Keplerのローエンド向けモデル「GeForce GT 640」をベンチマーク

GV-N640OC-2GI

発売中
実売価格:10,980円



 NVIDIAから、Keplerアーキテクチャを採用したローエンド向けGPU「GeForce GT 640」(以下640)が発売された。今回、この640を搭載したGIGABYTE製ビデオカード「GV-N640OC-2GI」を入手できたので、簡単なベンチマークを交えたレポートをお伝えする。購入価格は10,980円だった。

●デスクトップ初のKeplerベースローエンドモデル

 NVIDIAのローエンド向けGPUシリーズは、640の発表に先立って、GeForce 610/GT 620/GT 630の投入で600番台への移行を始めたが、この610/GT 620/GT 630はいずれも400番台と500番台、いわゆるFermiアーキテクチャの旧製品のリネームで、上位のGeForce GTX 680で採用されたKeplerベースのアーキテクチャではなかった。

 しかし6月4日に発売された640は、Keplerアーキテクチャをベースとした製品で、デスクトップ向けでは初採用となる。CUDAコア数は384基とされているが、これはモバイル向けに発表済みのGeForce GT 650Mなどと同等のスペックであり、このコアを流用したものと思われる。

 リファレンスのコアクロックは797MHzで、メモリはDDR3で、バス幅は128bit、メモリクロックは1.782GHzとされている。なお、640にはGDDR5搭載品と、Fermiコア搭載品もラインナップされているが、いずれも6月4日時点では市場では確認できなかった。今回入手したGV-N640OC-2GIもご多分に漏れず、KeplerベースコアのDDR3搭載モデルとなっている。

 GeForce GT 600番台のラインナップを下表にまとめたが、この表からもわかるよう640はGTシリーズ内最上位となっている。


【表1】GeForce GT 600番台比較

610GT 620GT 630GT 640
アーキテクチャFermiKepler
コアクロック810MHz700MHz810MHz720MHz797MHz950MHz
CUDAコア数4896144384
CUDAコアクロック1,620MHz1,400MHz1,620MHz1,440MHz797MHz950MHz
メモリ種類DDR3GDDR5DDR3GDDR5
メモリバス幅64bit128bit192bit128bit
メモリ速度1,800MHz3,200MHz1,782MHz5GHz

●GV-N640OC-2GI

 ベンチマークに移る前に、まずはGV-N640OC-2GI本体について触れていきたい。

 まず目に付くのは144mmと非常に短い基板長(ブラケット含まず)で、このあたりはさすがローエンド向けといったところ。しかしGV-N640OC-2GIはクーラーのカバーが基板から35mmほどはみ出しており、結果として180mm前後のカード長となっている。

 そのクーラーだが、2スロット占有タイプで、ヒートシンクはIntelのLGA1155リファレンスCPUクーラーのように、アルミニウム製で、放射状にフィンが伸びている。また、ファンは薄型ながらも9枚羽根で直径95mmのものとなっている。このあたりはローエンド向けながらも冷却性を重視した結果と思われる。また、ブラケット部にも排気口を配しており、冷却性に気を遣っていることがわかる。

 カード上にPCI Express補助電源コネクタを備えておらず、PCI Expressからの電源供給のみで動作する。そのためか電源周りの実装は簡素なものとなっている。このあたりも、当初からモバイル向けに設計されたことを示唆するようなものとなっている。

 ディスプレイインターフェイスはDVI-D×2、ミニD-Sub15ピン、HDMIを備える。ブラケットが2段あるので、それを使って出力を1系統増やした格好だ。

 保証外となるが、クーラーをはずしてみたところ、GPUとメモリの型番が確認できた。GPU刻印は「GK107-300-A2」で、KeplerのGK107コアで間違いはないようだ。チップのサイズは実測で11×11mm(幅×奥行き)で、ダイサイズは120平方mm前後だと推測できる。一方メモリはSamsungの「K4W2G1646C-HC11」で、スペックシートのデータによればグラフィックス向けDDR3で、1.8Gbps品となっている。

