ソニーの電子書籍端末「Reader」試用レポート
~無線LAN対応。ストアから直接購入が可能

「PRS-T1」。ソニーストア価格は19,800円。本体色はブラック、ホワイト、レッドの3種類をラインナップする。本製品と同時に発表された3G対応モデル「PRS-G1」は、やや遅れて11月25日の発売予定となっている

10月20日発売



 ソニーから電子書籍端末「Reader(リーダー)」の新モデルである「PRS-T1」が20日に発売された。E Inkに対応し目に優しい読書端末という基本コンセプトはそのままに、新たに無線LANに対応し、ストアから直接コンテンツを購入できるようになったことが特徴だ。今回は本製品についてレビューをお届けする。

●通信機能を持たなかった従来の「Reader」
かつてのLIBRIe(EBR-1000EP、左)、従来のTouch Edition(PRS-650、中央)と本製品の比較。なお、従来のTouch EditionおよびPocket Edition(PRS-350)は併売となる

 まずはソニーの「Reader」のこれまでについて、ざっとおさらいしておこう。

 北米で販売されていた「Reader」3機種のうち2機種が国内向けに投入されたのは、2010年12月。かつて同社が販売していた「LIBRIe(リブリエ)」の終息以来、3年ぶりに国内販売される電子書籍端末となった。

 初代「Reader」は、6型モデルの「Touch Edition(PRS-650)」と5型モデル「Pocket Edition(PRS-350)」の2機種がラインナップされていたが、3Gや無線LANといった通信機能を持たなかったため、コンテンツを読むためにはPCでストアに接続し、ダウンロード購入したコンテンツをUSBケーブルで本体に転送する必要があった。同時期に発売されたシャープの「GALAPAGOS」が無線LANを搭載し、本体から直接連携ストアにアクセスしてコンテンツが購入できたこととは対照的だった。

 またこれに関連して、Mac用の転送ソフトがリリースされず、実質Windows専用だったことも、ユーザーの不評を買った。そもそも通信機能を内蔵してストアからコンテンツを直接購入できれば何の問題もなかったのだが、いったんダウンロードしてから転送する仕組みを採用したことで、ことさらMac非対応であることがクローズアップされてしまったというわけだ。


●ボディは薄型軽量、最長5週間の読書が可能

 さて、今回発売された新型「Reader(PRS-T1)」は、これらの問題点を解消した意欲的なモデルに仕上がっている。Touch Edition(PRS-650)、およびKindle(第4世代)と主なスペックを比較したのが以下の表だ。

【表】Touch Edition(PRS-650)、Kindle(第4世代)とのスペック比較

Touch Edition(PRS-650)PRS-T1Kindle(第4世代)
サイズ(最厚部)119.1×169.6×10.3mm110×173.3×9.6mm114×166×8.7mm
重量約215g約168g約169.5g
解像度/画面サイズ600×800ドット/6型
ディスプレイモノクロ16階調 E Ink電子ペーパー
通信方式なし802.11 b/g/n
内蔵ストレージ約2GB(ユーザー使用可能領域:約1.4GB)約2GB(ユーザー使用可能領域:約1.25GB)
メモリカードスロットメモリースティック PRO デュオ、SDメモリーカードスロットmicroSDなし
バッテリー持続時間(メーカー公称値)約1万ページ、約14日間約14,000ページ、最長3週間(Wi-Fiオン)、最長5週間(Wi-Fiオフ、1日30分読書時)3週間(Wi-Fiオン)、1カ月(Wi-Fiオフ)
タッチ操作×
電子書籍対応フォーマットXMDF(mnh/zbf)、EPUB、PDF、TXT、.bookAZW、MOBI、TXT、PDF、HTML、DOC、DOCX、RTF
ZIP圧縮JPEGの読み出し××
電子書籍ストアReader Store、紀伊國屋書店BookWeb、RabooKindle Store
価格(2011年10月現在)14,800円19,800円109ドル(日本からの購入時。広告なしモデル)

