レビュー

世界中の人とコラボしてお気に入りアーティストの曲をカバーできる「Bandhub」を使ってみた

~JASRACに訴えられずに、歌ってみたや演奏してみた動画を作成可能

あなたの歌ってみた動画、本当に著作権上問題ありませんか?

 筆者は趣味でバンドをやっている。パートはドラム。やり始めたきっかけは、「ドラマーって格好いい」、そして「バンドやってるとモテるかもしれない」と思ったからだ。

 現在のバンドでは、オリジナルの曲もあるが、著名アーティストの曲のカバーを中心にライブで演奏している。オリジナルの曲は、それなりに高音質で録音し、いっちょ前にiTunesで販売なんかもしている(趣味のバンドで宅録した曲をiTunesやLINE Musicで販売してみたを参照)が、素人バンドのオリジナル曲に興味を持ってくれる奇特な人はなかなかいない。そこで、「誰もが知ってるアーティストの曲をカバーして、YouTubeに上げれば、もうちょっと注目されるかなぁ」なんて思ったりするわけだ。

 実際、理由がモテたいからかどうかは別として、有名な曲をカバーして、YouTubeなどにアップしている人はプロ、アマを問わず多い。今のバンドメンバーは基本的に音楽の趣味が似通っているが、全部が全部、同じわけではなく、自分がやりたいと思った曲について、メンバーが乗り気でないこともある。

2017年2月現在、YouTubeで「演奏してみた」で検索すると、263万件のヒットがある

 と言うわけで、筆者の場合、そういう曲のドラムパートだけをカバーした動画を作成したいのだが、ここで注意が必要となるのが著作権だ。

 結論から言うと、例えば筆者がX JAPANの「紅」のCD音源に載せてドラムを叩いたり(実際には技術不足で叩けないが)、星野源の「恋」のPV音源をBGMにダンスを踊ったりして(実際には踊れないが)、録画したものをYouTubeにアップロードすると、多くの場合、著作権違反となる。

 YouTubeやニコニコ動画は、著作権管理団体最大手のJASRACと包括契約を結んでいるので、ユーザーはJASRAC管理の楽曲をそれらのサービスにアップロードできるのではと思う人もいるかもしれない。だが、CDやミュージックビデオなどの音源をそのまま、あるいは、それに自分の演奏を重ねる形であっても、アップロードするのは著作隣接権の違反となるのだ。

 筆者がCDの楽曲に重ねてドラム演奏を行ない、YouTubeにアップロードしたとする。YouTubeは、膨大なデータベースを持っており、動画に含まれている曲が著作権で保護されたものかどうかを自動的に検知する。

 著作権保護されたコンテンツが含まれる場合、その動画に対してどのようなアクションを取るかは、著作権者次第だが、多いのは、その動画に広告が強制的に表示され、それに基づく収益が著作権者に還元されるというパターンだ。この時、YouTubeの画面には「これらの条件に同意する場合は、何もする必要はありません」と表示される。

動画に著作権保護されたコンテンツが含まれている場合の、YouTubeの管理画面の表示。CD音源をそのまま使っているときも「これらの条件に同意する場合は、何もする必要はありません」と表示されるが、実際は著作権上問題が残る

 「利益は著作権者に還元されるし、YouTubeにも何もする必要はありません、と書かれているのだから、著作権的に何の問題もないのだろう」と思うところだが、実際にはそうではない。

 JASRACのサイトに明記されているとおり、CD音源などをアップロードするには、JASRACがYouTubeなどと結んでいる包括契約以外に、著作隣接権を所有する演奏/作成した演奏家/制作者などの許諾が必要となるのだ。許諾を得ないでアップロードすることは違法となる。

 なお、各著作権者のポリシーはYouTubeのこちらのページで検索、確認できる(ただし、著作隣接権については触れられていない)。

ならば、自分たちだけで演奏しよう

 試したことはないが、おそらく個人で申し込んでも著作隣接権者の許諾はなかなか得られないだろう。と言うことで、JASRACが著作権管理している曲で演奏してみたなどをやる場合には、全パートを自ら演奏するしかないが、ほとんどの人には無理な話だろう。あるいは、自分で演奏したドラムだけの動画なら問題ないが、それではあまりカバーになってない。

 そういった中、たまたま知ったのが「Bandhub」という、音楽演奏SNSだ。Bandhubは、バンド演奏したい曲について、自分のパートをアップロードし、それを他の人が演奏したパートとミックスすることで、1つのバンドの曲として完成させるというものだ。

Bandhub

 筆者の場合なら、ドラムの演奏をアップロードし、ほかの人にボーカルや、ギター、ベースなどの演奏をしてもらい、コラボして仕上げることになる。アップロードすると書いてあることで示している通り、これはリアルタイムのセッションではなく、それぞれが演奏したパートの動画を持ち寄って、1つの曲に仕上げる形となる。

