やじうまPC Watch
【懐モバ】2in1を先取りしたPDA、ソニーCLIE「PEG-NR70V」
2017年2月6日 06:00
もはや1年近く「モバイラーが憧れた名機を今風に蘇らせる」を更新していない筆者。実は紹介したい機種をたくさん購入したのだが、デバイスたちの活路を見出すのが難しくなり、当初の目的を大きく外れてしまった。
そこでコーナーを改め、懐パーツコーナーと同様、シンプルに製品を紹介するとともに、筆者の簡単な分析と意見を述べることとしたい。だが第1回は、普通のx86ノートPCではなく、ソニーのPDA“CLIE”「PEG-NR70V」だ。
ソニーのCLIEは、Palmのオペレーティングシステム「Palm OS」を搭載したPDA(Personal Digital Assistant)だ。もはやPDAは死語となっているが、名前の通りスケジュールやToDoリスト、住所録、メモなどを記録するデバイスである。とは言えこの機能なら、もう1つ死語になった「電子手帳」の方が適切かもしれないが、電子手帳は機能が固定されているのに対し、PDAはユーザーが自由にソフトウェアをインストールできる点が異なる。
従来のPDAは主にスケジュール管理やToDoリスト、住所録といった、どちらかと言えばビジネス寄りの機能がメインだったのに対し、ソニーのCLIEは「Communication Linkage for Information & Entertainment」の頭文字から名前を採った通り、どちらかと言えば写真や動画、音楽などのマルチメディア/個人ユースを重視した。
今では信じがたいだろうが、初代の「PEG-S500C」が登場した2000年は、「PictureGear Pocket」というイメージビューワで、メモリースティック内の写真を閲覧できるのが“ウリ”だった。
さて今回取り上げるPEG-NR70Vは2002年に発売されたモデル。OSにはPalm OS 4を搭載している。何よりも特徴的なのはそのフォルムで、タッチパネル付き液晶部が180度回転し、閉じた状態では液晶を保護、開いた状態ではキーボードによる高速入力、液晶を回転させ閉じた状態では従来のPalmと同じように使える“WING STYLE”が特徴的だった。今で言えば2in1なPDAだ。
そして300度回転する10万画素のCMOSカメラを装備している点もPEG-NR70Vの特徴(同時発表の下位モデルPEG-NR70には非搭載)。最大320×160ドットの静止画も撮影できる。今の時代ではスマートフォンでも2,000万画素は珍しくないので、まさに隔世の感がある。
オーディオ用DSPも備えており、ATRAC3とMP3の再生に対応した。本機にはメモリースティックスロットを備えているので、そこにジュークボックスソフト「SonicStage」で変換した音楽を保存し、プレーヤーソフト「AudioPlayer」で再生する。
余談だが、SonicStageはインストールするとPC起動時から常駐するが、当時PCのメモリが256MBや512MBがせいぜい、128MBでも珍しくなかった時代、SonicStageだけで60MB強メモリを消費するのには閉口した記憶がある。
PEG-NR70Vの最大の特徴は、やはりこれまでのPalmデバイスにはないキーボードの搭載だろう。確かにキー自体が非常に小さく、一見扱いにくそうだが、適度なクリックで押しやすく、意外にも実用的だ。日本語変換システムにはATOKが搭載されているため、精度もそこそこである。
本体はマグネシウム合金で作られていることもあり、剛性は高く安心感がある。液晶の解像度は解像度は320×480ドットで、当時としては高解像度であり、ドットが細かく綺麗だ。半反射型のため、バックライトなしで直射日光下や屋内でも視認できるのも便利だ。
本製品のCPUにはMotorola製のCPU「DragonBall Super VZ 66MHz」が使われている(型番MC68SZ328VH66V)。MC68000互換の「FLX68000」コアを内包し、32bitの内部バスおよび16bitのデータバスを持つ。メモリコントローラや最大16bit/ピクセルのLCDコントローラを内蔵しているほか、クロックジェネレータおよび電源管理モジュールを内包し、PDAのような低消費電力/小フットプリントに好適なプロセッサである。
その近くに見えるソニーの「CXD1859GA」はソニーのカスタムチップで、おそらくメモリースティックのコントローラである。「HY5V26CLF-H」はHynix製のSDRAMで、4バンク×2Mbit×16bit(合計1MB)のSDRAMで、133MHzで駆動する。
その近くにある「C10FA」と書かれたチップは由緒不明である。おそらくフラッシュメモリの類で、システムを格納し、ユーザー領域も確保している。さらに上のMediaQの「MQ1168-GCC」はおそらく内蔵カメラ用のイメージプロセッサである。MediaQは2003年にNVIDIAに買収されている。
全体的に見てもソニーらしく非常に高密度に部品が実装されており、感心させられる。ちなみに基板から伸びる配線も実に多く、分解や組み立てに一苦労する。
2000年に登場したCLIEだが、2004年9月に発売した「PEG-VZ90」が最終機種となり、短命に終わったシリーズである。当時、筆者はファイナルファンタジーXIのプレイ日記を電車の中で立ったまま書くために、台風の中、「PEG-UX50」を発売日に買いに行ったのは記憶に新しいところだが、とにかくその先進的なスタイルには感心させられ、インプレス入社時まで毎日手放さずに持ち歩いた記憶がある。