元麻布春男の週刊PCホットライン

組み込み向けに舵を切るマルチメディアカード



冒頭の挨拶を行なうJEDECのMian Quddus議長

 2009年4月6日、JEDECはサンタクララでFlash Storage Summits 2009を開催した。同様の催しとしては、昨年8月に開かれた「Flash Memory Summit」に次ぐものだが、テーマがメモリチップからストレージと、いっそうシステム寄りになっている。

 その理由として考えられるのは、昨年9月にJEDECがMMCA(マルチメディアカード・アソシエーション)を吸収合併したことが上げられる。 Siemens(現Infineon)とSanDiskが中心になって策定されたMMC(マルチメディアカード)は、この種のデバイスとしては最古参の1 つだが、ここから別れ出たSDカードの普及に押されがちであった。特にSDカード規格を策定した中心3社(パナソニック、SanDisk、東芝)のうち2 社が日本企業ということもあり、わが国では海外ブランドの携帯電話でも購入しない限り、MMC系のメディアのお世話になることはまずない。

 世界的にも、日本企業が圧倒的なシェアを持つデジタルカメラの世界で、記録メディアとしてデファクトスタンダード的な地位を占めていることもあり、普及率という点でSDカード系メディアがMMCを圧倒している。規格策定の場をMMCAという業界団体から、JEDECへと移したのも、このままでは巻き返しは難しい、という判断が働いたのかもしれない。

 JEDECへ移管されたMMC関連の規格のうち、今回のイベントで大きく取り上げられたのは、e-MMCとUFSだ。e-MMCは embedded MMCの略で、その名前の通り組み込み用途向けのMMCということになる。中心となるアイデアは、フラッシュメモリコントローラとNANDフラッシュメモリチップを1つのFBGAパッケージに入れよう、ということ。カード以外にチップ単体で基板上に実装することが考えられている。本来、MMCとは Multi Media Cardの略だったわけだが、もはやe-MMCでは「カード」としての形状にこだわらないわけだ。

 コントローラとメモリを1つにパッケージするのは、単にコスト面で有利だからではない。その大きなモチベーションとなっているのは、コントローラとメモリをパッケージ化することで、NANDフラッシュメモリの使いにくさをカバーし、組み込み機器の開発を容易にすることにある。

 元々NANDフラッシュメモリを利用するには、直接書き換えすることができないデバイスの特性を踏まえた書き込み制御、同じブロックに書き込みが集中しないようにするウェアレベリング、1度記録した場所を再び書き込み可能にする消去など、ソフトウェアに依存する部分が大きい。加えて製造プロセスの微細化による書き換え可能回数の減少、MLCやSLCといったデバイス特性の違い、標準的なインターフェイスの欠如など、利用するNANDフラッシュに合わせて配慮しなければならない部分が少なくない。NANDフラッシュを使いこなすには、メモリチップそのものをよく知らなければならないわけだ。

スマートフォンメーカーの立場からNANDフラッシュメモリへの期待を述べたRIMのKarin Werer氏

 しかし、これは外部ストレージにNANDフラッシュメモリを用いる組み込み機器向けのSoCを設計する開発者には厄介なことになる。こうした開発者は、携帯電話やオーデイオプレーヤーなど、目的とする機能をどう実装するかという本来のテーマに頭を悩ませる一方で、NANDフラッシュメモリのトレンドを知り、どのようなコントローラを組み込む必要があるのか研究しなければならないからだ。SoCが完成した後で、NANDフラッシュメモリの主流が 2bit MLCから3bit MLCに変わるなんてことが起こったら、どんなに高機能なSoCも商品力を失ってしまう。

 e-MMCの大きな目的は、こうしたNANDフラッシュメモリチップに依存するコントローラ部分をNANDフラッシュのパッケージ内に入れてしまうことで、SoC等の開発者がNANDフラッシュメモリチップに頭を悩ませないで済むようにする、ということにある。NANDフラッシュを一番良く知っているのは当のフラッシュメーカーなのだから、フラッシュメーカーがコントローラまで手がけた方が良い、という考え方だ。その分、SoCの開発者は本来の機能の実装に力を入れれば良い。

