前回のWindows 7ボリュームライセンス紹介記事では、ライセンス契約を行なうことで得られるメリットや仕組みなどを紹介した。ボリュームライセンス契約はさまざまな利用方法を想定しており、その仕組みもきわめて複雑だ。このため解説も非常に長文となってしまい、読み解くのにはかなり苦労したと思う。
そこで今回は、個人ユーザーにとって大きなメリットとなる主要な項目について、すぐに理解できるよう、Q&A形式でより簡略化された解説を行なう。省略された部分については、前回の記事に詳しく記述されているため、もし興味を持たれた項目がある場合には、その部分について前回記事を参考にしていただきたい。
●前回記事の訂正はじめに、前回の記事について誤りが存在したため、以下に訂正させていただきます。
前回記事において『●DSP版やプリインストール版も「移動可能」に』として、ボリュームライセンスにおけるアシュアランス特典は、他のPCに移動可能であり、これによって、(通常はハードウェアに縛られる)プリインストール版のOSライセンスを実質的には他のPCへと移動可能である、と説明しました。
この件に関しては前回記事執筆時に確認を行なった際、
1. SA特典は他のPCへ移動可能である
2. これに伴って移動後のPCではWindows 7 Enterpriseを使用可能である
3. 移動元のPCではSA特典を付加する前のOSに戻せばそのまま使える
との説明を受けておりましたが、今回あらためて確認を行なった結果、以下の制限も加わることが確認できました。
4. SAを移動する場合、移動先のPCでは、その時点での最新のOSライセンスが必要
ここで「最新のOSライセンス」とは現時点ではWindows 7 Professionalであることを意味します。SA特典を他のPCに移動できること自体に間違いはないのですが、移動先にもWindowsライセンスが必要となります。
前回記事ではこの点を見落とした状態で「プリインストール版のOSライセンスを移動できる」と記述しておりました。結果として、あたかも使用可能なライセンスが1ライセンス増えるかのように解釈できますが、実際には、SAの移動に当たってはもう1ライセンスの購入が必要となります。
確認不十分な結果をお伝えすることになってしまい、読者および関係者の皆さんに多大なご迷惑をおかけしたことを深くお詫びいたします。
●使用できるエディションの制限についてQ. ボリュームライセンスではHome系のOSは使えないのですか?
A. 前回記事では説明しておりませんが、ボリュームライセンス契約は業務用途を主としているため、Windows 7の場合、利用できるエディションは、ProfessionalまたはEnterprise(ただしSA特典を付加した場合)のみとなります。ダウングレードライセンスで過去のOSを使用する場合も、XP Professional、Vista Business、Vista Enterprise(SA特典が必要)のみです。
Q. Home系のOSではボリュームライセンスは契約できませんか?
A. 上記と同じ理由で、Windows 7 StarterおよびHome Premiumエディションでは、ボリュームライセンス契約はできません。ただしWindows 7では「AnyTime Upgrade」サービスにより、StarterやHome PremiumからProfessionalエディションへのアップグレードが新たに行なえるようになりました。これによりProfessionalへアップグレードした後は、ボリュームライセンス契約によりSA特典を付加することができます。
●アップグレード元OSについてQ. ボリュームライセンスのWindows 7アップグレード版では元のOSを消さないといけませんか?
A. SA特典を付加しない場合には、必ずアップグレード元OSがセットアップされているPCに対してWindows 7をセットアップする必要があります。このとき元のOSは消去してください。SA特典もあわせて購入していた場合(L+SAを購入した場合)、元のOSが入っているPCとは別のPCにWindows 7をセットアップすることもできます。この場合、元のOSを消去する必要はありません。
Q. OEM版(プリインストール版)やDSP版のOSでも使えますか?
A. OEM版やDSP版でも、Professional(Business)エディション以上であれば、ボリュームライセンス版のWindows 7 Upgradeによりアップグレードできます。SA特典をあわせて購入してL+SAという形で購入するのであれば、このPCにWindows 7をセットアップできます。なおSA特典を購入している場合、元のOSを消去する必要はありません。
【お詫びと訂正】初出時に「他のPCにセットアップできる」旨の記述がありましたが、誤りでした。お詫びして訂正させていただきます。SAを購入している場合元のOSを消去する必要はありませんが、別のPCではなく同一PCが必須となります。
Q. 90日以内に購入したOEM版やDSP版のWindows 7をもっていますが?
A. 90日以内に購入したProfessional(Business)エディション以上のWindows 7ライセンスがある場合には、ボリュームライセンスで「SA特典のみ」を購入できます。この場合、対象となるPCをWindows 7 Enterprise(Ultimate相当)までアップグレードできます(他のPCにセットアップすることはできません)。またその他のSA特典も利用可能になります。
●SA特典とライセンスの継続についてQ. SA特典のメリットを教えてください
A. SA特典では、ステップアップグレードにより、Windows 7 ProfessionalエディションをEnterprise(Ultimate相当)エディションにアップグレード可能です。またSA特典では、Windows 7の仮想環境でのライセンスを最大4ライセンスまで使用できます。
このほかにも細かな特典があるほか、Windows 7の次バージョンのOSが登場した場合にはそのOSを使用する権利も得ることができます。ただしSA特典の2年間の期限内に次バージョンのOSが登場する可能性は不明です。
