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【懐パーツ】Creativeも認めざる得なかったPCIサウンドカード「Ensoniq AudioPCI」

Ensoniq AudioPCI

 今回は安価なサウンドカードとして一世を風靡したEnsoniqの「AudioPCI」を紹介しよう。

 時は1997年、まだサウンドカードという市場が活況を呈し、さまざまなメーカーからさまざまな製品が投入されていた時代。かつて楽器を手がけていたEnsoniqが、サウンドカード市場で大きく躍進した。その立役者がAudioPCIだ。

 AudioPCIに搭載されたサウンドチップ「ES1370」は、とにかく安価にPCIサウンドカードを製造できることを目指して開発されたものであった。ES1370の高い機能集積度により、カード上の実装部品を減らすことを実現できたからだ。

 ES1370はいくつもの特徴的な機能を持っていた。1つ目は業界で初めてDirectSound3Dの4スピーカー再生を実現した点だ。ソフトウェアで4スピーカーモードをオンにすると、ライン入力のジャックがスピーカー出力に変わる。これにより3Dゲームでサラウンドを体験できるのだ。

 もう1つは、高速通信できるというPCIバスの特徴を活かし、Wavetableをシステムメモリ上に置く仕組みだ。それまでのISAサウンドカードの多くはWavetableをカード上に置くか、ドーターカードなどによって拡張する仕組みであったのだが、専用ハードウェアとなるため高価になりがちだった。当時、Windows 95の台頭によってメインメモリの大容量化と低価格化が一気に進んだので、システムメモリ上に置くメリットは大きかった。

 ES1370のWavetableは.ecw(Ensoniq Concert Wavetable)という独自形式で、Ensoniqが楽器メーカーだったこともあり品質は良好であった。容量は2/4/8MBの3種類が用意された。DOSゲームでもWavetableが利用できるのは最大の利点であったが、仕様が公開されなかったため、カスタムWavetableはかなり少なかった。

 PCIカードながらDOSゲームとの互換性に配慮した点もユニークだ。以前に述べた通り、DOSゲームの大半はISAバスのSoundBlasterシリーズをサポートしているのだが、PCIではDMA転送の方式が異なるため、エミュレーションを行なう必要があった。ES1370ではマスク不可割り込みおよびTSRプログラムにより、ドライバレベルでSound Blaster互換を実現した。ただしES1370はハードウェアのFMシンセサイザを持っておらず、サンプルによってエミュレーションしていた。

 さまざまな特徴に加え、価格を最大の武器に、AudioPCIは一世を風靡するサウンドカードとなった。

 ちなみにEnsoniqがES1370をリリースした1997年、サウンドカード大手のCreativeはPCI対応サウンドカードの開発に難航し、1996年末に発表したISAバスの「Sound Blaster AWE64」でしのぎを削っていた。やはりDOS互換の部分で苦心していたと思われ、Ensoniqの優れたDOSサポートを認め、1998年にEnsoniqを買収。その後1998年8月にようやくCreative初となるPCIバスのサウンドカード、「Sound Blaster Live!」を仕上げられたのは説明するまでもない。

 今回入手した製品は「AudioPCI 3000」という型番のもので、1998年2月19日製造のもの。旭化成エレクトロニクス製のDAC/ADC「AK4531-VQ」を搭載。また、ナショナルセミコンダクター製2チャンネルのアナログマルチプレクサー/デマルチプレクサーの「CD4053BCM」、新日本無線の2回路入り汎用オペアンプ「NJM4565」の搭載も見える。ライン入力のジャックには「AUX IN/REAR SPKR OUT」のシルク印刷も見え、確かに入力と出力が切り替えられることが確認できる。

 ちなみに今回、Creative買収後にリリースされたものと見られる「AudioPCI 5000」も同時に入手できた。こちらはAC'97準拠になったものとされており、DAC/ADCがTriTechの「28023」に置き換わっている。ただカード上からマルチプレクサー/デマルチプレクサーが排除されていることから想像できる通り、ライン入力をリアスピーカー出力に変更できなくなっていると見られ、シルク印刷も消えている。

Ensoniq AudioPCI 3000
主要チップのES1370
旭化成エレクトロニクス製DAC/ADC「AK4531-VQ」
左がナショナルセミコンダクター製2チャンネルのアナログマルチプレクサー/デマルチプレクサーの「CD4053BCM」、右が新日本無線の2回路入り汎用オペアンプ「NJM4565」
インターフェイスは左からライン出力、ライン入力、マイク入力、ゲームポートとなっている
ライン入力のジャック(黒、J3)には、AUX IN/REAR SPKR OUTのシルク印刷が
J3から伸びる配線を辿っていくと、マルチプレクサー付近でY字に分離していることが分かる
こちらはAudioPCI 5000。マルチプレクサーが省かれている