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電子制御で度数を変えられる次世代メガネを実現する「液体レンズ」技術
2017年1月30日 19:27
米国光学会Optical Society of America (OSA)の23日(米国時間)発行のジャーナルに、度数を電子制御可能な「液体レンズ」についての論文が掲載された。ユタ州立大学のCarlos Mastrangelo博士らによって発表されたこの技術は、アクチュエータに接続された2枚の透明な膜の間にグリセリンを注入したものでアクチュエータを適切に駆動することにより、1枚のレンズで複数の焦点距離、すなわち度数を得られるというものだ。
日常で目にする焦点距離を変えられるレンズと言えば、一眼レフカメラのレンズなどだ。それらは複数のレンズを組み合わせ、レンズ間の距離を適切に調整することで望んだ合成焦点距離を得る。しかし、人間の目はそれとは大きく異なり、レンズの役割を果たす水晶体が変形することで焦点距離を調整する。また、メガネとして装着される場合、装着性の制約があり、厚みの大きくなるカメラレンズのような構造はとれない。そのため、従来では1枚のレンズを異なった度数のエリアに分けた「2重焦点レンズ」や「累進レンズ」が用いられていた。
今回発表された技術は、従来用いられてきた累進レンズなどとは異なり、電子的に制御されたレンズ自体が変形し焦点距離を変え、視野全体で望んだ度数が得られることを目標としたものだ。試作品は直径32mm、厚さが8.4mm、度数は最大5.6D(ディオプター)となっており、レンズ本体の重量は14.4gにすぎないと、メガネへの応用に望ましいとされた。
この特性を実現するために、リムに挟まれた2枚の伸縮性のある膜の間にグリセリンを注入し、裏側の膜にピストンと呼ばれる薄く透明な板をはりつけた構造が採用された。ピストンがリムに接続された3つのアクチュエータによって引っ張られることで膜間の圧力が高まり、表側の膜の曲率が変化することで屈折力、すなわち度数が変わるというものだ。また、グリセリンが注入されていることで間に光学特性を悪化させる空気層(エアギャップ)を排除している。
アクチュエータにはバイモルフ型と呼ばれるものが用いられた。これは2本の貼り合わせられたアクチュエータからなり、一方が伸長する間にもう一方が収縮することで大きな歪みを生み出すことができるものだ。これを駆動するためには最大で300Vの高電圧を必要とするが、研究者らは高電圧に対応したNMOSトランジスタを用い、アクチュエータをPWM制御することで効率よく駆動できるとしている。試作品の消費電力は10〜20mW程度とされ、110mAhのLiPoバッテリを用いた場合、6時間程度の駆動することができる。
さらに、研究者らはもともとカーブしたアクチュエータを用いることで、電圧を印加しない場合にも一定の度がついているという状態を作り出した。これにより、通常状態の消費電力をゼロにしつつ、度数を変更したい時だけ電圧を印加するという特性を持たせることができるため、この技術はメガネなどへの応用により適したものになっており、実際の応用が期待される。