マウスコンピューター「LuvBook X」先行プレビュー
~1kgを切るカーボンファイバー製Ultrabook

LuvBook X

発売日:未定
価格:89,800円~109,830円



 株式会社マウスコンピューターからUltrabookが登場する。製品名は「LuvBook X」だ。まだ、発売時期は確定していないが、最終試作段階の実機に触れて、解説を聞く機会があったので、ファーストインプレッションをお届けする。なお、量産試作機のため、実機とは異なる部分がある可能性があるので、あらかじめご了承いただきたい。

●すべては1kgを切るために

 LuvBook Xには、4つの大きな特徴がある。

1)11.6型液晶を採用したUltrabook
2)3面にカーボンファイバーを採用
3)985gと1kgを切る軽量性
4)Mini DisplayPort、USB 3.0の装備

 「薄い」、「起動が速い」、「長時間駆動」それがIntelのUltrabookのコンセプトだ。ところが、ノートPCをカバンに入れて電車で運ぶという日本のモバイル事情と、ノートPCを自動車に乗せて運ぶ米国のモバイル事情は大きく異なる。

 確かに、モバイルにおいて厚みが21mm以下でかさばりにくく、そして起動時間が短く、さらに駆動時間が長いというのは重要な要素だ。しかし一般的な13.3型Ultrabookは1.3kg台、11型でも1.1kg台であり、国内メーカーの1kgを切るモバイルノートとは結構差がある。実際にノートPCを1日持ち歩いた経験があるとわかるが、このわずか差は感覚的にかなり大きい。

 つまり、日本の「Let'snote R/J」(パナソニック)や「dynabook RX1」(東芝)、「VAIO type G」(ソニー)など、1kg以下を極めた日本のモバイルノートに、Ultrabookが追いついたかというと、まだまだといった状況だった。そこでLuvBook Xでは「日本ユーザーが実際に持ち歩けるUltrabook」を開発テーマに置き、「1kgを切る」ことを絶対条件にしたという。

 軽量化を実現するために、ボディにはカーボンファイバーを採用した。カーボンファイバーの軽量さと強さについては、F1を始めとする自動車分野、釣竿やゴルフクラブなどスポーツギア分野での採用実績などで定評がある。

 モバイルノートPCでは「ThinkPad」や「VAIO Z」での採用実績があり、Ultrabookでもデルの「XPS 13 Ultrabook」などで採用例があるが、LuvBook Xでは、天板、キーボードカバー、底部の3面に、このカーボンファイバーを採用していることが最大の特徴だ。天板がカーボンファイバー製で強度が確保できているため、液晶のLEDのバックプレートを省略でき、薄型化と軽量化に貢献したという。

本体天板。カーボンファイバーの繊維が見える本体底面もカーボンファイバー採用液晶を開いたところ

 カーボンファイバーは強度がある代わりに加工しにくいので、精度が悪いと組み付けできないし、修正もできない。3面採用は、カーボンファイバー同士の組み合わせになるので、さらに高い加工精度が要求される。ここが開発において一番苦労したところだという。しかしこれらの苦労の甲斐もあって、985gと目標値を下回る軽量性を実現した。

 なお、液晶周囲の部分のみグラスファイバーになっている。これは、液晶部分に無線LANなどのアンテナを内蔵していて、電波の透過性を確保するためだ。アンテナ部周辺に金属素材を用いず電波の透過性を高める手法は、ほかのノートPCメーカーも実践していることなので、本製品もそれを踏襲していると言えよう。

重量は実測でも985gACアダプタ込みで1,163gなので、一般的な13.3型Ultrabook単体を持ち運ぶより軽い計算だ

●価格は89,880円から、量販店でも販売

 LuvBook Xの正式発表日および発売日は未定だが、スペック構成と価格は決定している。構成は全部で4機種で、直販モデルが3機種、量販店モデルが1機種だ。

 直販モデルはCore i5-2467M(1.6GHz~2.3GHz、ビデオ機能内蔵)で、OSがWindows 7 Home Premiumの最小構成モデルが89,880円と9万円を切る。OSがWindows 7 Professionalだと94,500円、さらにOffice Personal 2010が入ると109,830円となる。量販店モデルは、Core i7-2657M(1.6GHz~2.7GHz、同)とWindows 7 Home Premiumで99,800円だ。