 この表を見る限りでは、Touch Edition(PRS-650)よりも、スペックとしてはむしろKindle(第4世代)に近いことがわかる。ハード上の大きな相違点として挙げられるのはメモリカードスロットの有無と、タッチ操作に対応するか否かといったところだろうか。これを踏まえて、まずは外観と仕様面から本製品を見ていこう。

 筐体は従来と同様、アルミの素材を生かした高級感が売りだ。背面には滑り止めの加工が施されており、手触りも良好。世代を重ねるごとにコストダウンの跡が目立つようになりつつあるKindleと違い、チープさはまったく感じない。

 手に取ってまず感じるのは本体の軽さだ。わずか約168gという重量は、従来モデルに比べて47gも軽くなっており、手に持つとフワフワして落ち着かないほど。第4世代Kindleの約169.5gに匹敵する軽量ボディということになる。iPhone 4Sとは本体面積が倍以上違うにもかかわらず、重量は約30gしか差がないことからも、本製品の軽さがわかる。

従来のTouch Edition(PRS-650、左)、本製品(中央)、第4世代Kindle(右)重量はわずか約168g、厚みも9.6mm(最厚部)と1センチを切っている。オプションでカバーやライト付カバーも用意されているが、せっかくの軽さと薄さがスポイルされてしまうので、このまま使うのも一興だろうiPhone 4S(左)との比較。これだけ面積が違うにもかかわらず、重量差は30g程度しかない

 本体の厚みは8.9mm/最厚部9.6mmと、従来のPRS-650の9.6mm/最厚部10.3mmと比べるとそれぞれ0.7mm薄くなっている。「たかだか0.7mm」と思うかもしれないが、本体の軽量化との相乗効果もあり、実際に手に持つと数値以上に薄くなったように感じられる。バッグの中に無造作に入れると、書類の束に紛れて見失ってしまうレベルの薄さだ。

 本体面積は約110×173.3mmで、PRS-650の約118.8×168mmに比べるとやや縦長だが、画面サイズ(6型)と解像度(600×800ドット)は従来と変わらない。詳細は写真をご覧いただければと思うが、ベゼル部の幅の違いによるもので、よりポケットなどに収めやすい筐体幅になったと言えるだろう。

本体上面。以前はここにカードスロットと電源ボタンがあったが、本製品ではなにもなくすっきりしている本体底面。リセットボタン、microUSB端子、イヤフォン端子、電源ボタンを備える。端子やボタン類を分散させずに同じ面にまとめるのは、第4世代Kindleをはじめ昨今の電子書籍端末に共通する特徴のひとつ本体左側面。microSDスロットを備える
本体右側面。従来モデルではタッチペンが収納できたが、本製品では本体に挿入口はなくなり、タッチペンは添付されるだけになった本体裏面。従来モデルと同様、滑り止めの加工が施されている。スピーカーなどの機構はとくにない左側面のmicroSDスロット。従来モデルでは2種類のメモリカードスロット(SDHCカード/メモリースティックPROデュオ)を搭載していたが、今回はmicroSDのみに改められた。32GBまでの容量に対応する
付属のタッチペン。文字入力や手書きメモなど細かい操作に向くが、あまり出番は多くない本体下部に5つのボタンが並ぶレイアウトは従来と同じだが、従来(写真上)は「ページを戻る」「ページを進む」「ホーム」「ズーム」「オプション」だったのに対し、本製品(写真下)は「ページを戻る」「ページを進む」「ホーム」「戻る」「メニュー」と、Androidに準ずるボタン構成に改められている従来モデルとのサイズ差はおもにベゼル幅の違いによるもので、画面のサイズは同一。サイズ的には新書に近い

 本体のメモリ容量は約2GBで、ユーザー使用可能領域は約1.4GB。書籍なら約1,400冊、コミックなら約35冊が保存できるとされている。容量約2GB/ユーザー使用可能領域約1.4GBという値は第4世代Kindleとおおむね同等だが、本製品はmicroSDスロットを搭載し、最大32GBまでの容量を追加できる。自炊派のユーザーにとっては、これは大きなメリットだろう。音楽再生にも対応するので、たくさんのMP3ファイルなどを入れるのにも向く。

