ドキュメントスキャナ「ScanSnap」用新ソフトウェアを試す
~S1500/1500M/1300/1100に適用可能。新機種「S1300i」も登場


 PFUのドキュメントスキャナ、ScanSnapシリーズに新機能を追加するソフトウェアがリリースされた。これらは既存モデルのS1500/1500M/1300/1100に適用することにより、Androidデバイスへの転送機能の追加、Dropboxとの連携、さらにオリジナル機能である「ScanSnap Folder」が利用できるようになるというものだ。このソフトウェアアップデートは、上記モデルのユーザーには5月25日から無償提供される。

 またこれに合わせて、既存モデル「S1300」の後継にあたる「S1300i」が発表された。前述の新機能に加え、従来モデルのハードウェアを改良することにより、スキャン速度の高速化を図ったモデルという位置づけで、こちらも同じく5月25日の発売が予定されている。

 今回は、新製品であるこの「S1300i」を例に、新しく追加された機能をチェックしていきたい。

「ScanSnap S1300i」。PFUダイレクト価格は27,800円。従来同様、楽2ライブラリ パーソナル V5.0のセットモデルも用意されており、こちらは32,800円となっている。いずれも従来モデルと同価格となるトレイを展開した状態。A4サイズのスキャンが可能
背面右側にUSB miniBポート、電源コネクタを備える。USBバスパワー駆動もサポートする本体右上のScanボタンを押すことでスキャンを実行する

●ソフトは全モデル共通。ハードの改良が施された「S1300i」のみ新型番
従来モデル(S1300、右)との比較。天板手前のロゴが異なるだけで、外観についてはまったく同一

 冒頭でも述べたように、今回新たに発表されたソフトウェアアップデートは、既存モデルS1500/1500M/1300/1100のユーザーに対して無償提供されるものだ。では従来モデルのS1300に対してこのソフトウェアアップデートを適用すれば新製品のS1300i相当になるかというとそうではなく、S1300iはハードウェアの改良によりスキャン速度の高速化が図られているため、速度についてのみ新旧モデルで違いが出ることになる。

 つまり、ソフトウェアのアップデートでは対応できない「スキャン速度の高速化」についてハードウェアの改良で対応したため、従来モデルと見分けるべく「S1300i」という新しい型番を付与した、という考え方になる。ちなみに速度は従来の5割増となっており、例えばファインモード(カラー200dpi相当)時であれば従来は6枚(12面)/分だったのが、9枚(18面)/分に向上している。具体的な速度の違いについては本稿の最後で紹介する。

 なお、写真を見てもらえれば分かるように、S1300とS1300iとは天板手前のロゴが異なるだけで、外観上の違いはまったくない。


●「ScanSnap Connect Applcation」で、Androidデバイスにスキャンデータを即転送

 では、ソフトウェアアップデートで追加された新機能を順に紹介していこう。操作手順の説明においては、すでに新しいソフトウェアがPC側にインストールされていることを前提にお読みいただきたい。

 まずはAndroid連携機能。ScanSnapで読み取ったスキャンデータをAndroidデバイスにすばやく転送する機能だ。2011年秋のソフトウェアアップデートで、スキャンデータをiPhone/iPadに転送する機能が追加されたわけだが、今回追加されたのはそのAndroid版ということになる。専用アプリの名前も同じ「ScanSnap Connect Applcation」で、アイコンのデザインなども同一だ。

 利用にあたってはまずAndroidデバイスに、専用アプリ「ScanSnap Connect Applcation」を導入しておく。このアプリを起動するとホストPCがAndroidデバイスの存在を認識するので(初回利用時のみパスワード設定および入力が必要)、この状態でScanSnapで読み取りを実行すると、スキャンデータがPCを介して無線でAndroidデバイスに即転送されるというわけだ。転送されたデータはそのまま開くこともできるほか、任意のアプリを指定して開いたり、「ScanSnap Connect Applcation」上で名前を変更するといった操作も可能だ。

 Androidデバイスの場合、iPhone/iPadに比べてファイルの取り扱いの自由度がもともと高く、microSDなどを経由してデータを移動させることもできるわけだが、わずらわしいケーブル接続などが必要なく、無線LAN経由ですばやく転送されるのは大きなメリットだろう。外出前に書類をすばやく手持ちのAndroidデバイスに取り込みたい場合にもぴったりだ。以下の手順紹介の最後に動画を用意しているので、あわせてご覧いただきたい。

