれば、管理は容易な方かもしれない。NASとして特に使い勝手に優れるとは言えないかもしれないが、ET-NAS60Gは、SOHOのLAN環境におけるPCサーバーの代替として、十分役割を果たすことができるだろう。
難しいのは価格面の評価だ。最近ローエンドPCサーバの低価格化が進んでいることを考えると、本機の12万円という価格は安くはない。最終的には、本機の管理の容易さをとるか、PCサーバの汎用性を選ぶか、ということになるだろう(もう1つ、場所をとらない、というのは本機の大きな魅力ではある)。筆者のように、古いPentium Proマシンをいまだに使っていて、なおかつ性能に不満がない、となると12万円の出費はちょっと厳しい。
プリンタ共有やモデム/TAの共有のような機能を削って低価格化を、という気もするのだが、おそらくこれらの機能を削っても、いくらも価格には反映しないのだろう。半額くらいになれば、乗り換えようかという気にもなるのだが、結局そこまでこのクラスのNASに対する需要は高まっていない、というのが実情かもしれない。需要さえあれば、その価格が実現可能であろうことは、5万円を切るようなPCが実際に販売されていることからも明らかだ。
●将来、外付けストレージといえばNASになる可能性も
NASを使って便利なのは、ネットワークの先にあるストレージであるため、ファイルシステムを気にしなくて済む、ということだ。たとえばMacintoshとWindowsが共存するSOHOでも、容易にファイルの共有ができる。実は筆者は、将来的には外付けストレージは、みなNASのような方向に進むのではないかと思っている。ファイルシステムに依存した(その代わりシステムの起動やページングファイルをサポートした)内蔵ストレージと、ファイルシステムに依存しない外付けストレージ、という図式だ。
現在、PCのI/Oインターフェイスは、ホットプラグ可能なPlug and Playをサポートしたものへの切り替えが急速に進んでいる。取り外しの容易な外付けストレージは、OS等を問わず、簡単にホットプラグして使えなければ、メリットが小さい。この時、現在の外付けストレージのようにファイルシステムが見えていると、自由度が低下する。たとえば1つの外付けストレージを、PCと民生機器で共有する、といった使い方は、ホストからファイルシステムが直接見えない方がいいハズだ。
現時点では、NASのようなデバイスを実現するには、IPアドレスの設定ひとつとっても、様々なシナリオ(DHCPサーバー、DHCPクライアント、固定アドレス等)に備えねばならず、まだまだ複雑なOSが欠かせない。これが価格にはねかえり、市場を狭める結果になっている。しかし、将来的にIPv6が普及し、Universal PnPが実用化されると、OSはROM化可能なサイズで済むようになるかもしれない。早くもGigabit Ethernetが低価格化する兆しを見せていることと合わせ、将来は外付けストレージといえばLAN接続のNAS、という時代がくるかもしれない。
□製品情報
http://www.iodata.jp/products/plant/2001/etnas60g.htm
(2001年10月25日)
[Text by 元麻布春男]