イベントレポート
展示会場やテクニカルセッションで新技術に注目集まる
~DDR4/LPDDR4、USB Power Delivery、液体なしリチウム電池など
(2013/4/12 15:55)
- 会期:4月10日~11日
- 会場:中華人民共和国 北京市 国家会議中心
IDFでは、Intelの幹部により行なわれる基調講演がメインイベントで、そこで同社の新戦略などが説明されることになるが、それと同様に重要視されているのがテクニカルセッションと呼ばれる説明会だ。同社の現場のエンジニアやマーケティング担当者が登壇し、実際の製品レベルでのロードマップや技術概要などについて説明してくれる。
また、併設されている展示会では、基調講演やテクニカルセッションで利用された開発中の製品などが展示されており、実際に触って動作を確認することも可能になっている。本記事では、展示会に展示された製品などを中心に、いくつかの注目の新技術について紹介していきたい。
DDR4への移行は2014年に開始され、クロスオーバーは2015年になる見通し
Intelが販売している半導体は、言うまでもなく主にCPUなどコンピューティング機能を持ったものとなっている。しかしPCを製造するには、CPUだけではなく、メモリとなるDRAMや、ストレージとなるHDDやSSDなどが必要になる。Intel自身ではDRAMやHDDなどは製造していないものの、メモリやストレージの規格の策定には深く関わっている。
その中でもメインメモリは、CPUから近いところにあるほか、帯域幅やレイテンシなどがCPUの性能に大きな影響を与えることもあり、DRAMの規格を定めるJEDECの活動にIntel自身が積極的に参加して、規格策定の行方に大きな影響を与えている。
こうした背景もあり、IDFでは毎回メモリの動向を説明するテクニカルセッションが用意される。ただし、今回行なわれたテクニカルセッションの内容は、2012年9月にサンフランシスコで行なわれた前回のIDFとほぼ同じで、第4世代Coreプロセッサ(開発コードネーム:Haswell)でサポートされるDRAMなどに関する説明が行なわれた。
前回との差分は、DDR4に関するアップデートが行なわれたことだ。DRAMベンダーが2014年に投入する予定のDDR4について、Intelプラットフォームメモリテクニカル課長チャールズ・チャン氏は「DDR4は消費電力の観点ではDDR3Lに比べて35%削減され、帯域幅は50%向上する」と説明。DDR3とDDR4の最大の違いはDRAM内部のバンク数の違いで、DDR3では8バンクとなっているが、DDR4では16バンクとなっているため、データレートが倍になるという。これにより、DDR4では最大で3.2Gbpsまで対応可能になっており、1.866Gbps止まりのDDR3に比べて帯域幅が向上することになるという。
また、駆動電圧はDDR3の1.5V、DDR3Lの1.35Vよりも低い1.2Vに設定され、消費電力が削減される。ターミネーションがDDR3までのVTT方式からVDDQ方式へと変更されるほか、信頼性確保のためにADDR/CMDパリティも追加される。
自社のプロセッサにおいて、どのタイミングでDDR4に対応するのかに関しては言及を避けたが、OEMメーカー筋の情報によれば、2014年にIntelがリリースすることを予定しているHaswellの次の「Broadwell」(開発コードネーム)でDDR4への対応が行なわれるという。実際、メモリ関連のセッションで紹介されたリサーチ会社のiSuppliの予想では、DRAM市場全体に占めるDDR4の割合は2014年に24%、2015年に45%という予測が示されている。Intel自身がそれを否定もせず自社のプレゼンテーションで使うぐらいだから、Intelもそうした方向性で考えていることは間違いないだろう。なお、iSuppliの予測では2015年にはDDR3とのクロスオーバー(価格や出荷量的な意味での世代交代)の時期が来るとされている。
また、半導体メーカーのSK Hynixは第4世代Coreプロセッサ(Haswell)のSoC版でサポートされるLPDDR3(スマートフォンやタブレットなどで利用される待機時の消費電力を抑えたDRAMの第3世代)の次世代規格であるLPDDR4に関する説明を行なった。ただし、説明は中国語のみであったので、ここでは詳しいことを触れることはせず、スライドから分かることだけを紹介するに留めたい。
SK Hynixが紹介したスライドによれば、現行のLPDDR3が最初の世代が1.6Gbps、最大で2.133Gbps止まりであるのに対して、LPDDR4では最初の世代で3.2Gbps、最高で4.266Gbpsまで転送速度を上げることができるという。これにより、帯域幅はLPDDR3が12.8~17GB/secであるのに対して、LPDDR4では25.6~34.1GB/secになる。
LPDDR4ではI/O周りの仕様も変更される。電気信号もLPDDR3までのHSUL_12からHS_LVCMOSに変更され、電圧もLPDDR3の1.2Vから1.1Vに下げられるなどしており、アクティブ時の消費電力の低下が期待できる。今年の末までにJEDECでの規格策定を終了させ、2014年の前半にはサンプル出荷、2014年中には製品出荷というプランであるようだ。
第4世代Core用マザーボードやBay Trailなどが展示される
