●Serial ATA製品は今年の夏くらいから?
ここ最近、IDFに参加するたびに、少しづつ、だけれど着実に進化を続けているものにSerial ATAがある。2000年春のIDFに最初のプロトタイプ(写真1)が展示されて以来、回を重ねるごとに製品へと近づいてきた(写真2、写真3)。今回のIDFで展示されたもの(写真4)は、製品と呼んでも差しさわりがないほどの完成度に達している。いよいよ今年の夏あたりには、Serial ATA製品の展開が始まりそうだ。
【図1】Serial ATAのロードマップ |
今年の夏に登場するのは、Serial ATA対応のハードディスクと、PCIバスに対応したSerial ATAのホストアダプタ。Serial ATAがチップセットに統合されるのはもう少し先になりそうだ(図1のロードマップ参照)。ただ、チップセットに統合されないとはいえ、現在のUSB 2.0のように、別チップとしてマザーボード上にSerial ATA対応のホストアダプタチップを実装する例は出てくるものと思われる。
Serial ATAへの移行のタイミングが今年の夏になったことで、多くのベンダはUltra ATA/100から直接Serial ATAへ移行することになりそうだ。今回Seagateが、ネイティブSerial ATAインターフェイスのハードディスクのプロトタイプ(写真5)を出展していたが、担当者によるとMaxtorが提唱するUltra ATA/133対応製品をリリースする予定はないとのこと(おそらくMaxtor以外のドライブメーカーは、みなそうだろう)。Intelがチップセットサポートしないことに加え、AMDが発表したHammer対応チップセットもUltra ATA/133をサポートしないことを考えると、Ultra ATA/133のマーケットは限定されたものになりそうだ。
ロードマップによると、Serial ATAがチップセットに統合されるのは2003年のQ2あたり。今回のIDFで、今年のQ2に発表予定のPentium 4対応チップセット(グラフィックス機能を統合したBrookdale-G)に、USB 2.0を盛り込んだICH4を組み合わせてデモしていたことからして、2003年に登場するSerial ATAに対応するSouth BridgeはICH5と考えるのが順当なところだろう。
【写真6】AdaptecのSerial ATA対応RAIDコントローラ。PCI-Xバス対応で、4ポートのSerial ATAインターフェイスを搭載する | 【写真7】パラレルATAインターフェイスをSerial ATAに変換するブリッジカード(楕円で囲んだ部分)。移行期には、こうした製品も登場するかもしれない |
ICH5でのSerial ATAの実装だが、ICH5にSerial ATAの全機能を持たせるものではないかもしれない。というのは、今年の2月にSATA PHY Interface Specification(SAPIS)のドラフト0.90というものがリリースされているからだ。SAPISは、Serial ATAインターフェイスのコントローラ部と物理層インターフェイス(PHY)間の標準インターフェイスを定めようというもの。SAPISに準拠することで、Serial ATAのコントローラとPHYを別チップとして分離することが可能になる。
現在リリースされているスタンドアロンのSerial ATAホストコントローラチップ(Silicon Image SiI 3112等)は1チップで、コントローラ機能とPHY機能の両方を持っており、わざわざ両者を分離する必要性は感じられない。両者を分離する意図は、South BridgeにSerial ATAを統合する際に、Ethernetと同じようにPHYチップを外付けにしたいからではないかと考えられる。
●Serial ATA IIの規格化も表明--SCSIは駆逐される?