 Bandhubが面白いのは、YouTubeをうまく活用している点。カバーの場合、まずYouTubeにアップされている公式PVなどを指定する。すると、コラボに参加する人の画面には、録画時に参照用としてこの公式動画が再生されるので、それに各々が併せて演奏できるという具合だ。

 コラボが完成すると、自動的に元のPVの映像と音楽は消去され、各自がカバーしたものだけとなるので、著作権的にも著作隣接権的にも問題がなくなる。そして、このコラボ動画は自動的にYouTubeにアップロードされるので、それをFacebookなりTwitterなりで共有すればいいという具合だ。

 なお、著作権者がカバー動画のアップロードも禁止していたり、国や地域によってポリシーが異なる場合もあるので、その点は事前にYouTubeで著作権者のポリシーを確認しておこう。

アカウント開設と基本機能の利用は無料

 では、Bandhubの利用方法を紹介しよう。

 まず、注意点として、Bandhubは英語のみでサービスされている。基本的にはコラボメンバーとコミュニケーションをしながら、製作を進めるので、全く英語ができない人には心理的ハードルが高いかもしれない。

 とは言え、コミュニケーションと言っても、コラボを開始する側ではなく、参加する側なら、「I have added my colab. Hope you like it(自分のコラボパートをアップしたよ。どうかな?)」とか、「Thank you」程度が書ければいいので、そんなに臆する必要はない。会話を一切しなくてもコラボできるが、SNSなのだから、マナーとして最低限の挨拶くらいはしておいた方がいい、くらいだろうか。

 また、英語圏向けのサービスであるため、日本の楽曲は少ない。楽器演奏ならまだしも、日本語の歌を海外の人に歌ってもらうことはまず無理だろうから、その辺りは、承知しておく。

 利用に際しては、まずアカウントを作る。作成は無料だ。また、基本的な機能の利用も無料の範囲内でできるので、コラボに参加するだけなら、お金をかけないで済む。

アカウント製作画面。ユーザー名、メールアドレス、パスワードを入力
必要に応じて、自身のプロフィールを記入したり、写真をアップロード
自分のメインとなるパートを1つ選択
演奏の頻度も聞かれる。左から、毎日、毎週、たまに
自分のスタイルと近いアーティストを3組以上選ぶ
先とほとんど同じだと思うのだが、自分が好きなアーティストも3組以上指定する。以上でアカウントの開設は完了する

 アカウントを作成すると、トップページが表示される。トップページはニュースフィードとなっており、現在進行中のコラボがずらりと表示される。参加しようかなと思うコラボがあれば、マイリストに追加していこう。

 また、上部には、アカウント作成時に選択した自分が関心があるバンド名がいくつかピックアップされて表示されている。バンド名横の括弧の中の数字は、進行中のコラボの数だ。クリックすると、そのバンドのコラボ一覧が表示されるが、自分の担当パートで絞り込むボタンがあるのは便利だ。

 あるいは、最上部にある、検索フォームからバンド名や曲名で検索もできる。検索は、補完検索できるので、例えば「Green Day」なら「gree」と入れるだけで出てくるが、ここではメンバーも検索できるようになっている。

トップ画面。上部に自分の関心のあるアーティスト名とコラボ数が表示
もちろん、検索もできる

まずは、進行中のコラボに参加しよう

 自分でコラボを立ち上げても良いが、最初は進行中のコラボに参加するといいだろう。やりたい曲を検索し、自分のパートを募集しているものを選ぶ。「View all collabs」(全てのコラボを見る)を押すと、コラボ一覧が表示される。進行中のコラボも、その時点のパートのミックスを試聴できるので、参加者たちの技量を判断できる。

アーティスト名を入れるとコラボ一覧が表示。「NEED:DRUMS」などを押して、自分のやりたいパートの募集があるコラボを絞りこんだり、その場で現時点のコラボを視聴することも可能

 「OPEN IN STUDIO」をクリックすると、スタジオモードが開く。ここでは、各参加者のパートのボリュームを変えたり、ミュートしたりできる。変更しても、コラボのリーダーに申請して承認されない限り、自分以外には反映されないので、自分の聞きやすいように変更して構わない。

STUDIO MODEで開いたところ。各パートの演奏がずらりと並ぶ。左上が参照用の公式PV

 このコラボに参加して、自分の演奏をアップすると決めたら、「LAUNCH RECORDING APP」をクリックする。別ウインドウで録画画面が開く。iOS向けのRECORDING APPも用意されているが、iOSデバイスは、PCに比べると楽器を繋げにくいので、基本的にはPCを使った方がいいだろう。

