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【懐パーツ】420MIPSのプロセッサでMP3再生を支援するサウンドカード「Turtle Beach Santa Cruz」

Turtle Beach Santa Cruz

 音響メーカーVoyetra Turtle Beachが2000年にリリースした高性能サウンドカード「Santa Cruz」は、サウンドチップにCirrus Logic(1991年に買収したCRYSTAL Semiconductorブランド)の「CS4630」を搭載した製品である。発売当時の価格は15,000円前後だった

 2000年前後は、いまとは比べ物にならないほどサウンドカードの選択肢が豊富な時代だったのだが、Creativeの「Sound Blaster Live!」があまりにもシェアが高く、デファクトスタンダードとなっていたため、ほかのカードがあまり有名にならなかったように思う。

 そのなかでもCS4630を搭載したサウンドカードは、かなりの異彩を放っていた。というのもCS4630には、Sound Blaster Live!に搭載される「EMU10K1」と同じく、デジタルオーディオのプロセッシングに最適化されたというオーディオ汎用DSPコア、「CrystalClear」ストリームプロセッサをベースとしているからだ。

 CS4630はソフトウェアの定義により、さまざまな動作が行なえるという柔軟性を実現した。CS4630に搭載されているストリームプロセッサは140MHzで動作する。Somewhat Long Instruction Multiple Data(SLIMD)を採用したデュアルハーバードアーキテクチャであり、40bit長の命令で32bitのデータワードを扱う。実行部は、1つの積和演算ユニットと2つのALU(論理演算、加算および減算を行なう)からなる。積和演算ユニットは20×16bitの乗算器と、40bitのアキュムレータとなっており、当時オーディオで一般的だった16bitのDSPと比較して高精度な演算を実現していた。処理速度は420MIPS(1秒間に4億2,000万回の命令が実行可能)にも達するという。高い動作クロックを実現するために、プログラマブルで高速なPLLも内蔵した。

 また、小容量ながらもチップ内に用途が分かれた3つのRAMを内包している。1つ目はストリームプロセッサのプログラムコードを格納し、2つ目は各種パラメータを格納、3つ目はオーディオのサンプルデータを格納する。各メモリの容量は4.5K(バイトなのか、ビットなのかは不明)だ。製造プロセスは0.24μmとされている。

 この高い処理能力により、Sensaura 3Dをはじめとする各種3Dサラウンド技術のみならず、最大5.1chのサウンドや、無制限のウェーブテーブル・シンセサイザ発音数を実現。当時流行したビデオ会議ソフト「NetMeeting」などで有効な、アコースティックノイズキャンセリングといった機能も利用できた。

 さらに、CS4630のDSPを活かすために、Santa Cruzを含むCS4630搭載カードの多くに“MP3アクセラレーション”機能が実装された。“アクセラレーション”とは言え、当時主流だったCPUにとってMP3のエンコードやデコードは朝飯前だったのだが、CS4630を利用することでCPUに負荷をかけずにMP3再生できるというのがウリだったわけだ。EAX 2.0のサポートを除けば、機能や性能面ではEMU10K1に勝るとも劣らない印象を受ける。

 さて、このCS4630を搭載したSanta Cruzであるが、オーディオコーデックとしてAC'97に対応したCirrus Logic製の「CS4294」と「CS4297」という2つのチップを搭載している。いずれもサンプリングレートは48kHzだが、CS4294は20bitのDACを内蔵しているのに対し、CS4297は18bitのDACとなっている点が異なる(入力となるADCはいずれも18bitで共通)。

 このあたりはパターンを完全に追っていないのであくまでも予測だが、CS4294が前面と背面のスピーカー出力、およびラインイン/マイクインを担当し、CS4297がマルチプレクサによって、黄色の端子、およびそのほかのAUX/CD/TADなどの内部入力を担当しているのではないかと思われる。ちなみにこの黄色の端子は「Versa」と名付けられており、出力か入力かを選択できる。出力を選択した場合、必然的に5.1chスピーカーをサポートしたサウンドカードに変貌する。

 コンデンサは、青いものが台湾Lelon製の「SEA」シリーズ、黒いのが中国ELCON製のものだ。いずれも高さを7mmに抑えたスタンダード品であり、このあたりはとくにこだわりらしきものが見られない。オペアンプも4回路入りの汎用品だ。Turtle Beachは現在もなおゲーミング向けヘッドセットを取り扱っている、いわばオーディオの老舗なのだが、そのロゴが入った製品の割には普通すぎる作りな気がしないでもない。まあ、当時あまり音にこだわった部品がなかったせいなのかもしれない。

サウンドカードとしては比較的部品点数が多い
レイアウトはオーソドックスなものだ
カード背面。Santa Cruzと大きく書かれている
背面インターフェイス。右からゲームポート、背面スピーカー出力、前面スピーカー出力、ラインイン、マイクイン、そして出力か入力かを切り替えられるVersa端子
本製品の心臓部、CS4630。140MHzで駆動する、プログラマブルなストリームプロセッサを内蔵する
DACおよびADCを内蔵する「CS4294」と「CS4297」
オペアンプはTexas Instruments製の4回路入りの「TLV2465C」
Philipsの「74HC4052D」はマルチプレクサ/マルチデプレクサ
内部端子。左からS/PDIF入力、マイク/ヘッドフォン入力、AUX IN、CD IN、TAD IN
S/PDIFとI2S端子
S/PDIFとI2S端子付近にもマルチプレクサ/マルチデプレクサが見える
コンデンサはLelonとELCON製