GV-N640OC-2GIのパッケージ付属品などGV-N640OC-2GI本体出力インターフェイス
大型のファンを搭載したクーラークーラーは2スロット占有GPUクーラーを外したところ
GK107-300-A2の刻印メモリはSamsungのK4W2G1646C-HC11簡素な電源部
GPU-Zの結果

 なお、本製品のコアクロックは1,050MHz、メモリは1.8GHz駆動とオーバークロックされている。メモリは採用メモリの規格通りへのOCだが、コアクロックはリファレンス設定より32%も高い計算だ。しかし、同時に発売された640は各社すべてDDR3モデルだったのにもかかわらず、リファレンスコアクロック通りモデルは皆無であり、すべてが900MHz超えとなっている。そのため今回はこのままのクロックでベンチマークを継続した。



●ベンチマーク環境

 ベンチマーク環境は下表の通り。CPUはPentium G630Tとやや非力だが、システム全体のバランスを考慮し、ローエンド向けGPUをテストするのに足かせになることはまずないだろうと判断した。

【表2】テスト環境
CPUPentium G630T(2.3GHz)
メモリKingmax KHX1600C8D3K2/4GX(2GB×2、DDR3-1600)
マザーボードP8Z77-I Deluxe
SSDKingmax SNV125-S2/30GB
OSWindows 7 Ultimate (64bit)
電源Abee ZUMAX ZU425
ドライババージョンNVIDIA GeForce R300 Driver Ver.301.42
Galaxyの「GF PGTS450SuperOC/1GD5 FUJIN 2.1」

 比較用にはGalaxyの「GF PGTS450SuperOC/1GD5 FUJIN 2.1」をチョイスした。型番的には「GeForce GT 440」と比較するべきであろうが、これはGeForce GT 630へリネームされたため、明らかに下位の位置付けとなった。

 一方、本来は価格帯が非常に近い「GeForce GTX 550 Ti」や「GeForce GTX 560 SE」などを用意すべきだったが、スケジュールの関係で用意できなかった。よって、GeForce GTS 450を搭載したGF PGTS450SuperOC/1GD5 FUJIN 2.1(以下、450)を参考スコアとして掲載したい。

 なお、この製品もコアクロックを888MHz/メモリクロックを4GHzにオーバークロックしたモデルであり、550 Tiにあと一歩届かない性能と予測される。ただしメモリバス幅が同じ640と同じ128bitのため、640の良いライバルと言えるかもしれない。


●DirectX 11では比較的好スコアをマーク

 まずは「3DMark 11」のPerformaceプリセット(グラフ1)であるが、総合スコア、グラフィックススコアともに450に一歩迫る(-2.7%)ところまで来ており、かなりの好結果と言える。Keplerアーキテクチャの良好な設計をそのまま反映できているといえるだろう。

【グラフ1】3DMark 11

 同じくDirectX 11のテストを行なうUnigineの「Heaven Benchmark 3.0」(グラフ2、3)は、1,366×768ドット時では450に-3.8%まで迫るものの、1,920×1,200ドット(WUXGA)解像度では-14.3%ほどに引き離された。

【グラフ2】Heaven Benchmark 3.0スコア
【グラフ3】Heaven Benchmark 3.0フレームレート

 GV-N640OC-2GIのメモリバンド幅は計算上28.8GB/secであり、GF PGTS450SuperOC/1GD5 FUJIN 2.1の64GB/secの半分にも満たない。このあたりが高解像度スコアの足を引っ張っている。しかし逆に半分のバンド幅でも450の8割強の性能を維持できている、と見ることもでき、Keplerアーキテクチャではメモリ帯域をうまく利用しているとも捉えられる。

 DirectX 11対応ゲームの「Lost Planet 2」のDirectX 11ベンチマーク(グラフ4)の結果でも、GF PGTS450SuperOC/1GD5 FUJIN 2.1比で約9割前後の性能をマークし、良好なスコアを示した。2世代前ではあるものの、NVIDIAの中でワンランク上という扱いのGTSにここまで迫ることができ、高効率アーキテクチャのKeplerの名に恥じない結果と言えるだろう。