 この組み込み用途を意識したe-MMCのもう1つの特徴は、システムの起動だ。従来、システムの起動に必要なファームウェア等の収納にはNOR型のフラッシュメモリが使われ、データの収納にはバイト単価の有利なNAND型フラッシュメモリが使われることが多かった。しかし1つのシステムにフラッシュメモリのインターフェイスを2組用意するのは無駄が多い。NANDフラッシュメモリの性能改善もあり、両者を1つで置き換えられるのであれば、それに越したことはない。

 e-MMCの現行規格であるMMC 4.3では、eMMCデバイスに最大2つの起動パーティションを用意できる。ブートパーティションを利用するか、どちらのブートパーティションを利用するかはレジスタで指定する。現在、規格化が最終段階にあるMMC 4.4では、DDRインターフェイスの採用による高速化(52MB/secか104MB/secに)に加えて、現在は製造時に設定されるブートパーティションサイズをホストが指定できるようになったり、SLCのパーティションとMLCのパーティションを混在させられるようになる見込みだ。

e-MMCは、基本的にコントローラとメモリチップを1パッケージ化したものNANDフラッシュは、メモリの種類や製造プロセスが変わる毎に、コントローラに変更が生じる。e-MMCならホスト(SoC)側はメモリの変更を気にする必要がなくなるe-MMCはブート用のパーティションを備える

 

 このe-MMCが利用するMMC 4.4の次のインターフェイスとして規格化が進行中なのがUFS(Universal Flash Storage)だ。年内の規格化完了を目指すUFSは、シリアルバス技術の導入で3Gbps(300MB/Sec)を実現するほか、SDIOのようなI /Oデバイスのサポートを行なう。組み込み用途を意識した機能強化としても、パーティション設定の柔軟性をさらに強化するほか、XiP(eXecute- in-Place)のサポート、さらには1つのバス上で組み込み用のフラッシュモジュールとリムーバブルデバイス(メモリカード)の両方をサポートするといった特徴を備える。

 XiPは、その名前のように、フラッシュメモリに収納されたコードを、直接その場で実行する仕組みだ。変数やスタック等のためにDRAMが全く不要になるわけではないが、その必要量を大幅に少なくすることができる。従来はNOR型のフラッシュメモリで使われていた技術だが、UFSではこれをサポートするとしている。

 1つのバスで複数のモジュールのサポートを可能にすることは、組み込み機器用SoCの設計を大幅に簡素化する。今回のイベントにおけるスピーカーの1人であるRIMのKarin Werder氏は、多くの携帯電話が、ファームウェアを収納するNORフラッシュメモリ、内部ストレージ用のNANDフラッシュメモリ、外部記憶用のメモリカード用と、フラッシュメモリだけで3種類のインターフェイスを備えなければならず、SoCの設計を複雑にしていると述べた。UFSが実用化すると、これが1つで済むようになる。

 MMC 4.3/MMC 4.4に基づくe-MMCにしても、UFSにしても、かなり組み込み用途を意識している。それは、既存のリムーバブルメディア(メモリカード)市場において、デファクトスタンダードの地位をSDカードに奪われてしまったことと無縁ではないだろう。MMCが生き残りを図るには、SDカードにない特徴を打ち出す必要がある。まずは組み込み市場で地歩を固め、UFSに対応したMMC製品でリムーバブルメディア市場でも巻き返しを図る、というのがMMC/UFSの基本的な戦略なのだろう。

現在の一般的な携帯電話には、フラッシュメモリだけで3種類のインターフェイスが必要とされるMMC規格の後継となるUFSは、2009年内の規格化を目指すUFSは、1つのコントローラで、ファームウェア用、内蔵メモリ用、外部記憶用メモリカードのすべてを扱うことができる
e-MMCとUFSの比較。本文では触れられなかったが、動作電圧の引き下げも行なわれるNumonyxのMark Leinwander氏によると、不揮発メモリ技術は8年サイクルで更新されるという。氏はNANDはピークを迎えつつあり、その次の技術をPCM(相変化メモリ)と予測する。もちろんこの予測は、NumonyxがPCMに力を入れているからではあるのだが

 その一方で、UFSにより苦しい立場になりそうなのがNORフラッシュメモリだ。NANDに比べ書き込みが遅いものの、読み出しの速さとXiP等の機能で、バイト単価の低いNANDと棲み分けてきたNORだが、NANDの性能向上とXiPに見られるような機能改善で、その地位を奪われてしまう可能性がある。スピーカーの1人、Mark Leinwander氏は、8年サイクルの技術周期を唱え、NORがピークを過ぎようとしているという趣旨の発言を行なった。氏がNOR型の大手である Numonyxからの出席者だけに、説得力を感じる。

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(2009年 4月 8日)

[Text by 元麻布 春男]