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米大学、既存のポリマーに熱伝導性を付与する新手法

〜より安価で高性能なLEDやデバイスに寄与か

 ミシガン州立大学は2日(現地時間)、既存のポリマーに熱伝導性を付与する新手法を発表した。従来主に用いられてきた炭素系やセラミックなど、ポリマーよりも熱伝導性の優れたフィラーを混入する手法よりも安価かつ簡便にある程度の熱伝導性を持ったポリマーを作製できる可能性がある。

 その新手法とは、ポリマーを合成する過程で分子鎖を整列させる操作を加え、分子の振動による熱伝導を促進させるというものだ。

 熱伝導は、物質中の自由電子によるものや分子振動によるものが知られており、特に自由電子による熱の伝達は強力で、銅や鉄は優れた熱伝導性を示す。しかし、ポリマーでは金属のような自由電子を持たないため、分子振動などで熱を伝えることになるが、ポリマーは同じ分子(モノマー)が多数重合してできる絡み合うような構造をとるため、一般的には熱伝導率は低くなってしまいがちだ。

 従来では、CPUグリスなどでも見られるように、炭素系の素材や金属といった極めて熱伝導率の高い材料を粉体とし、フィラーとして混入することで熱伝導率の改善を図っていた。しかし、グラフェンやダイヤモンド、銀といったフィラーは概して高価であるばかりでなく、絶縁性や強度、高い可塑性などのポリマーとしてのメリットを失う場合もあった。

 そこでミシガン州立大学の開発した手法は、それらのフィラーを用いた方法とは全く異なり、ポリマーそのものの熱伝導性を改善するというものだ。

 まず、既存のポリマーを水に溶解し、溶液をアルカリ性に調整する。こうすることで個々のモノマーが液体中で広がり、絡み合ったポリマーが緩む。さらに遠心分離機のような装置で薄膜を形成することで(スピンキャスト)個々のモノマーを整列させることができる。

 ポリマーは個々のモノマーの振動で熱を伝えるため、モノマーがスパゲッティのように絡み合った構造を持つよりも、より整列している場合の方が抵抗なく熱が伝えられるということだ。この手法で合成されたポリマーは元の6倍の熱伝導率をもち、ガラス程度の熱伝導性を持つことが確認された。

 この手法では、分子の振動により熱が伝達されるため、金属やセラミックには依然及ばない。しかし、ポリマーの好ましい特性を保持したまま、ある程度の熱伝導率が実現できることや、既存の多くのポリマーにこの手法を適用するできると研究者らは考えており、廉価でさまざまな特性を持ったものが製作できると予想される。

 例えば、LEDでは劣化と発熱には相関があり、寿命を維持しつつ高出力化する際はいかに排熱を行なうかが課題となるが、素子を覆う部分では高透明性や絶縁性、熱伝導性の両立が求められる。

 現時点では水に溶解するポリマーで本手法が適用可能であることが確認されているが、研究者らは、有機溶媒で同様のプロセスを研究し、実験に用いた以外のポリマーにこの手法を適用することで、数年以内の商用利用の実現を目指す。