イベントレポート
Microsoftが米国でVAIO Z Canvasを販売するその理由とは?
(2015/10/9 12:32)
VAIOはソニーから分離独立した時に一度は諦めた海外市場への再び乗り出そうとしている。今回10月3日~10月7日の5日間に渡って米国カリフォルニア州ロサンゼルスで行なわれたAdobe MAXにも出展したほか、VAIO Z Canvasを米国で販売するMicrosoft Storeのロサンゼルスにある店舗において記者会見を開催した。
今回筆者はその記者会見の場において、VAIO株式会社 執行役員 平内優氏、そして販売を担当することになるMicrosoft Storeを運営するMicrosoft OEM部門 本部長 ビル・マニオン氏のお2人にお話を伺う機会を得た。なぜMicrosoft StoreでVAIO Z Canvasが販売されるのか、その狙いは何なのかについてお話を伺ってきた。
VAIO Z Canvasを販売するのは他社製品とは違うアピールポイントがあるから
――Microsoft Storeですが、現時点ではリアル店舗は米国だけの展開となっており、日本などほかの市場では展開されていません。MicrosoftがMicrosoft Storeをリアルに展開する理由を教えてください。
マニオン氏 Microsoft Storeはお客様に製品を販売する場であるのは事実ですが、それだけが目的ではありません。Microsoftのさまざまな製品、Windows、Windows Phone、Xbox Oneといった非常に多岐に渡っている製品やテクノロジを、お客様に対して説明、アピールする場としても考えています。また、お客様同士が交流したり、お客様をサポートするサービスの場として活用することも考慮に入れています。
――10月5日より全米のMicrosoft StoreでVAIO Z Canvasの販売を開始します。ですが、Microsoft自社ブランドの製品であるSurfaceシリーズも販売しています。それと競合したりすることはないのでしょうか?
マニオン氏 Surfaceシリーズが、Microsoft Storeの主力製品であることは事実です。しかし、大事なことは、お客様に選択肢を提供することです。VAIO Z CanvasはSurfaceシリーズとも、そして他社の製品とも異なるアピールポイントを持っています。そうしたさまざまなニーズを持つお客様に対して選択肢を提供することが重要だと考えています。
――今回のVAIO Z Canvasも含めて、Microsoft Storeで販売されているPCはSignature Editionという、OEMメーカー自身が販売するモデルとは異なるMicrosoft Store向けの仕様になっています。Signature Editionとは何かについて説明していただけますか?
マニオン氏 Signature Editionには3つの特徴があります。1つ目はOEMメーカー独自のバンドルソフトウェアをなくしてもらっています。ピュアな環境が欲しい、そうしたユーザーのニーズに応えるものです。2つ目はイメージを、性能にチューニングしてもらっています。3つ目はアンチウィルスソフトウェアを標準導入してもらっており、箱から出した状態で既にウイルス対策が効いている状態になっています。
――Microsoft Storeでは、MicrosoftブランドのSurface以外にも、Lenovo、Dell、HP、ASUS、Acerなど大手OEMメーカーの製品が販売されています。そうした大手のOEMメーカーに比べると小規模なVAIOの製品がMicrosoft Storeで販売されるというのはかなり異例と言っていいと思うのですが、それはなぜなのでしょうか?
マニオン氏 MicrosoftとVAIOの関係は非常に長く、VAIOがソニーの1部門だった頃から数えれば、実に20年と長きに渡っています。かつ、MicrosoftとVAIOは一緒に、数多くのイノベーションを実現してきました。古くは一緒にメディアセンターPCをやっていましたし、数々のユニークなモバイルPCを作ってきました。
もう1つはVAIOが強力なブランドネームであることです。ソニー/VAIO時代には、VAIOをMicrosoft Storeで扱っており、お客様には好評を博しておりました。しかし、ソニーがVAIOを切り離してから、米国では取り扱いがなくなったのですが、お客様からはVAIOはもう売っていないのかというお声をいただくこともありました。
我々OEM部門は、VAIOが独立して以降も、赤羽副社長などVAIOの皆様とはいい関係でいましたし、ずっとさまざまな議論を続けてきました。その中で、VAIOは非常にいい製品をお持ちですし、米国でも素晴らしいサポートを得ることができていると伺ったので、それでは一緒にやりましょうというお話になったのです。
――なるほど、よく分かりました。ですが、実際に店内を見渡してみても、このVAIO Z Canvasは、Microsoft自身のSurfaceよりも、そしてほかのOEMメーカーの製品よりも高価格帯の製品で、クリエイター向けという非常に説明が難しい製品です。そうした製品を置くということへのリスクなどはお考えにはならなかったのですか?