【グラフ4】Lost Planet 2(DX11)ベンチマーク

●DirectX 10/9はやや苦手。メモリバンド幅が足かせか

 続いてDirectX 10対応のベンチマーク「3DMark Vantage」(グラフ5、6)、「3DMark06」(グラフ7)、「Lost Planet 2」のDirectX 9ベンチマーク(グラフ8)だが、こちらはGF PGTS450SuperOC/1GD5 FUJIN 2.1にやや置いて行かれる結果となった。良くて8割強、特に3DMark06のWUXGAのSM 3.0結果に至っては7割ぐらいしか性能が出なかった。

 もちろん、ドライバの最適化もあるのだが、これらのベンチマークではシェーダープログラム自体が軽くて、むしろメモリバンド幅が大きな足かせになっていると思われる。特に高解像度のスコア差が顕著になっているので、GDDR5ではなく、DDR3メモリの採用が惜しまれる。

【グラフ5】3DMark Vantage
【グラフ6】3DMark Vantage Feature Test
【グラフ7】3DMark06
【グラフ8】Lost Planet 2(DX9)ベンチマーク

●消費電力とGPU温度

 最後に、アイドル時とHeaven Benchmark 3.0実行中の消費電力(グラフ9)だが、システム全体でアイドル時は39W、負荷時でも81Wと非常に優秀な結果を残した。両製品ともにオーバークロック版であることを考慮しても、「(もちろん、Heaven Benchmarkでの比較だが)約9割の性能を半分以下の消費電力で叩き出せる」というのはなかなかのインパクトがある。

 この消費電力なら、非OC版の640で、さらにCPU側にもTDPの低いモデルを採用するなど、ちょっと工夫を凝らせば、90WのACアダプタ1本で駆動できるだろう。さすがモバイル向けにも採用されただけのことはある。

【グラフ9】消費電力

 また、GPU温度は、室温26℃の環境下でアイドル時で37℃、フルロード時(Heaven Benchmark 3.0実行時)で44℃となった。クーラーが違うので横並びで比較できないが、ヒートパイプを2本採用した大掛かりな冷却機構のGF PGTS450SuperOC/1GD5 FUJIN 2.1がアイドル時でも42℃、フルロード時に69℃だったことを考えると、非常に優秀な結果と言えるだろう。

【グラフ10】GPU温度

 静音性については、主観的な評価だが、アイドル時/フルロード時ともに風切り音や軸音はほとんどなく、良好な結果となった。唯一、残念なのはむしろフルロード時にややコイル鳴きが聞こえる点だが、これは個体差の可能性もあり、また、ケースに収めてしまえば聞こえなくなるレベルだろう。

●ライトユースにオススメ。ネックは価格とDDR3採用

 以上、簡単なベンチマークを行なったが、何よりも「低消費電力、低発熱の割に高性能」というのが印象的。これだけ高効率化が進んでいるであれば、ローエンドの世代交代もスムーズに行なわれるだろう。

 本製品のネックになるのは、おそらくDDR3メモリ採用によるバンド幅の不足と、製品の価格だろう。ベンチ結果から明らかな通り、DDR3メモリではバンド幅不足が足を引っ張っている。GDDR5搭載品ではこの問題が解決され、450より良い結果が想定されるだけに惜しい。

 価格も、8,000円台から発売されているものの、多くのモデルは1万円を超えており、この価格帯ではGeForce GTX 550 TiだけでなくGeForce GTX 560 SEも視野に入ってくる。また、ライバルのRadeon HD 7750/7750もひしめく市場だ。消費電力と性能を天秤にかけた場合640は選択肢に入るが、コストパフォーマンスで考えた場合、他製品に分がある。価格がこなれてきて、7,000円以下で入手できるようになれば、ローエンドの決定打になるだろう。

(2012年 6月 12日)

[Reported by 劉 尭]