 一点だけ気をつけたいのは、アプリの性格上、ファイアウォールソフトでひっかかる場合があること。アラートが表示された場合、「Scan to Mobile」というソフトに許可を与えてやるとよい。また導入時にAndroidデバイスがPCを自動認識できない場合は、PCのIPアドレスを直接指定してやるほうが手っ取り早い。コツとして知っておくとよいだろう。

初回利用時のみ、事前にホストPC側で「モバイルに保存」を起動し、接続許可のパスワードを設定しておく必要があるAndroidデバイスで「ScanSnap Connect Applcation」を起動するとPCに自動的に接続されるので、さきほど設定したパスワードを入力すれば準備完了。自動的に接続できない場合はIPアドレスを指定しての接続も可能ホストPC側の「モバイルに保存」の右上の表示が「待機中」になれば準備完了
書類をセットし、Scanボタンを押すホストPC側でスキャンが行なわれる。設定が正しければ、この画面の「アプリケーション」が「モバイルに保存」になっているはずだ読み取りが完了すると「モバイルに保存」を経てAndroidデバイスにスキャンデータが送信される
Androidデバイス上の専用アプリ「ScanSnap Connect Applcation」の一覧画面に、受信したスキャンデータが表示されるタップするとプレビューが表示される名前を変更したり、あるいは「開く」メニューから別のアプリで開くことも可能
【動画】ScanSnap S1300iでスキャンした書類がAndroidデバイス(Galaxy Tab)に送信される様子。ほとんどタイムラグなく送信できることがお分かりいただけるはずだ。なお、この動画では画面内に写っていないが、PCレスでスキャナからAndroidデバイスに直接送信されているわけではなく、画面外にあるホストPCを経由して送信されている

●クラウド連携機能の対象サービスに「Dropbox」が追加に

 続いてDropboxとの連携機能。今回の新しいソフトウェアでは、ScanSnapで読み取ったスキャンデータをDropboxに直接アップロードできるようになった。これまでもEvernoteやGoogleドキュメント、SugarSyncなどのクラウドサービスにアップロードする機能は用意されていたが、その選択肢として新たにDropboxが追加されたことになる。

 もっとも、多少なりともScanSnapを使ったことのあるユーザーなら、従来のソフトウェアであっても、スキャンデータの保存先をDropboxフォルダ内に指定しておけば、Dropboxにすばやくアップロードできたことはご存知だろう。したがって、これまで不可能だったことが新たにできるようになったわけではなく、メニューの中に「Dropbox」がプリセットされるようになっただけ、といったほうが実情に近い。

 とはいえ、クイックメニューにDropboxがプリセットされるようになったことで、アップロード前にファイル名を変更できるようになったのは利点と言えよう。デフォルトの「2012年05月21日11時00分00秒.pdf」といったファイル名のままDropboxに同期されてしまうと、あとから修正の手間がかかるわけだが、スキャンして保存する時点でリネームできるので、ファイルの整理整頓が随分と容易になった。初めてScanSnapに触れる場合も、自然なフローとして受け入れやすいだろう。

 ちなみにスキャンデータは、デフォルトではDropboxフォルダ内の「ScanSnap」フォルダに保存される。同期中の全PCにこれらスキャンデータが同期されると困る場合、Dropbox側の「設定」→「高度な設定」→「同期するフォルダを選択する」で、ScanSnapフォルダのチェックを外してやれば、そのPCとは同期されなくなる。Dropbox以外のクラウドサービスにも言えることだが、スキャンデータは容量が大きいこともしばしばなので、ハードディスクの容量に余裕のないPCでは、チェックを外しておくとよさそうだ。

保存先としてDropboxを指定できる。クイックメニュー使用時はスキャン完了後にこの画面が表示されるので、Dropboxを選択することでDropboxフォルダ下への保存を選択できるファイル名を変更した上で保存できるので、デフォルトの日時のファイル名のまま保存されてしまうということがない。また保存先のDropboxフォルダについてもここで指定できる
読み取り設定のアプリケーションでDropboxを指定することも可能だDropboxで同期しているすべてのPCにスキャンデータが同期されてしまうと困る場合、そのPCでDropboxの設定画面を開き、保存先フォルダのチェックを外してやるとよい