マニオン氏 おっしゃる通りですが、だからこそ店頭に置いて説明する必要があるとも言えます。今回のこのロサンゼルスの店がその具体的な例だと思いますが、店頭に実際に製品を置いて、お客様がペンのクオリティなどを試すことができるようになっています。そしてご納得いただいて買っていただくことが重要だと考えたので、このように店頭に展示させていただいているのです。
まずはクリエイターをターゲットの製品を、来年(2016年)以降にビジネスプロフェッショナル向けをという計画
――VAIO側ではどのような経緯で今回の米国再進出が決まったのでしょうか?
平内氏 ご存じの通り、VAIOはソニーから切り離される時に、海外市場からは完全に撤退していましたので、完全にゼロからのスタートになりました。もう以前使用していたソニーのインフラを利用することができないわけですから、もう一度米国で販売を行なうと考えた時に、セールスチャネルと、カスタマーサポートをどうするのかという2つが課題になりました。
その時にトランスコスモス様とのパートナーシップが浮上してきました。実際、トランスコスモス様とはソニー/VAIO時代にもお付き合いがあり、トランスコスモス様がカスタマーサポートをご担当いただけるということになり、サポートの件は解決する目途が立ちました。では販売チャネルをどうするのかというところを検討していたところ、Microsoft様から良いオファーをいただき、Microsoft Storeで販売いただけるという運びになったのです。
――今回はVAIO Z Canvasでも米国市場への再進出ということになりますが、将来的にはほかの製品に広げる可能性はあるのでしょうか?
平内氏 現在のVAIOはソニー時代に比べると規模を狙えるわけではありません。それを踏まえた上で、新しいブランドイメージを作るという観点で、VAIO Z Canvasは新しいメッセージを打ち出させる製品です。もちろんボリュームを狙える製品ではありませんが、ターゲットのカスタマーが明確という点では再進出に相応しい製品だと考えています。無論、VAIOとしては他にもVAIO ZやVAIO Pro 13 |mk2のようなビジネスプロフェッショナル向けの製品もありますので、来年には狙っていきたいと考えています。
――お客様や米国メディアの反応はいかがでしょうか?
平内氏 先週、トランスコスモス様の弊社担当の方と一緒に米国のメディアを回ってきました。当初は、我々もネガティブなコメントはあるのではないかという危惧をしていたのですが、米国メディアは製品を見た後で、これは面白いと言っていただいています。価格が2,199ドルからということで、価格への反応も心配していたのですが、皆さん製品を見ていただいた後ではそれぐらいだよねと言っていただいています。
――ターゲットカスタマーはどんなユーザーになりますか?
平内氏 ターゲットカスタマーはクリエイターです。米国の市場は日本に比べて遙かに大きく、大きな可能性があると考えています。クリエイターの数も、米国の方が圧倒的に大きい。また我々は常々言っていますが、VAIO Z Canvasは確かに設計は日本で行なっていますが、昨年(2014年)のAdobe MAXにプロトタイプを展示した時や、それ以前にも多くの米国のクリエイターからフィードバックをいただいており、それを元に製品の設計を行なっています。その意味で、“Made in US”な製品でもあると言っても過言ではない、そう考えています。
――米国での発売をこのAdobe MAXに併せてきたのはそれを意識したからでしょうか?
平内氏 おっしゃる通りです。クリエイターにとってAdobe MAXは非常に重要なイベントであり、VAIO Z Canvasはそうしたクリエイターの方々をターゲットにした製品になりますので、最適だと考えました。
――最後にMicrosoftからVAIOに対してどのように期待しているかを教えてください
マニオン氏 VAIOは米国でも非常に強いブランド力を持っており、次の新しい時代へのファーストステップになって欲しいと考えています。そしてこれまでの20年の歴史が、次の新しい20年の歴史となるように、両社が同じ哲学を持ってやっていけば十分可能なのではないかと期待しています。