イベントレポート

Qualcomm、Snapdragon 820の概要とLTE-Uのライブデモを公開

Qualcomm社長 デレク・アベール氏

 Qualcommは、元々はセルラーモデムを供給するメーカーとしてスタートしたが、現在はSnapdragonブランドのSoCを提供しており、日本のキャリア向けのAndroidスマートフォンで非常に高い市場シェアを持っているだけでなく、グローバルに見てもスマートフォン向けSoCで市場シェア第1位となっている。

 そのQualcommはMWCにおいて、次世代となる「Snapdragon 820」を開発していることを明らかにした。また、そのSnapdragon 820以降の製品でサポートする、新しいヘテロジニアスコンピューティングの環境となる「Zerot」hプラットフォームに関しても概要を説明し、CPU/GPUの演算能力を活用してディープラーニング機能などを実現すると説明した。

 また、ブースにおいて、3Dの指紋認識機能、LTE-Advancedのカテゴリ9で規定されている3xCA(キャリアアグリゲーション)による、下り450MbpsのWi-Fiルーターを展示。さらに、同社が従来より取り組んできたLTE-U(免許が必要ない5GHz帯の帯域を利用したLTEのプロトコル通信方式)、LTEとWi-FiによるCAのライブデモを行なった。

次世代のSnapdragon 820の概要を明らかに、64bit自社設計CPU"Kryo"を採用

 Qualcommが今回発表したのは、ハイエンドとなるSnapdragon 810(MSM8994)の後継製品となるSnapdragon 820だ(型番は未公表)。QualcommのSoCは、32bit時代には自社設計のプロセッサコアが採用されていた。古くは“Scorpion”、その後“Krait”と進化してきた。Kraitには、CPUの各コアが独自に周波数と電圧が切り替わるなど、ARM標準設計にはない特徴を備えていた。

 しかし、市場全体が64bitのARMプロセッサに切り替わっていくという環境の中で、Qualcomm自社設計の64bitプロセッサは出遅れる結果となっている。NVIDIAが自社設計の“Denver”を昨年(2014年)の末に、Tegra K1の64bit版としとして出荷(Google/HTCのNexus9に採用されている)して、先行しているが、Qualcommの64bit製品、例えば現在のハイエンドのSnapdragon 810は、ARMが提供するIPデザイン(Cortex-A57、Cortex-A53)を搭載するという状況になっていた。このため、Qualcommが記者会見をやる度に、記者から「自社設計の64bitはいつ出るのだ」と質問されてしまう状況で、Qualcommとしてもそこには何らかの方針を示す必要が出てきていた。

 今回行なわれた記者会見で、同社のデレク・アベール社長は「今年の後半にSnapdragon 820のサンプル出荷を開始する。自社設計のCPUである“Kryo(クライヨ)”を採用し、FinFETの最先端プロセスルールを利用して生産する」と述べ、Snapdragon 810の後継が独自設計CPUであることを明らかにした。ただし具体的なプロセスノードは述べられなかった。

 さらに、このSnapdragon 820で、同社がZeroth(ゼロス)プラットフォームと呼ぶヘテロジニアスコンピューティング環境に対応すると明らかにした。Zerothでは、デバイス自身が物体を認識したり、それを自律的に学習していく深層学習の機能などにも対応しており、ブースではその動作する様子がデモされている。

 ただし、現時点では情報はその程度で、CPUやGPUをどのように利用して演算するのか、具体的なアーキテクチャに関しては何も語られなかった。アベール氏によれば「Zerothプラットフォームはモバイルだけでなく、自動車などさまざまな目的に利用できるだろう」と述べており、現在大きな注目が集まっている自動車の先進安全運転技術(ADAS)などにも活用できることなどを示唆した。

Qualcommが公開したSnapdragon 820の概要、プロセスノードは非公開だが、FinFETの最先端プロセスルールで製造され、Kryo(クライヨ)という名前の自社設計64bitARMプロセッサを採用している
Zerothプラットフォームでは、物体認識や深層学習に対応しているが、アーキテクチャの詳細に関しては未公表

LTE/Wi-Fiのキャリアアグリゲーション

 このほか、Qualcommは同社の強みであるモデム技術についての多数のデモを行なった。International CESでは、LTE-Advancedで規定されているカテゴリ9の下り450Mbpsの通信をデモしたが、ここMWCでも引き続きそのデモを行ないつつ、NETGEARが開発したCAT9対応Wi-Fiルーターを展示。基地局側のインフラを提供するEricssonとの協力で行なわれたデモでは、物理層の段階で下り430Mbps程度で通信できていた。

 また、LTE-Advancedのカテゴリ11で規定されている下り最大600Mbps通信のデモも行なった。これは、カテゴリ9の3xCAの仕組みをそのままに、変調方式を64QAMから256QAMへと変更したもの。それぞれの通信セルの効率が向上し、150Mbpsから200Mbpsへと向上するため、合計で600Mbpsを実現するという方式になる。実際デモでは580〜590Mbpsの速度を示した。

 また、LTEとWi-FiのCAについても公開された。これは、通信キャリアが通信のオフロードのために設置を進めているWi-Fiホットスポット(日本で言えばdocomo Wi-Fiなど)と、LTE回線を1つの回線として扱う仕組みだ。

