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「Banias」用チップセット「Odem」はなぜ「Odum」に化けたのか


●じつはOdemというスペルだったOdum

 あまりに多く質問されたので、今回はこれを説明することにした。

 今回のIntelの発表によって、Banias用チップセットが「Odem(オーデム)」であることが判明した。つまり、このコラムで昨年8月に伝えた「Odum」というスペルは間違いだった。そのため、先週のIntelの開発者向けカンファレンス「Intel Developer Forum(IDF)」中に、多くの人から(直接またはメールで)スペルはどっちなんだと質問された。

 Odemについては、これまで他のメディアが独自ソースで情報をつかむことがほとんどできなかった。実際、ライターの笠原一輝氏によると、OEMのほとんどは、昨年8月の時点ではOdemというコードネーム自体すら知らなかったという。つまり、Odumというミススペルの出所は、すべてこのコラムだったわけで、それで質問が集中したのだ。

 さらに言うと、同様のミススペルはもうひとつのモバイルチップセット「Montara」にも起きている。このコラムでMonterraとレポートしていたチップセットの正確なスペルは、どうやらMontaraまたはMonteraらしい。ちなみに、2つの比較的確かなソースから、異なるスペルが伝わっているので、MontaraとMonteraのどちらが正しいかはまだわからない。こうしたミススペルが発生する英語的なメカニズムは、「後藤貴子の米国ハイテク事情」で説明している。こちらでは、ミススペルが発生した取材の背景について説明しよう。

 OdemがOdumに変わってしまった理由は、簡単に言うと伝言ゲームにある。口づてで伝わってゆくうちに、スペルが変化してしまうのだ。しかも、このコラムの場合、こうした情報を得るソースの90%は外国人だ。そのため、異なる母国語の人間を経て伝言が伝わるうちに、母国語によって異なる傾向のミスがミックスされるのでやっかいだ。


●初期の段階では口述で伝えられるコードネーム

 通常、こうしたコンフィデンシャルなコードネームは、段階的な伝わり方をする。まず、最初の段階では本当にごく一部の人(それもエンジニアリングサイド)しか知らないし、正式なドキュメントもなく、口述でしか伝えられないことが多い。これは、(そのコードネームの製品を開発する)社内ですらそうしたことが起こりうると聞いたことがある。

 それが、リリース時期が近づくにつれて徐々に、マーケティング部門にも伝えられるようになる。そうすると、どんどん情報が広がり始める。メジャーな製品のコードネームだと、1年前頃になれば、かなり多くの人が知っているようになる。この段階だと、メーカーからも正式に文書でコードネームが伝えられるため、スペル違いがなくなるそうだ。

 そうした仕組みになっているため、昨年7月にあるソースとコンタクトした時、その相手は、まだOdemとMontaraの正確なスペルを確認できていなかった(と思われる)。話の途中で、スペルを教えて欲しいと言ったら、その人物が書いてくれたのがOdumとMonterraというスペルだったわけだ。自信を持ってスペルしていたので、その人物が情報を得たソースも、そうつづっていた可能性があると思われる。

 ちなみに、このコラムでは2ソースから確認できない限り、できるだけレポートしないようにしている。そのため、この2つのチップセットのコードネームについては、ある方法で、非常に信頼性の高い筋に確認を取った。その結果、“こうしたコードネーム”のチップが存在することだけは確認ができたので、記事に取り上げた。しかし、その際に、正確なスペルまでは確認ができなかったというわけだ。


●手を焼いたSpringdaleとAlmador

 実は、こうした伝言ゲームによるミススペルは過去にも何度も起こっている。例えば、現在のモバイルチップセット「Intel 830M」のコードネームは「Almador-M(アマドール-M)」だが、これには最初、「Amador」「Almado」「Armador」と、3種類も異なるスペルが伝わっていた。これも伝言ゲームのなせるワザだ。この時は、確認までに1~2カ月もかかってしまった。

 それから、伝言ゲームの初期の段階では、スペルだけでなく、もっとあやふやなケースも発生する。例えば、「Springdale(スプリングデール)」については、昨年9月に最初に聞いたのだが、この時は次のようなやりとりだった。

 「IntelはデュアルDDRのチップセットを用意している。コードネームはたしかSなんとかデールだった。ええと、Brookdale(Intel 845)と同じでdaleで終わって、Sで始まるのは確かだったんだが……、Springdaleだったかな」

 というわけで、しょうがないからSで始まるコードネームとして記事はごまかすことになった。ちなみにこの時は、記事にする前に、当時インテル・アーキテクチャ事業本部副社長兼マーケティング統括本部ディレクタ(Vice President of the Intel Architecture Group and Director of the Intel Architecture Marketing Group)だったIntelのアナンド・チャンドラシーカ(Anand Chandrasekher)氏に、「DOS/V POWER REPORT」誌で行なったインタビューの際に確認している。

 チャンドラシーカ氏はデュアルDDRチップセットの存在は認めたものの、もちろんコードネームは明かさなかった。米国の幹部は、その情報が正しい場合には否定をしない(できない)ため、ここで情報を確認できるわけだ。このコラムで、“非常に信頼性が高い筋”とぼかしている場合は、そうしたケースがかなりある。


●読み方が違ったTulloch

 コードネームでは、スペルのミスとは逆に、読み方のミスも発生する。典型的な例が消えたRDRAMチップセット「Tulloch」だ。このチップセットはIntelでは「タラク」と発音しているのだが、多くの人が「トゥルッシュ」と発音していたので、そう表記した。

 ところが、これはIntelから直接プレゼンテーションを受けておらず、Intelからの文書だけを読んだ人達が、スペルから発音を類推していただけだったのだ。Tullochの時は、あまりに多くの人がトゥルッシュと発音していた(タラクという発音を聞いたことは2回くらいしかなかった)ので、こちらも当然トゥルッシュだと思いこんでいた。これも、ある非常に信頼性が高い筋から、正確な発音を指摘してもらって判明した。

 じつは、これと同じ間違いがあるのではと懸念しているのはIntelの次々期CPU「Tejas」だ。Prescottの次に当たるTejasは、これまで聞いた人はみな「テージャス」と発音していたのだが、困ったことに「テハス」という発音もある。Tejasは口頭で伝わっているので、大丈夫だと思われるのだが、まだ確信は持てない。

 というわけで、コードネームのスペルと発音は、なかなか確認するのが難しい。テハスだったらごめんなさいと言うしかない。


□関連記事
【2001年8月2日】【海外】Banias用チップセット「Odum」などIntelのチップセットロードマップが明らかに
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010802/kaigai01.htm
【3月4日】【ハイテク】「Odum→Odem」コードネームのスペル間違いが発生する英語的なメカニズム
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0304/high28.htm
【海外】CPUコードネーム一覧表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/intel/index.htm


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(2002年3月4日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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