【Mobile Memory Forum 2011レポート】
モバイル向けの次世代フラッシュストレージ「UFS」

イベント当日のプログラム

会期:6月24日(現地時間)
会場:韓国ソウル市 El Tower



 スマートフォンやスレートPC(タブレットPC)などのモバイル機器が利用しているフラッシュストレージ(NANDフラッシュメモリを利用したストレージ)といえば、SSD(Solid State Drive)あるいはeMMC(embedded MultiMediaCard)だろう。

 SSDは大容量であり、スループットとデータ入出力速度が高い。ただしノートPCやネットブックなどに向けたSSDを流用しているため、消費電力がやや高い。このためSSDを内蔵したスマートフォンやスレートPC(タブレットPC)などのユーザーは、頻繁に充電を強いられる。

 eMMCは、NANDフラッシュメモリと専用コントローラを1個の半導体パッケージに収納したモジュールで、組み込みモバイル機器を想定して共通技術仕様を策定したため、消費電力は低い。ただし容量はSSDよりも少なく、ランダムアクセス性能も低い。

 そこで、スマートフォンやスレートPCなどのモバイル機器に向けた新たなフラッシュストレージ技術「UFS(Universal Flash Storage)」の開発が半導体業界では進められている。韓国ソウル市で開催された「Mobile Memory Forum 2011」では、UFSの技術仕様が一部、公表された。本レポートではその概要をご紹介する。

●高スループット、高IOPS、低消費の鼎立を目指す

 UFSの目指すところは非常に簡単である。粗く言ってしまえば、SSDと同じ読み書き性能を備えながら、SSDよりも消費電力の低いフラッシュストレージを実現することだ。SSDと同じ読み書き性能とは、PC用SSDで普及しているシリアルATA(SATA)インターフェイスと同等のスループットと入出力速度(IOPS)を指す。

UFS、SATA、SDカード、eMMCのスループットUFS、SATA、eMMC、SDカードの読み出しIOPS

 そこでUFSでは、(1)高速のシリアルインターフェイスを実装し、(2)コマンドのキューイング機能を搭載し、(3)シリアルインターフェイスの省電力機能を載せてきた。

 シリアルインターフェイスのデータ転送速度は、3.0Gbpsとかなり高い(UFSバージョン1.0の場合)。eMMCの最新版であるバージョン4.5のデータ転送速度が1.6Gbpsなので、およそ2倍に相当する。なおUFSのバージョン2.0では、データ転送速度を5.8Gbpsに向上させる計画となっている。SSDが利用しているインターフェイス「シリアルATA」の3Gbps版および6Gbps版に相当するデータ転送速度を備えようとしていることがわかる。

 コマンドのキューイングは、ランダムアクセス性能を高めるために設けた。ランダムにデータを書き込む(プログラムする)場合やランダムにデータを読み込む場合に威力を発揮する。例えばデータをネットワーク経由でダウンロードしている途中で、音楽プレーヤーの再生(すなわちデータの読み出し)が途切れるといった恐れが減る。

 インターフェイスの省電力機能では、待機時にPLL回路の電源をオフにすることで消費電力を下げている。待機時消費電力が従来に比べるとおよそ40分の1に下がるとする。また動作タイミングはクロック非同期であり、このことも消費電力の低減に寄与する。

組み込み向けNANDフラッシュメモリモジュールの規格仕様の推移。UFSの技術仕様はJEDECが仕様を策定してきたeMMCの延長にあるeMMC、UFS、SSDの主な仕様コマンドキューイング(CMD Quing)の概要
コマンドキューイング(CMD Quing)の効果。キューイング機能のない既存のeMMCでは、バックグラウンドでデータをダウンロードしてNANDフラッシュメモリにプログラムすると、読み出し性能が低下していたUFSインターフェイスの省電力ステートダイヤグラム

●ボード実装の標準ストレージとカードタイプの拡張ストレージ

 UFSの仕様をもう少し詳しくみていこう。UFS準拠のメモリモジュール(規格では「デバイス」と呼ぶ)には大別すると、2種類のフォームファクタがある。1つは半導体パッケージと同じ形状(e-UFS)であり、もう1つはSDカード(およびmicroSDカード)と類似の形状(UFSカードのフルサイズ、マイクロサイズ)だ。前者は標準搭載のフラッシュストレージ、後者は増設用のフラッシュストレージとなる。いずれもコントローラとメモリを内蔵しており、機能としては同一である。

 UFSのアーキテクチャは、インターコネクト層、トランスポートプロトコル層、アプリケーション層、デバイスマネージャで構成される。インターコネクト層には物理層とリンク層があり、いずれも携帯電話端末の内部インターコネクト規格MIPI(Mobile Industry Processor Interface)を採用した。インターコネクト層のサブレイヤである物理層はMIPIのM-PHYバージョン1.0、同じくリンク層はMIPIのUniproバージョン1.4になっている。UFSのバージョン1.0規格では、MIPIのM-PHYバージョン1.0を1レーン使用することで、3.0Gbpsのデータ転送速度を実現する。

eMMCとSDカードを搭載したシステムから、UFSを搭載したシステムへの移行。SDカード(microSDカード)とUFSカードの両方をサポートするため、UFSカードの電極配置はSDカードと重ならないように配慮されているUFSインターフェイスの物理層。M-PHYはより対線で1方向の差動伝送を実行するので、データ伝送速度を高めやすい
UFSのアーキテクチャ。インターコネクト層、トランスポートプロトコル層、アプリケーション層、デバイスマネージャで構成されるUFSシステムのブロック。左がホスト、右がデバイスである。ホスト側にはUFSのドライバがホストコントローラを制御するためのインターフェイス「UFSHCI(UFS Host Controller Inerface)」が規定されている

 UFSの技術仕様は、最初の公式規格であるバージョン1.0が2011年2月にリリースされた。バージョン1.0ではUFSカードが抜けており、追って技術仕様をまとめる予定となっている。UFSバージョン1.0に準拠したデバイスのサンプルは、早ければ2011年末に出荷される。

UFSの規格策定と普及活動のスケジュールUFSデバイスの規格策定と商品化のスケジュール

 Mobile Memory Forum 2011は実は、ソウル市以外の場所でも開催された。6月20日に中国の深セン市、6月22日に台湾の台北市でも開催されている。プログラム内容に若干の違いはあるものの、同じ週の月曜日、水曜日、金曜日にそれぞれ中国、台湾、韓国で同じイベントが開催された。アジアシリーズとでも呼べるイベントなのだ。しかし日本での開催がない。スマートフォンやスレートPCなどのモバイル機器開発の世界では、日本の存在感は軽い。悲しいことだが、これが現実だ。

(2011年 6月 30日)

[Reported by 福田 昭]