 バッテリの持続時間については、無線LAN機能をオフにした場合、最長5週間の読書が可能とされている。前提条件が若干異なるが、同じく無線オフでの持続時間が約1カ月とされるKindleに比べると若干長いことになる。ちなみに画面上部をタップすれば、無線LAN設定およびダウンロードの通知画面が表示されるので、そこから無線LANをこまめにオン/オフすることができる。

音楽再生にも対応する。本体にスピーカーは備えないため、イヤホンが必須となる画面上部をタップすれば、無線LAN設定およびダウンロードの通知画面が表示される。もっとも無線LANはデフォルトで5分後に自動オフになるので、利用する機会はあまりないかもしれない

●ホーム画面は若干マイナーチェンジ。おすすめコンテンツの配信も

 続いて読書関係の機能を見ていこう。

 起動すると表示されるホーム画面は、直前まで読んでいた書籍1つが上段に、最近追加された書籍3つが中段に並ぶ。また、下段に並ぶ4つのボタンからは、その他書籍の呼び出しや、Reader Storeへの接続が行なえる。ちなみにこのホーム画面は次画面もあり、そちらでは辞書やメモなどのアプリケーション起動、ブラウザや写真、音楽再生機能の呼び出しが行なえる。

起動直後のホーム画面。従来とはレイアウトが変更になっており、右上の空白がやや間延びして感じられる画面上部には、Reader Storeからのおすすめコンテンツが定期配信されるホーム画面の2ページ目。ブラウザなどの機能にアクセスできる。タブ切り替えに近いレイアウトだった従来に比べると、2ページ目があることにやや気づきにくい

 書籍はリスト表示もしくはサムネイル表示のいずれかから選択できる。並び順は従来と同じく、日付、タイトル、著者名、ファイル名、閲覧履歴の順に並べることができる。ホーム画面で表示できる閲覧履歴は1件だけなので、ここを閲覧履歴順にしておけば、最近読んだ複数の本をさかのぼって呼び出すのに便利だ。

 これらの画面デザインは、基本的に従来モデルを踏襲しているものの、微妙なレイアウトの違いが随所に見られる。本製品は従来モデルと違ってAndroidベースのOSで動作していることが確認されており、おそらくOSを変更する過程で細かな差異が生じたのではないかと思われる。使い勝手を重視した結果と思える変更点(従来は画面内にあった「戻る」ボタンが下部のハードウェアキーに統合された点など)がある一方、あまり必然性の感じられない細かなデザイン変更も見られるのは、OS変更にともなってイチから作り直したためと考えれば納得が行く。

書籍をリスト表示したところ。右端のアイコンは保存先がmicroSDであることを示す。同一コンテンツが本体とmicroSDそれぞれに保存されていると、同じタイトルが2行にわたって並ぶ場合もある書籍をサムネイル表示したところ。並び順などは右上から変更できる。ここにはないが、購入時点であらかじめ31冊のコンテンツ(第1章相当)がプリインストールされている使用許諾契約書には、Androidに関する表記が何カ所かに見られる

●ページめくりの挙動は従来とほぼ同じ。辞書に「大辞林」が追加

 ページめくりの挙動についても見ていこう。16階調グレースケールのE Ink電子ペーパー「Pearl」を中心とした表示周りの仕様は、従来モデルとは大きな変化はない。ページめくりの反応速度は若干速くなっているようにも見えるが、一方で文字サイズを変更した際の再読込のスピードなど、むしろ遅くなったと感じられる部分もあり、一長一短だ。E Inkの特性である白黒反転についても従来と同じだ。

【動画】従来のTouch Edition(PRS-650、右)とのページめくりの速度の比較(XMDFコンテンツ)。連続してページをめくった際は本製品の方がやや速いが、通常のページめくりにおいては大きな違いはない。なお本製品はピンチイン/アウトで拡大縮小が可能

