やじうまPC Watch
多孔質金属がヒートシンクの常識を変える?
~実用化に向け進展
2016年12月26日 16:54
ヒートパイプの導入によって著しく性能が向上したPC用のヒートシンクだが、次のステップに入りそうである。それが多孔質金属を用いた放熱だ。
多孔質金属は伝熱面積が広いため、ヒートシンクのフィンとして採用すれば高い熱伝達率を実現できる。近年は実用的な観点からヒートシンクの小型軽量化のニーズがいっそう高まっており、多孔質金属を用いたヒートシンクも考えられているが、実用化には至っていない。多孔質金属フィンは複雑な形状であるゆえに、伝熱に関する設計を行ないにくい。また、圧力損失が高い(つまり風通しがあまり良くなく、後部は冷えにくい)ため、実用化のためには冷却ファンなどの実装を考慮しなければならない。
しかし2016年は多孔質金属を用いたヒートシンクの実用化に向けて進化があった1年でもあったと言える。
日立製作所 研究開発グループ 機械イノベーションセンタの近藤義広氏、および日立化成 筑波総合研究所 社会インフラ関連材料センタの越田博之氏らは、多孔質金属フィンの熱交換関数である圧力損失と熱伝達率について実験的に検証を行ない、日本機械学会にその結果を報告した(2016年4月14日)。
実験に使われた多孔質金属は3次元形状の樹脂製フォームを基体とし、表面にアルミニウム粉末を付着させた後、窒素、アルゴン、水素などの非酸化ガス雰囲気中で、アルミニウム粉末の融点以上に加熱する過程で樹脂製フォームの基体を消失除去し、アルミニウム粉末を溶融することで多孔質金属を生成した。この手法では多孔質金属フィンを安価に製造できるという。
研究グループはこの多孔質金属フィンを、自動車で使われる水冷ラジエータのように伝熱管(多穴管)にロウ付けし、大きさや管の多寡などさまざまな組み合わせで4つ制作し、性能評価を行なった。
具体的な実験手法などについては論文を参照されたいが、結論から言うと、多孔質金属フィンの性能は芳しいものではなかった。伝熱管へのロウ付けが不十分で、フィン効率も低く、多孔質金属フィンでの伝熱も小さかった。さらに、上記の製法では基体の樹脂製フォームが分解消失し、フィン内部が中空になるため、フィン効率を低下させる原因となっていた。
本論文はあくまでも多孔質金属フィンによる熱交換関数を予測できる実用性重視の予測モデルを提唱するものであって、多孔質金属ヒートシンクの実用化に向けた検証を行なったものではないが、製品化を検討する上で重要なレポートだと言えるだろう。
もう1つは、レンコンのような1方向性の気孔を有する多孔質金属を製造するロータスアロイ株式会社が今年(2016年)5月に、放熱ソリューションを専門とする企業、株式会社ロータス・サーマル・ソリューションを立ち上げたことだ。
先述の通り、単なる多孔質金属(ポーラス金属:同社はロータス金属と呼んでいる)は3次元構造のため、圧力損失が大きい課題があるが、1方向性の気孔が並ぶロータス金属では圧力損失を減少させられるため、熱伝導率の増大と圧力損失の低減を同時に得られるメリットがある。ロータスアロイ株式会社のホームページでは、水冷システムにおいてマイクロチャンネルのヒートシンクに代わってロータス金属を採用することで2倍の熱伝達率を実現していることが紹介されている。
ロータス・サーマル・ソリューションは阪大発のベンチャープロジェクトであり、8月に平成28年度戦略的基盤技術高度化支援事業に採択されており、事業化の早期実現が期待される。