●「スキャンした書類を添付してメール」を自然な流れで行なう「ScanSnap Folder」機能

 3つ目として紹介するのは、Windows向けに用意される「ScanSnap Folder」という機能。前述の2つの機能が比較的わかりやすい内容であるのに対し、この機能については概念的にやや理解しにくいところがある。ともあれ、実際に使ってみると「おっ、なるほど」と思わせられるのは事実なので、以下に具体的な利用シーンを挙げながら紹介していきたい。

 例えば、メールになんらかのファイルを添付して送るケースを想定してほしい。業務でもプライベートでもよくありがちなシーンだ。この場合、まずメーラーを起動して「新規メールを作成」を選び、宛名と本文を書いてから、メールにファイルを添付するという流れになることが多いはずだ。

 この際、添付するファイルが、紙の書類やプリント済み写真だったとする。すでにドキュメントスキャナでスキャン済みであれば「ファイルを添付」ボタンを押してファイルを選択すればメールに添付できるが、この時点でまだスキャンを終えていなければ、いったんメール作成の画面を閉じるか最小化したのち、スキャンを行なってデスクトップなどにファイルを保存し、再びメール作成画面に戻って添付することになる。

 つまり、メール作成という作業の中にスキャンという工程が割り込んでくることで、メール作成の流れが一旦中断されてしまっているわけだ。すでに慣れてしまっていてこれらの作業フローに違和感を感じない人も多いだろうが、実際にはメール作成の作業とスキャン作業を切り替えながら行なうという、ちぐはぐなフローになっているわけだ。

 今回の「ScanSnap Folder」機能は、言うなればこれらメール作成作業の途中であっても流れを阻害せずにスキャンを行なえるようにするものだ。例えば先のフローで言うと、メールの宛名と本文を書いた後に「ファイルを添付」ボタンを押すわけだが、その参照先として「ScanSnap Folder」という一時フォルダが表示される。この画面を開いたままスキャンを行なえば、スキャンデータがこの「ScanSnap Folder」に保存されるので、すばやく添付して送信できるようになるというわけだ。

 この機能のキモは、メール作成画面を閉じたり最小化することなく、スキャンの工程がメール作成フローの中に組み込まれているということだ。今回はメール作成を例に紹介したが、必ずしもメール作成の用途に限ったものではなく、例えばSNSに写真をアップロードする際にこの「ScanSnap Folder」を使えば、写真選択のボタンを押す→「ScanSnap Folder」フォルダを表示→スキャン→ファイルを選択→アップロード、という流れで完了する。前もってスキャンしておかなくとも、作業しながら求められるがままにスキャンを行なえばいいというわけだ。

 なお「ScanSnap Folder」はあくまで一時保存用のフォルダなので、そこに保存されたスキャンデータは、設定した保存日数(デフォルトでは10日)が経過すると自動的に削除される。長期保存する場合は「ScanSnap Folder」機能を使わずに普通にスキャン、メール添付後に不要になるのであればこの「ScanSnap Folder」機能を使ってスキャン、という使い分けになる。「保存しなくていいから手元の資料をいますぐ相手に見てもらいたい」という用途はそこそこあるはずで、こうした使い方ばかりしている人にとっては、かなり画期的な機能といえる。従来とのフローの違いをお分かりいただけるだろうか。

 ちなみにこの「ScanSnap Folder」機能、読み取ったあとで保存形式(PDFもしくはJPEG)を選べるのも特徴だ。あわててスキャンしたところPDFのつもりがJPEGになっていた……というミスを防ぐという意味でも面白い。一定日数経過後にファイルが削除されることから、メールに添付するためにあわててスキャンした書類がデスクトップ上に放置状態になっていて、あとから削除していいかどうか迷うこともなくなる。従来のフローに慣れ親しんだユーザーは最初は戸惑うかもしれないが、ユーザーフレンドリーな機能であるので、一度は試してみてほしい。