 一方第4世代Kindleと比較すると、レスポンスはやや緩慢に感じられる。またKindleでは、E Ink特有の白黒反転を数ページに1回しか起こらないよう抑制するモードがある(ただしPDFは非対応)が、本製品にはそうしたモードはないため、第4世代Kindleに慣れた後に本製品を使うと、画面が切り替わるスピードに不満を感じがちだ。E Inkの世代が違うのか、それともCPUなどのパフォーマンスによるものかは不明だが、今後のブラッシュアップが望まれる部分だ。

【動画】第4世代Kindle(右)とのページめくりの速度の比較(PDFコンテンツ)。キーを押下した際のレスポンス、連続してページをめくった際の速度、いずれも第4世代Kindleのほうが速い。念のためコンテンツの保存先をmicroSDから本体に切り替えて試してみたが、結果は同様だった

 ページめくりの操作については、本体下部のボタンか、タッチ操作のいずれかで行なう。タッチスクリーンは新たにピンチイン/アウトに対応するようになり、細かい部分を拡大してチェックすることが容易になった。シャープ「GALAPAGOS」のように、画面をピンチイン/アウトして離すとその文字サイズに合わせてページ全体がリフローする仕様ではなく、純粋に一部分を拡大/縮小のための機能だ。ちなみに文字サイズは8段階で調整が可能となっている。

ページめくり設定画面。タップでのページめくりに対応しないのは従来モデルと同様書籍の本文を表示したところ。これはXMDF形式文字サイズは8段階で調整可能。従来の6段階からさらに細かい指定が可能になった
前回と同じ、うめ氏「東京トイボックス」第1巻を表示してみた。明朝体の横棒のカスレなど、表示の傾向は同じだ「Jコミ」で配布されている、赤松健氏の「ラブひな」第1巻を表示したところ。こちらもモアレの具合など表示特性は従来モデルに準じている。PDFの左右の余白部分がグレーで表示されるのも変わらない

 ハイライトや手書きメモ機能、さらにブックマーク機能は従来モデルと基本的に同じ。ネットに接続できるようになったことから、WikipediaやGoogle連携の機能が加わったのが目立つ程度だ。個人的には、画面の上の隅をタップするだけでブックマークがつけられる容易さは、もっと評価されていいと感じる部分だけに、本製品にそのまま継承されたのは嬉しいところだ。

長押しのあとでドラッグするとテキストを選択できる。ハイライトやメモ(テキストもしくは手書き)をつけられるほか、WikipediaやGoogleにジャンプして検索することも可能画面の隅をタップするとブックマークがつけられる。ベゼル部の段差でやや押しづらいが、直感的につけられる点は他製品も見習ってほしいところだ

 従来モデルから変更があった点として、辞書機能の拡充があげられる。従来モデルは英和辞典の「ジーニアス英和辞典第四版」、英英辞典の「New Oxford American Dictionary」という英語系辞書しか搭載されておらず、日本語コンテンツを読む端末の仕様としてはやや不可解だった。本製品では国語辞典として「大辞林第三版」が追加されたことで、意味のわからない単語を調べながら読書する際に、かなり使える仕様になった。

「大辞林第三版」ジーニアス英和辞典第四版」「New Oxford American Dictionary」の3つの辞書を搭載する辞書機能は本文から呼び出すことも可能なほか、辞書単体でも利用できる

●Reader Storeに端末からアクセスし、コンテンツの直接購入が可能

 次に通信まわりの機能と、ストアの使い勝手について見ていこう。

 本製品は通信方式としてIEEE 802.11b/g/nの無線LANに対応。Reader Storeにも専用のインターフェイスが用意され、本製品から直接アクセスしてコンテンツを購入できるように改められた。ちなみにReader Storeは先日「Sony Tablet」向けのアプリもリリースされるなど、対応機器も増えつつある。

