NVIDIAは8月12日、ミドルレンジGPU「GeForce GTX 660」と「GeForce GTX 650」を発表した。今回、MSIよりGeForce GTX 660搭載ビデオカードを借用できたので、同GPUの実力をベンチマークテストでチェックする。
●ミドルレンジ向けGPUコア「GK106」を備える真のミドルレンジGPUGeForce GTX 660(以下GTX 660)は、8月に発表されたミドルハイGPU「GeForce GTX 660 Ti」(以下GTX 660 Ti)の下位モデルにあたるミドルレンジ製品だ。GTX 660 TiがハイエンドGPUコア「GK104」を流用したミドルハイGPUだったのに対し、GTX 660はミドルレンジ向けの新GPUコア「GK106」を採用している。
GTX 660で初採用となったGK106は、28nmプロセスで製造されたKeplerアーキテクチャを採用するGPUコアだ。192基のCUDAコアや16基のテクスチャユニットを束ねるSMXを5基備えており、GTX 660は960基のCUDAコアと80基のテクスチャユニットを有する。
上位モデルのGTX 660 Tiに比べSMXが2基少ない分、GTX 660のGPUコアは980MHzと高めに設定されている。また、上位のGK104採用GPUと同様にGPUコアの自動オーバークロック機能「GPU Boost」をサポートしており、動作状況に応じて最大で1,058MHzまでGPUクロックが上昇する。メモリインターフェイスは192bitで、6,008MHz相当で動作する2GBのGDDR5メモリと接続されている。
【表】GeForce GTX 660の主な仕様GeForce GTX 660 | GeForce GTX 650 | GeForce GTX 660 Ti | |
アーキテクチャ | Kepler | Kepler | Kepler |
プロセスルール | 28nm | 28nm | 28nm |
GPUクロック | 980MHz | 1,058MHz | 915MHz |
Boostクロック | 1033MHz | ─ | 980MHz |
CUDAコア | 960基 | 384基 | 1,344基 |
テクスチャユニット | 80基 | 32基 | 112基 |
L2キャッシュ | 384KB | 256KB | 384KB |
メモリ容量 | 2GB GDDR5 | 1GB/2GB GDDR5 | 2GB GDDR5 |
メモリクロック (データレート) | 1,502MHz (6,008MHz相当) | 1,250MHz (5,000MHz相当) | 1,502MHz (6,008MHz相当) |
メモリインターフェイス | 192bit | 128bit | 192bit |
ROPユニット | 24基 | 16基 | 24基 |
消費電力 | 140W | 64W | 150W |
【図1】GK106のブロックダイアグラム |
GeForce GTX 660の概要 |
NVIDIAはGTX 660について、GeForce 9800 GTの4倍以上、GeForce GTX 460に対して1.8倍のパフォーマンスを持っているとしており、これらのGPUからのアップグレードパスとしての魅力を強調している |
●2基のファンを備えるオリジナルオーバークロックモデル
今回MSIより借用したGTX 660搭載ビデオカードは、同社オリジナルのGPUクーラー「Twin Frozr III」を搭載したオリジナルオーバークロックモデル「N660GTX Twin Frozr III OC」だ。
「N660GTX Twin Frozr III OC」では、GTX 660のGPUコアを1,033MHz(GPU Boost時1,098MHz)までオーバークロックしているのだが、補助電源供給用のコネクタは6ピンコネクタ1系統のみとなっている。上位のGK104コア採用製品が6ピンコネクタ2系統以上の補助電源コネクタを備えていたことを考えれば、消費電力が減少していることが伺える仕様であると言えよう。
GTX 660を搭載したMSI製ビデオカード「N660GTX Twin Frozr III OC」 |
補助電源コネクタは6ピン1系統 | SLI端子は1系統のみで、2-way SLIのサポートに留まる | ブラケット部のディスプレイ出力 |
●テスト機材
それではベンチマークテストの結果紹介に移りたい。GTX 660の比較対象として、GeForce GTX 460 768MB(以下GTX 460)、GeForce 9800 GT 512MB(以下9800 GT)を用意した。また、参考比較のために、前回GTX 660 Tiのテスト時に測定したベンチマーク結果の中から、GTX 660 Tiと、Radeon HD 7870 GHz Edition(以下HD 7870)のスコアを流用して比較している。
【表2】テスト環境GPU | GTX 660 | GTX 660 Ti | GTX 460 768MB 9800 GT 512MB | HD 7870 |
CPU | Intel Core i7-3820 | |||
マザーボード | ASUS SABERTOOTH X79 (BIOS:2002) | |||
メモリ | DDR3-1600 4GB×4 (9-9-9-24、1.5V) | |||
ストレージ | Western Digital WD5000AAKX | |||
電源 | Silver Stone SST-ST75F-P | |||
ディスプレイ解像度 | 1920×1080ドット | |||
グラフィックスドライバ | GeForce 306.23 Driver BETA | GeForce 305.37 Driver BETA | GeForce 306.02 Driver BETA | Catalyst 12.7 Beta |