今回のIDF Beijingでは、基本的には従来のIntelの戦略に沿った製品などが淡々と説明されただけで、大きな戦略変更などのニュースはなかった。その最大の要因は、5月に予定されている現社長兼CEOのポール・オッテリーニ氏の後継が未だに発表されていないことだ。日本の企業と違って米国の企業ではCEOの持つ権限が非常に大きく、強力なリーダーであるのが通例だ。10年に渡りIntelを率いてきたオッテリーニ氏の後継が簡単に決まらないのがどういう理由であるのかは外部からは伺い知れないが、次期CEOが決まらなければIntelが新しい戦略を打ち出すことができないのは言うまでもないだろう。
その中で、IDF Beijingの最大の話題が、6月に発表する予定の第4世代Coreプロセッサ(Haswell)をOEMメーカーに出荷したということになってしまったのは無理もない。そのHaswellだが、今回のIDF Beijingでは各所でデモに利用されており、特に目新しさはなかったのだが、展示会場ではGIGABYTEのブースに対応マザーボードが展示されていた。
また、展示会場では、Intelが今年の後半にリリースする予定の「Bay Trail」が触われる状態で展示されていた。Bay Trailは22nmプロセスルールで製造される、Clover Trail(Atom Z2760)の後継となる製品だ。新しく22nmプロセスルール向けに開発される新設計の低消費電力なクアッドコア(Clover Trailはデュアルコア)が採用されており、内蔵グラフィックスもClover Trail系に採用されていたPowerVR製のGPUから、Intel自社開発のIntel HD Graphics系(Ivy BridgeやHaswellに内蔵されているものと同系統)に変更される。Intelは今回のIDFで、Bay TrailはClover Trailに比べて性能が倍になり、OSとしてWindows 8に加えてAndroidもサポートすることを明らかにしている。
なお、今回展示されていたBay Trailは、Clover Trailの直接の後継となるタブレット用のBay Trail-Tではなく、ネットブック用のBay Trail-Mとネットトップ用のBay Trail-Dの2製品だ。前者はASUSのネットブックに組み込まれた状態で、後者はGIGABYTEのマザーボードにオンボード搭載された形で提供されていた。ASUSのネットブックのデバイスマネージャを確認してみたところ、グラフィックスドライバの表示でValleyView2(Bay Trailのチップそのものの開発コードネーム)と表示されており、確かにBay Trailであることが確認できた。
なお、システムのプロパティに表示されたWindowsエクスペリエンスインデックスは3.9と表示されており、筆者の手元にあったClover Trailマシンでは3.2なので、初期段階であると思われる現時点でも確実に性能が上がっていることを確認できた。
USB-IFが提唱する100W対応の「USB Power Delivery」
USBの規格策定を行なうUSB-IF(Implementers Forum)は、2012年に規格が策定されたUSB Power Deliveryのデモを行なった。USB Power DeliveryはUSB経由で供給できる電力量を増やす規格で、現在はUSB経由で給電出できないようなデバイスに対しても供給できるようにする。
現行のUSBの仕様では、USB 2.0では5V/0.5A(2.5W)、USB 3.0では5V/0.9A(4.5W)、USBの拡張仕様であるUSB Battery Charging 1.2では5V/1.5A(7.5W)までの電力供給が可能になっている。このほか、AppleのiPhone/iPadシリーズのようにメーカーが独自ケーブルを用意している場合などには、5V/2A(10W)などの給電が可能になっている場合がある(USBの規格からは外れているので、あくまでメーカー独自仕様ということになる)。
スマートフォンやタブレットのようにシステム全体の消費電力が小さいシステムであれば、給電と充電をするには十分な電力量が確保されている。それでも、Appleが独自仕様を採用していることからも分かるように、給電量を増やせば急速に充電することが可能になるだけに、小さなシステムでも給電量を増やすニーズは小さくない。
また、今後USBポートを利用した給電は、スマートフォンやデジタルカメラといったすでにUSB給電が当たり前になっているデバイスだけでなく、ノートPCやディスプレイなどにも広がっていくと考えられている。ノートPCは未だに各社独自形状のACアダプタを添付している現状だが、現在のUSBの規格では十分な量の電力を供給することが難しい。例えば、Ivy BridgeベースのUltrabookには65W前後の電力を給電できるACアダプタが利用されていることが多い。システム全体の消費電力はもう少し少ないのだが、この程度はないと急速充電ができないからだ。だが、すでに述べたように、USB拡張仕様であるUSB Battery Charging 1.2でも7.5Wしか給電できないため、USBのACアダプタをノートPCに利用するには電力量が足りない。