今回のIDFで新しく表明されたのは、ロードマップにもあるSerial ATA IIについて、この開発を推進するワークグループの結成についてである。Serial ATA IIの目標は2つある。1つはSerial ATAをサーバーやネットワークストレージ対応に拡張すること、もう1つがSerial ATAの最大データ転送速度を150MB/secから2倍の300MB/secに引き上げることだ。図中でPhase 1とされているのがサーバー/ネットワークストレージ対応、Phase 2が最大データ転送速度の引き上げを指す。
Serial ATAは、最初に構想が発表された時から、段階的に最大データ転送レートを引き上げていくこと、それにより今後10年間にわたり規格の寿命を確保していく予定であることが表明されていた。
最大データ転送速度は2004年に製品化予定の第2世代で300MB/sec、2007年に製品化予定の第3世代(ここではコネクタやケーブルもアップデートされる予定)で600MB/secに、それぞれ引き上げられる、というのがSerial ATA 1.0規格書にも書かれているスケジュールである。今回のSerial ATA IIの規格化表明は、300MB/secの実現時期という点では予定通りというところだが、サーバー/ネットワークストレージ対応に規格を拡張する(First-Party DMAによるコマンドキューイングのサポート等)というのは、今回のIDFで初めて出てきたトピックだ。
すでに市場を見れば、ローエンドのサーバーやNAS等では、SCSIではなく、ATA(パラレルATA)のドライブを用いることが一般的になっている。これは、圧倒的な生産量の違いから、価格の点で両者が競争にならないことが理由だと考えられる。
そのパラレルATAを継承するSerial ATAが価格の点で優位性を持つであろうことは、言うまでもないことだ(コスト的にパラレルATAと変わらない、ということもSerial ATAの開発目標の1つだった。もちろん、製品価格は単純なコストだけでなく量産規模等に大きく左右される)。そうであれば、Serial ATAがローエンドからサーバーやネットワークストレージの分野に浸透してくるのも、これらの分野に使われるパラレルATA製品を置き換えると捉えれば、しごく当然のことであろう。今回のIDFの展示会でも、AdaptecがSerial ATA対応のRAIDコントローラをデモしている(写真6)くらいで、Serial ATA IIがサーバー/ネットワークストレージ向けに拡張されることは何の不思議もないように思われる。
だが、果たしてこのタイミングでサーバー/ネットワークストレージ向けの拡張を急ぐ必要が本当にあったのだろうか。ロードマップを見ても、Phase 1の仕様を策定する期間がやけに短い、と感じられないだろうか。おそらく、このようにあわてて(?)サーバー/ネットワークストレージ向けの拡張を言い出したのは、昨年11月に発表されたSerial Attached SCSIと無縁ではないだろう。Serial Attached SCSIはSerial ATAの物理層の上に、SCSIのコマンド体系を実装することで、ソフトウェア的にSCSI互換のSerial ATA(?)を作ろうというもの。現在使われているRAIDコントローラのソフトウェアをそのまま継承できるのがミソだ。ひょっとするとIntelはこの動きが面白くなかったのではないか、という気がする。
では、IntelはSerial ATAでSCSIを置き換えてしまうことを狙っているのか。この質問を、IntelのSerial ATAの担当者にぶつけたところ、特にそうした意図はないけれど、Serial ATAがSCSIを置き換えてしまうかどうかは、Intelではなく市場が決めることだ、という答えが返ってきた。
●Serial ATA II製品の登場はハイエンドから
Serial ATAがSCSIを置き換えてしまうかどうかは別にしても(筆者はその可能性は大きいと思うが)、いよいよ第1世代のSerial ATA製品がこの夏にも登場する。これはIntelの担当者だけでなく、ドライブメーカーもこのように回答しているだけに信憑性が高い。
ただ、夏に登場するSerial ATAドライブが、ローエンドからハイエンドまで、フルラインナップでドーンとデビューするかというと、残念ながらそうではないようだ。チップセットへの統合がまだなせいか、最初はハイエンドの1~2モデルにSerial ATA対応品をラインナップする、といった小規模のリリースになるという。当初は様子を見ながら、ということだろうが、最初のプロトタイプが展示されてから2年半で製品が登場することになる。USB等に比べて製品化までの時間が短いのは、やはりソフトウェア的に既存のATAと互換(Microsoftによるドライバ提供を待たないでよい)であるからだろう。
□関連記事
Intel Developer Forum Conference Spring 2002レポートリンク集
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/link/idf02s.htm
(2002年3月7日)
[Text by 元麻布春男]