イベントレポート
Unite 2015 Tokyo基調講演レポート
~Unity 5がNewニンテンドー3DSに対応。Oculus創設者も登壇
(2015/4/13 20:31)
ゲーム開発エンジン「Unity」向けの開発者会議である「Unite 2015 Tokyo」が、東京・お台場のホテル日航東京にて4月13日から14日にかけて開催されている。入場料は一般が19,800円、学生が8,400円(2日間通し)。
本稿では、その初日の基調講演の内容と、展示デモなどについてお伝えする。本邦初公開となったOculus VRのCrescent Bayについては、こちらの記事を参照されたい。
物理シェーダーに対応したUnity 5
Unite 2015 Tokyoは基調講演で幕を開けた。講演にはまずUnity Technology創設者のデイビッド・ヘルガソン氏が登壇し、3月に発表された「Unity 5」について紹介を行なった。
新バージョンの特徴は、大きく「グラフィック品質の向上」、「より高機能で柔軟になったエディタ」、「マルチプラットフォーム対応」、「クラウド対応」の4つが挙げられる。
グラフィック品質の向上とは、具体的に、物理的に正しいライティングや、グローバルイルミネーション対応などを指す。これに関して、Unity 5を全面的に利用した初のゲームとなる「REPUBLIQUE」を開発したCamouflajのデザイナーであるライアン・ペイトン氏がデモを交えながら解説した。
REPUBLIQUEは、元々はiOS向けに作られたアクションアドベンチャーゲームで、2013年12月にエピソード1が発売。その後、エピソード2、3、そしてAndroid版を経て、2015年2月にPC版を投入した。このPC版でUnity 5を利用している。
PC版の開発にあたり、スマートフォン版をそのまま移植したのでは、画質の面でユーザーの心をつかめないと考えたCamouflajでは、Unity 5を使って、グラフィック品質を引き上げることを決めた。
スマートフォン版では、背景の陰影は手書きで行なっている。これに対し、PC版はUnity 5の物理シェーダーを使うことで、レイトレーシングレベルの陰影処理をリアルタイムでできるようになり、グラフィックデザイナーによる手作業を省略できたという。
開発当時のUnity 5はまだアルファ/ベータ版だったこともあり、CamouflajではUnityの開発者と共同でPC版REPUBLIQUEの開発を行なった。Unity 5で64bitに拡張されたエディタも、開発効率を上げたという。
ペイトン氏は、今後の予定として、エピソード2と3の移植のほか、日本語版も年末までに出したい意向であることを明らかにした。ちなみに同氏は、過去に「メタルギアソリッド4」の開発リーダーを務めた人物であり、日本語も堪能。講演は全て日本語で行なった。
REPUBLIQUEの紹介が終わったところでペイトン氏は、現在のゲーム市場について若干の苦言を呈した。
「スマートフォンが普及したおかげで、開発者は世界中に作品を配信できるようになった。しかし、結果として現在は、ユーザーにいかに課金させるかだけに苦心し、いかにして品質を上げ、ユーザーの感情に訴え、感動させるような作品を作るか、ということがないがしろにされがちになっている。ワンダと巨像、ファイナルファンタジー、ゼルダの伝説など、日本では魅力的なタイトルが生まれた。これらの作品は小説や映画などと同等のエンターテイメントである。ここにいる開発者の皆さんも、そういった名作に影響されてきたと思う。ぜひ、記憶に残り、良い体験だったと言われるゲームの開発に取り組んで欲しい」。
こう述べた上でペイトン氏は、「私の話を聞くよりも、実際にゲームのプロジェクトファイルに触れる方が役に立つかも知れない」として、Unityの公式サイトにてREPUBLIQUEの各種データをサンプルとして無償公開することを発表した。
このデータを使ったデモも行なわれ、グローバルイルミネーションを使ったライティングや、特定の効果音を鳴らす際に背景の音楽の音量を下げるといった機能も備えるオーディオミキサーなどが紹介された。
話をUnityに戻すと、マルチプラットフォーム対応という点では、現在Unity 5は実に21ものプラットフォームに対応しているが、新たに任天堂の「Newニンテンドー3DS」に対応することが発表された。
クラウド対応により、クラウド上でのビルドサービスも利用できるようになった。Unityのヘルガソン氏自身、このアイディアを聞いた時、最初は「なぜわざわざクラウドでビルドを?」と疑問に思ったそうだが、現在のゲーム開発は規模が巨大になっており、ビルドに相当な時間がかかる。これをクラウドの高性能なサーバーで行なうことで、待ち時間を短縮しようというのがこの機能の狙いだ。これまでに、このサービスを使って、28万のビルドが実施され、計15万時間が節約されたという。また、この機能を使うことで、開発に携わるスタッフ全員がいつでも最新版にアクセスでき、ユーザーにベータ版を提供する際にも便利だとしている。
このほかヘルガソン氏は、広告配信システムUnity Adsにも言及。この機能を使うことで、売上は少ないが、トラフィックは大きなゲーム開発者は、内蔵の広告機能を使って収益を上げられるようになる。海外で3人の小規模なチームで作られたゲームは、まさにそのようなもので、ゲーム自体の売上は低かったが、Unity Adsにより3カ月で3億5千万円の収益を得たという。Unityでは国内でこの機能を展開するにあたり、サイバーエージェントおよびGREEと提携している。
なお、Unity 5は、クラウド機能などは省略しつつも、エンジン部分はフル機能が利用できる個人版も用意され、こちらは無償で利用できる。
Oculus創設者も登壇
基調講演3人目のスピーカーは、Oculus VR創設者でOculus Riftの設計者でもあるパルマー・ラッキー氏が務めた。
ラッキー氏は、Oculusのここまでの歩みを振り返った。同社はここ数年で初代「Oculus Rift」、「Development Kit 2」、そして「Gear VR」を市場に投入してきた。総計で出荷台数は20万台に及ぶという。現時点では、VRヘッドマウントディスプレイは開発者向けの“おもちゃ”の段階だが、徐々に一般ユーザーにもその存在が浸透しつつある。そして、Oculusのみに留まらず、Samsung、Google、ソニー・コンピューター・エンターテインメント、Valveといった業界の大手もこぞってこの市場に参入してきており、その未来は明るいとする。
2014年のUnite Tokyoにも登壇した同氏は、その際は、VRの開発をそろそろ始めた方がいいと来場者にアドバイスしたが、今回は「今すぐにコンテンツを用意しないと手遅れになる段階に来ている」と、やや煽り気味のアドバイスを行なった。
Unityについては、協業を深めており、Unity 5.1のベータ版でVR機能が統合。より簡単にOculusに対応させた開発が可能となる。
なお、ハードウェアや製品化についての新しい情報はなかったが、前述の通り、会場ではCrescent Bayが国内で初めて一般に公開されている。