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京大ら、脳内の「やる気スイッチ」の画像化、操作に成功

本研究により確立したPETモニタリングによるサル脳神経活動操作法。サルが生きた状態で人工受容体の発現を確認した後、神経活動操作等の実験を行うことが可能になった

 量子科学技術研究開発機構、京都大学霊長類研究所、米国国立精神衛生研究所の研究グループは16日、サルの脳内に発言させた人工受容体を生体で画像化する技術を世界で初めて確立するとともに、人工受容体に作用する薬剤を全身投与し、価値判断行動を変化させることに成功したと発表した。

 脳には、特定の機能を担当する神経細胞集団からなる「神経核」と呼ばれる部位があり、これらが協調して働くことで、判断や意思決定などの高次脳機能を生み出す。また、この仕組みが破綻して精神/神経疾患などの病態を示すことから、特定脳部位の神経活動を操作することで変化する機能を同定することが重要視されている。

 この研究目的のため、特定の脳部位の神経細胞集団に「スイッチ」の役割をする人工受容体タンパク質を遺伝子導入技術により発現させ、その受容体にだけ作用する薬で神経活動を局所的に操作する手法が用いられている。しかし、標的となる神経細胞集団に狙い通り受容体が発現しているか確認するには、実験終了後に脳組織標本を作製して確認するしか手段がなかった。

 そこで研究グループは、人工受容体遺伝子を組み込んだウイルスベクターをサルの特定の脳部位の神経細胞集団に感染させ、発現した人工受容体を陽電子断層撮影法(PET)で画像化し、発現のタイミングや位置、範囲、強さを生きたまま評価することに成功した。

 また、運動機能や意思決定などに関与する線条体という構造の一部の神経細胞群に人工受容体を発現させ、受容体に作用する薬剤を全身投与し、神経活動を「スイッチオフ」したところ、それまでサルが問題なくこなしていた、報酬量に基づく「価値判断」に関わる行動が障害されたことから、この線条体領域が価値判断を担っていることが確認できた。

 このような人工受容体遺伝子を、精神/神経疾患の症状の原因となる神経活動異常に合わせ、目的の脳領域の神経細胞群に導入して、症状が出た時にだけ薬で抑えるような革新的治療法の開発への応用が期待される。

サルの脳内に発現した人工受容体のPETによるイメージング。A: 人工受容体遺伝子を発現するウイルスベクターを投与した部位。B:ウイルスベクター投与後、経時的な人工受容体発現をPETで画像化したもの(右脳のみ表示)。免疫染色標本と比較したところ、実際の発現位置および範囲がほぼ一致することが分かった。C:人工受容体発現レベルの経時的変化。約1.5カ月でピークに達し、約1.5年後まで維持されていた