Q. Windows 7仮想環境ライセンスとは?
A. Virtual PCなどの「仮想PCソフト」上でWindows 7を実行するライセンスです。通常のWindows 7であれば仮想PC上のライセンスは仮想PCごとに1つずつ必要ですが、SA特典があれば、同一のハードウェア上で実行する場合に限り4ライセンスまで使用できます。
なお仮想PCソフトの種類に制限はありません。また仮想PC上でもダウングレード権は有効であるため、Windows XPやVistaなど、過去のバージョンのOSも使用できます。
Q. ボリュームライセンスの有効期限は?
A. ボリュームライセンスの有効期限は、Open Licenseの場合2年間です。SA特典の有効期限も、該当するボリュームライセンス契約と同じ期間となります。契約が満了しても、契約中に取得したソフトウェアのライセンスは失われません。
SA特典については契約期間終了後は無効となり、特典は得られません。ただし契約が終了した後90日以内に次の契約を行なった場合に限り、新規にライセンスを購入することなくSA特典のみを購入することで特典の権利を継続することができます。
Q. 契約終了後、次の契約を遅らせると次の契約の終了期間は、前の契約から継続して2年となりますか?
A. いいえ。ボリュームライセンスの契約は「その契約の開始日から2年間」です。これは前契約のSAを引き継ぐ場合でも同じです。下に掲載した前回記事の画像を確認してください。
下から2番目の契約は「2007-07-31」に満了していますが、すぐに次の契約を行なわなかったため、次回の満了日は「2009-08-31」になっていることがわかります。契約が切れている間はSA権限は使えませんが、それが問題無ければ、契約を遅らせることで1~2カ月間は得となることもありえます。
●使用できるライセンス数について
Q. ボリュームライセンスでは使用できるライセンス数は増えますか?
A. いいえ。ボリュームライセンスでも、使用できるのは購入したライセンス数のみであり、複数のPCで使用する場合には、PCの台数分のライセンスが必要です。ただし前述のように、SA特典を付加した場合で仮想PCを使用する場合に限り、同じPC上で「実OS」+「仮想OS」×4の、合計5ライセンスまで同時使用できます。
Q. アクティベーションできる数は違うようですが?
A. はい。Windows 7の場合、マルチプルアクティベーションキーにより、1つのキーで複数(50台)のWindows 7を同時にアクティベーションできるようです。ただしこれはあくまでその回数分のアクティベーションが可能というだけでライセンス数が増えるわけではありません。実際に使用してよいのは所有しているライセンス数に限られます。
Q. 32bit/64bit版のどちらも使えるようですが?
A. ボリュームライセンスでは32bit版、64bit版、いずれも使用できます。1つのライセンスでセットアップ可能なのは1台のPCのみですから、同時に使用できるのもどちらか一方に限られます(前述の仮想環境では、同一のPC上であれば32bit/64bitの混在もできます)。
●価格についてQ. ボリュームライセンス契約は本当に得なのですか?
A. 購入する形態と比較対象によります。市販パッケージ版と比較する場合には、ボリュームライセンスの方が確実に安価になります。販売店によって価格は違いますが、SA特典をあわせて購入しても、ボリュームライセンス契約の方が市販のアップグレードパッケージのWindows 7より安価です(ただし、特別な割引キャンペーンを除きます)。
Q. ハードウェアとセットで販売されるDSP版よりも安くなりますか?
A. 販売店によって異なりますが、現在予告されているWindows 7 Professional DSP版の販売価格と比較すると、ボリュームライセンスにSA特典を付加しなかった場合でほぼ同程度の価格となりそうです。ただしDSP版では32bit版/64bit版が別売ですが、ボリュームライセンスでは32bit/64bit版のどちらでも使えます。同時に使えるのは1つだけですが、両方を試したい場合にはボリュームライセンスの方が得です。
Q. ソフトウェア・アシュアランス(SA)は得なのですか?
A. SA特典を付加した場合には、DSP版と比較してSA特典の価格分だけボリュームライセンスは高価になります。仮想環境のライセンスなど、SA特典で得られるメリットと価格を比較して、どちらが良いかを判断してください。
Q. DVD Playback Packは必須なのですか?
A. いいえ。ボリュームライセンス契約の「最低3ライセンス」という条件を満たすのであれば、購入するライセンスは何でもかまいません。現時点で最も安価に購入できるライセンスがDVD Playback Packというだけです。2台のPCで使用するならL+SAを2組購入すればそれだけで4ライセンスになりますから、DVD Player Packは不要です。またMicrosoft Officeなどが必要な場合にはそれらとあわせて合計3ライセンス以上にしてもかまいません。
●契約のメリットについてQ. どんな場合にボリュームライセンスを契約すべきでしょうか?
A. Home系のOSのみが必要で、Professional以上が必要ない場合にはボリュームライセンス契約は不経済です。Professional以上を必要とする場合、たとえばProfessional以上でないと有効にならない「XPモード」を使いたいといった用途にはボリュームライセンスを検討する価値があります。またWindows XPなど、過去のバージョンのOSを使いたい場合にも、過去のソフトウェアをダウンロードできるボリュームライセンスは便利です。
(2009年 9月 29日)
[Reported by 天野 司]