 一般的に直販と量販店の両方のルートで販売される製品は、直販ルートにはシンプルでハイパフォーマンスのモデルを、量販ルートにはミドルレンジ仕様でOfficeを標準搭載したモデルを流す例が多い。その流れからすると、Core i7のモデルを量販店のみ、Officeモデルを直販のみで扱うというのは、かなり変わった構成だ。しかもLuvBook Xの直販モデルはBTOに対応しない固定仕様だ。

 業務での使用を考えると、Core i7+Windows 7 Professionl+Officeという構成で購入したいというユーザーはいると思うので、少なくとも直販モデルでCore i7搭載機種は用意されるべきだと思う。一方量販店は、客層が広く商品知識が少ない人にも手離れ良く売るためには、Core i5+Officeの製品を用意すべきだろう。また、液晶自体は光沢タイプのみなので、ビジネス用途などでは非光沢タイプが欲しくなる人もいるかも知れない。

 なお、CPUとOS以外の構成は、Intel HM65 Expressチップセット、4GBメモリ、120GB SSD、11.6型1,366×768ドット光沢液晶となっている。SSDはコントローラにSondForce SF-2281を採用したADATA製の「XM11」となっている。

 インターフェイスは、USB 2.0×1(本体右側面)、USB 3.0×1(本体左側面)、mini DisplayPort×1、ヘッドフォン/マイク混合ジャック×1だ。ディスプレイ出力がHDMIではなく、mini DisplayPortなのは、別途用意される変換アダプタを経由してD-Sub出力を得るためだ。プレゼンテーションの際にプロジェクターを使うためにアナログ出力への要望は強いという。

 また、USBが1つだけ3.0なのは、SSDの容量が限られるので、外付けストレージをつなぐ際の速度を確保するためだという。なお、コントローラにはルネサス エレクトロニクス製のものが採用されている。

 無線LANはIEEE 802.11a/b/g/n対応(試作機ではRalink製)、BluetoothはAzurewave製チップのBluetooth 4.0だ。有線LANは、USB経由のアダプタが用意される。

 カードスロットは、microSD(microSDHC/microSDXC)のみという、かなり割り切った仕様だ。デジカメで主流のSDカードではなく、スマートフォンで主流のmicroSDに対応したところが、マニアックな選択だと言えるだろう。

本体右側面。USB 2.0、ヘッドフォン/マイクコンボジャック、microSDカードスロットを装備本体左側面。USB 3.0やDisplayPort、ACジャックが見える

 バッテリはリチウムイオン、セルはパナソニック製で、バッテリ駆動時間は5.5時間だ。この5.5時間という時間は短めに感じるが、「かなり厳しい条件下での数値」としているので、実際はもっと伸びるだろう。Core i5とi7では駆動時間の差がないのは面白い。消費電力に占める液晶やSSDなどの比率が高いということだろう。

 本体サイズは298×194×5.5~17mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は先述の通り985gに収まっている。同クラスの「MacBook Air」の11インチモデルと比べると、フットプリントがやや小さい上、100g弱も軽量だ。

MacBook Airの11インチモデルと比較天板の比較。カーボンとアルミの違いがよくわかる左側面を揃えたところ、わずかにMacBook Airより小さいことが分かる
背合わせで立てたところ厚みはほぼ同一だ
ACアダプタACアダプタの比較

●標準に近い配列のキーボード

 さて、前置きはこれぐらいにして実機に触れてみよう。

 本体は黒が基調で、天板や底板はカーボンの繊維が見えている。液晶のヒンジの間の部分だけはシルバーで、ここはブラッククロムメッキのステンレス製だ。この部分にファンがあり、熱伝導性を高めるために金属部品になったという。実際、各種ベンチマーク中にかなり熱くなっており、ここでも放熱をある程度まかなっているとみられる。本体裏の注意書きにも、通気口を塞がないよう書かれている。