そこで、USB Power Deliveryの仕様では給電できる電力量を最大で100Wまで拡張する。USB Power Deliveryには、プロファイル1からプロファイル5まで用意されており、プロファイル1では5V/2A(10W)までとなるが、プロファイル2以降で12Vや20Vを追加し、プロファイル4では20V/3A(60W)、プロファイル5では20V/5A(100W)の仕様を追加。このため、Ultrabookならプロファイル4の60W、もう少し大きなノートPCでプロファイル5の100Wをシステム側がサポートすれば、ノートPCもUSBのACアダプタから充電できるようになる。もちろんこれらの電圧や電力量は、現状のUSB 2.0や3.0の標準仕様では実装されておらず、システムベンダーがUSB Power Deliveryに対応するように設計を変更する必要がある。
USB Power Deliveryに対応するためには、充電に利用するためのアップストリームポート(現在PCにはないUSBの受け側の口)、電力を出力するダウンストリームポート(現状PCに付いているUSBポート)それぞれにUSB Power Deliveryに対応した電力をコントロールするICを追加する必要がある。その分はコストアップになるので、まずはACアダプタ入力の代わりとなるアップストリームポートを1ポートと、外部機器に給電するためのダウンストリームポートの1ポートと合計2ポートをPCやタブレットに実装する形が主流になると考えられる。もちろん受け側のスマートフォンやデジタルカメラでもUSB Power Deliveryへの対応が進めば、今よりも高速で充電することが可能になるので、そちらの対応も期待したいところだ。
今回USB-IFは、試作したシステムを利用して大型のLCDディスプレイに対してUSBケーブルだけ、データも電力も供給して動かすデモを行なった。こうしたことがUSB Power Deliveryの普及が進めば当たり前になるし、専用のACアダプタを探して右往左往するということも過去の話になるだけに、早期に普及することを期待したい。
ユニークな液体レスのリチウム電池となるFLCBを民生用機器向けに提供
台湾のバッテリメーカーProLogiumは、FPC型のリチウム電池となるFLCB(FPC Lithium Ceramic Battery)を展示して注目を集めた。FPCとはFlexible Print Circuitの略で、折り曲げられるプリント基板の形をしたリチウム電池という意味だ。ユニークなのは、リチウム電池なのだが、液体はなく代わりにセラミックを中心とした素材で構成されていることだ。通常のリチウムイオン電池では液体の中をイオンが動き回ることで化学反応を起こして充電したり放電したりするが、このFPC型のリチウム電池ではセラミックの中をイオンが動き回ることで充電、放電が可能になる。ProLogiumによれば、こうした技術はこれまでも提案されたことはあるそうだが、民生用として大量生産を前提に開発されたのは同社の製品がおそらく初めてだろうということだった。
ProLogiumによれば質量あたりの蓄電容量に関しては、最先端のリチウム電池には劣るものの、一般的なリチウム電池とほぼ同等になっているという。ただし、弱点としては液体のリチウム電池が急速充電が可能であるのに対して、液体がないため充電には時間がかかるという。その代わり、液体を保護するケースが必要なくなるほか、薄くするなど形状に自由度を持たせられるメリットがある。また、液漏れして炎上するなどのトラブルにも心配なく、同社でははさみで切っても動作する様子などを会場でデモしていた(実際の製品でカットすることを保証するということではなく、仮に壊れても燃えたりしないという意味だ)。
同社はこうした特徴を活かして、薄型の電池をすでに試作し、例えばスマートフォン用のケースなどに組み込んだ製品などを提唱。実際に周辺機器ベンダーなどと話が進んでいるという。このほか、Intelなどとも話し合いを進めており、Ultrabookへの採用に向けてPCベンダーへの売り込みを進めている最中だという。同社が公開したUltrabookのデザイン例では、同社のFPC型リチウム電池を数枚重ねて搭載する形になっていたが、もちろん1枚だけを乗せるということも可能で、PCの設計者にとっては現在デザイン上の障害となっているバッテリのレイアウトの自由度を大きく改善できるメリットがある。
例えば、PCメーカーがオプションとしてセカンドバッテリにシートバッテリを用意する場合に、従来のシートバッテリには頑丈なケースが必要であったため、どうしても厚くする必要があったのだが、画期的に薄いシートバッテリという構造も十分可能になりそうだ。あるいは薄いという構造を利用することで、液晶側に1枚、キーボード側に1枚と分割して搭載するなども考えられるだろう。
なお、同社は2006年に設立されたベンチャー企業だが、すでに大量生産も視野に生産工場を建設中で2013年の半ばには製品の出荷が始まる予定で、実際の製品には2014年以降のUltrabookに搭載される可能性がある。これからPCメーカーの必要とする分を確保したり(言うまでもなくPCベンダーはワンソースを嫌う傾向がある)、信頼性に問題がないことを証明する必要(大企業であるPCメーカーは保守的なところが多い)など、課題がないわけではないが、PCやスマートフォンなどに新しいデザインの可能性を与えるデバイスとして、要注目の技術と言えるだろう。