レビュー

Supermicroのオーバークロック/ゲーミングマザー「C7Z97-OCE」を試す

~旧モデルからコンシューマ向けに機能を洗練

C7Z97-OCE
発売日:未定

価格:未定

 米Supermicroは、Intelの次期メインストリーム向けチップセット「Intel Z97チップセット」を搭載したオーバークロック向けマザーボード「C7Z97-OCE」を準備中だ。発売前ではあるが、実機を入手したので、試用レポートをお届けする。

 高性能サーバーやワークステーションで知名度が高いSupermicroだが、Intel Z87 Expressの時代に、ハイエンドデスクトップ向けのマザーボード「C7Z87-OCE」を投入した。サーバーとワークステーション並みの信頼性と品質を、オーバークロック/ゲーミング向けマザーボードで実現したのがウリであった。

 しかしC7Z87-OCEが実際に市場に投入されたのは、Haswellが発売されてから約2カ月経った2013年8月であり、他社に比べて一歩遅かった。また、実はワークステーション向けモデル「X10SAT」をベースしていることもあり、ボードのデザインやUEFI BIOSの画面は、一般ユーザーから見ればデザインや使い勝手が良いとは言えない状況だった。

 C7Z97-OCEの日本国内投入時期は不明だが、現時点でサンプルを用意できていることから、少なくともZ97が本来ターゲットとしているDevil's Canyonの発売に間に合いそうだ。また、ハードウェアからソフトウェアまで設計を一新し、デザインや使い勝手の弱点を克服している。

基本設計を継承しつつも、デザインはコンシューマ向けに特化

 CPUのソケットが同じということもあり、基板のものの設計思想に関しては、前モデルのC7Z87-OCEを継承している。基板が濃いブルーからブラックに変更になったことで、精悍になった印象を受ける。

ヒートシンクは、“機能する”ものから“魅せる”ものとなった

 ヒートシンクも、旧モデルの“機能しているだけ”のものから、コンシューマ向けらしいデザインに凝ったものとなった。VRM部のヒートシンクは側面から見ると羽のような形で、上には斜めの切れ込みが入っている。一方チップセットのヒートシンクは矢印のような尖った形状となった。ヒートシンクにもSupermicroのロゴを入れるなど、同社にしては見た目にかなりこだわっている。

 特徴的だった独自のオーバークロック機能「Overclocking 1-2-3(現在はOC1-2-3という名前になった)」はそのまま継承しており、ハードウェアボタンも健在だが、今回からはボタンが1列となった。さらにオプションではあるが、5インチベイに格納できる「OCE Panel」も用意。基板上にはこれと接続するためのピンヘッダも用意している。

 残念ながら今回はこのパネルは入手できなかったが、資料やマニュアルを見る限り、オンボードで提供している機能をほぼそのままパネル部に持ってきたようである。以前のモデルでは、マザーボードをケースに収めてしまうと、せっかくのハードウェアボタンがまったく機能しない状態になっていたが、この問題が解決したわけである。

 ボタンは5つ用意されているが、戦闘機のアイコンは15%のオーバークロック、F1マシンのアイコンは20~25%のオーバークロック、バイクのアイコンはユーザーがUEFI BIOS上で自由に設定したクロックレシオに設定するものである。家のアイコンは設定をデフォルト(オーバークロックなし)に戻すためのものだ。一方新たに用意されたMのアイコンは、UEFI BIOS上で設定したメモリクロックを設定するものである。

 一方で、UEFI BIOSのBoot Blockを2つ用意し、オーバークロックや更新時の電源断などによって片方が破損した場合でも、切り替えることによってUEFI BIOSの修復ができる機能は健在。C7Z97-OCEでは従来のジャンパー式からスライドスイッチ式となり、操作性が向上した。

 また、Boot Blockが両方破損しても、UEFI BIOSのファイルが入ったUSBフラッシュメモリをUSBポート接続しておき、ボタンを押すだけでそれをロードして書き換える「BIOS RECOVER」も備えている。C7Z87-OCEではキーボードのホットキーで動作する仕組みだったが、C7Z97-OCEでは専用のオンボードボタンを備えた。

 7セグメントLEDによるPOSTコード表示機能も健在で、これによりオーバークロック時などに、どのデバイスが問題で起動しないのか即時に判断できる。

 サーバーやワークステーションに強いSupermicroがこれだけコンシューマとオーバークロックに注力するのは、PC市場の7%にあたる約1億のユーザーがエンスージアストであるからだという。豊富なオーバークロック機能と、オーバークロックに失敗してもダウンタイムを削減機能が充実しているのは、この市場に打って出るための武器だ。少なくともC8Z87-OCEの一発芸で終わらせず、さらに改善を重ねたところに、Supermicroの本気を感じる。