 全体に平たく丸っこい印象で、エッジが強調されていない。MacBook Airと比較すると、上や下から見たときにデザインの差別化ができていると思う。横方向から見ると、クサビ型にコネクタが並んでいるので、ちょっと似てしまっている。

 キーボード配置は、モバイルノートとしてはかなりがんばったサイズだ。ESCキーの配置や、ひらがなの「ろ」の位置と大きさも普通だ。英語キーボード版を元にして、日本語キーボードに換装したのではなく、この製品のためにキーボードとカバーを作った甲斐があったと言えるだろう。11.6型液晶のモバイルノートということで、ある程度諦めていたが、思っていたよりもずっと普通に打てる。特に癖のない配列は好感が持てるところだ。

 あえていえば、カーソルキーの配置は好き嫌いがあり、ここはちょっとしわ寄せが出ている感じだ。また、左下隅がCTRLキーでその右がFnキーだが、これは逆の配置がいい人もいるだろう。Fnキーはキーコードが発生しないのでユーティリティ類で変更するのが難しい。現状ではBIOS設定で入れ替えることはできないという。文字キーを優先して、BSキーが小さくなっているのが気になる人もいるだろう。

クセのない配列キーピッチは約19mmと、このサイズとしては比較的余裕があるカーソルキーはややしわ寄せが来ている
大型のタッチパッド

 タッチパッドは大型で、クリックボタンが独立していないタイプだ。MacBook Airではタッチパッド全体がクリックできるようになっているのだが、本製品は手前側のみクリックできる仕組みなので、このあたりは好き嫌いがあるだろう。最近は、独立したボタンをクリックせず、その場でのタップを使うユーザーも多いので、こういう仕様になったそうだ。

 また、マルチタッチ対応だが、標準状態でこの機能をONにするか、OFFにするかはまだ決まっていないという。マルチパッドをONにしていると、予想外のところで、画面が拡大されたりしてびっくりするので、個人的には、マルチパッド機能をOFFにしておいた方が使いやすかった。現状のWindowsノートPCのマルチパッド機能は、デバイスドライバの機能によって実現されており、メーカーによって統一されていない動作もあるので、デフォルトはOFFで、使いたい人がONにするという設定が良いのではないだろうか。

 なお、タッチパッドは単独のON/OFFスイッチは付いていないが、Fn+F4キーでOFFにできる。また、ユーティリティ上からは、USBマウスを接続した際にパッドをOFFにする設定もできるようになっている。


●電源ボタンと電源LED

 電源ボタンは、キーボードの右上隅にある。このあたりはMacBook Airと共通するものがある。つまり、液晶を開かない限り、電源スイッチが動かないようにしたいという発想だ。

 電源スイッチは、使用頻度の高い「DELETE」と「BackSpace」に囲まれている。そのため、誤動作を防ぐために、電源のON/OFFは長押し、またはFnキーと同時押し下げでないと反応しない仕組みを採用した。ただ、個人的な好みとしては、誤動作はないと分かっていても、存在を意識してしまうので、電源スイッチをキーボード内に配置しないで欲しかった。

 電源の状態を示すLEDは、キーボード面ではなく、本体の左側面に配置されている。これは、PCがスリープ状態であることを、液晶を閉めた状態でも確認できるようにしたかったからだという。確かにカバンの中に入れても、LEDが確認できるのは便利で良い。

電源ボタンはキーボードの一部になっているCapsLockや無線LANインジケータはキートップ埋め込み式で、やや控えめ

 もう1つ、LEDをキーボード面につけなかったのは、ディスプレイ周辺に光るものを置きたくなかったからだという。そのため、キーボード周辺にもLEDはほとんどなく(TABキーに無線LANのインジケータがあるのだが、暗くて認識しにくい)、液晶周辺のグラスファイバーもつや消し仕上げになっている。