ScanSnap Folder機能の紹介ダイアログ。一時保存のためのフォルダであることが明記されている具体的な例。資料をメールに添付して送ろうと宛名、タイトル、本文を書いたあと、肝心の書類をまだスキャンしていなかったことに気づいたとする。従来ならいったんメール作成を中断してスキャン作業を行なうが、ここでは普段と同じ要領で「添付」をクリックしてフォルダを開く「お気に入り」の中に「ScanSnap Folder」というフォルダがあるので開く(これはWindows 7の例)。当然ながら、この時点ではファイルは存在しない
続いて書類をスキャンする書類が読み取られる。「アプリケーション」が「ScanSnap Folder」になっているのがわかる「ScanSnap Folder」への保存にあたってファイル名を変更できるほか、この時点でPDFかJPEGかを選択できる
ファイル名を変更し、PDF形式で「ScanSnap Folder」に保存した。これを選択すればそのままメールに添付できるメールに添付しているところ。メール作成の流れを阻害せずにスキャンを行なえる

●新製品「S1300i」は従来モデルに比べて読取速度が1.5倍に

 以上がソフトウェアアップデートによって提供された新機能だが、最後に新製品「S1300i」のスキャン速度について触れておこう。今回のS1300iでは、制御基板と内部コントローラについて改良が施されたことで、従来モデルに当たるS1300に比べて読取速度が50%高速化された。具体的には以下の通りだ。確実に速くなっているのがお分かりいただけるだろう。

【表】S1300とS1300iの速度比較
モード解像度S1300i
(新製品)
S1300
(従来品)
ノーマルカラー/グレー150dpi、白黒300dpi12枚/分8枚/分
ファインカラー/グレー200dpi、白黒400dpi9枚/分6枚/分
スーパーファインカラー/グレー300dpi、白黒600dpi6枚/分4枚/分
エクセレントカラー/グレー600dpi、白黒1,200dpi1枚/分0.5枚/分
※いずれもACアダプタ利用時の値

 実際に試用した感想を述べると、最初何回か使った程度では、従来モデルであるS1300との違いをそれほど感じることはない。むしろ駆動音が変わっていることのほうが気になるくらいだ。ところがS1300iにすっかり慣れたあとに再び従来モデルのS1300を使うと、遅くて待っていられなくなっていることに気づく。つまり体感レベルでそれだけの速度差があるということだ。もっとスピーディに読み取りたいという理由でS1300ユーザーが上位のS1500に買い替えるケースはこれまでもあったが、今後はS1300iへ買い替えるという選択肢も出てきそうだ。

 ちなみに、本製品の直接の競合に当たるキヤノン「DR-P215」と比較した場合はどうだろうか。接続方法などの違いもあり同一条件での比較は難しいのだが、公称値だけで見るならば、カラーでの読み取りはほぼ同等、グレーモードの場合のみやや本製品のほうが遅い、という結論になる。

 もっとも、キヤノンDR-P215は原稿を左右から押さえるガイドを立てるのに一手間かかったりと、S1300iに比べてセッティングに一手間かかるので、数枚スキャンしてそのたびに片付けるか、一度使い始めるたびに何十枚と続けてスキャンするか、といった使い方によっても評価が変わってきそうだ。

●まとめ

 以上ざっと紹介したが、ハードウェアの改良というやむを得ない部分を除き、既存ユーザーに対しても最新の機能をソフトウェアアップデートで無償提供するという方針は、高く評価されるべきだろう。ニュースリリースでは新製品にあたる「S1300i」が大きくプッシュされているが、既存モデルに無償提供されるこれらソフトウェアアップデートについて、既存モデルのオーナーは見逃さずに実施しておきたいところだ。

 ドキュメントスキャナの市場では、先週新製品を発表したエプソンも含め、トップシェアであるPFU、そしてキヤノンの計3社が激しい戦いを繰り広げている。今年の年末から来年(2013年)にかけてはWindows 8の登場も予定されていることから、OSの作法に合わせたインターフェイスの改良や、新しい機能の追加、さらには新製品の投入という話も出てくることだろう。今回のPFUをはじめとして、各社製品の機能および使い勝手の向上に今後も期待したい。

(2012年 5月 21日)

[Reported by 山口 真弘]