元麻布春男の週刊PCホットライン

コピーコントロールCDが明らかにしたeHome構想の欠陥


●問題山積みのコピーコントロールCD

 3月13日、エイベックスは邦楽アーティストの市販商品としては初の、コピーコントロールCDを発売した。コピーコントロールCDは、アナログでの録音、MDへのデジタルコピーなどは可能なものの、PCのハードディスクへのリッピング、PC上でのCD-Rドライブなどを用いたメディアのデジタルコピー、MP3ファイルなどへのエンコーディングを禁じるものである。

 コピーコントロールCDをリリースした背景としてエイベックスは、CDからリッピングされたMP3ファイルのインターネット経由による交換、CD-Rへの複製などにより、音楽CDの売上げが減少していることを挙げている。つまりコピーコントロールCDに切り替えることで、こうした行為(特にインターネット経由でのファイル交換に代表される違法行為)を防ごうというわけだ。

コピーコントロールされたBoAの 「Every Heart -ミンナノキモチ-」

 現時点で、PC上でのCD-Rドライブを用いた複製については必ずしも完全にプロテクトされているわけではない(一部のライティングソフトで複製が可能)し、アナログ音源からのリッピングは認めるのか、民生用プレーヤーのS/PDIF出力をPCのサウンドカードでキャプチャする(デジタルコピーが可能だが、サウンドカードなどの仕様により、オリジナルと完全に同じとは限らない)ことをどうするのか、といった問題も残っている。

 また、半導体オーディオプレーヤーのユーザーはどうなるのか? 民生機での再生ができなかった場合(CD/DVD-ROMドライブを用いたCDプレーヤーでは再生できないことが明記されており、CD再生機能をサポートしたDVD-Videoプレーヤーの一部では再生できない可能性がある)に返品/返金を認めるべきではないか? さらにはユーザーの権利を制限するのだから、CDの価格を下げるべきではないのか? といった議論もあるものと思う。それでも、コピーコントロールCDであることが外装に明記されており、購入前に分かるという点ではまだしも救いはあるかもしれない(一部、欧米で販売されているコピープロテクトされたCDは、見た目では識別できない)。



●マイクロソフトのeHome構想の基本は「コンテンツの集中管理」だが……

 同じ3月13日、奇しくも都内のホテルで、Microsoftによるプレス向けのeHome構想の説明会が開かれた。eHome構想の骨子は、PCを家庭内のメディアセンターと位置付け、そのために現在のWindows XPをこの用途向けにチューニングした「Freestyle」を搭載したPCを提案していることにある。つまり、Freestyle PCに様々なメディアを集積し、家庭内のネットワークにより、様々なクライアント(PCのみならずAV機器なども含めて)にユビキタスなアクセスを提供しよう、PC上に蓄積されたメディアをすべてのクライアントで共有しよう、というのがeHome構想の狙いだ。将来的には自動車などのクライアントにも、グローバルローミングでのアクセスを実現したいということらしい。

 だが、本当にPCはメディアセンターになれるのだろうか。あるいは、メディアセンターになることを認めてもらえるのだろうか。

 おそらく、PCをメディアセンターに仕立てるのに、技術的な問題はそれほど大きくないだろう。現時点では、まだ完全には固まっていない技術(たとえばUniversal Plug and Play)もあるが、多くはすでに解決策が見えている。近い将来の実現は、決して不可能ではないハズだ。1つだけ懸念するとすれば、それはコンテンツをAV機器とPCとで共有することが、本当に現実的か、ということだろう。2~3年でアップデートを繰り返すPCと、一度ユーザーの手に渡ったら原則的にアップデートのないAV機器(BSデジタルチューナーの110度CS対応などは、例外的なものだと思う)で、同じコンテンツを扱うということは、PCのアップデートをしてもPC側のCODECを更新できない、ということになりはしないか。

 もちろん、プログラマブルなPCはCODECのトランスコードも可能だが、それが現実的ではないことは、PC上でDVDのオーサリングをやったことのある人なら理解してくれるだろう。「1時間のDVDを作るのに3時間かかる」みたいな作業は、プロの仕事の範疇であり、コンシューマーが日常的に行なうこととは違う。可能なことと現実的なことは、全く違う話だ。また、eHomeに接続されるAV機器がすべてPCベースになってしまえば、これまた問題は解消するが、これも到底現実的な解とは思えない(それこそWintelの思うツボというわけだが)。