 実際にReaderから電子書籍を購入してみよう。今回は筒井康隆著「大いなる助走(文春ウェブ文庫版)」を購入してみる。前回の初代「Reader」のレビュー時に登録したMy Sony IDをそのまま利用しているので、クレジットカード番号などはすでに登録された状態で行なっている。

 まずは「Reader Store」にアクセス。今回のように目的の書籍が決まっている場合はトップページから検索するのが手っ取り早いが、文字入力の手間はなるべくかけたくないので、著者一覧から探すことにする。「著者一覧」→「つ」→「筒井康隆」で検索して、該当の書籍を探す。見つかったらタップして内容を確認した上で「カートへ」のボタンを押してカートに入れる。購入が完了するとリンクが表示され、ダウンロードが行なえるようになる。起動からダウンロード完了までに要する時間は3~4分ほどだ。

ホーム画面上にあるストアアイコンをタップするとそのままストアのトップページに接続される「著者一覧」をクリックすると五十音のリストが表示される。「つ」をタップする「つ」で始まる著者名がずらりと並ぶ。2列になっていることもあり、かなり探しにくい
著者名をタップすると検索結果が表示される。1ページに4冊しか表示されないため、著書が多いとページめくりがかなり面倒だ。サムネイルを省いて1ページに多くの書籍を表示するモードもほしいところ並び順はデフォルトでは「新着順」になっている。多数の本の中から目的の一冊を探すにはあまり向かない並び順を「書籍名順」に変更した。目的の本が見つかったので「カートへ」をタップする
カートの中に入った状態。そのまま購入するのであれば、画面下部の「購入手続きへ」をタップする時間が経っていたためか、ひとつ前の画面ですでにログイン済だったにもかかわらず再度ログインを求められた。パスワードだけが要求されるケースもあるようだ購入はクレジットカードのほか、ソニーポイントによる決済も可能となっている
内容を確認して問題なければ「購入する」をタップ。メールマガジンの購読がデフォルトオンになっているので不要であれば外しておく購入完了。ダウンロードは自動的には行なわれないので「ダウンロード」ボタンをタップする必要がある。なおコンテンツによってはダウンロードの有効期限が設定されている場合もあるダウンロード後にホーム画面に戻ると、中段の「最近追加された書籍」の欄に購入した書籍が表示されている。とくにホーム画面に自動遷移するといったことはない
コンテンツをタップすると問題なく開くことができた

 これらの手順は一般的なショッピングサイトと同じフローで、とくに分かりづらいわけではないのだが、Kindleと比較すると大きな違いが2つある。1つはパスワードの入力が求められる頻度が高いこと。何度か同じフローを繰り返してみたが、ログイン済であるにもかかわらず確認のためにIDとパスワードの入力を求められたり、あるいはパスワードのみを求められるケースが何度もあった。PCならまだしも、文字入力が容易とは言えない本製品ではややストレスだ。「面倒だから購入を取りやめた」となるケースも多いのではないかと感じた。

 もう1つは、多数の候補をわかりやすく見せる工夫ができていないこと。例えば著者名であれば「つ」で始まる著者は5ページにもわたっており、絞り込みもできないため、著者の名前を目で探しながらページを行ったり来たりしなくてはいけない。また書籍の並び順は「新着順」がデフォルトなのだが、これはReader Storeに登録された順序で、底本の公開順とは異なるので、直感的に探しづらいという問題もある。

 これらの問題点は昨年(2010年)のオープン時点のまま変わっておらず、今後書籍の点数が増えればさらに探しづらくなることが懸念される。メーカー側が問題点として認識していないのか、修正の優先順位が低く扱われているのかは不明だが、改善を期待したいところだ。

【動画】Reader Storeにアクセスし、ランキングページから「スティーブ・ジョブズ1」(講談社)のサンプルコンテンツをダウンロードし、本製品で表示するまでの様子。Kindle並みのシームレスなアクセスが実現できていることが分かる。ただしここでダウンロードしているのはあくまでサンプルコンテンツであり、実際に購入する場合は決済プロセスを経ることになる