シンプルな製品パッケージ。将来的にUSB 3.1への対応も謳われている
C7Z97-OCE本体
一列となったオーバークロックボタン「OC1-2-3」
7セグメントLEDによるPOSTコード表示
オプションの5インチベイ内蔵型「OCE Panel」。デザインもなかなか凝っている
OCE Panel接続用のピンヘッダ

C7Z87-OCEからシンプルになったインターフェイス

 C7Z97-OCEも旧モデルのC7Z87-OCEと同様、PCI Expressバス周りの配線が、チップセットやCPUと最短となるように角度が細かに調節されいる。背面も、部品のピンの間をすり抜けたり、微妙な角度で回りこんだりしている。他社でもサーバーやワークステーションモデルでは見かけるが、これをコンシューマに持ってくる辺りはさすがSupermicroと言ったところ。基板配線として洗練されているのかと言われればそうではないが、短い配線はやはり気持ちいい。

C7Z87-OCEから受け継いだユニークな配線

 基板上には実に1,800個以上のパーツが実装されているが、いずれもサーバーグレードを謳う高品質なものが採用されている。0~50℃の環境下における稼働保証もされている。部品1つずつにシルク印刷がきちんと用意されているのも従来通りだ。

 スロットのは位置からファンのピンヘッダの位置まで、概ねC7Z87-OCEと同じで、旧モデルからの置き換えはスムーズに行なえる。電源やリセット、LED類を接続するフロントパネルのピンヘッダ部に、LEDの正極と負極のシルク印刷などがないのがやや不便だが、Supermicro製品でほぼ統一されているので、一度覚えてしまえば問題ない。

 電源回路も旧モデルと同様、CPUが6フェーズ、メモリが2フェーズの構成。いずれもInfineonの統合型Driver MOSFET(DrMOS)「TDA21215」が採用されており、1フェーズ当たり51Wまで供給できる。つまり、CPU側は306W、メモリ側は合計102Wで、空冷におけるオーバークロックでは十分な装備だ。

 PWMコントローラは、CPU側がPrimarionの「PX3746HDN」、メモリ側が同じくPrimarionの「PX3743DDQ」。メモリ側はC7Z87-OCEと共通だが、CPU側はDevil's Canyonを見越した新しいモデルだと思われる。

6フェーズのCPU電源回路。Driver MOSFETの「TDA21215」が使われている
PWMコントローラはPrimarionの「PX3746HDN」
メモリ側は2フェーズとなっている
メモリ側のPWMコントローラは「PX3743DDQ」

 インターフェイス面でC7Z87-OCEと大きく異る点は2つ。1つ目は10Gbps対応M.2スロットが新たに装備されたことで、これにより新しいSSDへの対応を果たすとともに、SATA 6Gbpsポートは8基から6基に減っている。なお、M.2スロットはチップセット直結となっており、6基あるSATA 6Gbpsのうち2基はASMediaの「ASM1061」による提供となる。

 もう1つ大きな変更は、Thunderboltを省いた点だ。C7Z87-OCEでは当時最新の「DSL4410」が使用されており、これによって外付けで高速なストレージなどを接続を可能としていたが、ゲーマーやオーバークロッカーにとって不要な機能であることも確かだ。本製品ではこれを省くことで、低コスト化も実現していると思われる。

 これに合わせて、Z97チップセットのPCI Expressのレーンを増やすスイッチチップは、6レーン/6ポートを持つPLX Technologyの「PEX8606」から、4レーン/4ポートの「PEX8605」にダウングレードされている。また、ThunderboltポートはDisplayPortとなった。なお、CPU内蔵グラフィックスだけで、アナログ1系統(ミニD-Sub15ピン)+デジタル2系統で3画面環境を構築できるのは従来通りである。

 細かいところでは、USB 3.0のコントローラがルネサスの「μPD720201」からASMediaの「ASM1042AE」へ変更となり、これに伴いUSB 3.0ピンヘッダが4基分から2基分に減った。これはオプションで将来的にUSB 3.1に対応するための変更かも知れない。また、PCI Express x4形状(実際はx1接続)のスロットはエッジフリーとなり、拡張カードの自由度がある程度高まったのもトピックである。

 Gigabit Ethernetは2系統備えており、いずれもIntel製コントローラを採用。うち1系統は「I210-AT」、もう1系統は「I217-V」による提供だ。ちなみにI210-ATは理論層(MAC)/物理層(PHY)を両方装備し、I217-Vは物理層しか備えていない。つまりI217-V側はIntel Z97 Expressチップセット内蔵の理論層を使う。オーディオコーデックは定番となったRealtekの「ALC1150」で、回路は至ってオーソドックスな構成だ。

 全体的には概ねC7Z87-OCEの思想を受け継いでいるが、よりゲーミング/オーバークロック向けにフォーカスし、コンシューマでは不要だと思われる機能やインターフェイスを削減したのが印象的である。

