AMDは3月9日より、TDP 65W版のAMD A8シリーズAPU「A8-3820」を発売する。今回は、期待の製品として長らくその登場が待ち望まれていたA8-3820のパフォーマンスを、ベンチマークテストでチェックする。
●待望のTDP 65W版AMD A8シリーズ今回発売されるA8-3820は、LlanoベースのAPU最上位ブランドAMD A8シリーズ製品としてラインナップされる。これまでデスクトップ向けに単体で販売されていた同シリーズ製品は、いずれもTDP 100Wの製品だったが、A8-3820では65Wまで引き下げられている。
他のA8シリーズとCPUの基本スペックとGPUに変更はなく、4つのCPUコアと4MBのL2キャッシュ、内蔵GPUのRadeon HD 6550Dを備える。A8-3820では、TDPを抑制するため、CPUの動作クロックは2.5GHzに抑えられているが、自動オーバークロック機能であるTurbo COREのサポートにより、負荷に応じて最大2.8GHzまで上昇する。メモリコントローラのDDR3-1866対応など、その他の機能については先に登場したA8シリーズと同等の機能をサポートする。
CPU | A8-3820 | A8-3870K | A6-3670K |
コア数 | 4 | 4 | 4 |
CPU動作クロック | 2.5GHz | 3.0GHz | 2.7GHz |
TurboCORE | 2.8GHz | ─ | ─ |
L2キャッシュ | 4MB | 4MB | 4MB |
内蔵GPU | Radeon HD 6550D | Radeon HD 6530D | |
GPUクロック | 600MHz | 443MHz | |
GPU Streaming Processor | 400基 | 320基 | |
TDP | 65W | 100W | 100W |
対応ソケット | Socket FM1 |
AMD A8-3820 | CPU-Zの画面 | GPU-Zの画面 |
●テスト環境
今回のテストでは、ASUSのAMD A75搭載マザーボード「F1A75-V PRO」を利用して、A8-3820と比較対象として用意した「A8-3870K」「A6-3670K」のパフォーマンスを測定した。その他、テストに使用した機材は以下の表の通り。
CPU | A8-3820 | A8-3870K | A6-3670K |
マザーボード | ASUS F1A75-V PRO (BIOS:2201) | ||
メモリ | DDR3-1866 2GB×4 (9-10-9-28、1.5V) | ||
GPU | Radeon HD 6550D | Radeon HD 6530D | |
ストレージ | Western Digital WD5000AAKX | ||
電源 | Silver Stone SST-ST75F-P | ||
グラフィックスドライバ | Catalyst 12.1 | ||
OS | Windows 7 Ultimate 64bit SP1 |
●CPU処理中心のベンチマークテスト
まずはCPUベンチマークのテスト結果から見ていく。テストは「Sandra 2012.SP2 18.30」(グラフ1、2、13、14、15、16)、「PCMark05」(グラフ3、4)、「CINEBENCH R10」(グラフ5)、「CINEBENCH R11.5」(グラフ6)、「x264 FHD Benchmark 1.01」(グラフ7)、「Super PI」(グラフ8)、「PiFast 4.3」(グラフ9)、「wPrime 2.05」(グラフ10)、「PCMark Vantage」(グラフ11)、「PCMark 7」(グラフ12)だ。
比較製品中、動作クロックが最も低い2.5GHzであるA8-3820は、マルチスレッド対応ベンチマークにおいて、動作クロックが1.2倍のA8-3870Kと1.08倍のA6-3670Kに、おおよそクロック相当のスコア差をつけられている。一方で、「Super PI」などのシングルスレッド系ベンチマークでは、2.7GHz動作のA6-3670Kを上回る結果を記録しているものもあり、負荷に応じて2.8GHzまで動作クロックを引き上げるTurbo COREの効果が確認できる。