 具体的には、Wi-Fiのアクセスポイントと通信キャリアの基地局の間に通信をコントロールするサーバーを置き、そのサーバーが必要に応じてWi-Fiアクセスポイントをセカンダリの通信セルとして利用できるようにする。必要に応じて、LTE+Wi-Fiとして利用したり、Wi-Fiを切り離してLTEだけで利用したりできるようになる。

 現在のWi-Fiホットスポットは、一旦接続されるとWi-Fiだけ通信が有効になってしまい、さらに場所によってはLTEで通信をした場合に比べて遅いWi-Fiアクセスポイントがあるなど、ユーザーによってはそれを嫌う人も多い。しかし、このLTEとWi-FiのCAでは、常にLTEは有効で通信されており、Wi-Fi APが有効な時だけCAされるので、ユーザーの使い勝手を損なわずに、通信キャリアもオフロードできるというメリットがある。

 今後この仕様は3GPPにリリース13.9として提案される見通しで、既存のWi-Fiアクセスポイントなどは何も変えずに実現することができるとのことなので、ぜひとも早めに規格化が進み実際に使えるようにして欲しいものだ。

NETGEARが試作したLTE-A CAT9 下り450Mbpsに対応したWi-Fiルーター。PHYの段階で430Mbps超のスループットが出ていることが分かる
LTE-A CAT11のデモ。3つのセルそれぞれが200Mbps近いスループットを叩き出していることが分かる
LTEとWi-FiのCAのデモ。基地局とWi-Fiアクセスポイントの間にサーバーが置かれて通信を制御する。Wi-Fiアクセスポイント側には手を入れなくてもいいので、既に設置済みのアクセスポイントもそのまま活用できる

屋外ではほとんど使われていない5GHzの免許不要の帯域をLTEとして使うLTE-U

 Qualcommが今回力を入れてデモしていたのは、同社が「LTE-U」、3GPPが「LAA(License Assisted Access)」と呼ぶ、免許不要の5GHz帯の通信を、Wi-FiではなくLTEで行なう技術の実証実験だ。

 といっても、MWCの会場で実証実験しているのではなく、実際の実証実験はQualcomm本社がある米国カリフォルニア州サンディエゴ。米国の規制当局から特別な許可をもらって行なっているという。今回のMWCでの会場では、その電波をリモートでコントロールし、その様子とスループットをグラフィックスで表示するという形でデモした。

 5GHzの割り当ては国により異なっているが、例えば日本の5GHzのWi-FiにはW52(5.15〜5.25GHz)、W53(5.25GHz〜5.35GHz)、W56(5.47GHz〜5.725GHz)という3つのタイプがあり、このうちW56だけが屋外で利用可能になっている。たたし、屋外で利用するには法令でLBT(Listen-before-Talk)という仕組みを入れることが決められており、例えばUQコミュニケーションズが販売しているW56の屋外仕様に対応した「W01」というWi-Fiルーターには、このLBTの機能が実装され、充電機器などに接続され環境が変わったことを検知すると、周囲にある周波数をモニターする機能が動き出すようになっている。

 国によっては(具体的には米中韓など)、法令でLBTが求められていない国も有り、そうした国では既に利用可能な状態になっているが、日本の場合にはこのLBTの仕組みを実装しなければLTE-Uを利用できない。Qualcommによれば、現在3GPPでのその実装が議論されており、最終的にはその規格化を待って端末に実装したり、通信キャリアが基地局に採用したりするようになる。

 LTE-Uのメリットは、スモールセルと呼ばれるより小さい基地局に実装しやすいこと。Wi-Fiに比べてLTEのプロトコルは効率が良いので、スループットを向上させることが可能なのだという。通信業界のトレンドとしては、今後スモールセルを増やしていって通信の効率を上げていく方向だと言われており、そこにLTE-Uを実装すれば、さらに1つの基地局でカバーできるスループットが上がり、収容できるユーザー数も増えるという意味で大きなメリットがある。

 現実的に考えて、既にどの国でも割り当て可能な電波が枯渇している状況で、既に電波を所有している産業などに譲ってもらわない限り、通信業界に割り当てを増やすのは不可能だ。そうした権利は既得権となっているため、譲ってもらうというのは政治的には不可能に近いのが現実で、それならば屋外ではあまり使われていない5GHzをLTEで使ってしまうというのはかなり現実的な解だ。

 実際Qualcommの実証実験では、LTE/Wi-FiのCAよりも、LTE-Uに切り替えた方がスループットが上がり、さらにWi-Fiのアクセスポイントに関しても、干渉がなくなるなどしてスループットが向上する結果が出ているという。

 なお、日本でこのLTE-Uが導入されるかは(前述の通りLBTに対応する必要もあるため)まだ明らかではないが、既にNTTドコモが、ファーウェイと共同で中国で実証実験を行なっていることを明らかにしている(僚誌ケータイWatchの記事参照)など、日本のキャリアも注目している技術であり、今後日本でも導入される可能性は十分にあるので注目したいところだ。

LTE-U/LAAのデモの様子
5GHzのWi-Fi APを、LTEに切り替えた結果。スループットがWi-Fiで通信していた時に比べて上がったほか、残ったWi-FiのAP自体も周囲との干渉がなくなったため、スループットが上がったという。Wi-Fiとの干渉を心配する向きが多かったため、こうした実証実験を行なっているとのことだ

(笠原 一輝)