新たに加わったM.2スロット
「I210-AT」Gigabit Ethernetコントローラ
「I217-V」Gigabit Ethernet物理層
ASMediaのUSB 3.0ホストコントローラ「ASM1042AE」
PLX Technologyの「PEX8605」
ASMediaのSATAホストコントローラ「ASM1061」
Realtek製オーディオコーデック「ALC1150」
オーディオ回路はオーソドックスな構成
チップセットのヒートシンクを取り外したところ
Super I/OチップはNuvotonの「NCT6776D」
バックパネルのプレートは相変わらず仕上げの質が高い

UEFI BIOSはグラフィカルに、マウスも利用可能

 先述の通り、ハードウェア面ではほぼ前モデルを継承しているが、使い勝手を左右するUEFI BIOSについては大幅な刷新がなされた。

 まずUEFIを起動して驚くのが、完全にグラフィカル化されたことだ。UEFIのホーム画面はすべて大きなアイコンで表示されており、設定したい項目をマウスで直感的に選べる。実際、8型タブレットでタッチスクリーンにしても操作しやすい程度の大きさである。

 アイコンを選ぶとさらに詳細な設定に移る。左ペインでさらに細分化した項目を選択して、変更したい項目をプルダウンメニューか、テキストボックスで直接入力して設定する。画面の上ペインは、ホーム画面に戻るボタン、オーバークロック設定を行なうボタン、エキスパートモードのオン/オフ、そして設定のセーブ/UEFI終了が常時表示される。

 設定可能な項目はC7Z87-OCEとほぼ同じだ。CPUやPWMコントローラがほぼ一緒なので、この辺りはZ87時代と変わりない。ただし、メモリは新たにDDR3-4000まで選択できるようになった(従来はDDR3-3000まで)。これにより、よりアグレッシブなメモリオーバークロックができる。

 今どの項目を設定していても、オーバークロック設定にすぐに移れるのはユニークだし、不用意に変更すると動作に大きく支障が出るような項目はエキスパートモードボタンで一発で隠せるのは、なかなか気の利いた機能ではあるが、いかんせんボタンやアイコンが大きすぎて、従来のCUIベースのBIOSで特徴的だった情報量が減らされてしまっている。例えばC7Z87-OCEでは1画面に25行分の項目を表示できるが、C7Z97-OCEはたったの9項目しか表示できず、一覧性が失われたのが残念である。

UEFI BIOS起動直後の画面。全てがアイコンベースとなっている
CPUの性能関連の設定画面。ここれはまだオーバークロック設定などはない
パワーマネジメント系では、EISTの設定が可能
システムエージェントの設定画面
CPUのオーバークロック設定
設定できる項目などはC7Z87-OCEなどと同じだ
電圧関連の設定なども細かくできる
OC1-2-3ボタンに機能を割り当てるところ
内蔵GPUの動作倍率なども設定できる

 ファンコントロールに関してはCPUのサーマルセンサーと連動して自動制御することとなっている。UEFI BIOS上からはスタンダード(50%)かフルスピード(100%)の2択だけとなっており、ユーザーが自由に制御することはできない。また、制御できるファンもPWMタイプのみとなる。ファンの回転速度を自由に設定したい場合や、電圧で速度を調節するタイプのファンを利用する場合は、5インチベイ内蔵タイプのファンコントローラなどを別途用意する必要がある。

 いずれにしてもUEFI BIOSに関してはグラフィカルでマウス対応になったことで多少初心者でも扱いやすくなったと言えるが、まだまだブラッシュアップする余地は残されていると言えるだろう。

 なお、Windows 7の動作までは確認したが、CPUやメモリなどの環境が同一ということもあり、ベンチマークスコアは大差がなかったので、省略させていただく。ただ今後M.2対応SSDなどがリリースされた時に、本製品で改めてその性能について評価したいところである。

安定動作を望むユーザーへ

 このように、C7Z97-OCEはC7Z87-OCEから、オーバークロックやゲーミング向けの機能を取捨選択し、より洗練したモデルだと言える。このデザインならば、概ね自作ユーザーに受け入れられるだろう。

 UEFI BIOSのUIなどは手放して万人におすすめできるとは言いがたい部分もあるが、オーバークロックの設定ならばIntel純正のWindows用オーバークロックツール「XTU(eXtreme Tuning Utility)」を利用できることもあり、一般的なオーバークロックで困ることはまずないだろう。それよりも“あのSupermicroが個人向けにフォーカスして開発してきた”という姿勢を評価したいところである。

 最後に気になるお値段だが、実は日本で販売する目処が立っていないこともあり、具体的な価格は示せない。ただ機能の取捨選択により、海外ではC7Z87-OCEより約50ドル安い価格で売られるとのことで、うまく日本に輸入されれば、実売価格は26,000円~29,000円程度となりそうである。ともすれば、“ワークステーションやサーバーの品質や信頼性をオーバークロックやゲーミングで実現とはなんぞや”と気になるユーザーにも手が届きそうである。ぜひとも日本での正規代理店の展開に期待したいところである。