 ただ、そこまでこだわるのであれば、ヒンジ部分のクローム部材もつや消し黒にしてほしかったのが本音だ。

●ベンチマーク

 試作機ではあるものの、簡単なベンチマーク結果を紹介したい。なお、先述の通り、今回は量産試作機であり、量産機では実際の結果と異なる可能性がある。搭載されているCPUはCore i5-2467MでOSはProfessionalなので、直販の94,500円の構成だ。

 まずWindowsエクスペリエンスインデックスであるが、プロセッサは6.2、メモリは7.3、グラフィックスは5.7、ゲーム用グラフィックスは6.1、プライマリ ハード ディスクは7.9だった。この結果からわかるとおり、本製品はUltrabookながらまんべんなく高性能であるが、中でもプライマリ ハード ディスクの7.9は評価に値する。6Gbps対応の高速SSDを採用した賜物だろう。

Windowsエクスペリエンスインデックスの結果

 CrystalMark 2004R3も実行してみたが、やはり整数演算や浮動小数点演算、メモリ、およびグラフィックス周りのスコアに対し、ストレージの高スコアが目立つ結果となった。

CrystalMark 2004R3

 そのSSDを、CrystalDiskMark 3.0.1cでベンチマークしてみたところ、まずランダムデータであるが、シーケンシャルリード441.4MB/sec、同ライトで168.5MB/secと、SandForce SF-2281らしい結果となった。4KBランダムリード/ライトともに高速であり、リード/ライト処理にもたつくことはない。

 SF-2281が得意とする0Fillテストも行なってみたところ、シーケンシャルライトが431.7MB/secに高速化した。このコントローラは圧縮が効くデータだとさらに高速化されるという特徴を持っているが、LuvBook Xに採用されているADATA XM11もそれを踏襲する結果となっている。

CrystalDiskMarkの結果圧縮が効く0Fillにした場合

 また、せっかくUSB 3.0が用意されているので、CorsairのUSB 3.0メモリ「SURVIVOR」(容量16GBモデル)を接続して、CrystalDiskMarkでベンチマークしたところ、USB 2.0接続時と比較して約2倍強のリード速度を実現していることを確認できた。SSDは128GBしかないので、コンテンツで容量が圧迫された場合、USB 3.0の外付けストレージを積極的に使っていきたい。

USB 2.0の結果USB 3.0の結果

 実際の使用感も、やはりSSDの恩恵もあってか、キビキビ動くという印象。11型のノートPCであるということを忘れてしまうほどの軽快さだ。

●しごくまっとうなモバイルノート

 LuvBook Xは、マウスコンピューターの飯山工場製ではなく、海外の協力工場で製造されている。しかし、主要な4つの面のうち3つをカーボンファイバーにしたり、キーボードも専用品になっているなど、単純に海外製のUltrabookのキーボードとOSを日本語化した製品に比べれば、オリジナリティのある製品に仕上がったと言える。

 特にキーボードの配列は、モバイルノートとしては癖の少ないもので、この配列であれば多くの人に使ってもらえるだろう。既存のプロジェクターに対応するために、HDMIではなくMini DisplayPortを選択したところも、日本のビジネス実情をよく調べた結果だろう。

 メモリーカードスロットがSDカードではなくmicroSDだったり、電源ボタンとLEDの位置など、ちょっと捻ったところもみられるが、基本的にUltrabookのコンセプトをまっとうに踏襲している。

 そしてなによりも、「日本のモバイルノートは1kg以下でなければならない」という強い意志が形として表れている。その上で、最小構成で9万円を切る価格なのだから、魅力的な製品と言って良いだろう。

 ただし、直販や店頭モデルも含めて、商品構成だけは、もう一度考えてほしい。特にBTOに対応する必要はあるだろう。また、Ivy Bridgeの登場が確実に見えたタイミングで姿を表した製品だけに、できるだけ早く市場に出てほしい。素性が良いだけに、市場からのフィードバックを受けて、うまく育ってほしい製品だ。

(2012年 4月 26日)

[Reported by 劉 尭]