OS | Windows 7 Ultimate SP1 64bit |
GeForce GTX 460 768MB搭載のリファレンスボード | Inno3D製のGeForce 9800 GT 512MB搭載ビデオカード |
●DirectX 11対応ベンチマークテスト
まずはDirectX 11(DX11)対応ベンチマークテストの結果から紹介する。実施したテストは「3DMark 11」(グラフ1、2、3)、「Unigine Heaven Benchmark 3.0」(グラフ4)、「Lost Planet 2 Benchmark DX11」(グラフ5)、「Stone Giant DX11 Benchmark」(グラフ6)、「Alien vs. Predator DX11 Benchmark」(グラフ7、8)だ。
GTX 660のスコアは上位モデルのGTX 660 Tiに対し8割~9割程度の結果となっているのだが、少々特徴的なのはテストの負荷が大きくなると両GPUの差が縮まっている点だ。この傾向は、GTX 660が高負荷時にパフォーマンスの低下が少ないというより、GTX 660 Tiのメモリ帯域が大きな足枷になっていることを示していると見た方が適当だろう。
その他のGPUとの比較では、GTX 460に対してはNVIDIAが謳う通り1.8倍~2倍ほどのスコアを記録しており、HD 7870とはテストによって優劣が分かれる結果となった。なお、9800 GTはDirectX 11に対応していないため、ベンチマークを実行できていない。
●DirectX 9/10対応ベンチマークテスト
続いて、DirectX 9世代とDirectX 10世代のベンチマークテストの結果を紹介する。実施したテストは「3DMark Vantage」(グラフ9、10)、Unigine Heaven Benchmark 3.0(DX10)」(グラフ11)、「3DMark06 Build 1.2.0」(グラフ12、13)、「MHFベンチマーク 【大討伐】」(グラフ14)、「ファイナルファンタジーXIV オフィシャルベンチマーク」(グラフ15)、「Unigine Heaven Benchmark 3.0(DX9)」(グラフ16)、「Lost Planet 2 Benchmark DX9」(グラフ17)だ。
GTX 660のスコアは概ねGTX 660 Tiの9割程度となっているが、DirectX 9世代のベンチマークテストでは、3DMark06の高負荷設定や、Unigine Heaven Benchmark 3.0など一部のテストではGTX 660 Tiを上回るスコアを記録するなど、逆転している場面も見受けられる。一方で、競合製品のHD 7870には、ファイナルファンタジーXIVのHigh設定を除くGPU系のテスト項目で後塵を拝している。多くのテストで大差をつけられているというわけでは無いが、やや分が悪い恰好だ。
GeForce 9800 GTに対しては、NVIDIAが4倍以上のパフォーマンスを持つとアピールする通り、DirectX 10世代の負荷の高いベンチマークテストでは4~5倍の差をつけており、9800 GTがメモリ不足に陥るUnigine Heaven Benchmark 3.0の高負荷条件に至っては22倍もの差をつけている。DirectX 9世代のベンチマークテストでは2~3倍程度の差に留まるが、9800 GTに対するGTX 660のパフォーマンスは圧倒的であると言えるだろう。
●消費電力の比較
最後に消費電力の測定結果を紹介する。消費電力はサンワサプライのワットチェッカー(TAP-TST5)を利用して、各テスト実行中の最大消費電力を測定した。
【グラフ18】システム全体の消費電力 |
アイドル時の消費電力については、GTX 660が比較製品の中で最も低い106Wを記録した。この数値は、GTX 460より12W、9800 GTより25Wも低い数値であり、ゲームプレイ時以外の消費電力では過去のミドルレンジ、ミドルハイGPUより明らかに優位な結果となった。
一方、各テスト実行中の消費電力については、GTX 660は比較製品中2~3番手という結果で、もっとも消費電力が低い製品はGTX 460または9800 GTだった。GTX 460とGTX 660の消費電力差はテストによってばらつくが7~14W程度だが、9800GTとGTX 660では47W~59Wもの差がついている。ワットパフォーマンス的にはお釣りの来る程度の差に過ぎないが、なかなか大きな差であることもまた確かだろう。
●ミドルレンジGPUのリプレイスには魅力的以上、ベンチマーク結果を通してGTX 660のパフォーマンスを確認した。NVIDIAがアピールする通り、GTX 660はGTX 460や9800 GTのアップグレードパスとして大変魅力的なGPUであると言えるだろう。9800 GTとの消費電力差は少々気になるが、6ピン1系統の補助電源しか必要としないGTX 660なら、少なくともGTX 460からであれば差し替えるだけでアップグレードが可能だ。
一足先に登場したミドルハイGPUであるGTX 660 Tiについて、性能、消費電力、価格の3拍子が揃った製品であると評したが、GTX 660はそれ以上にバランスのとれたGPUに仕上がっている。GTX 660搭載製品は2万円前半~中盤程度の価格帯に展開されることになるとみられており、価格の下落によって2万5千円台でも販売されているGTX 660 Tiや、2万円前半の価格帯にあるHD 7870と競合することになるだろう。NVIDIAとAMD両社の28nmプロセス世代ミドルレンジGPUが出揃ったことで、今後このレンジの競争も激化していきそうだ。
(2012年 9月 13日)
[Reported by 三門 修太]