Sandra 2012.SP2 18.30で測定したキャッシュとメモリの帯域、レイテンシのテスト結果のうち、キャッシュ性能についてはおおよそCPUクロックに準じた傾向を示している。メモリアクセスについては、A8-3820がA8-3870に若干劣る程度の差にとどまった。今回比較した3製品は、いずれも同一アーキテクチャで基本仕様が同じCPUコアを備えているため、CPUやキャッシュの性能を測るベンチマークテストでは動作クロックの差がスコアへリニアに反映された形となった。
●GPU処理中心のベンチマークテスト
続いて、3Dゲーム系のベンチマークテストの結果を確認していく。
検証したテストは「3DMark06」(グラフ17)、「ファイナルファンタジーXIV オフィシャルベンチマーク」(グラフ18)、「MHFベンチマーク【大討伐】」(グラフ19)、「Lost Planet 2 Benchmark DX9」(グラフ20)、「3DMark Vantage」(グラフ21、22、23)、「3DMark11」(グラフ24、25、26)、「Lost Planet 2 Benchmark DX11」(グラフ27)、「Unigine Heaven Benchmark 2.5」(グラフ28)だ。
CPU系ベンチマークではクロック差に応じた差がついたA8-3820とA8-3870Kだが、3DMark VantageのEntryプリセットのような描画負荷の軽いテストを除き、ほとんどのテストで誤差レベルのスコア差に留まった。一方、CPUテストでは分の悪かったA6-3670に対しては3~4割程の差をつけており、A8シリーズのRadeon HD 6550DとA6シリーズのRadeon HD 6530Dのパフォーマンス差が見て取れる結果となった。
完全に同じスペックのGPUを内蔵するA8-3820とA8-3870Kの間で生じたスコア差は、主にCPUの性能差により生じたものと言えるのだが、これが大半のテストで誤差レベルに留まる。この結果から、A8-3820のCPUコアがRadeon HD 6550Dのボトルネックとなってしまうシーンは少ないことが伺える。
●消費電力の比較テスト
最後にシステム全体の消費電力を測定した結果を紹介する。
消費電力の測定は、サンワサプライのワットチェッカー「TAP-TST5」を利用して行なった。アイドル時の消費電力のほか、ストレステストツールの「OCCT Perestroika 3.1.0」で、CPUに負荷を掛ける「CPU:OCCT」、GPUに負荷を掛ける「GPU:OCCT」、CPUとGPUの両方に負荷を掛ける「Power Supply Test」をそれぞれ実行した際の消費電力を測定した。
アイドル時消費電力については、42~43Wで全モデルほぼ横並びの結果となったが、CPU負荷時にはA8-3820がTDP 100WのA8-3870Kが記録した143Wより、32W低い111Wで最も低い数値を示した。
GPU負荷時はA6-3670Kが66Wで最も低く、同スペックのGPUを備えるA8-3820とA8-3870Kの差は3Wに留まったが、CPU/GPU両方に負荷をかけたPowerSupply Test実行時の消費電力では、A8-3820がA8-3870Kより37W低くい140Wを記録し、A6-3670Kにも10Wの差をつけ最も低い結果となった。
【グラフ29】システム全体の消費電力 |
●グラフィックス性能を維持しつつ省電力化を実現
以上の結果から、A8-3820が、A8シリーズのグラフィック性能を維持しつつ、負荷時の消費電力を大きく抑えたモデルであることが伺える。この結果は、TDP 65W版AMD A8シリーズに掛けられていた期待に応えるものと言えるだろう。
TDP 65W版AMD A8シリーズは、当初よりその登場を期待されながらも、昨年(2011年)7月にLlanoベースのAPUが発売されてから、実に9カ月もの期間を経ての登場となった。当初はその登場を心待ちにしていたものの、定格外での動作を厭わなければ、A8-3820より柔軟に動作を設定可能なA8-3870Kを、既に手にしたというユーザーは少なくないだろう。
わずかに旬を逃しての登場となった感が否めないA8-3820だが、規定の動作においてA8-3870Kと遜色無いグラフィックス性能を維持しながら、省電力化を果たしたA8-3820は、現在のAPUラインナップにおいて魅力ある製品であることは確かである。Mini-ITX規格のマザーボードなどと組み合わせることで省スペースPCを作製する際などには、有力な選択肢となりそうだ。
(2012年 3月 9日)
[Reported by 三門 修太]