 また、購入後のダウンロードが自動的に行なわれず、手動で操作しなくてはいけない点も、冗長に感じられる。Kindleであれば購入完了画面に遷移した時点ですでにダウンロードが始まっているのだが、本製品は手動で「ダウンロード」ボタンを押す必要がある。Kindleと違ってまとめ買いができるとはいえ、わざわざユーザーにボタンを押させる必要性は感じられない。

 と、もろもろ苦言を呈したが、端末単体で本を探して購入でき、そのままダウンロードして読めるのは、PCで買ってから転送していた従来モデルの手間とは比較にならないほど楽だ。Reader向けのこの画面はまだ公開されてから日も浅いわけだが、フロー自体はとくにおかしな部分はないので、今後は細かい使い勝手のブラッシュアップに期待したい。

 なお、「マイページ」からは、過去に購入したコンテンツの再ダウンロードを行なうこともできる。筆者が昨年12月にPC経由で購入したコンテンツも「購入履歴/再ダウンロード」のページに表示されており、ダウンロードして問題なく読むことができた。いわばクラウド上の書庫という形で、端末の買い換え時や、複数の端末を利用する際にも、My Sony IDにさえひもづいていれば不安はない。Kindleのような自動同期は、今後の課題ということになるだろう。

過去に購入したコンテンツの履歴。端末が変わっても再ダウンロードが可能だマイページではコンテンツの履歴のほか、認証された端末の詳細などが表示されている

●Rabooおよび紀伊國屋書店の電子書籍コンテンツも利用可能

コンテンツについてもチェックしておこう。

 昨年のスタート当初は2万冊とアナウンスされた「Reader Store」だが、2010年12月の時点で実際に購入可能だったのは1万冊ほど。6月には.bookに対応したことによって講談社のコミック数千冊が追加されたが、それらを含めずに書籍だけをカウントすると、現在も2万冊を少し超えた程度にとどまっている。コミック、そして雑誌を合わせて、なんとか3万冊に達するかというレベルだ。国内の他の電子書籍ストアと比較しても、とくに多いというわけではない。

「紀伊國屋書店BookWeb」では、Readerとの連携方法が解説されている

 もっとも、注目すべきなのは、楽天の運営する電子書籍ストア「Raboo」、そして紀伊國屋書店が運営する「紀伊國屋書店BookWeb」に新たに対応したことだ(Raboo対応は11月初旬と予告されている)。当面はPCで購入してからコンテンツを転送する方式しかサポートせず、端末からの直接購入は行なえないが、コンテンツ購入元は多ければ多い方がいいわけで、電子書籍端末の選択にあたってかなりの強みになることは間違いないだろう。ただしコンテンツ自体は各ストアで重複する場合もあるので、各ストアの取扱コンテンツ数を単純加算できるものではないことは、念頭に置いておきたい。

 なお、本製品の管理ソフト「eBook Transfer for Reader」はこれまでのWindows版のみ用意されていたが、新たにMac OS版も用意されるようになった。今回は試用できておらず対応は未確認だが、端末側から直接アクセスできない前述のストアからのコンテンツ転送において、Mac版の「eBook Transfer for Reader」を使うシチュエーションもあるのではないかと思われる。


Reader Storeのジャンル別一覧の「書籍」。4ページにわたって小分類が羅列されている同じく「コミック」。こちらは掲載誌ごとの分類
同じく「雑誌」。ちなみに販売は1冊単位ではなく、記事単位での販売となる。本稿執筆時点では、価格は42~53円週間ランキングのページも用意されている

 このほか、USB接続もしくはmicroSD経由で転送したPDFデータ、いわゆる「自炊」データについても読み込むことができる。ドットバイドットで画面表示するための解像度は、試した限りでは従来のReaderと同じ584×754ドットのようだ。文字のかすれをなくして美しく表示したいという場合、この解像度になるようリサイズをかけるとよいだろう。