 録音ボタンを押すと、カウントダウンの後に参照動画とともに、各参加者の演奏が再生される。それに併せて、自分も演奏する。

RECORDING APPの画面。アプリと言っても、ブラウザが別画面で開く。自分のやりやすいように音量を調整したり、不要なパートはミュートもできる

 録画が終わるとスタジオモードに戻るので、問題がなければ「PUBLISH」を押すと、自分のパートの追加が申請される。

録画が終わったら、自分のパートの画面上の「PUBLISH」を押す。やり直したいときは、「REMOVE」して、再度RECORDING APPを起動する
PUBLISHした動画は、パートを指定する

良いカメラは不要だが、オーディオインターフェイスはほぼ必須

 動画として録画するので、Webカメラなどが必須となる。ノートPCの場合は、だいたい内蔵されているだろうから、それでいい。デスクトップの場合は、外付けのものを用意する。

 Bandhubでは、事前に録画したものをアップすることはできない。録画のやり直しはできるが、基本的には一発録りとなる。また、ミックスされると、各自の動画は強制的に320×240ドット@10fps程度に落とされる。そのため、高解像度なものや、60fps対応カメラなどはオーバースペックになるので、内蔵のWebカメラで必要十分となる。

 マイクについても、ノートPC、あるいは外付けWebカメラに内蔵されていると思うが、さすがにこちらは推奨できない。ボーカルであれ、楽器であれ、まともな音質にはならないからだ。オーディオインターフェイスを利用するのが基本となる。

 オーディオインターフェイスについての細かい説明はここでは割愛するが、マイクやギターなどの楽器をPCにUSB経由で接続するための機器だ。

 筆者の場合は、電子ドラムのライン出力を、オーディオインターフェイスの入力に繋いでいる。RECORDING APP画面のマイクから、オーディオインターフェイスを選択すれば、DAWソフトでやるように、クリアな音で録音できる。録音品質の仕様は不明だが、特に強い圧縮を感じることはない程度の品質だ。

 録画が終わると、そのことがコラボリーダーに通知され、リーダーが承認すれば、コラボに追加される。その時点で、そのコラボは各参加者の画面をタイル状に並べた形で、YouTubeにBandhubアカウントの動画として掲載される(限定公開なので、第三者に勝手に閲覧されることはない)。

コラボが完成(厳密にはパートが追加され次第)すると、動画はBandhubのYouTubeアカウントに限定公開でアップロードされる。メンバー(トラック数)が多いとこのように、縦長のタイル状の動画になる。それぞれの解像度は低いので、高画質なカメラは不要

 全パートが埋まったなら、そのURLをFacebookやTwitterなどに貼り付ければ、晴れてオリジナルの演奏してみた動画を堂々と友達に公開できる。

有料プランではダウンロードも可能

 ここまでは、無料ユーザーでも利用できる。だが、月額7.99ドルの有料プランだと、さらに機能が広がる。

 例えば広告の非表示、コンプレッサーやリバーブ、パンの利用、コラボリストの管理など、追加機能はいろいろあるが、中でも便利なのは、コンテンツのダウンロードだろう。筆者はこの機能のためだけに有料プランに加入した。

有料プランだと、地球のアイコンを押すと、音源や動画をダウンロード可能。画面上に「★」が付いたものが有料で利用できる機能だ

 有料プランでは、参加したコラボの動画、あるいは音源のみを自由にダウンロードできるようになる。単に演奏を観てもらいたいだけなら、無料プランでもいいのだが、コラボ動画/音源を自分のYouTubeアカウントを使ってアップロードしたい人もいるだろう。そういう場合は、有料プランが必要となる。

 また、ダウンロードした音源をDAWソフトなどでさらに洗練させたり、別のオリジナル動画に差し替えてアップロードといったこともできるようになる。

完成したコラボ動画

SNS性は薄く、さくっとコラボしたいメンバーを見つけるのに好適

 簡単にではあるが、Bandhubの利用手順を説明した。

 先に、Bandhubについて、音楽演奏SNSと紹介した。確かに、ユーザーのフォロー機能などはあるが、一般的なSNSのように、日記的なものやその時の気分などを書く機能はない。「いいね!」のような機能もない。最近は、フォローしてる相手にお世辞でコメントしたり、いいね!を付けたりすることに辟易する、いわゆる「SNS疲れ」などの言葉も耳にするが、そういう意味では、BandhubはSNS性は非常に薄い。

 筆写はまだ利用して1カ月程度だが、他の参加者とはドライな関係で、コラボごとの一期一会的なセッションを楽しんでいる。英語という障壁を除けば、多くの人が気軽に利用できるサービスだと感じている。