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●まだBaniasのシリコンはなし
Intelは、次世代モバイルCPU「Banias(バニアス)」を複数バージョン用意している。その“Baniasファミリ”を、段階的に投入してゆくつもりだ。また、対応するチップセットは「Odem」と「Montara」ファミリになるようだ。
Baniasロードマップ |
Intelは開発者向けカンファレンス「Intel Developer Forum(IDF)」で、Baniasシステムの評価用ボードのデモを行なった…… Banias抜きで。これは、笠原一輝氏のレポート「IDF Spring 2002会場レポート インテルがBanias用チップセットのOdemをデモ ~しかしBanias自体の話は無し」に詳しく説明されている通り。Intelは、Banias用チップセット「Odem」に、Northwood(0.13μm版Pentium 4:ノースウッド)を組み合わせてデモを行なった。ちなみに、Odemは以前Odumとレポートしたチップセットの正確なスペルが判明したものだ。
今回のIDFで公式に、Baniasについては発表されたことはそれほど多くはない。しかし、IDF中に行なわれたプレスブリーフィングや、周辺情報から、Baniasについてはかなりの推測ができるようになった。まず、公式に明らかになった情報から整理してゆこう。
・2003年前半に登場
・専用チップセットはOdem
・OdemのサウスはICH4-Mらしい
・将来はBaniasファミリが登場
・ブレードサーバー向けにも投入
・Baniasの実チップサンプルはまだない
・2005年まではモバイルPentium 4-M系と並存
・次の新技術を投入
Aggressive Clock Gating
Special Sizing Techniques
Micro Ops Fusion
アナンド・チャンドラシーカ副社長 |
このうち、2003年前半というスケジュールと3つのテクノロジなどは、以前にアナウンスされていた。こうして見ると新味のある情報はチップセットOdemだけとなる。ちなみに、Odemのデモの際にNorthwoodを使ったのは「まだBaniasのシリコンはないため、Northwoodで模した」と、Intelのアナンド・チャンドラシーカ(Anand Chandrasekher)副社長兼事業本部長(Mobile Platforms Group)は説明している。
●徐々に集まるBanias情報
だが、Baniasについては、それ以外にも複数の情報筋から多くの情報が入っている。業界ソースから集まったBanias情報を、ざっと並べてみよう。
・リリースは2003年第2四半期
・サンプルは2002年7月頃
・TDPがモバイルNorthwoodより10W程度低い
・電力密度(Power Density)が従来のCPUより高い
・1MBのキャッシュを搭載
・グラフィックス統合チップセットは「Montara」
・MontaraのサウスはICH4-M
・FSBのアーキテクチャ自体はPentium 4互換
・FSBの周波数はモバイルPentium 4-Mより低くなる
・0.13μmプロセスで製造される
これらの情報は、上から確度の高いと見られる順に並んでいる。下の方の情報はワンソースからで、複数ソースによる確認がまだ取れていない。
まずスケジュールについては当初は確度の高い情報だったのだが、時間が経っているので、ずれている可能性がある。しかし、このスケジュール通りだとすると、まだ動作デモをできるサンプルがないというのも、まあ理解できる。
●BaniasはPentium 4-MとFSBが互換か?
さて、今回のIDFでのBaniasの焦点は、チップセットにある。Odemについてまず重要なのは、これがNorthwoodでデモをされていたこと、そして、コードネームがイスラエルの地名であることだ。デモボードでは、ベースのソケットにインタポーザをかます形でNorthwoodが載せられていた。このことは、完全なソケット互換ではないことを示している可能性が高い。しかし、それでもOdemがNorthwoodと組み合わされていたことは、BaniasのFSB(フロントサイドバス)のアーキテクチャがPentium 4互換という業界関係者からの情報を補強している。
ダイが小さなOdemのMCH | Odemの評価用ボード、手前のCPUはNorthwood |
その関係者は、BaniasのFSBがNorthwood互換だが、登場時点ではFSBの周波数で差別化されるはずだと伝えていた。だとすると、その時点でBaniasのFSBは400MHz、モバイルPentium 4-Mが533MHzへ移行するという推測もできる。ただし、IntelはOdemをモバイルPentium 4-M向けに出すつもりはない。「OdemはBaniasにだけ提供する」とチャンドラシーカ氏は答える。
しかし、BaniasのFSBがPentium 4-M互換だとすると、両対応のチップセットは可能になる。そしてそう考えるとつじつまが合う情報がある。それはMontaraだ。
業界関係者によると、IntelはOEMメーカーに対して「Montara-GM」と「Montara-GML」と呼ばれるグラフィックス統合モバイルチップセットを来年第1四半期に提供するつもりだという。これはかなり確度の高い情報だ。ところが、それ以前に別なソースからは、IntelがBanias用に「Monterra」と呼ばれる統合チップセットを用意すると聞いていた。そして、ちょっとスペルは違うが、この2つは同じものである可能性が高い。つまり、Montaraが、Pentium 4-MとBaniasの両方に対して提供されるチップセットだと考えると、符合してくる。
●Baniasにチップセット統合の可能性も
チャンドラシーカ氏は、今回のIDFでBaniasを出したあとに、Baniasファミリを投入することも明らかにした。ファミリ展開で考えられるのは、電圧の異なるバージョンや機能が異なるバージョンだ。
Baniasが現在のPentium III-Mと同様に、電圧の異なるバージョンを持つのは、まず確実だ。これは、Intelが異なるフォームファクタに対して異なるTDP(Thermal Design Power:熱設計消費電力)のモバイルCPUを投入するという戦略を維持しているからだ。Intelは、現在下のようなセグメントに対して異なるTDPのCPUを提供している。
フルサイズ | 30W |
Thin&Light | 24W |
ミニノート(B5ノート) | 12W |
サブノート/タブレットPC | 7W |
Intelのドナルド・マクドナルド氏(Director MPG Marketing, Mobile Platforms Group)によると、基本的に現在のセグメント分けでのTDP別CPUの提供は今後も続けるという。そのため、Baniasは12W枠向けの低電圧版と7W枠向けの超低電圧版を持つのは確実だ。
だが、Baniasのファミリ展開はそれにとどまらない可能性がある。もう1つ考えられるのは、チップセット統合だ。
今回、Banias向けチップセットのコードネームのスペルが「Odem」であることがわかった。Odemはイスラエルの地名で、同じくイスラエルのBaniasのすぐそばにある。これは、Intelのイスラエル部隊が開発しているBaniasだけでなく、Odemもイスラエルで開発されている可能性を示している。同じ部隊がチップセットも同時に開発しているとしたら…… その先に、チップセット統合Baniasが登場する可能性は十分にある。
また、Baniasの出自を考えると、チップセット統合版が登場してもまったくおかしくはない。まず、モバイルで問題になる消費電力や実装面積の面を考えると、統合化の意味は大きい。そしてなによりも、Baniasを開発しているイスラエルチームは、かつてPentium IIIベースの統合CPU「Timna(ティムナ)」を開発していたのだから。
□関連記事(2002年3月1日)
[Reported by 後藤 弘茂]