 しかし、本当に大きな問題なのは、PCにメディアを集積することをコンテンツベンダが許すのか、ということだ。すでにDVD-Videoは複製やリッピングを許さないし、今回登場したエイベックスのコピーコントロールCDのように、音楽CDもリッピングを許さない方向に向かう可能性がある(エイベックスは家電メーカー系でないだけに、しがらみが少なく、こうした施策を取りやすい、ということはあるだろうが)。そうなると、メディアセンターたるPCにコンテンツを蓄積する方法が1つ(それも現時点で最もメジャーなパッケージメディアという方法が)断たれることになる。

 PCに蓄積するコンテンツは、パッケージではなくブロードバンド接続を使う、という手もあるかもしれない。もちろん、そこで提供されるのは、PCへの蓄積は許すものの、著作権管理のなされたものである。だが、そうした場合も、本当にユーザーが望むようなものになるだろうか。


●「ユビキタス」とは程遠いコンテンツ配信の現状

 現在、CATV、あるいはCSデジタル放送などの契約は、チューナーやセットトップボックス単位で行なわれている。こうした受信機をリビングルームに置いたとすると、別の部屋で見ることはできない。たとえば筆者が加入しているスカイパーフェクTVの場合、2台目以降は初回の加入料(2,800円)が無料になるだけで、毎月の基本料金(390円)、各チャンネルの視聴料金は台数分だけ払わなければならない。ちなみにNHKの受信料は世帯ごとに契約になっており、一家に何台のTVがあろうと、1件の契約で済む。

 幸い? わが家は狭いので、リビングルームから寝室までちょいと長めのピンケーブルを這わせて、1台のCSデジタルチューナーを2部屋で共同視聴する、ということをしているが、チャンネルを変えようと思うと、リビングルームまで行かねばならず不便だ。現在、コンテンツがこんな状況で配信されているのに、ユビキタスもへったくれもない、というのが筆者の実感である。もしメディアセンターPCが実現すれば、1台のチューナーで、家庭内のすべての部屋でスカイパーフェクTVの放送を見て、必要によってチャンネルを変えることが可能になる(それでも、チューナーが1台しかない以上、部屋ごとに違うチャンネルを見ることはできない)わけだが、それが認められるのなら、筆者の笑い話のような苦労は何なのだろう。

 今回のコピーコントロールCDでは、メディアの複製も禁じられたが、メディアの複製を禁じるというのは、1度購入したCDを、同時に別の場所で利用して欲しくない、ということでもある。たとえば、CDを1枚買って、リビングルームのステレオセットのそばに置いておきながら、複製を自動車の中で使ってくれるな、もし使いたければ、音質の劣るアナログコピーかMDにしてくれ、ということなわけだ。別にユーザーは、CDを1枚購入してリビングと車の2カ所で同時に聴きたいと願っているわけではない。偶然、2カ所でかける音楽が同じになった場合も、それを制限して欲しくない(利用が排他になって欲しくない)だけのことである。


●メディアセンターPCの今後はコンテンツベンダとの交渉次第?

 コピーコントロールCDの場合、もし2カ所でCDと同等の品質の再生がしたければ、2枚のCDを買わなければならない。これは、部屋の数だけCSデジタルチューナーを購入し、その数だけ契約をしなければならないのと同じだ(音質の劣るコピーを認めている分だけ、CDの方がマシ、ということになるのだろうか)。たとえ、コンテンツの配布方法がブロードバンドに変わったところで、コンテンツベンダが基本的な考えを変えない限り、配布されたコンテンツは制約の多いものになるだろうし、ユビキタスなアクセスどころではないだろう。

 現時点のeHome構想は、MicrosoftやPCベンダなどIT産業側の意向、あるいは技術的なシーズのみが先行しているように思う。Microsoftとしては、まず構想をブチ上げ、IT産業全体を味方につけた上で、コンテンツベンダとの交渉に挑みたい、ということなのかもしれないが、長い曲がりくねった道のりが予想される。

□エイベックスのホームページ
http://www.avex.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.avex.co.jp/ir/j_site/press/press020228.html
□コピーコントロールCDのQ&A
http://www.avexnet.or.jp/cccd/
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http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20020319/dal_a2.htm
【3月13日】マイクロソフト、「Freestyle」などのeHome構想について説明(Broadband)
http://www.watch.impress.co.jp/broadband/news/2002/03/13/freest.htm

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(2002年3月20日)

[Text by 元麻布春男]


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