●意外に? 実用的なインターネット接続機能

 電子書籍以外の機能で実用的だと感じたのが、インターネット接続機能だ。

 本製品はブラウザを搭載しており、ホームページの閲覧が行なえる。モノクロ16階調であるうえ、E Inkの特性からして動画の閲覧などは難しく、またFlashについてもサポートされないが、テキスト中心のサイトを閲覧するには、十分実用的だ。

 なによりメリットがあるのは料金面だ。というのも、本製品の3Gモデル「PRS-G1」は定額接続プランが用意されており、インターネット接続が月額580円という格安料金で行なえる。したがって、年間わずか7,000円で、外出先でReader Storeへのアクセスに加え、Webブラウジングまでできるようになるのだ。

ブラウザのホーム画面。GoogleやWikipediaなどへのリンクが用意されているGoogleの検索画面。ここではソフトウェアキーボードで「pcwatch」と検索弊誌トップページが表示された。モバイル版ではなくPC版の画面だ
【動画】ブラウザを起動してPC Watchにアクセスし、スクロールや拡大縮小を行なう様子。画像が多いページではパーツが読み込まれるたびに白黒反転が発生する欠点があるが、タッチ操作によるスクロールなどの挙動はなかなか快適

 インターフェイスについてもなかなか優秀だ。同様のインターネット接続機能はKindleも備えるが、タッチ操作に対応しないため、上下移動キーを押すたびに画面内のリンクに順番にフォーカスがあたっていくという、携帯電話に似た操作体系だった。その点、本製品はタッチ操作でスクロールも行なえ、タップすることでリンク先にジャンプもできる。画面の白黒反転にさえ目をつぶれば、ドラッグについてもそこそこ軽快に行える。

 また、日本語テキストの入力についても問題なく行なえるので、GmailやTwitterなども問題なく利用できる。端末そのものが薄型軽量で持ち歩きやすいこともあり、特定の人にはかなり刺さる機能だろう。

Twitterを表示したところ。こちらはPC版ではなくモバイル版に転送されたブラウザのウィンドウは同時に3画面までしか開けない制限がある

 一点だけ、Webブラウジングの際にネックとなるのが、本製品が上下方向への移動キーを持たないことだ。そのため画面の上下スクロールに使うキーはページめくりボタン、つまり左右方向への移動キーでの代用となる。多くはタッチ操作で代替できるとはいえ、文字入力時などは上下キーが必要と感じる場合もあり、いずれはKindleのような上下左右キーに置き換わっていくのではないかと感じた。

設定画面はAndroidの標準ブラウザそのままといっていい内容i-フィルターなども利用できる

●純粋な電子書籍端末としてはもちろん、自炊ユーザーにとっても魅力ある1台

 以上ざっと使ってみたが、ストアの使い勝手やE Inkの反応速度など、ブラッシュアップが望まれる部分はまったくないとは言えない。それでも、従来モデルに欠けていた箇所を1年かけて補い、電子書籍端末として非常に完成度の高いモデルに仕上げてきたことは、使ってみてすぐにわかる。

 とくに薄型軽量のハードウェアの完成度は高く、ライバルとなる第4世代Kindleに足りないメモリ容量もmicroSDで補えるとなれば、純粋な電子書籍端末として見た場合はもちろん、自炊ユーザーにとっても魅力のある1台だといえるだろう。従来モデルを見送ったユーザーであっても、今回の製品はチェックする価値は間違いなくあるはずだ。

 もっとも、本製品の本当の競合は、第4世代のKindleではなく、むしろ国内発売が噂されるKindle Touchだろう。本稿執筆時点では、日本語の電子書籍ストアに対応した専用端末の最右翼に挙げられる本製品だが、今後のKindle Touchの動向は視野に入れておいたほうがよさそうだ。

 また、専用端末に限定せず、液晶タイプのタブレットも含めて製品をチョイスするとなると、やはり決め手になるのはコンテンツの充実度であることは間違いない。新刊に強みを持つRabooや紀伊國屋書店との連携は歓迎すべきことだが、Reader Storeそのものの拡充も今後ますます期待したいところだ。

(2011年 11月 1日)

[Reported by 山口 真弘]